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財団法人海上労働科学研究所
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研究調査の概要昭和61年度1.内航船員の労働と生活に関する労働科学的調査(3年計画・第3年度)
−船内環境・災害及び需給動向と職業移動について−
担当者 神田 寛,村山義夫,青木修次,篠原陽一,小石泰道
(1)船内環境・災害
前年度にひきつづき乗船調査及び訪船調査を中心とした追加実態調査を行い,これまでの調査とあわせて最終報告とした。
内容は,a)荷役時等における有害物曝露については,作業中の蒸気発生状態の変化と個人曝露濃度と作業終了後の尿中代謝物を追加測定し,その評価について検討した。個人曝露濃度の測定は,蒸気の発生状況を知るうえでも有効であり,一方,尿中代謝物による曝露の評価では変動要因に注意する必要がある。
b)機関室騒音曝露の実態を明らかにしたが,騒音性難聴の発生がみられる。聴力障害の程度を知るため石油並びに鋼材積荷基地入港時,調査対象船乗組員についての聴力検査を実施した。内航船員の聴力検査の成績は,これまで当所で測定した種類の異なる対象船船員のそれと比較すると,非常に悪いとされている稚内沖底引漁船の機関部員よりは良いがかなり悪い成績となっている。したがって,保護具の使用が望まれる。C)船内設備については,諸規則との比較からみた船内設備等の実態調査,居住環境における騒音,振動レベルの測定と種類の異なる船舶別の比較を行った。その他,照明及び飲料水の水質を追加測定した結果,水質ではフェノールと大腸菌等の検出が散見された。d)健康状態については,b)の聴力検査の実施と同じ機会に,加速度脈波による血液循環状態の判定,肥満の判定,血圧の状態の検査を行った。内航船員の成績は,他の種類の異なる対象船乗組員に比較すると劣っている。これらの結果からみて,その原因は持久力をつける運動の不足にあると考えられる。内航船ではこの運動不足対策の実施には困難性があるが,検討する価値は十分にある。なお,本調査では,CMI健康調査表による神経症的傾向の程度をあわせて検討した。内航船員には他の商船船員よりこの傾向の者が多い。また質問紙調査による保健衛生の検討を行った。健康診断実施率が低く,睡眠が不規則であるとの訴えが多い。運動への欲求と労働条件・環境の改善要求が強い。
健康感や自覚症状にはきわだった特徴はみられない。e)安全管理に関する調査では,質問紙及び面接により意識と実態等を検討した。管理者の役割りが大きく,組織的取組みはそれを支える反面,管理に関する負担感が増大しているとみられる。
(2)需給動向と職業移動
内航船員,特に小型内航船(700トン未満)に乗組む船員の需給動向と職業移動を把握すべく2種のアンケート調査を実施した。
一つは700トン未満の船舶に乗組む船員を調査対象とし,186隻,992人の有効資料を得た。調査内容は乗船している船の属性,回答者の個人的属性,雇用関係,内航海運への入職プロセス,企業間移動,内航船員の職業構造・評価,職場の活性水準等である。結果によれば,船員の平均年令は44.8才と高令化し,雇用関係は,家族船員1割,雇用船員9割の割合で,うち雇用船員の7割は継続雇用,3割は一時雇用であった。入職プロセスをみると,直接入職者は3割,他職を経験した間接入職者が7割で,元漁船員は全体の4割を占め多数派を形成し,今後の需給動向のカギをにぎっていると見られる。
二つには,雇用問題,事業・経営問題をアンケート調査と訪問調査によりアプローチした。有効回答数は456事業体(九州,中国,四国に限定)で,そのはとんど(358社)は一隻所有の生業的オーナーで,家族・親族の乗船率が8割弱であった。経営状態は60年度決算での黒字事業体は4割強であったが,61年度見込では2割に半減し,経営危機感は強い。しかし,後継者問題では8割強が解決済みで,事業継続意欲も高い。
2.船内余暇活動としての健康づくり,レクリェーションの在り方に関する研究
(1年計画)
担当者 神田 寛,村山義夫,上田雅夫,山崎勝男
(1)エアロビクスによる健康・体力づくりの実証的研究
この研究は,前年度まで2年間に亘り行った錨泊石油備蓄タンカーでの実証的研究を,さらに航海中のタンカーに展用して検証したものである。対象船員は喜入積地〜京浜揚地を連続航海するタンカー(17万トン)の乗組員であり,このトレーニング参加者は全体の85.7%をしめ,かつ,各乗組員の関心はきわめて高く,また研究に協力的であった。トレーニングによる改善については,加速度脈波からみた血液循環機能,肥満,高血圧傾向などに満足できる成果が見られた。また「今回の科学的な裏付けのある指導により,健康・体力づくりの目標がはっきりした。」などの前向きの所感も多かった。これで甲板上でトレーーニングが出来るタンカー,鉱石船などの船員を対象とした健康・体力づくりの処方は一応確立されたと考えられる。
(2)室内に制限される健康・体力づくりの在り方
甲板上をトレーニングに使用できない,コンテナ船などの場合を考慮して,今後期待できる自転車エルゴメータ又は,トレッドミルなどを用いての健康・体力づくりの処方についての基礎となる考え方を検討した。また実際の成果の例を提示しており,今後の研究課題である。
(3)船内余暇活動に関する意識,実態調査
高令化,少人数化にともなう船内集団環境の変化は,乗組員の船内生活に少なからず影響を与えていると思われるので,その対応をレクリェーション,健康・体力づくりの観点から調査した。その内容は,一般生活観,船内生活観,船内余暇活動,健康・体力づくりの必要性と実施状況等26の設問により,調査対象を大手外航船員約1,500人(60隻)として行い,1,021人(53隻)分を集計した。要約すればa)船内生活で最も気になる点は陸上及び家族からの情報不足,話題の限定,陸上での楽しみの中断である。b)船内余暇活動で実施率の高いものの上位4点は,娯楽中心の読書,テレビ・VTR,カラオケ,飲酒であった。C)健康・体力づくりの必要性は強く意識されているが,その実行度合いは低い。d)体力ヘの自信は”どちらともいえない”が54%で最も多い。しかし健康観では”健康である”が7割を超えている。e)「居室の設備が多少犠牲になっても,レクリェーションルームと体育室の機能を併せもつガラス張りの空間を居住区の中央に配置する」というレク活動環境づくりの提案に,賛成50%,どちらともいえない31%,反対13%で,賛成派が意外に多い。
3.船員の定年退職後における生活動向調査
−内航・近海船員− (2年計画・第1年度)
担当者 篠原陽一,青木修次
船員職業は,その離家庭性,離社会性という特殊な状態のもとにおかれているため,定年退職船員の陸上職業への転換,老人家庭生活の構築,地域社会への適応などについて,一定の困難をともない,その円満な解決は船員福祉の重要な施策課題の一つである。
今年度は,内航・近海海運会社をここ10年間において,55才以上で退職した船員1,500人(有効資料903人)を対象にして,船員歴,陸上再就職,家族や住居,健康・楽しみ,現在の仕事,老後の生活の実態について調査した。
a.退職年令は55歳35.1%と多く,60歳以上は6.3%にすぎず,しかも退職即廃業が43%に及んでいる。
b.退職後働いた船員は24.0%にすぎず,内訳は船員再就職49.9%,陸上再就職29.4%,農業,漁業移行20.7%という構成である。
c.退職船員の収入源は,公的年金90.5%,給与所得4.5%,子供の収入3.4%という構成である。
d.まあまあ健康51.2%,健康28.7%,病気がち17.7%,寝ている0.6%,また行き来する友達あり71.8%,その友達は44.1%が元船員である。
e.現在仕事ありは21.2%にとどまり,仕事する理由は,身体をなまらせない28.2%,家計を補助する24.6%であり,また仕事をしない理由は,適当な仕事がない42.6%,年金で生活できる29.8%となっている。
f.陸上職業の業種はサービス業45.8%,製造業19.4%,その職種は技能工27.8%,サービス職18.1%,保安職13.9%が目立った。
g.月額収入は平均22.3万円であり,近隣の老人世帯にくらべ良い方35.7%,同じくらい34.8%,悪い方19.0%という構成になっている。
なお,次年度,外航退職船員を調査し,総括する予定である。
4.船内集団成果とリーダーシップに関する研究(2年計画・第1年度)
担当者 青木修次,小石泰道,篠原陽一
船内集団の成果をいかにとらえるかの課題からスタートした当研究は,今年度からその成果に及ぼす影響・要因,特にリーダーシップ要因に焦点をあて,研究会方式で検討をすすめた。2年計画の第1年度にあたり,昭和59・60年度に行った「船内集団の効果的運営に関する研究」の成果を現場で確認すべく,また船内集団の環境変化とリーダーシップの対応を確認するため,2隻のコンテナ船に片航づっ乗船した。船内集団の成果という観点からみると,運航スケジュールの維持が期待される第1の成果目標となる。ただし,この目標達成は,さまざまな下位目標の達成を必要条件としており,船内リーダーシップはこれら下位目標の達成に強い影響力をもっている。
乗船観察の知見を踏まえ,後半は船内リーダーシップ(スタイル)と集団成果の関係を検討した。しかし,リーダーシップスタイルの測定方法は過去にも検討されてきたが,成功したとはいえず,陸上職場集団とは異なる新たな枠組みを必要としている。そこでリーダーシップの有効性をリーダーシップスタイルと集団状況の適合性という観点からとらえて状況理論を見直し,船内集団状況を考慮した測定方法の開発,検討を進めてきた。具体的実証は62年度に実施する予定である。
5.欧州の海運諸国における外国人船員の雇用・労働保護に関する調査研究
担当者 大橋信夫,三輪千年
近年の世界の労働市場における船員労働力の需要・供給構造の変化は著しく,その影響を受けて日本の海運産業においても船員労働力の国際化が進行している。こうした中で質の良い労働力を確保して,安全で安定した船舶の運航を維持するためには,これまでのような日本人だけの場合とは異なった雇用管理・人事管理・労務管理が必要となってきており,関係者はその対応に迫られている。すなわち,外国人船員と一緒に働く船員の労働や生活における諸問題を緩和し,あるいは外国人船員の雇用に関わる問題を解決し,また国際的な問題の発生を予防する上で,これまではあまり必要ではなかった外国人船員に関するさまざまな知識を広く共有出来るようにすることが求められている。そのことは,外国人船員に関する様々な問い合わせが当研究所にも寄せられてくること,特に最近は,ILO,IMO,ITFなどとの関係が一層強まっていることもあってか,欧州の船員事情に関する問い合わせが増加していることからも理解出来ることである。
そこで,昭和61年度は,これまでに進めてきたアジア人船員に関する我々の研究をふまえて,外国人船員を長く雇用してきた欧州の伝統的海運国における外国人船員の現状についての調査を実施した。今回の調査の目的は,現に雇用されている外国人船員の国籍別人数,外国人船員の雇用ルート,外国人船員に対する一般的評価,外国人船員に対する乗船前教育の有無及び内容,文化摩擦など外国人船員の雇用に関係して発生する諸問題に対する対策,等々などについての実際の状況を知ることであったので,文献による調査だけではなく,イギリス,オランダ,ドイツ,スエーデン,ノルウェーの5ケ国について現地における関係者への面接調査も実施した。
結果は,研究報告書,”欧州における外国人労働者問題に関する研究−欧州の船員需要国における外国人船員について−”,にまとめてあるが,概略は次の通りである。
a.人種差別あるいは国籍による差別,という批判を受けないように配慮はしている。
b.実際には人種あるいは国籍による労働条件の差が無いわけではない。
c.スペイン,ポルトガルのECへの加盟の影響は少なくない。これまでの伝統的船員供給国に加えて,アフリカや東欧などの新興の供給国が台頭しており,これにアジア船員が加わって,かなり需給関係は混沌としてきている。
d.さまざまな建前論理を用意している。
e.しかし結局は力の強い者としての論理を持っている。
f.それでも,新しい労使関係を構築しようとする胎動もある。
g.統計資料の整備が始められている国もある。
h.雇用される側の実態を調査しないと,外国人船員問題は理解出来ない。
今後も機会をとらえて外国人船員問題に関する実証的な調査研究を進めていく考えであるが,特に上記h.にもあげた船員供給国の調査は緊急に進める必要があると考えられた。
6.小型漁船における操業態様の変化に関する予備的調査研究(1年計画)
担当者 三輪千年,大橋信夫
最近の電子及びマイクロコンピュータ等の先端技術の発達を背景として,漁船漁業における生産技術の高度化には著しいものがあり,それに伴って漁業操業のあり方も大きく変化しつつある。
また,漁業生産技術の高度化に伴う操業態様の変化が,労働・生活を機軸とした船内環境に影響して,災害及び事故と言う形態をとることが多くなっている。こうした災害や事故の発生要因の解明を通じて,漁労機械と人間労働とのかかわりを考察しようとしたのが,ここでの問題意識であり課題である。
特に,今回,小型漁船のうち,イカ釣漁船を調査研究の対象としたのは,小型イカ釣漁船における作業形態が作業分担の異なる幾つかの装置が連動して稼働するシステムではなく,同一機能を持ったイカ釣機が数台稼働しているだけの極めて単純な形態であり,しかも乗組員が多くとも2名程度で全ての作業を完結していることが,主とした理由である。
小型イカ釣漁船の運航及び漁労装置は,同じ漁船規模の底曳網漁船よりも充実したものとなっている。例えば,自動操舵装置の装備率は全体で6割近いものとなっており,コンパスやレーダーに至っては8割の漁船が搭載している。また,自動イカ釣機についても船外機船を除いて全船が装備している。これは一つに,イカ釣操業は元来自由操業を建前としていることから,操業海域が漁船規模の割には広範なものとなっていることが考えられる。さらに,集魚灯の光力競争等,漁船間で生産設備に対する過剰投資が行われていることにもよることが考えられる。
こうした生産設備に対して,操業の安全に対する備えとしては救命胴衣と救命浮環の装備率は高いが,その他の救命設備についてはそれはど高いものになっていない。生産性を向上させる設備投資は競争的に行うが,自らの命と安全を確保する投資に対しては,法的に定められた範囲の設備は整えるがそれ以上の投資は不必要のものという考えがそこにあるとするなら問題であろう。 1
災害時の経験と漁労装置との関係は,イカ釣機及び集魚灯等のイカ釣操業における漁労装置とのかかわりが28災害経験中3件というものとなっている。アンケート調査では,この点に関しては約半数近い漁業者は無回答で,また,その他の内容も不十分なものであって,十分に考察することができなかった。そうしたことから,個別面接調査でヒアリングしてきた内容を,報告書の中で提示することにした。自動イカ釣機が導入された昭和40年代初頭においては機械作動及び機械操作上の事故等が多発したが,最近の完全自動化した機械ではそうした事故が明確に減少していることが,漁業者から語られている。しかし,イカ釣機が完全自動化するなかで,船内での作業環境が変化し,イカの箱詰め時の災害が増加してきているのが特徴的現象といえる。
また,こうした災害のもう一つの要因として考えられる,イカ資源状況の悪化,イカ釣漁業経営環境等の問題があるが,今後の課題としたい。
7.有機ガス簡易測定器の実用化に関する研究(1年計画)
担当者 村山義夫
有害な貨物の管理に関する制度的,技術的環境の整備が多方面で進行中である。貨物から発生する有害な気体の検知についても,高感度な可燃性ガス検知器や多種類の検知管の開発が進められている。しかし,これらの方法では,時間,空間的に部分的な測定は可能であっても,各人の曝露状態の把握は不能である。
それには,近年使用が急増しているモニターリングバッヂが有効である。しかし,従来の方法では,結果を得るのに分析操作を要する難点がある。これを解消するため,「比色式モニターチューブ」の基礎的な研究を昭和59年度に実施し,現在,特許の申請を行っている。
今年度は実用化に向け,モニター部と検出部の一体化及び濃度対応指示器の開発により,取扱いの簡素化と信頼性の向上を図った。そのための主な研究は,加工し易い耐薬品性の高い素材を用いた「モニターチューブ」,及び微弱光量で広帯域の直線性を有する光透過量測定器の開発であり,さらには演算回路による多種類の有害物の濃度換算機能を有するものの可能性を検討した。
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