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財団法人海上労働科学研究所
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研究調査の概要平成9年度1.船員労働時間等実態調査
担当者:加藤和彦
目 的:
船員の労働時間短縮の推進についての検討に資するため、昭和63年改正船員法の施行状況とその問題点についての実態調査を行う。
内 容:
全船舶所有者に対する乗組員の所定労働時間、休日、休暇日数、時間外、休日労働(労
使協定の締結状況、内容等)等の調査。
結 果:
@ 一部の例外を除いて、1日の所定労働時間は90.7%が8時間である。また、年間休日数は、104日以上の割合が全体で87.7%であった。最も104日以上の割合が高いのは外航船で100%であり、最も低いのが700トン未満の内航貨物船で83.5%となっている。
A 有給休暇は、外航船で20日以上が97.9%で最も多い。内航旅客船は、20日以上が56.2%で半数を越えているが、内航貨物船は27.6%と最も低い。補償休日労働日数の限度は、年間当たり18日以上が98.5%とほとんどであり、平均では26日となっている。
B 時間外労働の割増手当は、3割増がほとんどであり、全体では88.9%となっている。
休日労働の割増手当は、3割〜5割増が最も多く84.4%となっている。船種別でみると、外航船が最も高く97.4%で、ついで700トン以上の内航貨物船、700トン以上の内航旅客船となり、それぞれ9割を超えている。700トン未満の内航貨物船、内航旅客船は、それぞれ83.0%と83.1%で低くなっている。
C 基準労働期間については、外航船では12月がほとんどで95.3%となっている。内航貨物船では、9月が最も多く58.5%となっている。トン数別でみると、最も多いのは700トン未満も700トン以上も9月であるが、700トン未満ではついで3月(18.5%)が多く、700トン以上では12月(33.3%)となっている。内航旅客船では12月が最も多く39.0%である。トン数別でみると700トン以上では12月が半数以上の54.0%となるが、700トン未満では12月が最も多いものの34.7%となっている。
D 船舶別・トン数別船舶乗組員定員については、外航船では甲板部職員が200総トン以上からトン数にかかわらず4人前後(平均で3.8〜4.2人)となっている。機関部職員は200総トン以上から4999総トン以下で3人程度(平均で2.8〜3.2人)で、5000総トン以上では若干多く3.9人となっている。甲板部部員数は、499総トン以下の1人から5000総トン以上で6.1人とトン数により1人程度づつ多くなっている。機関部部員数については、499総トン以下で0.3人と少ないが、それ以上のトン数ではトン数にかかわらず2,3人程度となっている。
内航貨物船、内航旅客船及び漁船甲板部と機関部の職員は、同様の傾向を示し200総トン未満でそれぞれ1人程度であり200総トン以上でそれぞれ2ないし3人となっている。
内航旅客船の5000総トン以上と漁船の1000総トン以上では若干増えそれぞれ4人程度となっている。甲板部部員については、内航貨物船の699総トン以下で1人程度であり、700〜999総トン以下で3.3人、1000総トンを超えると4.7人となっている。内航旅客船は、999総トン以下では同様な傾向を示し、1000総トン以上では内航貨物より多くなり6ないし7人となっている。機関部部員は、内航貨物船ではトン数にかかわらず1名程度であるが、内航旅客船では1000総トン未満で1名程度であるのに対して、1000総トン以上になると2ないし3名と多くなっている。漁船の甲板部員は、20総トン以上の船舶では、多人数を要する特殊な漁種を除き4、5人程度である。今回1000〜4999総トンで8.1人と多くなっている。機関部部員については、499総トン以下で1名程度であり、500総トン以上では3ないし4人程度となっている。
2.外航船舶及び内航船舶における日本人船員の職業意識とその背景に関わる調査
(2年度計画の最終年度)
担当者:金崎一郎、久宗周二
目 的:
本調査研究は若年船員の確保という緊要な課題に対して、船員職業を職業体系にのみに限定して調査研究を行うのではなく、船員をその背景となる家族との関係という広がりの中に捉え直し、職業意識の観点から接近しようとするものである。
内 容:
初年度に構築した分析枠組みに従って、外航、内航、カーフェリー・旅客船の船員及び船員の家族に対して、アンケート調査を行い、船員職業の構造的特性・心理的特性と夫婦関係との関連を調べた。
結 果:
(1)仕事の質に対しての評価では、職場での協調関係はあると感じているものの、疲労感は強く、仕事から見た自己実現という点では肯定・否定どちらともいえないと答えている。
(2)仕事への没入については、現在の仕事が幸福感とか生きがい観とは結びついておらず、あくまでも生活を支える手段として意味を持ち、手段としての有効性を高めるために勉強に身を入れている。
(3)仕事への満足に対して、収入や昇進のチャンスといった可視性の高い客観的な側面へは満足度が高いが、仕事への社会的な評価とか仕事のもつ自由裁量といった不可視的で主観的な側面についての評価は低い。
(4)家事分担については、大工仕事を除くと妻の果たす役割が、実態的にも規範としても7割以上を占めている。
(5)育児分担(「子どものおむつの世話」を除く)は、6、7割が夫も妻もともに関わるべきだという規範意識をもっている(但し、実態としての比率は低くなる)。
(6)家事決定では、夫婦相談して決めるタイプが規範としては6、7割、実態としても5割から6割半を占めている。ただ、サラリーマン調査(夫)との比較ではその比率は2割弱低い。
(7)余暇活動については、6割以上が夫婦での活動を望んでいる。ただ、船員家族(配偶者)の調査結果では、妻でそう望んでいる割合は4割にすぎない。
(8)夫婦関係の全般に対しての評価では、船員の方は8、9割が満足しているが、船員の妻で満足しているのは7割前後であり、評価に差が見られる。特に、仕事を持っている妻の場合満足している割合は更に低くなる。
(9)性別役割規範については、船員家族(配偶者)女性でみると、働いている場合といない場合では、女性についての役割規範意識はかなり異なる。
次に、構造的特性(職業資源)と夫婦関係との関連についてまとめるが、総じて統計的に有意な関連を見つけることはできなかったといえる。
(1)職業資源と夫婦の役割関係(家事分担・育児分担・家事決定)との関連を示す統計的な明証性は得られなかった。この点は、サラリーマン調査(夫)についても同様の結果である。
(2)職業資源の中で、船種と業種については夫婦の余暇活動と強い関連が見られた。
(3)就業パターンとの関連では、就業状態でみても夫婦関係との間に統計的に有意な結果は見られなかったが、勤務日数との関わりでは、育児分担の実態と夫婦の余暇活動との間に関連が見られた。
妻の職業の心理的特性(船員個人の場合と同様の指標)と夫婦関係との間には次のような関連が見られた。
(1)仕事への満足は夫婦の役割関係の家事分担(実態)との間に関連が見られた。船員の場合と違って、夫婦関係全般についての評価とは関連が認められなかった。
(2)仕事への夫の評価は、余暇活動と夫婦関係全般の評価について関連があった。
(3)仕事をめぐる言い争いも、余暇活動と夫婦関係全般の評価について関連が見られた。
船員の場合と同様、妻の職業の構造特性と心理特性ともかなり関連が見られた。したがって、妻の職業の心理的特性と夫婦関係との関連を評価する際にも、構造的特性の間接的な影響を考慮する必要がある。
3.船内作業におけるヒューマンエラーと注意力に関する研究(3年度計画の初年度)
担当者:村山義夫、加藤和夫、久宗周二
第1部 ヒューマンエラー要因の研究
目 的:
海難審判を受けた海難の原因の約半数が「見張り不十分」とされ、その他の原因でも人的要因とされたものが多く、ヒューマンエラーの防止対策の重要性が指摘されている。
これまでの海難調査および防止対策は、船員の技能、船舶設備、交通環境等を個々に対象とすることが多く、ヒューマンエラーを引き起こす要因をハード、ソフト、環境、人および人間集団の各側面の関係が明らかにされることが少なかった。そこで、ヒューマンエラーの具体的防止対策とその効果を知るために、作業観察と心身状態の測定、ならびに操船作業の模擬実験による作業能の変化から、ヒューマンエラーの発生状況を推定する。
内 容:
本研究では、ヒューマンエラーとその直接的および間接的要因との関係を明らかにするため、既存資料調査、高速船と内航タンカーの現場調査、および模擬操船実験を行うこととした。
結 果:
@資料調査によって、当直者自身については単調な当直中と深夜の心身機能の低下と海難の関係、集団についてはコミュニケーションと安全の動機づけ、ハードについては新技術の適応、環境については電子海図などの航海情報内容、ソフトについては交代制の管理や技能教育のあり方を検討することの必要性を指摘した。
A現場調査では作業観察と心拍記録、生活時間調査を行った。高速船の当直では、入出港の負担があり、操船者は操舵しながら近距離範囲の見張りに集中し、副直者が広範囲の見張りを補佐する役割の分担を要する負担がある。内航タンカーでは、これまでのワークロード研究で指摘したと同様に、接近船舶が多い状態、単調な当直中の心身機能低下、視界不良などのヒューマンエラーの要因になる可能性のある状況が再認された。付近の他船同士のニアミスがこのような環境で観察されたことからも明らかであった。
Bパソコンモニター上の操舵によるトラッキング課題の操船模擬実験を行った。操作と追従の時間差が大きい作業は、一般のトラッキング作業とは異なり、運動性能とその制御のこつの説明が作業成績に大きく影響していた。このことは、操船制御では運動を予測する精神作業が必要であることを示す。
第2部 操船設備研究
目 的:
船船の省力化、高速化等に伴ってジョイステックコントロールシステム、GPS、ARPAなど様々な操船設備が開発されており、設備により、操船時の情報伝達に変化があると考えられる。操船時の人間の行動、言語のコミュニケーションを分析することは、操船機器の開発、マニュアル等を作成する上での基礎資料になり得ると考えられる。
内 容:
海難について、航空機事故のように人間一機械系の観点から、海難審判庁採決録等を資料にして、日本人間工学会安全人間工学部会の作成した「人的事故調査マニュアル」を用いて事故要因を4M(MAN、MACHINE、MEDIA、MANAGEMENT)等に分析した。
つぎに、実際の操船者の行動と情報を分析した。ジョイステックコントロール設備があるフェリーとジョイステック設備がないフェリーの入港時における船橋内で交わされる情報の頻度について比較した。
結 果:
@ヒューマンエラーとともに、機械のフェールセーフシステムの不備などが指摘された。
4Mのそれぞれの項目について多角的に対策を考えていくことは、事故防止に必要であると考えられる。
A操船作業分析の結果、入港時の他船の状況、港の湾の形状に違いがあるため、一概に比較は出来ないが、ジョイステック設備のない船はバウスラスターに関する情報が、ジョイステック設備のない船に比べて多い。ジョイステック設備のない船の船長は、機関士から頻繁に入ってくるバウスラスターに関する情報によるものと、操舵手が船長に対して操舵動作完了の報告を行うフィードバック情報により、入港直前に情報を多く発している。
多いときには数秒に1回の割合で情報を発しており、高度かつ迅速な判断が要求されている。ジョイステック設備のある船は、バウスラスターの装置は船長自ら操作しているため、バウスラスターに関する情報は比較的少ない。ジョイステックシステム等の操船システムを使う場合は他者にオーダーを言う作業が軽減できるが、しかし、ジョイステックのミスをした場合、他者に気づかれにくくなることもあるので、フェールセーフを考えて役割分担を明確にするなどの対策が必要である。
4.混乗漁船員の就労実態調査(2年度計画の初年度)
担当者:村山義夫、中村史也、金崎一郎、加藤和彦
第1部 鮪漁業における混乗漁船員の就労調査
目 的:
我が国のまぐろ漁船でも外国人船員が増し、変化する船内就労への対処と、同時に、それを担う有能な人材を確保育成することが課題になっている。
内 容:
@まぐろ漁船の実態
日本は世界の鮪漁獲高の2割、冷凍・生鮮まぐろの半分(1994年)であるが、延縄漁船隻数はこの15年はどで半減し、その合理化が進行している。漁船員は日本人が約1/3で、年齢構成は45歳代がピークで、35歳末満はわずかである。混乗比率はほとんどがインドネシア船員で40%に達しており、年齢層は25歳代が中心である。経由するマンニング会社は60%強が日本鰹鮪連合会経営の会社と提携した会社である。航海は1年以上で、操業パターンは種類が多く、空路での休暇下船をおこなうものが多い。
Aインドネシアの社会と労働環境
インドネシアは、都市は巨大化し農村は停滞する中で社会階層が分化し、種々の歪みが生じている。親族関係での強いつながりや宗教的精神による相互扶助的共同体は、絆が薄れたり硬直した運営になり、他方、西欧的情報や消費物質が増加して、この伝統的精神性は揺らぎつつある。移動動機と学歴とはある程度関係があるが、個人の意識の違いによる場合も多い。
B混乗船の就労について
すでに外国人比率が40%に達する船がほとんどであるが、採算割れをしているものもあるようである。したがって外国人比率は外航船のように増すことが十分予想される。まぐろ漁船では日本人船員不足分を徐々に補充して、混乗へなれてきたが、インドネシア人は商船のフィリピン人に比べて日本人との関係と体調・健康への不安がやや多く、心身の適性は重要な問題である。平等な関わり、人間としての関わりの重要との指摘があった。
C日本のまぐろ漁船員の今後
主要給源地では若い家庭の減少と子どもの減少、就業年齢層の流出が続いており、漁業従事者数の減少は著しい。一方、高校卒業者の就職率は減少し、水産高校卒業者の漁業離れも進行している。子供を含め地域全体が海での仕事を身近に感じていたが、遠洋漁業の給与生活となり、家族は海での仕事の身近さや愛着が薄れたと推定される。ムラの構成員や親族の情報が動かす部分が大きく、漁業でも、船員の主要給源地の後継者の急激な落ち込みは、地元の大人及び漁船船員からの情報(ヨコ系列)が拍車をかけた可能性が考えられる。もしこれの転換を帰すならば、新しい意味の地域再生が重要な課題と考えられる。
D漁業経営の転換
若手船員不足と国際競争力から外国人船員との混乗を進め、まぐろ漁船のイメージは一層変化した。最近、業界では、このような状況に対して、日本鰹鮪連合会を中心に将来を見据えた幹部船員確保対策を推進することとなった。その目的は、国際協力の現場で指導的立場になり得る実務者としての幹部船員の育成であり、技術指導能力、船内労務管理能力の向上を目指し、人材を確保する待遇改善を提唱している。こうした業界の取り組みと、先に記した地域再生の動きはまぐろ漁船員の新たな職業生活をもたらす可能性がある。
第2部 混乗漁船員の就労実態に関する調査
目 的:
漁船における混乗化が進行して、日本人船員のみで行われていた従来の船内作業の役割分担、及び仕事の進め方が変化して来ている。船内生活も文化・習慣が異なる者同士の共同生活になっている。これらを支障なく行うには、適切なる労務管理が求められるとともに、現場においての円滑なコミュニケーション、及び適切な就労環境が重要になっている。
そこで、混乗漁船における就労の実態を調査して、混乗漁船について検討、改善して行くための資料を得ることを目的とした。
内 容:
@ 商船における混乗に関する調査、研究資料の収集。
A 混乗漁船に関する歴史、制度、実情など基礎的資料の収集。
B 関係業界団体、全日海、船主、混乗船経験者などへの聴き取り調査。
結 果:
混乗漁船の乗組員集団が、集団としての成果を挙げるためには、日本人の漁労長などの一部の幹部船員の努力だけでは困難であり、それらの努力を効果あるものにするためには、外部からの支援が必要である。その支援の内容はさまざまなものがあるが、効果的な支援を実現する上で急がなければならないこととして、次の7点をあげることができる。
@漁業における混乗問題の全体像をきちんと把握し整理し関係者で共有できるようにすることである。すなわち、報告書の「漁船への外国人乗組員の導入経緯と問題点」にあるような整理を進めることである。
A混乗船における実際の労働や生活の実態に関する知見を関係者で共有できるようにすることである。その一部は報告書の「現場からみた混乗の実態」に記載されているが、極めて情報不足の状態で、今後もこうした努力を継続する必要がある。
B混乗の相手国の乗組員の雇用等に関する情報を収集整理し関係者で共有できるようにすることである。これまでにも若干の報告があるが、この相手国の状況に関してきちんと整理されているものは少ない。インドネシアのマンニングに関する記述に例をみるように、さまざまな相手国について調査研究して、知見を蓄積し共有することは極めて重要でありかつ必要なことである。
C外国人船員の教育訓練の実態に関する知見を蓄積し関係者で共有することである。既に若干の報告はあるが極めて不十分で、早い機会にきちんとした現地調査をする必要がある。このような情報が実際の混乗船の現場で非常に有用であることは、商船の例からも明らかなことである。
D実際に日本人乗組員との混乗を経験した外国人船員が、混乗をどのように受け止め、評価しているのか、本人はもとより家族に対しても時間をかけて面接して知見を得て関係者で共有することである。これらの知見は混乗船の現場におけるさまざまな面で有用であり、とりわけ良好な人間関係を実現する上で重要な情報である。同時に経営情報としても有用である。
E大型イカ釣漁業における混乗の一端が明らかになったが、漁業労働の具体的内容が業種によって大きく異なることを考えれば、「漁業における混乗」と一括りにすることは危険であって、業種毎の特徴や問題点とその対策を明らかにしていく必要がある。
F他の水産国がどのような混乗を導入しているのか、今後どのように展開させようとしているのかについての知見を収集し関係者で共有することである。国際競争が激化している漁業では他国の実態は無視できないことである。
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