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財団法人海上労働科学研究所
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研究調査の概要平成11年度1.船内作業におけるヒューマンエラーと注意力に関する研究(第3年度、最終報告)
第1部ヒューマンエラー要因の研究
担当者:村山義夫、久宗周二、加藤和彦
目 的:
ヒューマンエラーの発生と当直者自身及び当直者と設備・環境・他の乗組員の関係について、特に、単調な航海における監視作業での注意力低下の状況と船体制御が因難な船や輻輳海域でのエラーの発生状況を明らかにし、これらへの対策を検討することとした。
内 容:
未然事故(ヒヤリハット)調査と海難審判庁調査結果とを分析し、事故の背景要因とそれが複合する状況を明らかにした。擬操船実験によって、操船技能の習熟と持続作業における作業成績の変動を明らかにした。現場調査の結果から作業成績を維持するための設備、環境、労務管理について検討した。
結 果:
操船者の衝突・乗揚げ事故では、危険を認知しない場合が1/3、難しい状態で危険を認知しているものが1/5、余裕ある状態で危険を認知していながら事故になったものが1/2であった。操船者の情報獲得と処理の失敗が、選択的注意、覚醒水準、情報処理制御の混乱や低下によって起こり、それには多くの背景が要因があった。
操船者の作業能の低下は、継続したトラッキング作業、沿岸航海で単調な4時間当直において顕著であった。操船者は、入出港では潮流や視界、狭水道では航行船舶の交通状況など、攪乱要因が標準技能に対して過重な負担になる場合、心拍数増加など緊張状態を示した。それには、船舶設備、操縦性、航海水域、交通環境、外乱などによる船体制御の困難さ、情報処理量の増加と時間的制約などが複雑に関係していた。
安全管理担当者に対するヒヤリングによって、船員の配乗、運航計画、コミュニケーションなど労務管理上の問題点が指摘された。配乗では人数と構成員の能力のバランスであり、運航計画では稼働率向上と休息確保のプランニングであり、コミュニケーションでは乗員同士及び乗員と陸上管理者間の意思疎通であった。
以上の調査を踏まえて、安全対策の枠組みを示し、3領域における最近の動向を紹介した。操船者の行動をより安全なものにするための対策領域を能力、レディネス、技術的前提条件、組織的前提条件に分類し、含まれる個別因子を明らかにした。
第2部 操船設備研究
目 的:
操船時の人間の行動と言語コミュニケーションの分析、人間工学人的事故調査マニュアルを用いた船員の行動を中心にした海難の分析を行い、操船機器の開発、マニュアル等を作成する上での基礎資料を得ることとした。
内 容:
在来型と高速型と比較しての船橋内でどのような操船作業(作業動作、言語情報の内容、心拍数等)が行われているかを分析し、高速型の操船時の特性を考察した。
船舶の省力化、高速化等に伴って、操船時の情報伝達等が変化する考えられる。在来型と高速型と比較して、船橋内でどのような操船作業(作業動作、言語情報の内容、心拍数等)が行われているか分析し、高速型の操船時の特性を考察した。
結 果:
@ 高速船の操舵手は、航海中の大半が操舵作業であり、高速船は波や風の影響を受けやすく進路が変わってしまうために、2〜10秒間に一回操舵しなければならず、操舵手への負担が大きい。この操舵作業中は肉眼見張りも同時に行われており、船長、航海士の補助作業も行われている。高速船は、操舵手は絶えず操舵作業を行い、航海士も見張りに入るため、居眠りや、見過ごすなどのエラーは少ないと考えられるが、停泊時間も少ないことを考えると疲労からくるミスの発生も考えられる。
A 出入港においては、言語情報分析の結果各船共通で、船長以外の作業者はアンサー、復唱が高い頻度を示しているが、この情報はフィードバック情報として操船作業のミスを防ぎ、発見するのに役立っている。見合い船や横切り船などの他船の動静を確認する際、船長と航海士、操舵手が相談して行っていて、相手船と無線が通じる場合は、航海士が相手船を呼び出し動静を確認し、また、小型漁船、プレジャーボートなど連絡がつかない船舶の場合には、相互に他船の動静を確認していた。船長以外の航海士、操舵手などが他船の動向、周囲の状況を呈示するなどバックアツプを行っており、重要な役割を果たしていた。
B 心拍数を測定した結果、各船共通で、出港時よりも入港時で心拍数が高くなり、さらに入港時の岸壁へのアプローチ段階である船首または船尾が岸壁へと近づくときに最も心拍数が高くなっていた。岸壁への衝突を考えれば、このアプローチ段階が最も高く、その後の岸壁へ船を寄せていく段階ではロープワークによりサポートされるので衝突の危険も減るものと考えられる。在来船と高速船で入出港時における船長の心拍数を比較した場合、悪天候時に違いがみられた。在来船の船長では、心拍数は常に高い値で岸壁へのアプローチでさらなる上昇を示したのに対し、高速船の船長では回頭中で高くなるものの全体として上昇することはなかった。これは、高速船が在来船と比較して小型であり操縦性能がよく小回りが効くことによると考えられた。
C 船舶毎に、乗組員の動作、言語情報、生体負担に相違が見られた。船舶に新しい技術を取り入れていく際には、乗組員の動作、生体負担、言語情報などがどのような影響を受けるか評価し、必要に応じて操船作業におけるフェールセーフのための、操船者に対する人的、機械的バックアップシステムを構築することが重要である。
2.外航船舶に乗り組む日本人船員のキャリア志向と職業的アイデン ティティに関する調査(第2年度、最終報告)
担当者:金崎一郎、久宗周二
目 的:
本調査研究は、平成10年度の同調査研究(初年度)と同様の目的を有し、現状における外航日本人船員のキャリア志向を探りつつ、船員が「船員としての自分」をどのように捉えているのかを実態的に明らかにすることによって、今後の外航船員の職業生活を展望するための基礎資料を提供するものである。
内 容:
第2年度は、1年度目の知見をもとに、船社と外航船員に対して、キャリア、職業的アイデンティティについてアンケート調査を実施し、数量的データの分析を行った。
結 果:
船社に対する調査の結果
@日本人外航船員を雇用している船社に対して、キャリア開発についての質問紙調査を、また船社については14社中8社で何らかのキャリア開発プランを実施しているという回答が得られた。
A混乗船への配乗については、「外国人の混乗船キーマンの養成・訓練」が最も切実な問題となっている
B海技者に対する役割要請の変化については、今後船舶管理技術者としての役割が強まるという見通しをもっている。
船員に対する調査の結果
@回答者の平均年齢は41.7歳で、20歳代7%、30歳代34%、40歳代37%、50歳代21%であった。
A最終学校は、商船高校9%、商船高専22%、商船大学50%、海技大学校6%であった。
B船員教育機関に入る前について、幼少時の経験として海や船などと日常的にふれるような経験があったという回答者は40%であった。
C船員教育機関で得たものとしては、知識33%、精神力27%、先輩・友人等とのつながり25%が指摘されている。
D寄宿舎生活については、団体生活を経験できたことが良い点だと考えている回答者が最も多い(72%)。逆にマイナス面では、プライバシーがないという点に多くの回答が集まった(49%)。
E練習船実習では、船内生活の実感がもてたという回答が多かった(41%)。
F現時に至るまでのキャリアステージと年齢との関わりでは、船長・航海士の場合、3等航海士には平均で23歳、2等航海士27歳、1等航海士33歳、そして船長には44歳で就任している。機関長・機関でも、1年程度のズレは見られるがほぼ同じ傾向であった。こうしたキャリアスーテジへの到達年齢は船員教育機関卒業時のイメージとほぼ重なっている。
G陸上勤務については、1回あたりの期間は平均3.3年、通算では平均7.5年の経験を有している。1回目で最も多い仕事は「海務・総務・労務」23%で、「海技関係」12%、「船舶工務関係」10%、「船舶管理関係」6%とつづく。
H船に乗っていたい年齢は、55歳29%が最も多く、次いで50歳19%、60歳12%となる。
I船を下りた後の仕事としては、船長・航海士は「海運関係の仕事に就きたい」49%と回答しているのに対して、機関長・機関士では「海運以外の働き場所を求めたい」27%という回答が多くなっている。また、仕事には就かないという回答も7%程度見られた。
J船員としての意識に影響を及ぼす要因としては、従来から「集団構造・運営」、「離社会性」、「自然物理的環境」といった要因が指摘されているが、今回の調査ではこれらの他に「国際性」という要因が新たに抽出された。このことは、混乗船が一般的になった、今日的な日本人外航船員のおかれている職場環境の一端を反映していると考えられる。
K最後に、第1年度で行ったインタビュー調査との関連では、その中でまとめられたキャリア志向や職業的アイデンティティに関わる「物語」は、今年度の数量的なデータや自由回答による裏付けを得られたものもあるが、必ずしもすべての「物語」が裏付けられたわけではなかった。
3.船員の健康と就労実態調査(2年度計画の初年度)
担当者:加藤和彦、久宗周二
目 的:
近年の疾病および死亡の原因は、脳血管疾患、悪性新生物および心疾患等の生活習慣病といわれるものであり、これら疾病は仕事や生活のストレス、食生活や喫煙の生活習慣と密接に関係している。したがって、労働者集団としての船員に関しても重要な問題である。
そこで、船員の船内における労働および生活に関するストレスの実態を調査し、船員集団としてのストレスの特徴を把握すると共に、精神的および身体的健康に影響をおよぼすストレスについても調査し、その関連を探る。
内 容:
自記式アンケートにより行った。船内作業及び船内生活に関する質問、家庭生活に関する質問、12項目の一般的健康調査及び生活習慣に関するものであった。アンケートは、内航59社126隻793名に、外航15社37隻185名に郵送により配布した。
結 果:
@アンケートの回収は、内航で44隻291名(回収率36.7%)、外航で16隻74名(回収率40.0%)であった。
A内航船の甲板部において、特に船長と甲板部員では、精神的健康度に対し「船種が変わり不安」と「新しい設備に不安」の影響が大きいという結果であった。新しい船種・設備への対応に戸惑い、慣れるのに時間がかかるのかもしれない。この不安を少しでも解消するため、乗船船舶が変わる場合は事前の講習等のアドバイスが必要と思われる。
B内航船の機関部では、精神的健康度に対し「機関の不調にイライラ」が機関長、機関士・機関部員に共通してみられた。機関の不調が続くとイライラはますばかりであるので、迅速に対応できるよう陸上からの支援は欠かせないものと思われる。また、機関長では、「仕事量が多い」という項目もあげられていた。機関長に仕事が集中しないよう配慮が必要と思われる。
C生活習慣については、甲板部、機関部とも精神的健康度の低い人で「飲酒を毎日する」という人の割合が多くなっていた。お酒を飲むことによってストレスを発散していると思われるが、飲み過ぎないような配慮や、啓蒙活動が必要であると思われる。
D外航船の甲板部においては、「人間関係に満足」と「外国人とコミニュケーションがうまく取れない」の項目で精神的健康度と関連があるという結果であった。外航船では日本人乗組員の数が少なくなり人間関係の稀薄さが現れたものと思われる。外国人とのコミニュケーションに関しては、混乗化が進められてくるのにともない、様々な対応策が試みられてきたが、まだ外国人とのコミニュケーションがうまく取れず悩んでいる人は多いようである。今後も日本人乗組員に対する外国人乗組員とのコミニュケーションについて配慮を払っていかなければならない。
E外航船の機関部においては、「スタンバイでイライラ」、「生活が単調で不満」と「陸と連絡が取れずイライラ」の3項目で精神的健康度と関連があるという結果であった。「生活が単調で不満」と「陸と連絡が取れずイライラ」は洋上により陸と離れているということが関連している。陸との連絡を取りやすくするといった配慮が重要である。また、「スタンバイでイライラ」は入出港において陸との連絡が充分でなくエンジンの始動停止が計画的に思うようにできないということであるので、これに関しても陸との連絡を取りやすくするといった配慮が重要である。
F生活習慣に関しては、甲板部の精神的健康度の低い人で「定期的な運動を行っていない」と「間食をよく食べる」の割合が多くなっていた。船内において運動を行うことは難しいが、狭い場所でもできる自転車エルゴメーターやトレッドミルといった設備の設置は可能であると思われる。また、船内のレクリエーションにおいて身体運動を伴うものを積極的に行うようにするのも良いと思われる。
4.操船従事者の精神的ストレスに 関する調査(2年度計画、初年度)
担当者:村山義夫、金崎一郎、加藤和彦
目 的:
モデル的環境では観測し得ない現場での負荷要因と心身への影響レベルを観測して操船者のストレスを総合的に評価し、作業管理を充実させるための資料を提供する。
方 法:
(1)ストレス原因調査は、@従来の操船ストレスモデルによる調査、A現場の気象、海象、航行船の地域特性や船種特性、不測の船舶など、操船者の負担要因についての撮影と観察メモによる記録、Bこれらの負荷の程度について操船者に対する質問紙調査を行った。
(2)ストレス状態調査は、@心拍数の変動を測定し、A気分や疲労などの心身影響の自覚を調査した。
(3)ストレス対処調査は、@操船者のストレス対処行動の質問紙調査、A本人自身に対する意識についての質問紙調査である。
調査対象船は4隻の9,700総トン級のフェリーであり、阪神と九州間の航海中に調査した。調査対象者は船長4名と航海士12名であった。
結 果:
今回開発したストレス原因調査法によって、原因内容分類別に原因の強さを評価するための差異が表現できた。船長は航海士に較べて環境条件についての原因指摘が多かった。調査時期別に船長の指摘を比較すると、スケジュールに影響する原因がある場合には全体として指摘が多く、港の自然環境条件と狭水道の輻輳は部分的な指摘の増加があった。
ストレスの状態は、航海の全体にわたってストレス原因指摘が多い場合には、作業後の疲労自覚などが増し、休暇時に減少していた。航海の部分的な時期にストレス原因指摘があった場合にはその時期に心拍数上昇が認められた。その場合、下船して休暇になると活気は回復して上昇していた。
ストレス対処は、船長の方が航海士より対処する術を多くもっていた。調査時期別に船長を比較すると、ストレス原因指摘が少なかった場合に対処得点は高かった。ストレス原因指摘が全体的に多い場合と部分的に多い場合には、共に原因指摘が少ない場合より対処得点がわずかに低かった。
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