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財団法人海上労働科学研究所
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研究調査の概要昭和42年度1.操船者の知的機能に関する研究
担当者 狩野 広之,鈴木 由紀生
前年度に引きつづいて,「RKP401」(情報処理検査)検査法の研究をつゞけた。船舶の大型化と海上交通量の増大によって,海上交通危険が急増しつゝある今日,操船技術に関する研究がいよいよ急務と思われる。
この研究は,操船技術を一種の情報処理過程としてとらえ,情報量が多量で複雑であること,情報が時間的に変化し,その中から主要な情報を選択し,綜合判断することが多いこと,その過程において,情報の見落し,軽視,忘却,誤解などの可能性があること,系統的情報の他に,予想外の情報が発生し,それを即座に適当に処理する必要があること,などの特性が考えられ,これに対応する検査法を考案したものである。
このような特性を,一つの検査法の中に、完全にモデル化し集約することは,困難な作業であるが,次のような構成によって,ある程度その趣旨を実現したものと考えられる。即ち,呈示される刺激構造を多義的とし,数系統の情報が同時に組み込まれる。被検者に求められるDisplayが時間を追つて変化し,この中から一定の綜合判断を行わしめる。また系統的情報の途中に,特定の指示情報を挿入し,これに対する認知と反応が適当に行われるかどうかを見るようになっている。
本年は,水先人国家試験受験者,海技大学校学生,海運会社陸勤社員を対象として,検査を実施した。結果の要約は次の通りである。
@主系統情報正答率
一般の系列すなわち数が一定の規則性をもって変化する,規則性を認知させる方法で,水先人受検者の40〜54才代のもの,およびその他の対象群のほゞ45%が正答率である。
A副系統情報正答率
Displayの中に呈示される形が,一定の順序で示される,その順序を認知させる。これは対象群によって差が大きい。社員群の正答率がもっとも高く,船長・航海士が61%,機関長,機関士が57%であるのに対し,海技大学校の学生群では,航海科が45%,機関科は38%と低い。
B挿入情報正答率
特殊な指示信号を挿入して,その認知と措置をみる方法である。これも対象群によって差があり,社員群の成績がもっとも良く,船長・航海士群が機関長・機関士群より良好である。
C主副系統情報同時遂行率
一課題系列中に主副の両系統情報を,同時に回答させる方法で,前項同様対象群による差がみとめられる。
D完全遂行率
各項目を完全に遂行したケースの割合をみたもので,前項と同様に対象群によって差がみとめられる。
以上の結果からみて,「RKP401検査法」は,対象群の一般的素質の差を反映しており,挿入情報の正答率,綜合得点成績など,航海士群の特性を検出するに適している。またこの検査法では,年令による成績の差がいちじるしい。
2.船員の一般知能検査法に関する研究
担当者 狩野 広之,鈴木 由紀生
部員の採用に当り,船内作業に適する者を検知する目的で,「SAB(Seamen's
Aptitude test Battery)FormT検査法」を考案した。
この検査法は,先の高級知能検査RK400が主として職員として要求される知能を検査する目的でつくられたものであるのに対して,主として部員に必要とされる知能を検査しようとしてつくられたものである。その構成は次の通りである。
@算数、物理問題・・・・船内作業では算数,物理に関する簡単な知識が必要と考えられる。
A命令検査問題・・・・船内では上司からのオーダーによって,作業または行動が行われることが多く,言語その他のコミュニケーションの正確な理解と,適確な遂行が必要である。
B数系列問題・・・・対象物の関係または事物の変動の態様から,その規則性を認知させるもので,知的機能の代表的側面をとらえるためである。
C図形問題・・・・機械などの対象物を取扱う場合,直観的にメカニズムを理解し,想像または推定する能力をみる。
これを,船員教育機関における学生,生徒792名に実施したが,実用化するためには,なお多くの資料の蓄積による,実証的な検討が必要である。
3.船員の情報処理能力に関する研究
担当者 西岡 昭,森清善行,鈴木 由紀生
今年度は前年度の選択肢の増加に伴う反応時間の変化を追求するという基礎的研究をもとに、これを一歩すゝめて,情報の出現事態のちがいによって,処理能力がどのようになるかについて検討を加えた。具体的には次の点をねらった。
@同じ情報(刺激)がつゞいた場合に,反応はどうなるか。
A同じ情報がつゞいた後の,異った情報に対する反応はどうなるか。
B以上の反応のあらわれ方が,甲板部と機関部のグループで異るかどうか。
方法は前年度実施したT型とH型の反応時間測定方法である。対象は海技大学校の学生である。
結果は次の通りである。
@同じ情報が2度以上くり返されると,情報処理に要する時間はおくれる。
A予測の構えは反応を速くすることも,おそくすることもある。したがって情報の生起の仕方が同じ型でくり返えされる場合には注意が必要である。
B航海士群では同じ情報が2度以上くり返えされた時の,処理に要する時間のおくれは,シーケンス内でほゞ−定であるが,機関士群では,シーケンスの初め頃異常におくれが目立つ。
4.船員のパーソナリティ・テストに関する研究
担当者 狩野 広之,鈴木 由紀生
乗組員が船内生活を営む際にはもちろん操船作業に当っても,パーソナリティが影響を与える面が少なくないと考えられるので,船員向きのパーソナリティ・テスト法として,「SAB
FormU検査法」(Seamen's Aptitude test Battery)を考案した。これはMMPIによって下記の項目にふくまれるものについて,特に作為的反応のおこる可能性が少いと思われる項目のみを選んだ。
@社会的向性・・・・このスケールで得点の高いものは,社交的,活動的である。低い得点のものは,非社交的,孤立的である。
A思考的向性・・・・得点の高いものは,新しい仕事や環境にはやく順応する。現実的で実行型である。得点の低いものは,理くつが多く実行力にとぼしい。
B社会的適応・・・・得点の低いものは,自己中心的でストレスに対する抵抗が弱く,気まぐれで努力をしないタイプである。
C情意安定度・・・・得点の低いものは,強迫観念を基とした特徴,すなわち,自信喪失,将来への不安,健康上,対人などの不安をもつ。
これを,陸上社員,船員教育機関の学生生徒等1,101名に実施した。その結果,社会的向性のスケールを除き,思考的向性,社会的適応,情意安定度等,学生生徒の集団の中では,商船大学の学生がもっとも高い得点を示している。
社会的向性 思考的向性 社会的適応 情意安定度 人員(人)
商船大学 57.7 63.1 62.9
64.1 314
商船高専 45.4 50.4 53.1
50.6 177
海員学校 61.6 48.5 41.4
48.4 297
海技大学校 50.1 54.5 49.0
51.0 233
海運会社陸員 52.3 60.7 67.0
53.7 80
5.海難の心理的要因に関する研究
担当者 狩野 広之,西部 徹一
操船技術の本質と,海難事故に関する主として心理的要因について,手がかりを得るため,経験のふかいパイロットおよび船長に面接した。協力を得たパイロットは6氏,船長は14氏である。得られた結果はほゞ次の通りである。
@予測運航について
行動における予測現象は,行動を規制する基本的原則の一つである。複雑な情報を綜合判断して,意志決定を行う場合,その基調をなすものは,その技能の根底となる知識,経験,その他から形成されるルールである。このルールは複雑な事態をある種の簡単な,集約された情報に転換する機能をもつ。高度な技能の場合は,Semantic なProcessとして存在するものと思われる。操船の場合、このSemanticなProcessが予測運航の形をとるものゝようである。「定跡」で操船すると云われているが,これが「勘」的なものか,理論的,系統的知識の集約化されたものであるかは不明で,検討を要する。
A物象の誤認について
灯台,ブイ,陸影等の物象がしばしば誤認されているが,これは単なる知覚現象としての誤認ではなく,その基調として,予測的なプロセスが存在しているように思われる。すなわち外界の事象は,この予測的判断の影響を受けて,受けとられ取捨選択され速断されることとなる。
B予測の固執,偏向について
予測が外界の状況と合わなくても,修正しないで予測に固執したり,予測が正しいか否かをチェックする精神的余裕がない場合,慣れた航路で漫然と予測航海を行う場合,予測を形或する知識,経験または予め与えられた外部からの情報の一部が,脱落して意識にうかんで来ない場合など,海難にはいろいろなケースがある。
このような事態がおこる基本的条件として,次のようなことが考えられる。
(a)操船は一種の行動的思考で,行動的要因の影響を受け易い。
(b)時間的制約があって,速断を要し,反復試行が困難で,一発勝負である。
(c)操船的のストレス状況,願望などがあって,予測の修正を困難にする。
(d)予測したことまたは当面の事態から,いちじるしくかけ離れたことを思いつくことは,きわめて困難なことである。
(e)操船者の信念,主義などが,長い間に形成されて,これが影響を及ぼす。
(f)操船者のPersonalityが影響を及ぼすことも考えられる。
(g)疲労が操船時の認知,判断に影響していることも考えられる。
C予測の修正について
予測への固執偏向がおこった場合,これを修正する手段としていかなることが考えられるであろうか。
(a)外界の物象はいったん誤認された場合,それ自体として,誤認を修正する機能をもちにくいものと考えられる。
(b)ある種の信号のような,知覚手段は,予測を修正するほど強力な機能をもたない。
(c)操船者の予測を修正し,補なうもっともよい手段は,言語によるコミュニケーションである。
(d)操船者と操船補助者とのコミュニケーションは,パーソナリティと人間関係状況が大きな影響をもつ。
(e)操船者の予測を修正し,援助する方法として,船内のみならず会社・陸上等からの即時的な適切なコミュニケーション手段から考えられる必要がある。
6.超大型船の船橋位置に関する研究
担当者 千原 義男
船舶の超大型化と船尾船橋が一般化の傾向にある。船橋の船体上の位置によって,見張に及ぼす影響は大きく,船舶の安全運航上大きな問題である。そこで現在就航している船舶の現状分析を行うと共に,実船における視野条件の調査,操船担当者の面接などによって,船橋位置の諸問題について人間工学的に検討を行った。
その結果,見張作業の上からみた改善点として,次の諸点が上げられる。
@船橋前面中央からの,前方海面の必要な視野条件を満足する位置に,船橋を設けることが必須である。船首棲構造を全通甲板にすること、舷しようによる盲点を少くすることなど,船首附近の甲板構造を改善することによって,視野条件を良くすることができる。
A船橋の両翼は必ず舷側までめばすこと。更に舷側よりやゝ張り出すようにすることが望ましい。
B船橋の両翼端にかける操船を容易にするため,翼端附近に機関回転計,舵角指示器,汽笛押釦,通信装置などを設ける。
C船橋内からの周囲視野はできる限り広くとること。そのため窓を大きくとること,窓の下縁の高さをなるべく低く100〜150cmに押さえること,船尾方向に対する見通しをよくすることなどが必要である。 D船橋前面の甲板構造物の塗装については,更に検討の余地がある。
E大型化するほど,避航の限界距離が大きくなり,見張作業の重要性が増してくる。その補助手段として,甲板構造物上の目印による見通し船の活用,レーダーによる対象物までの距離の定量的把握が必要となる。そのため,近距離看視用として,テレビジョンカメラ,ミリ波レーダー等の活用が考えられる。
7.漁船の海難事故原因の究明に関する研究
担当者 岩崎 繁野,篠原 陽一,服部 昭
海難原因の究明については,いままで運航安全工学等あるいは海技行政学等の立場から主として技術的状況ないしは法的過失状況という側面が取扱われてきた。そこで,われわれは海難発生にかかわる社会的経済的な背景を中心として,海難事故原因を再検討することとした。その方法としては,海難発生とその原因についての仮設を立てそれにしたがって,既存の海難統計資料による原因分析を行い,さらに特定の漁種および漁港を選定して,実地調査によって海難原因の概括的な把握につとめた。
調査対象として,サケマス流網漁船(釧路港・塩釜港),遠洋底曳網漁船(北転船,塩釜港,釧路港),遠洋マグロ漁船(焼津港,塩釜港)をとりあげ,船主,乗組員,漁業協同組合・海上保安部,海員組合などに聞取り調査を実施した。その結果,漁業経営規模と海難発生とはかなりの相関がみられ,それは漁業の経済構造からくる経営格差に対応している。最近における漁船の大型化と高度設備化は,一面では安全運航に好ましい結果をあたえているが,乗組員の知識技能はそれに適応しているとはみられなかった。しかも,最近における漁場の遠隔化と操業の長期化は,伝統的な操業形態や就労形態に変革を迫るものでありながら,漁船の計画的な運航や保全の管理は確立にいまだ遠く,また船内人間関係について格段の配慮がみられていないむきもみられた。総じていえば,海難原因は乗組員の知識技能あるいはその技術的行為にかかわる直接的原因ばかりに注視せず,広範囲な発生原因に目をむけ,総合的な判断が必要があるということであった。
8.海事労働のシステム研究
担当者 小石泰道,玉井克輔,服部 昭,山岡靖治
昭和35,36年の船舶技術革新が著しい進展を期待されてきた時期において,われわれは船内労働とこれを統括,制御する船舶運航の管理面における問題点を明らかにし,さらに造船技術との関連において再編成に関する技術的側面の研究が必要になるであろうと予測した。
この観点から昭和36年から40年にかけて、外航船7隻ほどの乗船調査を実施してきた。しかしながらこのような試みは,当時としては欧米においてもまだ実施例に乏しく,先駆的なものであっただけに,研究を推進する諸条件が整わず,船内労働の現状分析と問題点の摘出の域に止まった。
これら一連の乗船調査を通じて痛感されたことは,船内の労働システムと投下労働量は船舶動静を通じてダイナミックに変動するものであり,この労働システムの効率化と安定化は単に船舶設備の改善のみでは,達成し得られないものである点であった。船舶はとりもなおさず海運会社というIntegrated Systemの中の一つの現場システムであり,またたとえば入出港の場面にあっては,港湾の物的システムや人的諸活動の中の一つのサブシステムとして投入されるといったような時間的構成システムのサブシステムとしてもとらえ得る。今後コンテナリゼーションやコンピュータ化が進む過程に対処するには,このようなシステム観念とその方法技術の応用のもとに,システムの全体性と相互関連性の中で、対象ワークシステムの最適化を求めていかなければならない。
われわれは,このようなワークシステムの分析・評価・編成に関する技術的研究を目指しており,この場合対象をつぎのように2分しうるであろう。
(1)船舶におけるワークシステム
(2)海運企業と船舶,港湾と船舶,航路と船舶等におけるワークシステム
昭和41,42年度においては,(2)に関する調査研究を一部実施する機会を得た。
(1)海運会社臨港店における組識とシステム
某社横浜,神戸両店の港運課,輸出課,輸入課の業務実態調査を行ない,わが国企業における間接部門効率化の時代的背景の中で,海運会社が,コンテナー化,コンピューター化の時代を迎えるにあたって,要員管理体制を,確率していくための,業務の質量と配分ひいてはオーガナイゼーションの技術的方法を試行し,見透しを得た。
(2)港湾荷役におけるシステム研究
42年度の下期において,横浜港にて港湾荷役のワークシステムについて時間研究的予備調査を実施する機会を得,この面におけるマン・マシン・マテリアル・システム研究の端緒を開いた。
9.港湾労働の労務対策に関する基礎的研究
担当者 久我昌男,小石泰道,玉井克輔,篠原陽一,神田道子
鈴木由紀生,大橋信夫,服部 昭,山岡靖治,広田彌生
港湾における取扱貨物量の増大と港湾労働力のひっ迫の中で,港湾設備の拡充と港湾運送業の近代化が計られようとしている現今,港湾労働における労働科学的研究に着手する意義は少なくない。
われわれは,その手はじめとして横浜港を対象とし,つぎのような予備的調査を実施し,問題の所在と研究方法の検討を行なった。
(1)港湾労働における労務管理の変せん
5社を対象として,雇用,人事,労働条件,福利厚生等の施策と内容の変せんを調査した。
(2)港湾労働の労働負担
荷役作業を分類し,現場における稼働調査,エネルギー消費量の推定,疲労検査から労働負担をみた。
(3)職業定着意識
港湾労働者の職業定着意志を時間的に流入時,現時点に分け,流入時における定着意志成立過程と現時点における職業適応状況を面接法によってとらえ,本調査の計画資料を得た。
10.内航旅客船設備と船員労働に関する研究
担当者 神田 寛,小石泰道,鈴木由紀生,大橋信夫,広田彌生,山岡靖治
船舶の自動化に伴う,船内労働の変化とその対応策については,外航定期船を対象として,研究をすゝめてきたのであるが,昨年度からは,内航旅客船の近代化に伴う,船内労働の変化について研究を開始し,今年度は長崎離島航路,瀬戸内海航路を対象に研究をすゝめた。
作業研究は1分等時間隔のワークサンプリングと,16m/mカメラによるメモ,モーションによって分析をこころみた。労働負担については,生活時間,フリッカー値の測定,生化学的には尿検査,自覚症状,情意生活調査等を実施した。
船橋の集中制御方式は,船長によるワンマン,コントロールを可能にする方向にあるが,系船設備の自動化には,作業全体のシステムを考慮する必要がある。
乗組員の労働時間は長い。労働負担の上からは,特に大きな問題はないが,フェリー,ボートの特性として,生活時間のリズムが乱れること,各港において乗組員が荷役作業にしたがうことなどが検討を要するところである。また新技術の導入に当っては,労使間の信頼感を確保するためのコミュニケーショーンと,乗組員の教育訓練とが重要な課題である。
11.ペルシャ湾航路タンカー船員の生理機能の変化に関する研究
担当者 久我 正男、鈴木 由紀生
酷暑期のペルシャ湾航路タンカー乗組員の生理状態を調査し,健康管理のための資料を得る目的で,乗船調査を実施した。
@生化学的検査と自律神経機能検査
尿検査…尿中ウロビリノーゲン定性検査(エーリッヒアルデヒド法),蛋白検査(スルホサルチル酸法),糖検査(エーランデル氏法),尿水素イオン値,尿煮沸試験,尿沈渣検査
血液検査…全血,血清比重,血清総コレステロール検査 胃液検査…胃液検査(無管法)
自律神経機能検査…アシュネルテスト,呼吸性不整脈テスト,蹲踞テスト
その他…皮下脂肪,体重,血圧測定
結果は次の通りである。
尿検査では各項目とも,往航に比し復航ではいずれも陽性反応者が増加している。
血液検査では往復航の差はみとめられなかった。
胃液検査では低酸,無酸者が機関部,司厨部に多くみられた。
自律神経検査では,45名中21名が陽性反応を示した。
血圧では上膊では特に有意な差がみられなかったが,下腿血圧は復航ではやゝ上昇を示した。
以上から,自律神経機能の面からは,慢性的な船酔の影響が考えられる。また胃液は高温と関連があり,下腿血圧の上昇は運動量と関連があるように思われる。
A心電図および脳波の測定
心電図は東芝製8チャンネル脳波計(ST−2476A)を用い,標準肢誘導T,U,Vを測定した。結果は徐派の者(60b/s以下),不整脈(RR間隔の変動が大きい),Rの低電位(0.5mv以下)を示す者が多くみられた。往復航ではRR間隔の変動が復航に小さくなる以外,特に差がみとめられなかった。
脳波は東芝製8チャンネル脳波計を用い,前頭,頂頭,後頭の三力所から耳朶を不関電極とする単極誘導による測定を行なった。脳波は同時に行った脳波分析(標準脳波分析装置DDA−002A)の積分値について,エネルギー%,変動系数,ピーク周波数,電圧水準を検討した。その結果徐波成分が非常に多く,しかもその傾向は復航になって増大することがみとめられた。これは意識水準の低下を意味する。その原因として考えられるのは,船内生活の無刺激単調さにある。これは極端に単調化された環境における,人間行動を検討した感覚遮断実験の結果と類似している。
12.船員の災害防止に関する研究
担当者 西部 徹一,山口 理子
船員の災害については,昭和26年以来,統計資料と災害報告を中心に検討を加えてきた。下船療養を要する災害の発生率は,当初在籍船員に対して2%前後であったが,少しずつ減少して昭和33年には1.4%まで低下した。ところがその後増加の傾向を示し,昭和36年には2%をこえ,更に昭和39年には3.3%という高率を示すに至った。
新技術の導入とこれに対する教育訓練の不十分,船内作業組織の再編成と定員の合理化に対する不適応現象のあらわれとも見ることができる。しかし,基本的には,船員をとりまく自然環境および作業環境のきびしさ,船内作業の特性である多種少量性,生活環境のきびしさからくる船員の身心の不安定性,船内人間関係からくる孤独と,情緒の不安定性の他,作業研究が行われていないため標準動作の設定がなされていないことなどが,災害を多く発生させている原因として考えられる。
したがって対策としては,きびしい環境をうすめるための,諸設備の人間工学的改善,作業研究による標準動作の設定と,それに基づく安全数育の強化,身心の安定をはかるための健康管理と精神衛生管理等が重要な課題である。
海運経営にあっては,従来海難のかげにかくれて,労働災害の問題が見落されてきた。労働災害と海難とは引きはなすことのできない密接な関連にあること,海難防止のためには,災害防止対策が不可欠であることに留意すべきである。
13.海女の潜水労働に関する研究
担当者 岩崎 繁野,久我 正男
海女は近年新しく就業するものが激減しているので,老齢化の傾向がいちゞるしい。また各地とも観光地化の傾向がつよく,本来の潜水労働に大きな変化をもたらしつゝある。
漁期間中の体重の減少は大きく,漁期の前後でその差9kgに及ぶものさえある。その原因は過労によろことの他,作業時の体位の関係から,摂食量を制限しているためと考えられる。その他栄養摂取については,十分の指導が行われていないことゝ,炊事作業に労力をさくことの難しさが,問題としてのこる。これに対しては共同炊事によって解決できる筈である。
消費エネルギーを測定したところでは,作業そのものは思ったほど重労働ではない。問題は水中での放熱による影響が大きいことである。対策として作業衣の選択と使用方法を改善する必要がある。
尿,血液一般,血圧等の検査結果では,貧血がかなりみとめられる。
14.船員の健康検査法に関する研究
担当者 久我 正男,小原 武文
新しく乗船してくる船員のうち,2〜3%が2〜3年以内に各種の病的愁訴を訴え,下船療養するが,再発して乗下船をくり返えす。
そのほとんどが自律神経機能に異常がみとめられるが,下船すれば自然治癒するのが常である。これは舶員の職業病と云いうるものである。
そこでこの種の下船頻発傾向者を,検出する方法として,次のスクリーニング・テスト法を考案し,新船員の採用に当って実施を試みている。
心理的テストとして,海上労研式SABテスト,およびアメフリテスト,自律神経機能テストとしては,アシュネル・テスト,上半身前屈ならびに後屈,呼吸性不整脈,立臥位血圧,脈拍数の変化等,体力テストとして,肺活量,背筋力,握力等の測定,生化学検査として,尿のウロビリノーグン,糖,蛋白,煮沸沈澱,PH値,比重等の測定,更に心電図を測定し,これらの結果を総合して判定するものである。
船員の職場への適応という面で,この研究の進展は大きく寄与できることを期待している。
15.商船船員における食料消費構造に関する研究
担当者 小石 泰道,矢田貝 美保子
商船船員における,食料消費構造について,昭和41年現在と昭和32年当時との比較,ならびに一般国民における消費構造との比較をこゝろみた。
穀類では精白米の消費が約10年間に20%減少した。1日の消費量は510gとなり,総熱量の53%,総蚤白質の25%を米に依存している。小麦の消費量は34%増加しているが,船員は一般国民に比べて,米の消費量が多く,小麦の消費量が少い。
動物性食品は391gで一般国民に比べて高率である。この10年間にはほゞ横ばい状態で増減がみとめられない。内容をみると,魚介数が減少し,卵,牛乳・乳製品の消費が増加している。しかし,国民一般に比べると,牛乳,乳製品の消費はきわめて低く,わずか34gに過きない。
魚介類は廃棄率の高い鮮魚類が中心で,一般に高級魚の使用率が高いので,栄養銭価が高くついている。干物および缶詰の依存度は低い。
油脂類は22.8gで10年前の16.5gに比べて,かなりの増加である。総熱量の6.3%,総脂肪の58.8%が油脂類によって摂取されている。
野菜についてみると,有色野菜64g,その他の野菜275gで,いずれも10年前より減少傾向を示している。果実類では,昭和32年の125gから,昭利41年の112gへとほゞ90%に減少している。これはりんごの積込減少によるもので,従来のりんご偏重が是正されつゝあるためと思われる。
16.船員の体育に関する研究
担当者 広田 彌生,大橋 信夫
船舶の大型化,専用船化が急速にすゝめられるにつれ,船内体育の必要がいよいよ痛感されるに至った。そこで今年度も引きつづき,船員の体育に関する研究を推進した。
(1)船内体育に関する研究
前年度考案したサーキット体操の普及に努めたが,現場からの声として,くわしい指導が欲しい,音楽が欲しいという希望がつよいので,その対策について検討を加えた。体育活動は特に個人の自覚が大切で,それには自己の体力を知り,船内生活によって体力が低下する事実を正しく認識させる必要がある。
(2)安座テスト
従来行われているハーバード・ステップ・テスト法および深屈膝法を,船員を対象に実施してみたところ,負荷の大きさと安定性,および測定法の点で問題があるので,安座法を考えて,海技大学校の学生を対象に実施した。ハートテレメーターによる心拍数と血圧を測定したところ,年令別,個人別に循環機能の良否が比較的容易に安全に判定できる予想をつけることができた。しかしながら,測定法の簡便化,筋肉系に関する点など,なお充分な検討を要する。
17.船員の家放対策に関する研究
担当者 神田 道子
船員家族の生活に影響する条件として,各社における家族対策の把握が必要とされるが,本研究はその実態をとらえることを目的にしている。
調査対象は海運会社109社,水産会社6社であるが,そのうち69社から調査表が回収された。
調査時期は昭和43年1月〜2月である。
船員と家族対策は,三つの領域に分けることができるが,第一はもっとも基本的な領域で,船員及び家族がお互いにその動静を把握し,実情を知らせるような領域である。第二は,家庭生活の機会をできるだけ増加させる対策を主にした領域,第三は,家庭生活の機全が少ないためにおこる問題にたいする対策を主にした領域である。
第一の領域は,船の動静を家族に知らせること。海事関係紙の配布,社内報や,家族向けに独立した新聞雑誌の発行及び家族むけ送付などで,各社とも実質的効果をあげるよう努力している。
第二の領域は,家族の面会宿泊施設の有無,家族呼びよせ手当の支給,便乗宿泊制度の有無などの実状を調査した。宿泊施設は企業規模の大きい会社ほど備っており,その利用料金も低額である。便乗宿泊,家族呼びよせ手当は各社まちまちであり,具体例を集めている。この便乗宿泊,家族呼びよせ手当については,今後論議されなければならない問題である。
第三の領域は,家族相談,家族の親睦会,懇談会などを実施しているところが多い。家族相談については,相談室を設置して,家族からの相談に積極的に応じている企業が増加しているが,相談室という形をとらなくても,家族からもちこまれた問題には相談に応じている。家族会,家族の懇談会も最近実施している会社が増加している。本調査では各社の具体例を列記している。
そのほか,家族生活に関係のある,注宅貸付金制度,慶弔見舞金制度,貸付金制度などについて,各社で行われている具体例をしめしている。
18.遠洋まぐろ漁船船員の人間関係に関する研究
担当者 岩崎 繁野,大木 修次,山口 理子
前年度に引きつゞき,遠洋まぐろ漁船船員の態度ならびに意見を調査することによって,船内の人間関係をさぐることゝした。
調査方法として,「意見調査」による,モラール水準の推定,「情意生活調査」による,情緒の安定性の測定,「PMリーダーシップ・テスト」による,リーダーシップの実態把握を行った。その結果はほゞ次の通りである。
(1)モラール水準は低い。特に漁労の中心的担い手である,甲板部職員の低モテールが問題である。また内容をみると,経営,上司,同僚に対する態度がネガティブで,経営に対する不信・不満・同僚,上司間の人間関係のまずさが指摘される。
(2)リーダーシップについてみると,甲板部職員の低モラールと上司に対する不信感が背景となって,船内のリーダーシップを不徹底にしている。しかし船内の幹部は,仕事中心的なP機能と,人間関係の調整をはかるM機能とを同時に要求されるわけで,他の職場には見られない困難さがある。
(3)乗組員の多くが転職を希望しており,下船率を高め,労働力の不足に拍車をかけている。
(4)自由記入による要望事項をみると,給与,人事,労働条件,福利厚生等に多くの関心がよせられている。
19.漁家の生活環境に関する研究
担当者 岩崎 繁野
漁家の生活水準および生活環境は,都市のそれに比べて,かなり立ちおくれている現状である。そこで,兵庫県の家島町,島根県の鹿島町御津と島根村加賀,福島県いわき市勿来および久の浜の5カ所をえらんで,実態を調査し生活環境改善のための資料を得ることとした。
漁船の機械化,港湾の施設の改善がなされても,交通の問題が解決されなければ,経済的な向上はあり得ない。
一般に漁業労働が,あまりにも零細化され,細分化されているが,共同化の方向へ持って行くべきであろう。
いずこも若い後継者が得られず,労働不足は婦人労働にしわよせさせられている。更に父親不在がこの傾向を一層つよめている。
婦人がよく働く漁村は栄えている事実は,漁業労働が婦人にしわよせされ,婦人の努力で辛うじて支えられている現実を示すものである。
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