Maritime Labour Research Institute

財団法人海上労働科学研究所
    

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研究調査の概要

昭和41年度

1.操船者の知的機能に関する研究

                         担当者 狩野 広之,西岡 昭
 操船という複雑なしかも高度な技能に対応する,知的機能を検出分析するためには,従来行われているような,簡単な知能検査法では,目的が達せられないことが判明したので,「RK400(高級知能)検査法」を考案し,これを実施し検討を加えてきた。この検査法のねらいは,@要点把握能力,A非定型業務に多くみられる命令遂行能力,B思考の流動性および観点変更能力を検出するところにある。
 次いで,操船作業にあっては,与えられる刺激または情報が,時間的に変化するということが,技能上の一つの重要な特徴と考えられるので,時間的に変化する刺激を与えて,その中から一定の規則性をキャッチさせる方法として,「継時判断検査法」を考案した。
 その後,操船技術に関する研究の過程で,操船に伴う知的機能としては,次のような情報処理過程が,その特性をなすものであることが明かとなった。
@操船上必要とする情報がきわめて多量で複雑であること。
A情報が時間的に変化し,その中から主要な情報を選択し綜合判断することが多いこと。
Bこの情報処理過程において,部分情報を見落したり,忘却したり,誤解したりする可能性があること。
C系統的な情報の他に,しばしば外乱的な情報が混入し,これを適当に処理する必要があること。
D時間的要因が大きく作用し,状況判断の決定に速度が要求されること。
 以上の特性に基いて,「RXP401検査法」を考案した。RKP401検査法は,次のような構成になっている。
@刺激構造が多義的で,一個のDisplayに数系統の情報が同時に組みこまれている。
A被検者のタスクとしては,この多義的なDisplayの中から,なるべく多くの情報をくみとって,これを系統化することが求められる。
BDisplayが時間的に変化し,変化する情報の中から,一定のまとまった情報を綜合判断することが求められる。
C変化する系統情報の途中に,外乱情報として,警告情報,特定の指示情報を挿入し,この外乱情報を適当に処理するかどうかをみる。
 この検査法を,海技大学校学生および水先人国家試験受験者等に実施して,次の結果を得た。
@年令別に綜合得点成績をみると,ほゞ45才を頂点として,年令が長ずるにしたがい,低下する傾向がみられる。しかし,個人別の成績では,高令者でもかなり高い得点の者がある。
A主系列情報に対する正答率は,40〜50才で55〜65%,55才以上で40%以下に低下する。これは記憶保持の困難さが原因と考えられる。
B副系列情報に対する返答率は,主系列情報に対するよりも低い。これは主系列情報の綜合判断にとらわれて,副系列情報のキャッチがうまく行かないためと考えられる。
C指示情報に対する正答率は,45才位までは,ほゞ40〜50%であるが,それ以上の年令層になると急激に低下する。これは,主系列の情報にとらわれて,途中に挿入された情報を見落すためと考えられる。
 

2.操船者の精神的緊張に関する研究

                        担当者 大橋 信夫,広田 
 大型船の操船作業,特に着岸,離岸等の港内における作業は,精神的に負担の大きい作業と考えられる。超大型船においては,交通量の増大,港湾設備の不備などからこれに拍車をかけている状態である。巨大船の安全運航の面から,操船者の精神的負担は検討を要する問題と考えられる。
 この目的で操船中の操船者の心拍数を,ハートレート・テレメーターによって測定した。調査対象は東部カナダ航路の定期船M丸において,船長については名古屋入港時,およびホノルル入港時,パイロットについては,サンフランシスコ入港時および同港内におけるシフト時を選んで実施した。
 結果を要約すると次の通りである。
@操船に必要な情報量が増加する時,心拍数は増加する。
A操船に必要な情報を把握し難い時,心拍数は上昇する。
B舵角の選定および主機関の使用など,意志決定を必要とする時,心拍数は増加する。
 このような心拍数の上昇は,不安反応・警戒反応としての精神的緊張によるものと思われる。その背景には,巨大な運動量を制御するに当って,それを果すに十分な情報の収集の難しさ,作業遂行に必要なシステムの不完全さ,港湾施設の不備などが考えられる。
 

3.操船者の反応速度と運動規制機構に関する研究

                   担当者 西岡 昭,森清 善行,飯田 裕康
 操船者の情報処理能力をみる方法として,反応時間と運動規制機構の面から,検査方法を検討した。
操船者は船橋において複雑な情報を処理し,迅速に決定を下して行かなければならない点に着目して考案されたものである。
(1)反応時間からみた操船者の情報処理能力
 @H型反応時間,光刺激の呈示による,2選択,4選択,8選択反応時間の測定。
 AT型反応時間,H型と異るところは,光刺激が場所表示でなくて,数字で示される。
T型反応時間の回帰直線式は次の通りで,年令が高くなるほど,処理速度がおそくなっている。
   40才代  R.T.= 0.203H+0.196
   50才代  R.T.= 0.211H+0.213
   60才代  R.T.= 0.245H+0.200
     HT=logN    N 選択数
H型反応時間でも40才代の方が反応時間が速い。
(2)運動規制機構からみた操船者の情報処理能力
 定められた範囲をできるだけ正確に速く叩く検査法である。標的板の左右に同じ幅の誤反応領域を設け,それにふれると誤反応を記録される方式である。水先人国家試験受験者について実施したところでは,速さ,誤打率など合格者群の方が秀れている。
 

4.新鋭浚渫船船員の労働負担に関する研究

                   担当者 小石 泰道,大橋 信夫,服部 昭
 技術革新の進展に伴い,船内の諸設備が近代化されてきた。これにつれて作業方法にも変化があらわれ,作業組織の変容にまで及んでいる。このことが船員の労働負担に如何なる影響を及ぼしているかについて,自動化のすゝめられている商船について研究をすゝめてきた。
 今年は対象をかえて,近代化のすゝんだ新鋭浚渫船の乗組員について,集中制御方式と作業方式,商船乗組員と異なる勤務方式が,労働負担に如何に影響しているかについて検討を加えた。
 浚渫,航行,機関運用業務における,看視,操作の密度および緊張の程度は,特に問題となるほどではない。疲労検査による生理的諸機能の変動率もおおむね適正な範囲内にある。たゞ自覚的症状の上では,訴えがかなり高い。これは労働負担に関係する勤務と生活の諸条件に対する理解ならびに態度に,一般商船々員と異るものがあるためと考えられる。
 

5.内航旅客船設備と船員労働に関する研究

             担当者 神田 寛,小石 泰道,大橋 信夫,広田 
 船舶の自動化に伴う,船内労働の変容に関する研究は,外航定期船を対象にして実施してきたところである。
 今年は内航旅客船を対象にして研究をすゝめた。近年労働力の不足,経営の合理化等のため,内航旅客船においても,急速に設備の近代化がすゝめられることゝなり,船内労働に大きな変革を来たしつつある。
 調査の対象となった船は,可変ピッチプロペラ2軸船で,船橋総括制御装置があって,運動性能がすぐれていて,操作は簡単で,船長自ら操作するもので,大型商船における船長の操船作業とは,大きく異っている。このことは操船時の心拍数の測定結果からも明かである。
 勤務制と乗組定員との関連で,1日の労働時間が長いが,作業測定の結果によれば,余裕率が高いので,疲労検査の上では特に問題となるようなことはない。
 ただ,船員の資質の面で,やゝ問題と思われる者が含まれているので,採用基準,教育訓練等検討を加える必要がある。
 

6.遭難時、海水の飲用が生体に及ぼす影響に関する研究

                        担当者 久我 正男,鳥井 敬三
 従来船舶の遭難に当っては,海水の飲用は有害であるとして,きびしく禁止されてきた。ところがアラン・ボンバールの筏による漂流実験以来,海水は飲めるという意見があらわれ,1955年リスボンにおける海上人命安全会議で論争が行われ,その後IMCOでも論議されたが,今日まで結論が得られていない。
 反対論のよりどころは,大戦中の漂流による死亡統計である。清水が欠乏して脱水状態におち入ったところ,海水を飲んで死亡している例が多い。これは当然なことである。アラン・ボンバールの主張は,健康な状態で適量を飲めば,海水は「恐怖の水」でなくて「救いの水」になるというのである。
その後わが国の魚船で海水を飲んで命をつないだ例も散見するので,海水飲用が生体に及ぼす影響を実験的に研究することとした。
 実験は伊豆下田須埼港をえらび,被験者2名をぼうちょう式救命筏に乗せ,船舶用救難食料を与え,海水は1日当り300ccずつ3日間飲ませ,第4日は清水300ccを与えた。別にラット5頭を用いた。
 検査項目は,血液の変化,腎機能,心臓機能,消化機能,肝臓機能,眼底検査,心理的変化,筏内の居住環境等で,結果の概要は次の通りである。
@健康である程度の清水を保持している場合,海水を飲むことによって,清水の飲みのばしが可能である。たゞし飲み方については更に検討を要する。
A海水の影響は個体差が大きいと考えられる。したがって,この点を明かにする必要がある。
B海水を飲む場合体力を維持するためには,遭難食の質について検討をする必要がある。
C救命ゴムボートはきわめて複雑な動揺をするので,疲労がはなはだしい。改善の余地がある。
D心理状態を経過を追って調べたところ,精神力が不可欠の要素であり,精神を支える要因について研究をすゝめる必要がある。
 

7.船員の疾病災害に関する統計的研究

                        担当者 西部 徹一,山口 理子
 船員の疾病災害に関する統計的研究を,昭和26年から開始して今日に及んでいる。
 船員の死亡は年々1,300名をこえる。これは10万対で600をこえる高率である。特に高いのが漁船,機帆船々員で700をこえる。これは海難による死亡率が高いためである。
 病類別に死亡原因をみると,新生物,病名不詳,神経系および悠覚器の疾患,循環器系の疾患の順序になっていて,国民一般と同じ傾向を示しているが,病名不詳が2位を占めているところに医療の機会に恵まれない,船員の特徴があらわれている。
 商船における,下船療養者の発生の推移をみると,昭和30年の9.5%を最低に,その後増加をつづけ,昭和39年には20.5%という増加ぶりである。特に昭和36年以後急激に増加しているのは,この頃から押しよせた技術革新の進展,海運経営の再編成,船内作業組織の変更,乗組定員の合理化などとの関係が考えられる。
 労働力の不足が深刻化している今日,傷病による労働の損失は,その影響するところまことに大きいものがある。
 船員の傷病対策は,従来考えられているような,安全管理,衛生管理といった立場をはなれて,労務管理全般,更には生産管理,経営管理に及ぶ全体的な広い立場で考えなければならない。
 

8.船員の体育に関する研究

                        担当者 広田 生,大橋 信夫
 船型の大型化,専用船化,自動化の進展に伴って,船内労働に変容を来たし,船員の体力低下がうれえられるに至った。そこで,船員の体力の増進をはかるための船内体育と,これに伴う体力測定法について研究をすゝめてきた。
(1)船内体育に関する研究
 従来の海上労働に関する研究の経過からも,船内体育の必要性が痛感されていたが,更に788名の船員と,379名の陸上社員を対象にして,実態調査を実施し,この結果に基いて,サーキット体操を考案した。
 サーキット体操は,8種類の体操を,甲板に描いたサーキットに組み入れて行うもので,それぞれの体操は,船内の階段,手すり,バルクへッド等の諸設備を利用できるように考えてある。また誰でも目的に応じて,個人の身体の調子にあわせて調節できるようになっている。それぞれの体繰の種類と運動量については,ハートレート・テレメーターを用いて実験的に決定した。
 その上で大型鉱石専用船を選んで,試験的に実施してみた。実施の始めと,1航海終った50日後の状況を,ハートレート・テレメーターと8m/mフィルムによって比較検討した結果,船内体操として適することを確かめた。
(2)船員の循環機能に関する研究
 船内体育をすゝめるに当って,船員の体力測定が前提条件となる。従来の研究では,形態的な研究が多く,機能的なものが乏しい。
 そこで,船員の体力をまず循環機能の面からとらえることを考え,安座テストを考案した。従来から行われているハーバード・ステップ・テスト法,および深届膝法等を実施してみた結果,負荷の大きさと,測定方法等の面から,船員の場合不適当と考えられたので,安座テストを考えたわけである。
 

9.船員家族の職業意識に関する研究

                              担当者 神田 道子
 本研究は船員家族(妻)が,夫の職業である船員をどう評価しているかを明らかにすることを目的にしている。具体的には,第一は職業評価を,職業のもつ3つの機能である生計の維持,個性の発揮,社会的役割の3側面についての評価である職業観と,船員にいちじるしくみられる職業特性についての評価,船員という職業が影響している家庭生活についての評価の3領域に分けてとらえている。第二は,船員を続けてほしいか,やめてほしいかという職業継続観の把握と,職業評価との関連,第三は,職業継続観と家族生活に強く影響する条件である家族が一諸に生活する日数,別居間隔,賃金との関連について分析している。
 調査対象は外航労務協会,中小外航労務協会,火曜会,−洋会に所属する会社で夫が働いている船員の妻で,858人の調査の結果である。
 調査時期は昭和41年4月〜6月である。
 調査の結果は,T 職業評価のうち,@職業観では安全性,賃金が重要視されているが,安全性にたいする評価は低い。賃金にたいする評価は,職員と部員家族ではことなり,職員家族は評価が高い,A職業特性のうち,家族と−緒にくらす機会が少ない点が,もっとも重要視されており,かつその評価は低い。B家庭生活観は経済状態,子どもの教育が重視されており,家庭の経済状態にたいする評価は高いが,子どもの教育についての評価は低い。
U 職業継続観は,@継続希望(船員を続けてほしい),非継続希望(船員をやめてほしい)は,両グループとも43〜50%程度で,両グループの間に差はみられない。継続希望は,妻の年令が40才代以上の高年令層に多い。A職業継続観と職業評価は関連があり,職業評価の3領域とも,継続希望グループは評価が高い傾向がみられた。
B職業継続観は,家族生活にもっとも影響する条件である,年間家庭生活日数及び方法,別居間隔,賃金によって変化し,これらの条件にたいする希望が実現されると非継続希望は13%内外に減少する。
C転職の機会の有無は職業評価と独立して継続観に影響する。
などが明らかになった。                             
 

10.遠洋まぐろ漁船船員の人間関係に関する研究

                     担当者 岩崎繁野,大木修次,山口理子
 船内における人間関係に関する研究は,従来,商船船員を対象にして実施してきたが,今年からは遠洋まぐろ漁船船員を対象にして研究をすゝめた。
 漁業界においても,近年,労働力の不足が深刻になり,これに伴って,従来の血縁を主とする乗組員の構成に大きな変化を来たしつゝある。このことが,船内の人間関係に影響を及ぼし,引いては漁獲高ならびに海難事故とも関連を生ずるに至っている。
 今年は遠洋まぐろ漁船の基地2港を選んで,検討を加えた。A港は関東地方を中心とする大消費地を控え,漁船船型の大型化,大資本企業の進出,全国的な労働市場,近代的な雇用関係と賃金制度等を背景とする大漁業基地である。
一方B港は土着の個人企業で,労働力は主として県内から供給されさ乗組員は地域的,血縁的つながりが強い。しかし,昨今労働力の不足の影響を受けて,この労働市場の特性が崩壊しつつある。
その結果,船内生活への不適応者が増加し,船内秩序を乱したり,長期航海に耐えられなかったり,傷害事件が発生したりしている。これに対しては,従来行われていた船長および漁労長に任せ放しでなく,経営の面から適切な人事管理が要望される。
 

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