Maritime Labour Research Institute

財団法人海上労働科学研究所
    

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研究調査の概要

昭和59年度

1.有機ガス検知用簡易環境測定機の開発に関する調査研究(1年計画)

                              担当者 村山 義夫
 従来の有害ガス測定方法では,作業をしながら実施することが難しく,有害物の運送に従事する船舶において,実際に測定する機会が少ない。この難点を解消するため,作業に並行して測定でき,結果も現場で容易に知ることができる,個人モニター法を開発した。
これは検知剤をつめた小ビンを作業衣につけてサンプリングし,作業の間に暴露した有害ガスの濃度と暴露時間に比例して変化する検知剤の色の濃さから,暴露感度を測るものである。
 容量3.5mlのガラスビンに,トルエン検知管の検知剤を入れ,低密度ポリエチレン膜で封をした簡易有機ガスモニター管を試作し,暴露実験チャンバー内で一定濃度のトルエン蒸気に暴露した後,検知剤を薄いガラス製吸光セルに入れ,携帯型分光度計で吸光度を測定した。
 吸光度は暴露したトルエンの頻度および暴露時間に比例することから,吸光度をあらかじめ求めた係数と時間で除して,暴露の間の時間荷重平均濃度が求められる。この方法による測定値と他の方法との対応,ならびに測定結果のバラツキや応答性について実用可能な結果が得られた。
 

2.外航船船員の飲酒と健康管理(1年計画)

                              担当者 久我 正男
 外航船入渠時の集団検診時にお願いして,採血検査機会とし,外航船4隻,95名,内航船4隻,41名は特殊検診時を狙って,検査を行なった。
(酒に関するアンケート)これは陸上病院で用いられている様式を航海中の船舶船員用に改造して調査した。血液検査において,肝機能検査,特にガンマーGTPに重点をおき,慢性影響を知るためには過酸化脂質を測定した。なお,他の生化学検査項目は施行のデーターを用いて利用した。洒の積込量は調査結果では意外に少ない。従って消費量も予想がつかなかった。アンケート結果は,沿海船,外航船ともに依存者に入るものがあった。身体検査結果では,外航船に肝機能を,沿岸船では肝に比し腎に支障のあるものが多かった。
又,遠航船での心機能障害者にも洒との関連が考えられる結果が見られる。
 

3.商船船員の健康・体力づくりの実証的研究(3年計画初年度)

                     担当者 神田 寛,小石泰道,村山義夫
 まず5隻の錨泊石油備蓄タンカーの乗組員を対象とし,この実証的研究を3年のうち2年度にわたって実施することになっている。
 今回の実証研究では,主として(イ)「ジョギング」1日1回,15分〜30分間,週3回以上,(ロ)「速歩」30分〜40分間,週3回以上,(ハ)「卓球などの運動」30分以上,週3回以上のエアロビクス(有酸素運動)で,十分に健康の維持と改善の効果が予想以上に得られ,今後の健康・体力づくりの方向を把握することができた。
1)血液循環機能の改善:末梢の血液循環機能の判定に便利な加速度脈波計が使用された。検査は小さなセンサの穴に指先を入れて,簡単な操作で加速度脈波の波形パターンが得られる。AからEまでの5つがあり,AからEにいくにしたがって悪い状態を示す。なかでもD,Eの波形パターンは,脳卒中,心筋梗塞などの循環器疾患,ある種の腫瘍などの既往症,現症を有する者に多くみられ,なんとしてもこの血液循環の状態をB以上に改善する必要がある。ところがエアロビクスを実施した船員では45日前後の測定比較でD,Eの波形の者は全員改善された。そのほかエアロビクスによって高血圧の改善もみられた。
2)肥満体の改善:船員では身体に対して重過ぎるから肥満であるという図式は成りたたない。そこで筋肉と骨格の発達による体重過剰が考えられる勤労者に適した箕輪式判定法を採用した。すなわち肥満体と呼ばれるような人の中から,腹部の皮下脂厚を計り,この厚さが15ミリ未満を筋骨体,15ミリ以上を肥満体とする方法である。それにしても今回の対象船員の肥満体の発生比率では40代で42.2%で最も多く,50代で36.4%であった。
ところがエアロビクスを実施した船員では,肥満体の39.3%のうち筋骨体に改善された者が多く,10.8%に肥満体が減少という結果が得られた。
 

4.国民の職業動向の変化と船員職業の社会的位置づけについて

  −船員及び海運関係者に対する意識調査(3年計画第2年度)−
                     担当者 篠原陽一,青木修次,小石泰道
 今年度は高学歴・高年令化社会における船員職業の将来的な社会的位置づけを検討するにあたって,外航船員および海運関係者(外航2船主団体の総務・海務部人事労務担当課長,海員組合本支部長,海事団体役職員)に対して,今後,船員職業や船員雇用がどのように変化すると予測しているかについて,意識調査を実施した。
 今後の船員給源確保に関しては,量的にも質的にも優秀な新人船員の確保は容易でないと推察しているが,それに伴う措置については労働条件の向上,人事管理の改善,外国人との代替などに意見が分かれた。また,今後の船員の雇用と管理に関しては,今後の日本人船員の雇用量,優秀な新人船員の導入対策,雇用形態の弾力化などの見通しについて,意見の広がりがみられた。全体として,今後の船員職業や船員雇用について大変,憂慮しているにもかかわらず,その対策のあり方については一定の方向を見出しがたい状況にある。
 一方,青少年が船員職業をどのように考えているのかの実態を推察してもらったところ,概して実態値よりも好意的に評価する傾向が示された。促し,大型船船長の社会的地位評価の推定及び本人自身の評価は,概して過小評価に傾いている。また,今後に期待する新人船員の気質,職業志向は,応答者の属性により異なるものの,方向性としては”独立心が強い”,”物事にこだわらない”,”仕事重視”,”好奇心”などの気質は3人に2人以上が支持している。また職業志向では”生涯船員志向”,”集団貢献重視志向”,”何んでもこなすタイプ”などが,明確な期待方向となっている。
 

5.船内集団の効果的運営に関する研究(2年計画初年度)

                     担当者 青木修次,篠原陽一,小石泰道
 船員集団の有効性を集団の成果という観点から把え,集団成果の諸指標とその測定方法の開発を試みた。この指標開発は,船社から4人,学識研究者2人からなる、「船内集団成果研究会」を中心に運営され,計9回の研究会が開催された。船内集団成果指標は大別して,物的生産性指標,安全性指標,職場活性指標から把握され,それぞれについて測定可能なチェックリストを作成した。これら指標を検討するにあたり,”健康な職場の条件”を洗い出し,健康な職場ほど,集団の有効性は高いであろうとの仮説で作業が進められた。
 61年度にこれら指標を用いて40隻ほどの資料を収集し,妥当性の検証を行なう予定である。
 

6.漁船員の海中転落の発生要因に関する調査研究

  −沖合底びき網漁業について−(2年計画第2年度)
                          担当者 服部 昭,大橋信夫
 昭和58年度にひきつづき,漁船員の海中転落事故要因を知るために,今年度は,沖合底びき網漁業について調査を実施した,方法としては,昨年度と同様,既存の統計資料,海難記録など各種記録を分析すると共に,転落したが救助された人,救助した人,転落を目撃した人,漁労長などを長く務めた人などに面接して具体的なケースの情報収集を行って,転落の要因を考察した。なお今年度は,この他に,アンケート法によって,現役の漁船員を対象に,海中転落にかかわる経験情報を出来るだけ多く収集することに務めた。
 調査対象としてとりあげた地域は,兵庫県城崎郡香住町,青森県八戸市,富山県新湊市の3地域である。
 58年度実施した遠洋まぐろ延なわ漁業の結果と比較した場合,操業海域,操業方法,操業期間,使用する漁船等々が異なるために,同じ海中転落といっても,その過程なり,考えられる要因(必ずしも明確にはなっていないが)には,大きな相違が認められた。
 まやアンケート調査の結果からは,いま沖合底びき網漁船に乗船している漁船員は,過去に海中転落に関連する経験を種々持っており,それも少人数でないことが判明した。
 加えて,そうした漁船員は,事故の発生状況について,あるいは経験した状況について,かなり詳細に記憶しており,このことが海中転落事故の発生要因を追求してゆく上で,有
効な手がかりになることが判明した。
 今後も沖合底びき網漁業について,さらに調査を行うと共に,他の漁種についても調査を進める必要がある。
 

7.神戸〜新居浜間カーフェリーにおける自動車排気ガスが船員の健康に与える影響とその対策(1年計画)

                              担当者 久我 正男
 昨年度調査の補足として,中距離フェリー2隻を対象として調査した,対象船は,神戸〜日向,日向〜川崎航路で2隻の乗船調査を行なった。
 調査は,船環境測定,乗組員検診の2本建とし,環境測定,排気ガス中CO,NO,NO2ガス,粉塵量,気中鉛量等を測定し,乗組員の健康検査事項と照合した。
 結果は,環境測定中CO汚染,気中鉛では健康管理に関連する結果は認められなかったが船内大気汚染に関するNO,NO2 ガス,煤煙をふくめた粉塵,特に土砂粉塵による影響は,乗組員全員に施行したスパイロメーター検査結果の低下が推察されるので向後の追及が望ましい。
 

8.内航船員の労働と生活に関する労働科学的調査

  −就労実態基本調査(3年計画初年度)−
           担当者 篠原陽一,小石泰道,青木修次,服部 昭,村山義夫
 内航船員の労働と生活の実態を,労働科学的な視野から多角的に調査し,今後,内航海運が魅力ある労働の分野となるにあたっての基礎資料を提供する目的で,3年計画の初年度として就労実態基本調査(1.航路・積荷・運航等の実態,2.乗組員の乗下船の実態,3.船員個人の乗下船の実態,4.船内就労構造の実態)を実施した。
 内航船員の雇用実態に関しては,平均年令は45才と高く,居住地は中国・四国・九州に75%と集中し,内航入職年令は32.7才であり,内航前職は漁船船員が35.9%に及び,内航就業年数は19.6年,内航転社回数3.7回であり,雇用関係は船主・家族13.9%,その親戚10.1%,雇用船員76.0%であった。
 過去半年間の乗組員の交代状況は,交代なしが,船主家族船80.6%,親戚船員船77.8%,雇用船員船21.4%であった。過去3.3年間の船員個人の乗下船状況は,休暇下船なし(休暇以外の下船)34.4%,休暇下船あり65.6%であった。年間換算乗下船日数は,休暇なし船員は乗船322日と下船43日,休暇あり船員は303日と62日であった。乗組員の生活時間構成は,総平均で1日,勤務時間9時間02分,生理的時間8時間57分,自由時間3時間46分,船外時間2時間14分であった。勤務時間量は船主家族船8時間24分,親戚船員船9時間26分,雇用船員船9時間20分であった。生活時間構成には帰宅あり・なしによってかなりの違いがあり,また勤務時間量は船別乗組員別日数の変動がかなり大きい。

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