タイトル聖画 七芒星の護符(シリア風彩色)

改版履歴
初版 2002年6月19日(水)

二訂 2002年7月1日(火)

三訂 2002年年7月8日(月)

四訂 2002年7月17日(水)

五訂 2005年1月26日(水) イマームと宗派追加

六訂 2008年5月14日(水) 加筆

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初期シーア派のミトラ神話

慈悲深き慈悲あまねく神の御名において!

In the Name of God, the Compassionate and the Merciful!

ビスミッラーフル、ラフマーニル、ラッヒーム!

天と地の秘儀は神の御手〔みて〕にあり、

万物はみなその御〔み〕もとに還〔かえ〕り行く。

さればこそ、神を崇〔あが〕めるのだ。

さ、確信と希望をこめて、すべてを挙げてただひたすらおすがり申せ。

(『コーラン』フードの章11:123

 

 

ねらい

本論文では、イスラームとの習合した形態に焦点を当て、初期シーア派のミトラ神話を紹介する。第一部序では、イスラームについての最小限の知識を紹介し、第二部、第三部が読めるようにする。第二部では、初期シーアの神話を紹介する。第三部では、イマームについて紹介する。

 

 

目次

ねらい

参考

第一部 序

1.イスラーム

2.初期シーア派

 

第二部 初期シーア派の神話

1.解説

2.ミトラ、アフラ=マズダー、アーリマンの神話T

3.ミトラ、アフラ=マズダー、アーリマンの神話U

4.ミトラ、アフラ=マズダー、アーリマンの神話V

5.ミトラ=マフディーの神話

6.ゲーベルとイェジディー派のミトラ神話

 

第三部 イマーム論

1.イマーム

2.イマームの役割を根拠づける章句 

3.イマームの本性

4.イマームの系譜

5.マフディー

6.マフディー神話 ――七つの化身

7.マフディー神話 お隠れと再臨

8.ミトラ=マフディー=アリーの神話

9.三重のミトラ=キリスト=アリーの神話

 

 

参考

辞書

PDFペルシア神話大辞典

・日本イスラム協会監修『新イスラム事典』平凡社、2002

・黒田壽郎編『イスラーム辞典』東京堂出版、1983

 

初期シーア派のミトラ神話

・東條真人訳注『シークレット・ドクトリンを読む』出帆新社、2001

PDF聖七文字:七大天使の秘密

 

歴史

PDF.東條真人『ミトラ教、折衷宗教ゾロアスター教、ズルワーン教、マズダー教』ミトラ教研究、天使七星教会、PDF

HPミトラ神学1.ミトラ教とカルデア神学

 

学術研究

Halm, Heinz. Shiism, Edinburgh University Press, 1991;ハーム,ハインツ『シーア派』エディンバラ大学出版局、1991

Bar-Asher, Meir M. Scripture and Exegesis in Early Imami Shiism, E. J. Brill, Leiden, 1999;バーアシャー,メイヤーM.『初期イマームシーア派の教典と釈義』ブリル社、1999

Momen, Moojan. An Introduction to Shi'i Islam, Yale University Press, 1985;モメン,ムージャン『シーア派イスラーム入門』イェール大学出版局、1985

・井筒俊彦『イスラーム文化』、岩波文庫、1991p198

 

 

 

第一部 序

 

 

1.イスラーム

概要

イスラームは、マホメットが創始した宗教であり、西暦622年をヒジュラ暦元年とする。聖地はアラビア半島の町メッカである。イスラムあるいはイスラム教などと記されることがあるが、正しい表記はイスラームである。ユダヤ教・キリスト教と同じくセム系神話を基盤とするため、イスラームの神話には、アーダム、イブラヒーム(アブラハム)、イドリース(エノク)、ヌーフ(ノア)、ムーサー(モーゼ)、イーサー(イエス)など、ユダヤ教・キリスト教と共通する人物が登場する。しかし、ユダヤ教やキリスト教とは異なる別系統の伝承、たとえばカーディル*、イブリースの追放*、天にある石の書*、天の帳簿*、ダーウードとスライマーンの裁き*なども流れ込んでいる。

 

*マホメット Muhammad, 570-632。イスラームの創始者。マホメットMahometはトルコ語で、アラビア語ではムハンマドと言う。四〇歳頃に最初の啓示を授かった。

*カーディル Khadir or Khidr。ヒドルとも表記する。カバラに登場する「緑の顔」と呼ばれる永遠の若者のこと。『コーラン』洞窟の章18:58/60-81/82に登場し、モーゼを試す。原形はギルガメシュではないかと言われている。

*イブリースの追放 『コーラン』アル・ヒジュルの章15:26-37。天使七星教会HPの[ハフターン:ミトラの七大天使]のPDF「聖七文字:七大天使の秘密」、および正典『真二宗経』第一部を参照のこと。

*天にある石の書 『コーラン』家畜の章6:59

*天の帳簿 『コーラン』洞窟の章18:47(49)。ガロードマーン(太陽天球層)にあるミトラの閻魔帳のこと。

*ダーウードとスライマーンの裁き ダビデとソロモンのこと。『コーラン』預言者の章21:78、蟻の章27:15-45/44

 

宗派

イスラームには、スンニー派、シーア派、スーパーシーア派(ミール派イスラーム)、スーフィズムの四つがある。通常、シーア派とスーパーシーア派をあわせてシーア派と呼んでいる。スンニー派は、『コーラン』とハディースと呼ばれる伝承集成のみを規範とする。シーア派は、イマーム*による解釈を通して理解・実践する。シーア派には、イスラーム以外の伝統、つまりミトラ教(天使教)が入っている。この入り方の程度により、シーア派とスーパーシーア派に分かれる。スーパーシーア派の中には、イスラームから離脱した宗派もある。バハーイーはその一つである。スーパーシーアがグラート(過激)と言われるのは、武闘派だからではない。自由に他の宗教的伝統を習合することが、保守的なスンニー派から見て過激・急進的な習合に見えることによる。スーフィズムはイスラーム神秘主義のことで、スンニー派系とシーア派系がある。ミトラ教だけでなく、グノーシス派、古代中近東の秘儀、仏教、ヒンドゥー教、ギリシア思想などが集大成されている。ただし、神秘主義なので、イスラーム聖法に関して発言することは、まれである。いろいろなものを集大成しているが、あくまでもイスラーム聖法の枠内にとどまって活動している。

 

*イマーム Imam。第三部参照。

 

 

2.初期シーア派

定義

シーア派*とスーパーシーア派*に分かれる以前のいわば原シーア派を初期シーア派と言う。

 

*シーア派 Shi'a。十二イマーム派のこと。現代イランの国教。ミトラ教(ヤズダン教)とイスラームの習合した宗派だが、スーパーシーア派よりイスラーム色が強い。

 

歴史

ネハーヴァンドの戦い641でササン朝を滅ぼした後、イスラームはウマイア朝661-750を建て、シリアのダマスカスを首都にした。この時期のイスラームは、まだ素朴で複雑な教義を持っていない。預言者マホメットもすでになく、バビロニアのように古い文明を持つ地域の人々の哲学的な高度な質問に答えるすべがなかった。最初、アラブ人は、このような複雑な哲学的議論を無視した。しかし、改宗者が増えるにつれ、高度な宗教的質問が激増した。この傾向は、古代文明の発祥地であるバビロニア(イラク)で特に顕著であった。当時のバビロニアには、まだ古代バビロニアの宗教、東方ミトラ教、ズルワーン教、マズダク教、ユダヤ教、グノーシス教、キリスト教の信者が多くいたからである。そのため、イスラーム教徒の中に、これらの教義に関心を持つ人々が増えた。彼らは、改宗した専門家とともに、いろいろ研究し、主として東方ミトラ教の教義を中心にゾロアスター教的要素を徹底的に排除して、シーア派の基本教義をつくりあげた。これをグルウウghuluwwと言う。グルウウを以下に列挙する。今日の宗教学的な研究によれば、グルウウは、いずれもミトラ教ファミリー*の基本教義である。

 

・イマーマ(ミール)imama

・フルール(神の分霊が人間に宿ること)hulul

・ガイバ(お隠れ)ghayba

・ルジューウ(下生)ruju'

・タシビーフ(神の人間的姿)tashbih

・タフウィード(神の力の伝達)tafwid

・バダー(神の意志の変更)bada

・魂の転生tanasukh

 

これらの教義とそれを形成した人々は、アリーを慕う人々がつくる宗派(イラク南部にいた)と結びついた。これが初期シーア派誕生の瞬間である。これには地理的・歴史的背景がある。もともと、シリアとバビロニアは文化的なライヴァル関係にあった。イスラーム化した直後、一時的にこのライヴァル関係は沈静化したが、ウマイア朝がシリアに拠点を置いたため、シリアの風下に立ったバビロニア(イラク)で再燃した。ウマイア朝は、かねてからシーア派を弾圧していたので、両者は政治的・文化的な圧力で結びついた。最初、この結びつきは不安定であったが、フサインHusaynの殉教により、強固な一枚岩になった。シーア派は、イラク南部を固めると、クルディスタンに集中的に伝教を行った。このとき、シーア派はサビアン星教*と名乗って伝教活動を展開した。⇒モメン『シーア派イスラーム入門』p65-66

シーア派とミトラ教の関係については、さらに天使七星教会HPの項目[ミトラ神学]の「ミトラ教とカルデア神学」第一章も参照のこと。

 

*スーパーシーア派 Super Shi'a。別名をグラートGhulât。ミトラ教(天使教)とイスラームの習合した宗派のこと。七イマーム派/イスマーイール派(パキスタン、カシミール、インド、東アフリカ)、ドルーズ派(レバノン・シリア・イスラエル)、アラウィー派(シリア・トルコ)、ザイード派(イェーメン)、ヤザタ派(クルディスタン)、天真派(クルディスタン)などがいる。すでに消滅した宗派には、カルマット派、ホッラム教、バーバク教などがいる。

*ミトラ教ファミリー HPミトラ神学1.ミトラ教とカルデア神学》の第一章;PDFペルシア神話大辞典』第四部の「グラート」「シーア派」

*サビアン星教 アッサービアas-Sabi'a。サビアン星教と言った場合には、イスマーイール派、ハランのミトラ教、東方ミトラ教、マンダ教をさす。サビアン星教は、『コーラン』2:62でユダヤ教・キリスト教とともに教典の民として認められている。HPミトラ教.神話学3.サービア星教:ミトラ教のもう一つの顔

 

参考

アケメネス朝から始まって、ヘレニズム王朝とササン朝を経て、イスラーム王朝時代にいたるまでの周教史についての、さらに詳しい解説については、PDFペルシア神話大辞典』第四部の「グラート」「シーア派」を参照していただきたい。

 

 

 

第二部 初期シーア派のミトラ神話

 

 

1.解説

誰がつくったか、目的と意義は何か

中世西アジア(八世紀から一三世紀)において成立した初期シーア派の神話である。西アジアには、今も、この神話のバリエーションがあちこちに残っている。初期シーア派*の爆発的な勢力拡大において、この神話は、きわめて大きな役割を果たした。とりわけ、マフディー信仰の確立、ゾロアスター教徒の改宗*に果たした役割は決定的であった。マフディー信仰については、第三部イマーム論でくわしく論じるので、ここでは触れない。

 

*初期シーア派 PDFペルシア神話大辞典』第四部の「グラート」「シーア派」;『シークレット・ドクトリンを読む』補遺U「2シーア派とスーパーシーア派」p299-302

*ゾロアスター教徒の改宗 ⇒第三部のアリーの項

 

起源

マホメットがイスラームを創始したのは、622年、ヒジュラ暦元年のこと。イスラーム軍がゾロアスター教を滅ぼしたのは、642年ニハーワンドの戦いである。以下で紹介する神話が成立したのは、これより一〇〇年ほど後の時代である。

 

内容

正典『真二宗経』『黒の書』讃願二部経に記されている神話とは異なるが、ミトラ教の本質的な考え方と歴史観は保持されている。PDF聖七文字:七大天使の秘密』および『ケウル-ミトラ聖典』の「聖七文字の書」の神話と結びついている。

 

 

2.ミトラ、アフラ=マズダー、アーリマンの神話T

数え切れないほど長い年月の間、人々は唯一なる至高神ミトラを崇めてきた。しかし、ゾロアスター、すなわち「黄金の星」と名乗る者が現れ、風変わりな教えを説き始めた。永遠時間の神ズルワーン*は無限光*をつくりだした。無限光はアフラ=マズダー*を生もうとした。それには火が必要だったので、無限光はミトラの火を使ってしまった。火を失ったミトラは、これでは至高神として天地を治めることができないと言って、しばらくの間身を隠すことにした。アーリマンには、自分が不在の間、最善を尽くしてアフラ=マズダーと戦うように命じ*、悲しむ友たちに向かっては、いつか必ずもどって来ると言ってなぐさめた。かくて、この世は、アーリマンとアフラ=マズダーの二神が死闘を演じる戦場になった。これがゾロアスターの語った教えである。やがて、アフラ=マズダーを崇拝する者たちは、マズダー教徒(ゾロアスター教徒)と名乗るようになった。彼らは、ミトラは二度ともどってこないと言って、アーリマンとミトラの友たちを攻撃した。

しかし、ある日、マズダー教徒に恐るべき災いが降りかかった。アラビアの地にマホメットなる預言者が現れ、聖剣とコーランにより、ただの一撃でマズダー教を打ち滅ぼしたのだ。こうして、ミトラは、帰って来た。ミトラは、時の主*と名乗り、友たちに新しい周期〔ダウル〕が始まったのだと告げ、新しい教えの意義を説き示した。人々は、ミトラの帰還を歓呼の声で迎え、ミトラが下した新しい教えイスラーム(シーア派)にこぞって改宗したのであった。自分たちの誤りに気づいた者たちも、ひそかにミトラの新しい教えに改宗した。かつてマズダー教徒により悪魔視されたアーリマンは、神の第一の天使として、孔雀の羽のような光につつまれて誇らしげに光り輝いている。

まさに、『コーラン』の章句のとおり。神は人々を正しく導き給う。おまえたちは、見たことがないのか、神が影をのばすのを? もしその気におなりになれば、ぴたっと止めて動かなくすることもおできになる。われら{イェッラーミール}は、太陽にその道案内を命じておいた。そうして、こんどは少しずつ、そっとわれらの方にひきもどす。⇒『コーラン』天啓の章47/45-48/46

 

終わり

 

*永遠時間の神ズルワーン イスマーイール派の神話におけるクーニー、つまり母ズルワーンのこと。

*無限光 むげんこう。イスマーイール派の神話におけるカダル、つまり父ズルワーンのこと。

*アフラ=マズダー イスマーイール派の神話における原人アダム(原人オフルミズド)のこと。

*アーリマンには……命じ アフラ=マズダーはミトラの火を持っているが、それは正統な火ではない。そのため、アフラ=マズダーは独善に陥っている。

*時の主 Qa'im az-Zaman。アラビア語。マウラーナーMawlana(わが主の意)と呼ぶこともある。マフディーMahdiのこと。

 

 

3.ミトラ、アフラ=マズダー、アーリマンの神話U

天真*の民は、唯一なる至高神ミトラを崇めていた。至高神ミトラは、自らの内にオフルミズドとアーリマン両方の性質を持っている。善と悪、光と闇、すべてを内に秘めた偉大な神である。天真の民は、ミトラを愛すと同時に畏〔おそ〕れ、神の友として、神のすべてを崇めていた。ところが、ゾロアスター、すなわち「黄金の星」と名乗る者が現れ、新しい教えを説き始めた。周期が満ちたとき、神の内で光と闇が分離し、アフラ=マズダーとアーリマンに分かれてしまった。光は智慧の主、すなわちアフラ=マズダーになり、闇はアーリマンとなった。純粋なる光アフラ=マズダーを崇め、純粋な闇アーリマンを滅ぼせば、神の栄光はさらに高まる。これがゾロアスターの教えであった。かくてゾロアスター教は急速に広まった。しかし、神ミトラは、自分の半分だけ、それも人間にとって都合のよい部分だけをアフラ=マズダーと言う人工的な偶像として崇めることをお許しにならなかった。偉大な神ミトラは、恐ろしい罰を下すことにした。

ある日、ゾロアスター教に、巨大なハンマーのごとき一撃が加えられた。アラビアの地に啓示が下され、イスラームが興り、昇る日の勢いで進軍し、ただの一撃でゾロアスター教を打ち滅ぼしたのだ。神は、アリー*となって地上に現れ、新しい周期〔ダウル〕が始まったことを宣言し、新たな秘儀を創設した。ありがたや、ありがたや、まこと、神のほかに神はない(ラー・イラーハ・イラッラー)。人々はこう言って口々に完全なる真の神を讃え、新しい教え、すなわちイスラーム(シーア派)にこぞって改宗したのであった。

終わり

 

*天真 てんしん。al-Haqq、アラビア語。イスラーム神秘主義における至高神の呼び名。

*アリー ‘Ali b. Abi Talib, 600-661。シーア派初代イマーム。秘儀の創設者なので、特別にアサースと呼ばれる。PDF聖七文字:七大天使の秘密』;PDFペルシア神話大辞典』第四部の「アリー」

 

 

4.ミトラ、アフラ=マズダー、アーリマンの神話V

天真*の民は、唯一なる至高神*ミトラを崇めていた。至高神ミトラは、自らの内にオフルミズドとアーリマン両方の性質を持っている。善と悪、光と闇、すべてを内に秘めた偉大な神である。天真の民は、ミトラを愛すと同時に畏〔おそ〕れ、神の友として、神のすべてを崇めていた。ところが、ゾロアスター、すなわち「黄金の星」と名乗る者が現れ、風変わりな詩歌を歌いはじめた。ゾロアスターは歌った。周期が満ちたとき、神の内で光と闇が分離し、アフラ=マズダーとアーリマンに分かれてしまった。光は智慧の主、すなわちアフラ=マズダーになり、闇はアーリマンとなった。両者は、この世を戦場と定め、すさまじい死闘を始めた。かくて世界と人間の魂は真っ二つに引き裂かれた。偉大な神ミトラがもどるまで、世界も人間も正気にはもどらない。真の平和も繁栄もない・・・。

いつしかゾロアスターの詩歌は幻影*に覆われた。人々の間に愚かな迷信*が広まった。人々は暗い迷信のうちに閉じ込められた。神ミトラは、それを放置しなかった。偉大な神ミトラは、人々を迷信から解放するために、大幻影を討ち破ることにした。

ある日、ゾロアスター教に、巨大なハンマーのごとき一撃が加えられた。アラビアの地に啓示が下され、イスラーム*が興った。イスラームは、昇る日の勢いで進軍し、ただの一撃でゾロアスター教を打ち滅ぼした。人々は、長い悪夢から目覚め、再び真理の太陽*の輝きを見た。

神は、アリー*となって地上に現れ、新しい周期〔ダウル〕が始まったことを宣言し、新たな秘儀*を創設した。ありがたや、ありがたや、まこと、神のほかに神はない(ラー・イラーハ・イラッラー)。人々はこう言って口々に完全なる真の神を讃え、新しい教え、すなわちイスラーム(シーア派)にこぞって改宗したのであった。

現世のいのちなど、ほんの遊びごと。ただつかの間のたわむれにすぎぬ。これ、なんじら、これくらいのこともわからないのか⇒『コーラン』家畜の章6:32

地上のものは、みなはかなく消え、永遠に変らぬは威風堂々たる主の御顔のみ⇒『コーラン』お情けぶかい御神の章55:26-27

言ってやれ、「真理〔まこと〕は来た、虚偽〔いつわり〕は消えた。虚偽は、かならず消え去る定め」⇒『コーラン』夜の旅の章17:83/81

 

終わり

 

*天真 てんしん。ハック。al-Haqq、アラビア語。イスラーム神秘主義における至高神の呼び名。

*至高神 ハーワンドガール。Xâwandgâr、クルド語。ミトラの尊称。

*幻影 マジャージ。majâzi、クルド語、ペルシア語。

*迷信 ホラーファート。khorâfât、ペルシア語。ここではゾロアスター教(正確にはマズダー教)のこと。純粋な善であるアフラ=マズダーがアーリマンを滅ぼせば、世界は平和になると言う誤った考え方のこと。

*イスラーム イスラームは、神が善と悪の両方をつくったと明言している。『コーラン』黎明の章113:1-2には、次のように記してある。「おすがり申す、黎明の主に。その創り給える悪を逃れて」。イスラームはゾロアスター教(マズダー教)の根本教義である二元論**をいっさい認めない。

**ゾロアスター教の根本教義である二元論 ゾロアスター教(マズダー教)においては、@アフラ=マズダーとアーリマンの和解を説くこと、Aアフラ=マズダーがアーリマンを赦すと言う説を唱えること、B両神がより高次の神から生まれた双子であるとみなすこと、この三つは最悪最大の罪である。詳しくは、PDFミトラ教研究『ミトラ教、折衷宗教ゾロアスター教、ズルワーン教、マズダー教』参照。

*真理の太陽 ホレ・ハキーカ。Xor-e Haqîqat、ペルシア語、クルド語。至高神ミトラのこと。

*アリー ‘Alî b. Abi Tâlib, 600-661。シーア派初代イマーム。秘儀の創設者なので、特別にアサースと呼ばれる。PDFペルシア神話大辞典』第四部の「アリー」

*秘儀 バーティニーヤ。Bâtiniyya、アラビア語。字義通りに訳すなら、秘教。

 

 

5.ミトラ=マフディー誕生の神話

中央アジアでは、ゾロアスターが予言した救世主*とはミトラのことだと考えられるようになった。かくて、至高神ミトラは太陽神として、時の終わりに下生する*と言う伝承が生まれた。以下はその伝承である。

周期が満ちたとき、女神アナーヒターは、シースターン地方のハムン湖に隠されていたゾロアスターの精子をつかって、ミトラのために肉体をつくった。ゾロアスターが予言したとおり、ミトラは処女母(女神アナーヒター)から生まれ、人間としてこの世に現れ、救世主(サオシャント)になった。ミトラは六四年間禁欲的で清らかな暮らしをしながら人々を導き、紀元前二〇八年に天界に帰っていった。

処女母は女神アナーヒターではなく、女神マーフであるとするものもある(イラク南部)。女神マーフMahの子をアラビア語では、マフディーMahdîと言う⇒ウォーカー『神話・伝承事典』マフディーの項。この伝承に現れる救世主=マフディーは、ミトラの分霊のことだが、中央アジアのウイグル語で記された東方ミトラ教の文書では「天真の子ミトラ仏*」と呼んでいる。ここに引用した伝承では、下生の時期が西暦紀元前二〇八年になっているが、さまざまな説があり、スーパーシーア派版の一つではアリーの没年(西暦後六六一年)になっている。

 

*時の終わりに下生する シーア派では、最後に現れるイマーム(マフディー)を「時の主」、アラビア語でカーイム・ッザマーンQâ'im az-Zamânと言う。ザマーンは古代ペルシア語のズルワーンが長い年月のうちに音訛したもので、現代ペルシア語で「時」を意味する。マフディーは、アリーの再臨であると言われている。時の主は、ミトラをさす尊称である。ヘレニズム時代においては、ギリシア語でアイオーンの主と呼んだこともある。非常に長い伝統をもつ。

 

*救世主 Saoshyant。ペルシア語。ヘブライ語のメシアのこと。ペルシア語の方言では、ミトラをミシャMishaと呼ぶ(ボイス『ゾロアスター教史U』p15)。このミシャが、アラム語のメシアMeshia、ヘブライ語のメシアMessiahの語源であるとする説がある。

*天真の子ミトラ仏 tängri oghlï Mitra burxan。ウイグル=トルコ語で、テングリ・オグリ・ミトラ・ブルハンと読む。テングリ・オグリは天真の子つまり天童、ミトラ・ブルハンはミトラ仏あるいは弥勒仏のことなので、字義通りに訳すと天真の子ミトラ仏、漢訳して天童弥勒仏になる。

 

 

6.ゲーベルとイェジディー派のミトラ神話

PDF近代エソテリシズム概論の2』第五部の「1.ブラヴァツキーのイラン理解」の「ゲーベルとイェジディー派のミトラ神話」

 

 

 


第三部 イマーム論

 

 

1.イマーム

定義

イマームImamとは、ミールMir(弥勒転世)のことである。イスラームでは、イマームはマホメットの子孫の中から現れるとされているので、サイイドSayyidとも言う(サイイドはマホメットの子孫をさす尊称である)。以上は、シーア派・スーパーシーア派の用法である。これに対し、スンニー派は、イマームを集団礼拝の指導者と言う意味にとり、上記のような特別な存在とはみなさない。

ある周期の中で最初に現れるイマームをアサースAsasと言う。アサースは、秘儀を体系化する。普通は、アリーをさす。シーア派におけるアリーは、太陽神の美点のすべてを備えている。

最後に現れるイマームを「時の主」、アラビア語でカーイム・ッザマーンQa'im az-Zamanと言う。ザマーンは古代ペルシア語のズルワーンが長い年月のうちに音訛したもので、現代ペルシア語で「時」を意味する。最後に現れるイマームは、アリーの再臨であると言われている。ズルワーンの主は、ミトラをさす尊称である。ヘレニズム時代においては、ギリシア語でアイオーンの主と呼んだこともある。非常に長い伝統をもつ尊称である。

 

権限

イマームの有する役割・権限のことを、ペルシア語でイマーマImamah、英語でイマーマトthe Imamateと言う。

 

備考

西アジアがイスラーム化した後(710年以降)は、バビロンにいた東方ミトラ教の教長もイマームと称した⇒タルデュー『マニ教』マニ以後のマニ教の年譜ix

 

 

2.イマームの役割を根拠づける章句

神は、イマーム(ミール)をとおして人々を導いている。シーア派では、次の章句をもって、その証しとする。

 

願わくば、{イマームをとおして、}われらを導き、正しい道をたどらせたまえ。⇒『コーラン』開闢の章1:5

 

大地は{イマーム、すなわち}主の御光に照らされて煌々と光輝く。⇒『コーラン』群れなす人々の章39:69

  汝らの伴侶は、神、使徒(マホメット)、そして{代々のイマームたち、すなわち}正しい信仰をいだき、礼拝を欠かさず行い、定められた喜捨をこころよく出し、熱心にひざまずく者たちをおいて他にない。⇒『コーラン』食卓の章5:60/55

 

これ汝ら、信徒たちよ、神、使徒(マホメット)、そして{代々のイマームたち、すなわち}汝らの中で特に権威ある地位ある人々に従うがよい。⇒『コーラン』女の章4:62/59

 

 {}内をここに記したとおりに補って読むのが、シーア派流の読み方(釈義)であり、イマーム・バーキルの時代に確立されている。これは、以下の引用においても同様である。

 

 

3.イマームの本性

イマームは、神の分霊である。それゆえ、天地創造に先立って、光anwar、影azilla、光の像ashbah nurとして存在していた。ここで言う「影」は通常の意味の影ではなく、光の像、すなわち神の分霊、あるいは化身を意味している。シーア派の伝統では、これを『ヨハネによる福音書』冒頭1:1-5に登場する「言葉」*と同一視する。イマームがいる世界を、「光の粒子の世界」'alam al-dharrと言う。シーア派の釈義書『七と影の書*』は、「神は、水と大地と栄光の玉座を創造する前に影(光の像)をおつくりになった」と言い、以上述べたことの根拠として下記の『コーラン』章句を引用している。

 

おまえたちは、見たことがないのか、神が影をのばすのを? もしその気におなりになれば、ぴたっと止めて動かなくすることもおできになる。われら{イェッラーミール}は、太陽にその道案内を命じておいた。そうして、こんどは少しずつ、そっとわれらの方にひきもどす。⇒『コーラン』天啓の章47/45-48/46

 

神は、イマームが宿ることになる人間を前もって定めている。この根拠とされているのは、次の章句である。

 

  {マホメットよ、}それからまた、思い出してみるがよい。主がアダムの子孫からつぎつぎと{イマームとなる}種子をとりだして、彼ら自身に自分自身について証言させたことがあったことを。「このわたしこそ汝らの主ではないか」。すると一同が「はい、そのとおり確かに間違いありません」と言った。⇒『コーラン』胸壁の章7:171/172

 

*『ヨハネによる福音書』冒頭に登場する「言葉」 初めに言葉があった。言葉は神とともにあった。この言葉は、初めに神と共にあった。万物は言葉によって成った。ギリシア語ではロゴスと言う。ヘレニズム時代のマグサイオイ文書によれば、ミトラ教は、この言葉をミトラの名とし、聖七文字ミースラスΜΕΙΘΡΑΣで表している。

*七と影の書 Kitab al-haft wa l-azilla。アル-ムファッダルAl-Mufaddal b. 'Umar al-Ju'fiによる。

 

 

4.イマームの系譜

イマームの系譜は、七イマーム派と十二イマーム派で異なる。七イマーム派は、パキスタン、インド、イェーメン、シリア、東アフリカにいる。十二イマーム派は、七イマーム派の分枝で、現代イランの国教である。

 

七イマーム派(イスマーイール派)

第七代イマームのアル-ムクトゥームが時の主、すなわちカーイム・ッザマーンQa'im al-Zaman。ヘレニズム時代の言葉で言うなら、「アイオーンの主」である。なお、ジャファルの子イスマーイールは夭折したので、没年がジャファルより早くなっている。

 

表 七イマーム派のイマーム

名前

英語表記

没年(ヒジュラ暦/西暦)

アリー

‘Alî b. Abî Tâlib

40/661

ハサン

al-Hasan

49/669

フセイン

al-Husayn

61/680

アービディーン