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財団法人海上労働科学研究所
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研究調査の概要昭和60年度1.商船船員の健康,体力づくりの実証的研究(3年計画 第2年度)
担当者 神田 寛,小石泰道,村山義夫
昭和59年より2年計画で10隻の錨泊石油備蓄タンカーにおいて実施し,多くの乗組員(425名)の全面的な協力により貴重な成果が得られた。
トレーニングの内容は,最低ジョギング1日15分,週3日以上,速歩1日30分,週3日以上または,これらに代わる卓球などの2,3の運動である。いわゆるエアロビクス(有酸素運動)を中心とした運動処方であり,空気中の酸素の摂取能力を高めることによって「全身の持久力」をつける運動である。また脳・心臓の血管障害というような,いわゆる成人病の予防につながる運動である。
トレーニング効果については,つぎの成果があった。
(イ)血液循環機能の改善:末梢の血液循環機能の判定に便利な加速度脈波計を使用した。判定の方法は測定されたAからEまでの5つの加速度脈波の波形パターンできめる。A.Bの波形の者は正常とされるが,C.D.Eは異常とされ,なかでもD.Eの波形パターンは脳卒中,心筋梗塞,狭心症,くも膜下出血,肺がんなどの既往症または有疾患者にみられるという。トレーニングの結果C.D.Eの患者29.1%が2%を残して改善,なかでもD.Eの者13%がEの0.5%を残して改善されている。
(ロ)血圧の改善:船員には高血圧者は一般国民にくらべて少ない。改善では25名の境界域以上の高血圧者25名の比較で,高血圧者はいなくなり,境界域高血圧者24名から6名に減少,正常者が19名という成績であった。
(ハ)肥満の改善:従来の身長と体重からの肥満の判定は,骨太(ぶと)であり筋肉の発達した船員には適さない。そこで肥満体とよばれる者の中から腹部の皮下脂肪厚15mm未満を筋骨体として肥満体と区別する方法,すなわち箕輪法を採用した。改善では肥満T,U,Vの者67名のうちそれぞれ筋骨体へ14名,12名,16名の62.7%の者が改善されるという予期しない結果が得られた。これはトレーニングによって腹部の皮脂厚が15mm未満以下になって筋骨体に改善されたことによる。
今回の調査で健康または体力に自信のないと答えた乗組員はいずれも40%に近い率であった。これからの健康,体力づくりは成人病を予防できるエアロビクスを中心とした運動が何よりも大切である。
2.国民の職業動向の変化と船員職業の社会的位置づけについて
−船員職業の新しい枠組みをめぐって−(3年計画第3年度)
担当者 篠原陽一,小石泰道,青木修次,所外委員6人
最終年度として,海運・船員関係者と「船員職業の新しい枠組み研究会」(代表矢嶋三策氏)を組織して,高学歴・高年令化と若年層の安定志向のもとでの,船員職業における労働力調達,教育訓練,雇用,就業に関する基本的枠組みを理論的に検討し,将来の船員給源の開発促進に関する資料を提供することとした。
特に,将来的な船員職業の枠組みについて集中的に討論を加えたが,(1)今後の船員労働需給について明るい見通しがたたあるわけではないが,その見通しがないことに船員職業を考える場合のすべての困難がある,(2)今後の船員の供給について,需要が換起されれば供給は追従するとみられるとはいえ,何らかの給源開発を行わなければ供給不足もありうる。(3)今後の船員職業の枠組みにとって船員制度の近代化は決定的な要因であるだけに,その仮設像については理論的・実務的な再検討が必要とみられるといった論点が浮び上った。
そうした議論を踏まえて,研究会委員はそれぞれ関心領域について論文を執筆し,報告書とした。それら論文は,海運・船員関係者が,今後,船員職業のあり方を政策的あるいは実務的に検討,実施して行くにあたっての有用な問題提起となっている。
3.船内集団の効果的運営に関する研究
−船内集団の成果とその有効性について−(2年計画第2年度)
担当者 青木修次,小石泰道,篠原陽一
船内集団が生みだすさまざまな成果を整理し,船内集団の有効性とは何かを明らかにすることを目的として,「船内集団成果研究会」を発足させた。研究会メンバーは,外部学識研究者2名,船社実務担当者4社4名,当研究所1名の7人から構成され,2ケ年にわたり検討を進めてきた。この研究会の成果の概略を示せば次のとおりである。
@一般に職場集団の成果は,生産性との係わりが強い量的成果と集団の健全性・活動能力と大いに係わりをもつ質的成果に大別できる。量的成果とは,いわば,その集団や組織の過去及び現在の能力水準つまり,職場の能率指標であり,質的成果は将来の能力水準を予測する職場の適応能力指標であるとも考えられる。今日のように職場環境がめまぐるしく変わる状況下にあっては,能率的側面もさることながら,環境適応能力のいかんが集団の有効性とより強く結びついてくる。いわば人的資源の質が組識の生存を左右する状況になっている。
A船内集団の成果も量的成果と質的成果に大別できる。量的成果は,輸送量(トンマイル),運賃,稼働率,消席率,安全性,予算目標達成など生産性の指標と関連し,金銭的,数量的に換算されてきた。一方,質的成果は,これら量的成果を生みだすための集団努力・活動,職場生活満足,職場の活性度,教育訓練・能力開発など環境適応能力の指標と関連し,従来は数量化しにくいため評価の直接対象となりにくかった。
B量的成果指標の多くは,確かに一船の成果ではあるが,乗組員集団の成果というよりは,営業部門の成果とみなされてきた。つまり運賃,輸送量等の収益面の成果は,営業努力の成果として位置づけられ,船内集団に対する量的成果の要請は,安全運航,スケジュールの維持,経費の節減に絞られてきた。
この意味では,営業部門はプロフィットセンター,海上部門はコストセンターとしての意味合いが濃い。但し責任規定がないので,それぞれの部門の有効性評価は極めてあいまいであった。
C船内集団の質的成果は大別して安全性,集団の活性度,環境適応性に分かれ,職場の健全性をみようとするものである。それぞれは,すでに数量化されている指標もあるが(災害発生率・傷病率・提案件数など),安全モラール職業・仕事満足,船内生活満足,職場目標達成努力,相互啓発的風土等については既存の評価尺度がなく,「安全活動モラール」と「職場活性度」を測定すべく新たに評価方法を開発した。
D「安全活動モラール」と「職場活性度」の船別水準を測定すべく,65隻の外航船から資料をえた。1次分析を終了した段階であるが,「安全活動モラール」と「職場活性度」は強い相関関係にあること,それぞれの水準は船別にかなりのバラツキがあること,会社問格差よりも船間格差の方が大きいこと,個人の活性と集団の活性は直接結びつきにくいこと,“人の活性”と“仕事の活性”は強い関連があること,船種別には格差が生じていないことなどの調査事実をえている。
E一部の対象船について,量的成果と質的成果の関連性分析を試みたが,明確な傾向は見い出せなかった。
4.内航船員の労働と生活に関する労働科学的調査(3年計画第2年度)
−船内環境・災害及び生活時間構造に関する調査−
担当者 神田 寛,村山義夫,大橋信夫,三輪千年
乗船ならびに訪船調査を中心とした実態調査である。
1)船内環境・災害
内容は(イ)荷役時等における乗組員の有害物曝露の実態であり,対象船は有機ケミカル4隻,無機ケミカル3隻およびタール等を積載する1隻である。個人曝露濃度が高くなるタンク洗浄で一部尿中代謝物量の増加がみられた。(ロ)機関室内の騒音分析と,当直中の機関部員の騒音曝露の実態であり,機関監視室設備船3隻,設備のない3隻が対象船である。個人曝露計を使用した。当然のことながら機関室内の監視室のある船は,ない船に比べて曝露時間が短くなるが,いずれにせよ聴力保護具の着用は必要である。(ハ)船員設備と居住環境条件であり,対象船は8隻である。ILO条約などの諸規則との比較で,船員設備等の実態を明らかにし,船内各部の騒音レベルと振動レベルの測定を実施した。その他居住環境として関心のもたれる照明・換気の測定,飲用水の検査を実施した。(ニ)災害防止について,アンケートと聞き取り調査を実施し,安全・衛生についての管理,意識等の実態を調べた。以上の本項の調査は次年度においても追加して訪船,乗船調査が実施されることになっており,総括的な意見は次年度にゆずることにした。
2)生活時間構造
前年度に引きつづき,内航船員の生活時間と下船,休暇について,訪船面接調査および実際に乗船して生活実態を把握した。
訪船面接調査においては,乗組員個人の一般的属性をはじめ,船員歴,社歴,海技免許の有無といった船員属性を聞くなかで,船内生活の実態,当直体制,休暇の実態を調査した。また,航海中および荷役中の当直や作業に際しての問題点,改善点といった労働環境に対する意識も聞いた。
乗船調査では,船内生活を船員とともに過ごすことで,船員の船内における生活時間を調査した。また,船員一人一人に,10分間隔でいま自分は何をしているのかを自記式生活時間調査票に記入してもらい,1週間の生活時間記録を取った。
さらに,両調査を通して拾った内航船員の生の声も,統計やアンケート調査では見落しがちな生活実態を提示するものとして,出来るだけ収録した。
下船・休暇について,調査した11隻の実態は,各船ばらばらではあるが,年間1人平均35日から70日の間で消化している(乗・下船日は除く,但し日・祭日は含む)。組織船と若い船員の乗った船に消化率が高い傾向にある。
生活時間では,タンカーの勤務時間は密度が高いかわりに短かく,カーゴ船は荷役待ちといった待機時間があり,勤務時間が長いといった特徴がある。
5.船員の乗船中の健康管理についての調査研究
−ケミカル船乗組員の特殊検診,肥満及び船内飲料水の管理について−(1年計画)
担当者 久我正男
(イ)商船船員の肥満とその対策
商船船員の肥満は往々耳にする。商船遠洋6隻,近海6隻,フェリー2隻,遠洋鮪船6隻,対象人数238名を調査した。肥満の判定に皮脂厚を主体とした判定のもとに行なったが船員の肥満には,血中インスリンの増減に特有点がある環境を示しているので,血中インスリン調査を行なったが,肥満者に増量があることがわかった。摂食カロリーに対する消費労作の関連が大きく影響していることがわかった。
(ロ)有害物運送船船員の健康診断マニアルの作成
現行12品目のケミカル船について,その検診方法について問診票,判定診断法について誰にも理解し得る方法にて健康診断方法を揚げた。また従来迄当所で行なって来た環境測定の他ケミカルの種類に応じて適切な代謝物の検査の指示等に関する細目を説明している。
(ハ)内航船飲料水衛生の実態
近海船14隻,それに対する遠航船で補水後10日前後の外航船2隻について採水検査を行ない水質検査を実施しその実態を述べている。
6.混乗船に乗組むアジア船員の雇用に関する調査研究(1年計画)
担当者 大橋信夫,三輪千年
近年,日本の海運産業との関係を一層強めているアジア船員に対する理解の一助とするためにこの研究を実施した。対象としては,韓国及び台湾船員をとりあげ,主として船員の教育及び雇用にかかわる基礎的な資料の収集に努めた。研究の実施に際しては,かねてより交流のある両国の関連研究者などの協力のもとに,関係官庁,海運会社,組合,職能団体,教育機関などを訪れて面接調査を行うと共に,日本船員との混乗経験を持つ船員に面接して,対日本人観などを求めた。
結果を要約すると次の通りである。
韓国
1967年に2,340人であった海外就業船員はその後毎年増加を続け,1985年には,約16倍の37,196人となっている。その内訳は,海技士とよばれるいわゆる職員が13,131人,部員が24,065人で,増加率としては,職員の方が大きい。これらの海外就業船員が乗船した船舶は,1970年が144隻であったのに対し,1985年には2,097隻である。こうした増加傾向を今後も維持するために,様々の施策がとられている。例えば,船員法の改正,船員の登録制度の発足,船員人力管理事務所及び船員管理事業協会の設立など制度的な面での整備,あるいは,STCWと関連させた海技研修院の活発な運営などである。また,海洋大学ではその主要教育目標の一つに,国際性を持たせるということをはっきりと掲げている。一方では,海運産業の発展と船員の職場の拡充を目的として新たに海務士制度も発足させた。
これらの諸施策はどれも海外就業船員の増加をねらったものである。
台湾
外国籍船で働く船員(外傭船員)は近年減少している。すなわち,職員,部員合わせて,1975年には22,780人であったが,毎年減少し1984年には,15,469人である。台湾ではもともと,支配船を外国籍としこれに台湾船員を乗せてきているので,近年の海運不況の影響をもろに受けて失職した船員もこのなかに含まれている。こうした中で海事教育制度を変更するなどして,本来的な意味での外国船主による台湾船員の雇用拡大を期待している。
面接した人々の多くが,“賃金は確かにフィリピンや韓国の船員より若干高いかもしれないが,台湾船員は優秀なのであるから,長い目で見れば結局安くつく。外国船主はもっと台湾船員を雇用すべきだ”,と発言していたが,その割には,韓国のように国を挙げてそれに取組んでいるようには見られなかった。
7.漁船員の海中転落の発生要因に関する研究
−まき網漁業について−(1年計画)
担当者 三輪千年,大橋信夫
昭和58年度に遠洋まぐろ延なわ漁業,2年度目の59年度は沖合底びき網漁業をとりあげ,3年度日の今年度はまき網漁業について調査を実施した。方法としては,漁業種類による比較が出来るものとするために,調査・分析手法を統一し,既存の統計資料,海難記録など各種記録の分析を行うとともに,アンケー卜法によって,現役の漁船員を対象に,海中転落にかかわる経験情報の収集に務めた。さらに,転落したが救助された人,救助した人,転落を目撃した人などに面接して,具体的な経験談を聴取することで,統計的資料では掴めない情報の収集を行った。
調査対象としてとりあげた地域は,鳥取県境港市,長崎県南松浦郡奈良尾町,宮城県石巻市の3地域である。
3カ年の調査を通じて,調査した3種類の漁業は,操業海域,操業時間,使用する漁船などが異なるため,同じ海中転落であっても,考えられる要因には,違いが認められる。しかし反面,漁業経験が未熟,職種として甲板員に多い,また操業中に起こりやすい,海の状態としては荒天時よりないでいるときに経験が多いといった共通した事象も見受けられる。
まき網漁業においては,揚網および運搬船への転載中の経験と,レッコ伝馬からの経験が多くなっている。また,数隻の船で船団操業している関係からか,事故が起きても目撃していることが多く,助かるケースも多いことが判明した。
今後,漁船員の海中転落に係わる調査としては,対象漁業種類の拡大と,漁業地域の特性との関係を調査する必要があるものと思われる。
8.積載危険物に対する応急措置の情報提供に関する予備的研究
担当者 村山義夫
船舶の積載危険物による事故防止について,危険性が発現する機序や環境条件および防災措置に関する情報を綜合的に把握し,具体的方法を簡明に示す要求が高まっている。これに対してデータシートの整備が進められているが,データシートでは,作製にあたって詳細な記述と情報の凝集という相反した要求の調整,ならびに利用時において必要なデータの選択を要し,これらが内容の充実の制約条件になっている。これを解消するため,コンピュータを用いたデータベースを作製し,このデータと緊急事態の状況について対話的に与えられる情報とを綜合的に考慮した上で,必要な情報を抽出,整理して提供する人工知能コンピュータシステムの構築に向け,予備的な調査を実施した。
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