Maritime Labour Research Institute

財団法人海上労働科学研究所
    

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研究調査の概要

昭和63年度

1.技術革新に伴う海上生活の変化に対する船員の適応に関する研究(3年計画・第2年度) −小定員における職場ストレスとその対策及び船員適応の基本的研究−

                担当者:神田 寛,村山義夫,篠原陽一,青木修次
 船内における労働と生活では,出入港・停泊当直交替制勤務に伴う不規則な作業時間差,仕事の不馴れ,不安,さらに対人関係,将来への迷いなど,多くのストレス要因の存在が予想される。このような環境で,船員の生理的な適応がどのようになっているかについて,適応の基本的な指標である生体リズムの測定を重視して検討することにした。また,ストレス対策としては,健康づくりのためのエアロビクス運動の実証的検討を合わせ実施した。
 調査は,豪州航路石炭専用船乗組員による2航海にわたる毎日の睡眠時間の記入と,約半年間の健康づくりトレーニングの実施,さらにその間に1航海便乗し,生活時間の調査,ねむ気,疲労,情緒及び体重の日内変動の調査,作業時間と心拍数の変動と睡眠中の脳波測定及び尿中ホルモンの日内変動を測定した。
 昨年度実施した北米航路コンテナ船の乗組員に比べて,やや規則的な睡眠となっており生体リズムも安定しているが,一部の当直者では,日勤の整備から夜間当直へ交代があり,作業と生活時間への馴れが要求されている。
 体力は,全般に低い人が多く,肥満傾向にあり,担当する作業内容における身体的負荷の度合や生活習慣にもとづく個人差がみられる。
 体力,肥満,血液循環機能を知りながら健康づくりができる各種の器具は,乗組員に関心がもたれ,さらに長期の実施による効果が期待される。
 また,上記の研究と角度を変えた船員適応の基礎的研究では,定員の少数化にともなう船内人間関係の変化を生活時間調査及びワークサンプリングの過去及び現在の資料の整理,および近代化船における職種の再編と雇用環境の変化に伴う船内生活活性調査を行い,船内生活状況の変化の特徴を知ることができた。
 

2.海外出漁大型いかつり漁船における労働環境の調査(2年計画・第2年度)

                               担当:三輪 千年
 わが国の大型いかつり漁船は,昭和60年から南米アルゼンチン沖の南西大西洋のフォークランド(アルビナス)諸島周辺海域に大挙出漁するまでとなり,航海日数の長期化とともにいかつり漁船における労働災害・疾病が大幅に増大してきた。以上の大型いかつり漁業の進展を背景として,船内での労働過程及び生活面での乗船調査及び,ヒアリング,アンケート調査を行った。
 労働過程としては,漁労機器,漁船運行装置の機械化・自動化に伴い,漁獲活動及び漁船運行活動での省人化・システム化が急速に進行している。一方,漁獲した後の漁獲物の処理過程において,消費生活面でのグルメ化に対応してイカの選択的消費も進み,船上での鮮度管理,品質管理が強化されてきている。
したがって,船内労働の中心が,漁獲活動から漁獲物の選別・凍結作業に移行してきている。
これらの作業は,限定された船内スペースで行われ,しかも鮮度・品質を見ながらの作業であるためそのほとんどは機械化・自動化になじまないもので,乗組員の経験に基づく熟練労働に依存したものとなっている。それだけに,漁獲物の処理過程では肉体的労働が中心となっている。
 大型いかつり漁船乗組員の船内での生活時間をみると1日当たり平均労働時間は14時間8分と,1日の6割近くを労働時間に当てていることが知られる。ちなみに,労働時間以外の生活時間をみると,平均生理時間(睡眠,身支度等)8時間44分,平均休息時間1時間8分となっており,労働時間以外はただ睡眠をむさぼるだけということになる。以上の生活時間も平均値をみたまでのもので,操業中,航海中によっては,その構成も大きく違ってくる。当然のように,操業中の労働時間は長期化している。
 大型いかつり漁船乗組員の年齢構成も,他の漁船同様高齢化しており,船内及び外地での,高血圧,脳卒中,胃ガン等の成人病も増加し,操業途中での送還者も多くなっている。
乗船前の乗組員の健康管理とともに船内での管理システムの確立が急務となる。
 ハードな船内生活に対応した,労働災害,疾病等の衛生管理面でのフィジカルな管理システムの確率とともに,労働環境のシステム化・高度化に対応したメンタルな側面での船内管理システムの開発が必要となってくる。
 船内の管理システムを有効に機能させるためには,陸上でのバックアップシステムが充分整っていなければならないことはいうまでもない。
 

3.海上労働に関する通信情報化についての方法の開発(2年計画・第1年度)

                          担当者:小石泰道,村山義夫
 昨年度の「船舶におけるパソコンの活用に必要な情報のデータベース化に関する予備的調査」の結果をふまえ,今年度から委員会を発足させて本調査に取り組んだ。即ち,海上労働情報化委員会を設置し,この下にA,B二つの作業部会をおき,次のような進展をみた。
(1)海上労研の研究文献の情報化
 海洋・海事関連共用を目指したキーワード集の中間案を作成,これにもとづいた海上労研の発表文献の書誌事項,抄録文の入力をほぼ終えた。
(2)船内食事管理支援ソフトの開発
 COMEX(エキスパートシステム開発支援ソフト)を用いた「食物摂取カウンセリング」の簡易版を作成した。素人にはまだ利用に手間どるが,栄養士なら利用可能。次いで献立,料理支援ソフトの概略設計を市販RDBソフト(dBASEUPLUS)に切り変えて,設計しなおした。
(3)危険物積載船における災害処理支援ソフトの開発
 支援ソフトの内容を,事故の際の救急処理のデータベースは,IMO発行の「危険物による事故の際の応急医療指針(MFAG)」に準拠して作成した。出力は,MFAGを分解したデータを再合成して検討する方法とした。また個々の物質についての検索コードを定めた化学物質データを作成し,物質名でも検索可能とした。今後はさらに,現場の状況の対話による入力をもとに検索する知的情報処理システムとして,入出力の簡素化と,状況にマッチした出力を追求する。
(4)混乗船における労務管理支援ソフトの開発
 日本船長協会のヒューマンファクター研究委員会の発表した「混乗船に関する調査研究(そのU)−トラブル事例研究」を資料とした,AI開発ソフト「創玄」を用いて,背景条件の入力からトラブル事例を引き出す初期的段階のソフトを作成した。
(5)通信情報化の手段的検討と設備化
 1)共同利用のデータベース化のツールとして,市販RDBにdBASEUPLUSを,これと連携するAI開発ソフトとして創玄を選定した。
 2)通信用としてパソコン(PC−9801),ハードディスク(40MB),通信用アダプター(マスターモジュール,JUST−PC),FAX通信ボード(スターファックス)を設置した。これによりとりあえず,パソコン通信及びパソコン・FAX通信ができる状態となった。
 

4.液化ガスタンカー及びケミカルタンカーに設置すべき解毒剤等についての調査研究

                          担当者:神田 寛,村山義夫
 WHO/IMO/ILOの「危険物による事故の際の応急医療の手引」(略称,MFAG)を実施するに当り,解毒剤,酸素吸入器などを含む救命救急処置について,船員にわかりやすい手引書を提供することを目的とした。
 本研究は医療関係など,それぞれの専門の立場から選ばれた委員により,詳細かつ幅広い検討がなされた。
 全体的に内容をわかりやすく改善したが,さらに原書のMFAGより章ごとに,わが国では内航船々員の多いことも考慮して,下記のごとく項目の追加または内容を改善した。
 ○基礎的に知っておきたい「生きていくことの微候」を3章として追加した。
 ○中毒判定法では,「中毒合併症の発現時間」,「船積化学物質による人身災害の実態」を追加している。
 ○救命処置(口と手で行う人工呼吸法)では,手順のフローチャートと図解で,救命処置の手順をわかりやすくした。
 ○中毒の合併症とその対策では全体的にわかりやすくしたが,最近問題になっているコールタールピッチ,クレオソートなどの「高温液体等による熱傷」を薬傷の項に追加した。
 ○酸素療法,酸素マスク等については,かなり日本の実情に合わせて明示した。
 ○「のみ込み」の事故はほとんどないので,類別による微候と症状の処置(9章)では除いた。ただし,「皮膚接触」または「吸入」により体内に吸収された後「のみ込み」と同様の微候と症状を起こす化学物質の場合は,「のみ込み」の微候と症状・処置を考慮した。これは少しでも簡素化するためである。しかし,もし「のみ込み」のあった場合には,9章とは関係なく,8章の「のみ込み」の処置で行えるようにした。
 ○化学物質表(9章)の微候と症状・処置は,医療関係委員によりMFAGが再度にわたってチェックされた。
 ○対象となるMFAG化学物質類別数47となった。それぞれの類別で対象となる全化学物質は,詳細な検討を重ねて378物質であるとしている。
 ○医療表および関係用具は,MFAGでは医療表にすべてを網羅されているが,要指示医薬品購入関係,医薬品の解説,取り扱い,筋肉内注射の方法,酸素吸入セット一式ならびに人工呼吸用具の説明など,詳細に検討されている。
 

5.混乗船の労働実態に関する調査研究

  一混乗日本人船員調査−(2年計画・第1年度)
                          担当者:篠原陽一,青木修次
 外国人船員と混乗する日本人船員の労働実態を調査・分析し、日本の船員制度のあり方についての参考資料をうるため,今年度は概括的な実態について,通称マルシップ,便宜置籍船に乗船中の日本人船員1,537人(有効資料831人)を対象として調査を実施した。
1.混乗船は,マルシップ32.3%,パナマ船52.7%,リベリア船12.4%で,その平均乗組員は20.9人,うち日本人5.1人である。日本人の職種別占有率は船長98%,一航士78%,機関長97%,一機士71%,通信長35%,職長5%であった。
2.日本人の平均年令は43.1歳,職種構成は職員97.3%,部員2.7%である。最終学歴は日本の外航船にくらべ,商船大学より商船高専,海員学校より中学・高校の出身者が多い。日本人は,船主団体加盟会社の固有船員31%,非固有船員69%となっており,後者の中には混乗船経験10年以上が約4分の1を占める。
3.非固有船員のうち80%が,過去,船主団体加盟会社に在籍経験を持ち,その45%が会社倒産・経営不振で退職しており,混乗船にはその69%が乗る日本船がないという理由で乗船してきている。
4.非固有船員は,混乗船に人から誘われた35%,自分で探した27%というてがかりで乗船しており,乗船窓口は国際船員協会以外の配乗会社62%,同加盟会社11%などが多く,その乗船窓口との関係は長期,当面面倒みてくれるは約50%となっている。
5.所定の雇用期間は12か月59%,月額基本給平均26.3万円,月額収入平均44.3万円,時間外手当定額支給70%,下船給与あり28%(以上,非固有船員),船員保険適用率86%,実労働時間一日平均9時49分,一週平均66時間48分,食料金平均669円となっている。
6.混乗船における不満な労働条件としては,収入が少ない64%,食料金が少ない57%,次船の予定がない35%が多い。混乗船の乗船意義は,選んだ職業をまっとうする機会50%,選んだ職業につきうる機会40%が多い。混乗船に,それなりに満足して乗船37%,仕方なく乗っている34%が多い。
7.混乗船の食事の方法は,日本食中心17%,相手国中心48%,相手国の料理はがまんできる程度47%となっている。食事のトラブルは53%の船員が経験している。自費食料を69%の船員が購入しており,その額は平均1.1万円で,食料金の50%に相当する。
8.混乗船乗船のメリットは相手国の文化・人柄を知ることができる,相手国クルーは指示命令に忠実,対人関係がさっぱりしているが,またデ・メリットは仕事能力が低く苦労が多い,仕事意欲や責任感が低い,文化・習慣があわないが,多く選択されている。また,日本船との比較で,混乗船は能力発揮の機会がある以外は,すべてマイナス評価となっている。

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