オーディオケーブルの基礎知識

(オーディオケーブルを正しく理解するために)

ケーブルを替えると音が変わると叫ばれ始めて、早や4半世紀が過ぎています。現在では、ケーブルについての関心がこれまでにないほど高まっています。セットメーカーやケーブルメーカーから数多くのケーブルが売り出され、オーディオ誌には毎月、必ず関係記事や広告が見受けられます。こうした状況の中でオーディオ愛好者は、ケーブルを取替えたり、聞き比べたり、それぞれ、自分なりに何らかの形で気を遣っているのではないでしょうか。今ではケーブルにより音が変わることは誰も疑いませんが、残念ながらまだ議論の主体は導体材質であり、純度であります。この議論の中には、測定不能で品質保証の出来ないような数値が出て来たり、ケーブル伝送理論からすると在り得ない伝送速度論があったり、愛好者は知らずにまがい物を手にしてしまっている事態も発生しているようです。ケーブルを取替える前に、まず正しい知識・情報を確保するのが先決です。当「オーディオケーブルの基礎知識」では、ケーブル構成材の役割と音質の基礎的な関わりを説明しています。オーディオ愛好者がケーブル選択の入り口として役に立てて頂ければ幸いです。

オーディシステムに使われるケーブルには、次の3種類があります。

@    機器へ電源供給する電源ケーブル
A    微弱信号を伝送するオーディオケーブル
B   
スピーカーを駆動するスピーカーケーブル

ケーブルによる音質は、次の3つの要素が複雑に絡み合って決まっています

1)           導体の材質
2)           絶縁体の材質
3)           ケーブルの構造

 別の項で詳しい説明を致しますが、ケーブルは周波数が上がって行くに従って、減衰量
Loss)も上昇しますので、電気回路や電子機器の知識のある方は、ケーブルを低域濾波器
(Low Pass Filter)として解釈する事も出来ます。但し、どのケーブルも同じ特性を持った低域濾波器かというと、導体のサイズ、絶縁体・シースの誘電特性、ケーブル構造、結線方法に因って、濾波器(フィルター)の特性が変わるので、音が変わってしまうと考えることが出来ます。この様に考えると、ケーブルもオーディオ機器の1つと見ることが出来ます。



1、導体
1)導体の材質
TPC(Tough Pitch Copper)タフピッチ
 通常、電線用に使われる電気用軟銅線は、ほとんどタフピッチ銅です。電気分解された電気銅はいったん溶解して、電線をつくるために好ましい形状に冷却、線引きを繰り返し、電線用導体となります。タフピッチ銅は大気中で溶解、冷却が行われるために、酸素を300〜500ppm程度含みます。この酸素は銅線の強度アップ(Tough)に役立っています。

OFC(Oxygen Free Copper)無酸素銅
 酸素を遮断して製造された銅で酸素含有量は極めて少なく(通常10ppm以下)、導電率はタフピッチ銅に比べて0.5〜2%程度高くなっています。高純度銅の中で最大の不純物である酸素の含有が少ないので真空管や水素溶接する用途に主として、又、海底ケーブルのように高い信頼性が必要な用途に使われて来ました。AVケーブルにも多く使用されています。

PCOCC(Pure Copper by Ohno Continuous Casting process )
一方向性結晶無酸素銅

 千葉工業大学、大野教授考案による加熱鋳型式連続鋳造=OCC法で製造された画期的な導体です。鋳型を加熱して鋳造されるため単結晶状の銅線を得ることができます。母材として高純度無酸素銅を使用しているために不純物が極めて少なく、また実用上用いられる長さでの結晶粒数は1個、即ち信号伝送方向を横切るような結晶粒界は存在しないため、極めて低歪率で信号伝送ロスが少ない特徴をもっています。

 OFCは高純度化が進み、現在では純度99.99999%(Nineが7つあるので7Nといわれます)のものまで現れています。しかし、TPCからOFCへ移行が不純物である酸素の除去を主としたのに対し、この純度追及では酸素や水素等のガス不純物をカウントせず、他の不純物を少なくして高純度化している点が異なります。導体材質の改善の流れは、巨大結晶化と高純度化です。つまり、7N−PCOCCの銅線が安価に出来れば最高ということになります



















































2)導体の構成
 ケーブルには、その用途により導体に単線を使用する場合と撚線を使用する場合があります。撚線には次の3種の撚り方があり、それぞれ特徴があります。

@    集合撚線
 撚線の素線すべてを一緒に同方向に撚る方法で、電源ケーブルや安価なスピーカーシステムに付属した平行2心ケーブルの多くは集合撚線です。この方法では撚線導体の断面はきれいな円形とならず、このような撚線を信号伝送に使うと、電線の特性インピーダンス等が電線の長手方向に対して変動するので、信号の反射等が起こり、音質劣化の原因になります。

A    同心撚線
 撚線導体は複数の層で構成され、各層の外接円の中心が導体の中心と一致するように撚ったものです。素線本数が多く幾層にもなる場合には、隣り合う層を逆方向に撚るのが普通です。外力による導体のつぶれも少なく、信号導体に適しています。また、導体の位置関係が長手方向に均一なので、ケーブルの電気特性を安定させることができます。

B   
ロープ撚線
 集合撚りしたユニットを、又は同心撚りしたユニットをさらに同心撚りした構造で、多くの素線を撚り合せた撚線です。可撓性の要求のある産業ロボット用やスピーカー用ケーブル等に使用されています。




















3)導体のさまざまな性質
@ 導体抵抗
 導体抵抗の大小は信号の減衰と直接関係するため、ケーブルの選択には充分考慮する必要があります。とくにスピーカーケーブルでは導体抵抗が大きいと、ダンピングファクターを低下させる原因となります。直流導体抵抗は、使用する導体材料の導電率と断面積によって決まります。交流(とくに高周波)が流れる場合には表皮効果、近接効果、渦電流損等によって導体抵抗(交流導体抵抗)は上昇します。

A 表皮効果
 導体を流れる電流は周波数が上がるにつれて導体の表面に集まろうとする性質があます。これは高周波の電磁波は金属中に深くはいり込めない為とか、導体内部の電流の反作用と説明されています。電流が導体表面に集まって導体の中心部に電流が流れないと、結果として導体の有効断面積が小さくなって導体抵抗が増加し、減衰量が大となり、音質劣化を引き起こすことになります。
 表皮効果を減少させるために考え出された一つの方法がリッツ線で、撚線の各素線を絶縁(通常ポリウレタン焼付)して導体の表面積を大きくしています。
 又、古河電工が提案した「TRIUMPH構造」の様に表皮効果を逆手にとり特徴ある音質造りをする試みもあります。

B 近接効果
導体が隣り合って置かれ、それぞれに電流が流れていると、電流の方向が同一の場合には互いに電流は離れて、電流の方向が逆の場合には互いに近づいて流れる性質があります。このように電流の流れが不均一になると導体抵抗は大きくなります。













































 上の図のように太い導体(導体抵抗が小さい)ほど低い周波数で表皮効果等の影響が出ます。





2、絶縁体
1)絶縁材の種類と環境対応
 従来、電子機器用電線、ケーブル用にはPVC(ポリ塩化ビニール)が多く使用されてきました。ところが、世界的な環境問題の動き、法規制に呼応して、電線、ケーブル用材料のハロゲンフリー化が進められています。ハロゲンフリー材料としてはPE(ポリエチレン)やPP(ポリプロピレン)に非ハロゲン系難燃剤を加えたものが実用化されています。現状ではハロゲンフリー材料は従来の柔軟性PVCに比べると、若干硬く、傷つき易い等の欠点がありますが、下記のようにリサイクル、廃棄面で大きな差がありますのでハロゲンフリー化は避けられない動きです。
ハロゲンフリー材料では保管/使用環境によっては色がピンク色や黄色に変化する現象がありますので、ケーブル設計時の色の選択に注意が必要です。ピンキング現象

・PVC電線とハロゲンフリー電線の比較

リサイクル利用

ハロゲンフリー電線

PVC電線

マテリアル
   リサイクル

・可能
PE,PP樹脂等のオレフィンと混ざっても混合利用可能

・単独では可能
・PP樹脂等のオレフィンと混ざった場合、分別処理が必要であるが、品位の低下が免れられない

サーマルリサイクル

ケミカルリサイクル

・可能

・一般的には不可能
(一部可能な技術も実用化検討中)
・分別除去や脱塩素処理が必要

廃棄処理

・焼却処理が可能・たとえ埋め立てても無害で安全

・焼却処理は塩素ガスが設備に負荷を与える
・埋め立て処理においても擬似環境ホルモンの溶出が心配




2)絶縁材の電気的特性
 絶縁材には、ケーブルを設計する上で重要な4つの電気的特性があります。体積固有抵抗は直流に対して単位体積当たりの抵抗で絶縁性能をしましています。絶縁耐力は材料に電圧を加えていったとき絶縁破壊する電圧です。信号伝送用ケーブルにとっては比誘電率と誘電正接が重要です。これらは交流信号が絶縁体で受ける損失量の目安になります。


@ 比誘電率
 ケーブルの設計において、比誘電率は最も重要な特性の一つです。比誘電率は、例えば並行板コンデンサにおいて真空の場合の静電容量をCoとし、絶縁物をはさんだときの静電容量をCとすると、その比で定義されます。

          Es=(C/Co)

別の言い方をすれば、真空(Es=I)に対してどの程度の分極が発生するか、その大小ということができます。絶縁材料によっては(例えばPVC)比誘電率が周波数によって変動するものもあり、また比誘電率の大小は信号の伝わる速さに影響するので、値が大きく、周波数によって変動のある材料を使用するのは好ましくありません。



3、ケーブルの構造
 音やデーター信号を伝える為にはケーブルの構造を決めなければなりません。まず、伝える信号に適したケーブル構造の選択と、静電容量や特性インピーダンス、シールドの必要性等を考慮して、低域濾波器であるケーブルの設計が完成します。ここでは主な要素について簡単に説明を加えます。詳しくは各要素の説明の項を参照してください。

@ 静電容量
 ケーブルの静電容量は2つの導体の位置と絶縁体の比誘電率によって決まります。音声周波数程度では導体抵抗とともに静電容量の大小がケーブルの減衰量を決定する大きな要素です。静電容量が小さくの周波性特性が一定であることは音質劣化を防ぐのに重要です。
 ポリ塩化ビニル(PVC)の様に低周波域で比誘電率が上昇する材料を絶縁体やシースに使用すると、左図の如く低周波域で静電容量が上昇し、その結果、低音域の音が出づらくなります。この改善の為、古河電工では、静電容量を一定にした構造を「EVENCAP」と称し、低音域を改善したケーブルの商品化をしていました。
























A 特性インピーダンス
 デジタル信号やビデオ信号のような高周波、またはパルスの伝送には、機器とケーブルの特性インピーダンスをマッチングさせる必要があります。マッチングしていなければ、接続点において信号の一部に反射が起こるため、結果的にきれいに信号が伝わらなくなります。パルスでは立ち上がりや立下りの波形に、なまりが生じたり、波形がゆらいだりします。このためエラーが発生、音質劣化の原因となります。

























 上記の如く、特性インピーダンスは低周波域では大きく、周波数の上昇と共に低下、100kHz程度以上ではほぼ一定な値になります。



B シールド効果
 外界のノイズからケーブルを伝わる信号を保護するために、ケーブルにはシールドが施されます。シールドには電界に対するものと磁界に対するものと2種類あります。電界に対しは導電率の良い金属体、例えば銅線やアルミニュウム箔等を施すことによって、必要なシールド効果を得ることができます。シールド効果は、シールド部分の抵抗値に反比例するので、より良好なシールド効果を得たい時にはシールド部の抵抗を低くする必要があります。また磁界に対しては、鉄等の磁性体をケーブルの上に施す必要がありますが、ケーブルが太く、硬くなるためにオーディオ用ケーブルは、ほとんどこのような構造のものはありません。一般にケーブル線心を撚合わせると、磁界に対して打消効果を期待できます。ケーブルの技術者はこれを磁気シールドとは言いませんが、大きな効果を期待できます。LAN用のCat.5ケーブル等はこの打消し効果を最大限に活用しています。加銅鉄平先生のレポートへ
 シールドを施すとノイズが入らないと考えるのは早計で、音声帯域でのシールド効果は低く、又、シールド部に外からノイズが流れ込み、これが原因でノイズが発生する場合があります。更に、シールドを施すことの弊害は信号を伝送する線心間の静電容量が大きくなるので、ケーブルの減衰量が増えることにあります。減衰量が増加することは音質の劣化に結び付きますので、シールドが必要でない回路に施すのは音質向上にはむしろマイナスです。



C ケーブルの使い分け方;平衡型と不平衡型ケーブハイパーバランス)
 ケーブルは、構造と結線方法によって平衡(バランス)型と不平衡(アンバランス)型に分類できます。平衡型は往復線路を構成する導体が等しい構造をしており、電気的にも大地(接続電位)に対して等しい関係にあるものです。対型ケーブルがその代表です。
不平衡型は往復する線路が構造および電気的に同一条件に無いもので、同軸ケーブルがその代表的なものです。

































       ハイパーバランス結線方法




D 信号にも平衡型と不平衡型
 ケーブル同様オーディオ機器で取り扱われる種々の信号も平衡型と不平衡型に分けられます。カートリッジやマイクロフホン等のコイルや圧電素子に発生する電圧は電磁気学的には歪波交流と称される平衡型信号です。またCD等で利用されるパルス信号は、本来、接地電位(0V)を基準に信号伝送するので不平衡型信号といえます。
 そこで信号を効率よく伝送するには、信号のタイプとケーブルのタイプを合わせるのが良いことです。アナログ信号には平衡型ケーブル、デジタル信号には不平衡型ケーブルが好ましいのです。しかし、これはRCAピンジャックの同軸構造に由来していると思われますが、オーディオケーブルはかつて同軸ケーブルが主流でした。この改善の提案として、古河電工ではアナログ用オーディオケーブルとして「ハイパーバランス」というケーブルの使用方法を提唱してきました。
 この様にアナログ信号とデジタル信号とではケーブルを使い分ける必要があります。また、デジタル信号及びビデオ信号用には特性インピーダンスを75Ωに合わせた同軸ケーブルが必要です。



リスニングルームでのケーブルの取り扱い方

オーディオケーブルは、その取り扱い方によって、優れた音質特性を損なったり、機器に悪影響を及ぼしたりすることが考えられます。配線時には、次のような事項を充分配慮してください。

@)巻いたり、束ねたり、結んだりしない。
A)必要以上に長くしない。
B)極端に曲げない。
C) 電源ケーブルと離して配線する
D)鉄製の機材などに近づけない。
E)片端をオープンにしない。
F)不要なケーブルは取り外す。
G)安易にケーブルをジョイントしない。