課題1、ケーブルを替えると音が変わる
誰もが抱くこの疑問・・・
私の持論は「ケーブルを替えれば必ず音は変わる!」です。
それには下記の様に立派な技術的背景があるのです。
ただ、音が変わるのであって、良くなる保証はありません。
”巷では高級なケーブルで、高級なオーディオセットでないと音の差は分からない”
との指摘もありますが、どんなケーブルでも、高価なオーディオセットでなくとも
音の変化の確認が出来ます。ただ、私の経験では、試聴会等をすると、
”どんなに差があっても同じだ” と主張する方が世の中に20%程度いらっしゃるのも事実です。
音楽への係わり、拘りによって、「ケーブルなんかで音は変わらない」と
おっしゃる方が居ても仕方の無い事でしょう・・
音を良くする工夫は世にあまた述べられていますが、明らかに理に適わない物や、
謳い文句と違った材質が使われていたり、紆余曲折も多く、正しく評価する目を養う必要があります。
では、最初にケーブル理論をちょっと紐解く事から始めましょう。
下図がケーブルの電気的等価回路です。ここでは仮に長さ1mとしましょう。
きちんと製造されたケーブルはどこを切っても同じ顔をした金太郎飴と同じですので、
Amのケーブルはこの図をA個横に並べて接続した物になります。
(専門的には4端子回路の直列接続です。)
ケーブルを伝搬する信号の波長(波長に関しては後で詳しく述べます)に対して、ケーブルの長さが
充分短い場合には、この回路は通常の電子基板の如く、集中定数回路
(回路素子の抵抗やコンデンサーと同じ様に)として扱う事が出来ます。
(電話ケーブルや送電線のように長い距離に使用されると、伝送する信号の波長より
ケーブル長が長くなる為、分布定数回路として扱いますが、オーディオケーブルの場合には、
ケーブル長が充分短いので、上記したように電子回路部品として扱う事が出来ます。)

R;導体抵抗;
信号を伝送する往復の導体の抵抗です。
L;インダクタンス;
導体の持っているインダクタンスです。
C;静電容量;
導体間の絶縁物からなる静電容量です。
G;漏洩量;
絶縁体中をもれて流れる漏洩量です。
(短いケーブルではほとんどゼロです。)
ケーブルはあたかも電流を流すパイプの如くの形状ですから、電子回路とは考えにくいのですが、
例えばスピーカーケーブルを例にとれば、アンプとスピーカーとの間にこの様な回路が入っている
わけです。上記したR,L,G,Cの値はケーブル毎違いますので、ケーブルを替えるとは、
アンプとスピーカー間に入れた回路を替えた事に他ならない⇒即ち、音は変わって当たり前です。
じっくりこの回路を見てみると
電気回路を扱ったことのある方はこの回路を見てすぐ気付く事と思いますが、LとCに着目すると、
定K型低域濾波器の回路と同じです。ケーブルは周波数が高くなるに従い減衰量が大きくなり、
信号が伝わり難くなる訳です。 (詳細は ⇒2技術各論 ⇒低域濾波器 参照)
即ち、ケーブルの減衰量の周波数特性が濾波器の特性と言う事に成ります。
一例として、下図が各種電話ケーブルの減衰量を比較したものです。
全体を見て、非常に特徴的なのが図の領域(U)です。 明らかに変極点があります。
この領域は導体に表皮効果の影響が顕著となる領域と一致します。 又。ケーブルの品種によって、
減衰量の形が変わっているのがお分かり頂けると思います。(詳細は ⇒2技術各論⇒表皮効果 参照)
即ち、ケーブルを替えると、回路定数が変わり、濾波器の特性が変わり、結果として音が変わる事に
成ります。
しかし、ケーブルの特性は下図の如く、狭い周波数域でピークを持つような物ではありません。
ケーブルを高解像度のタイプに替えた際に、狭い帯域で違和感等の問題が出た時には、
”AV機器自体が持っている問題点が露呈した”との見方も持っていることが必要です。
ケーブルはアクセサリーとして分類されていますが、ここで述べている様に、立派な構成要素です。

具体的に、SP−6Pと2muスピーカーケーブルの特性例を下記に示しますします。

目敏い方は減衰量の値を見て、この様な小さな値では音は変わる事は無いと主張します。
確かにごもっともな話ですが、この特性はケーブルを単体で見た場合、即ち、(ちょっと難しくなりますが)
ケーブルの両端をケーブルの特性インピーダンスと同じ抵抗で終端した場合の特性である事を
理解しておく必要があります。
実際のケーブルはパワーアンプとスピーカーに挟まれているわけで、この場合には以下で述べます
挿入伝送量を求める必要があります。
アンプの特性を表す指標にダンピング・ファクター(DF)があります。
詳細は加銅鉄平先生のHPのQ&Aコーナーに解説がされていますのでご参照ください。
(⇒加銅鉄平先生のHP;Q&Aコーナー)
DFはスピーカーが振動して発生した逆起電力を減衰させる能力で、
スピーカーのインピーダンスを;Zsp、 アンプの出力インピーダンスを;Zampとすると
DF=Zsp/Zamp
で示されます。私の使用しているアンプの仕様欄には; DF=100 (Zsp=8Ω、 20〜20kHz)
と記されています。上の式を使って”Zamp”を求めてみると; Zamp=80mΩ となります。
上記2mu導体スピーカーケーブルの導体抵抗は1kHzでは17mΩ/m・ループ
(導体長は往復線路になりますのでケーブル長の2倍となります)ですが
20kHzでは表皮効果の影響で22mΩ/m・ループ になります。
スピーカーの端子からアンプ側をスピーカーケーブルも含めて見ると、
仮にスピーカーケーブルを長さ5mで使用したとすると;
1kHzでは DF=8/(0.08+0.017x5)=48.5
20kHzでは DF=8/(0.08+0.022x5)=42.1
と変わります。この様に表皮効果はDFの値も変えてしまうわけですが、DF自体は低音域で
問題でしょうから大きな問題ではないかもしれませんが、いずれにしても変化をもたらします。
上記は導体抵抗の変化でどの様な変化が出るかを見た訳ですが、
ケーブルは冒頭に示した等価回路の4端子回路網ですから他の要素も入れると複雑です。
減衰量のカーブにはこれら全ての要素が入っていますので、この減衰量のカーブの様子をみて、
音質との絡みを検討するのが有効な手段と私は考えています。
上記したように、表皮効果が導体に発現する周波数帯で減衰量のカーブは変極点を持ちますから、
減衰量のカーブを両対数グラフで描いたとき、音声帯域全域で、傾き1/2となっていると、
素直な音質が得られると考えられます。
ZampやZspの周波数特性データーが詳細に開示されている場合には、
ケーブルはアンプとスピーカー間に挿入された回路として、挿入伝送量という電気回路理論を
適用すると詳しい解析が出来ます。これを理解するにはかなり電気的知識が必要ですが、
ZampやZspの少ない情報の中で挿入伝送量の計算を上記2つのケーブルで比較してみました。
⇔ 挿入伝送量による解析
この解析結果から次のようなことが分かります;
@ 導体に表皮効果の影響が発現する周波数以上ではケーブルの挿入減衰量は増加する。
A @の現象はケーブルを低域濾波器と解釈できる。
B ケーブルの挿入減衰量はスピーカーシステムのインピーダンス特性の影響を受ける。
即ち、スピーカーシステムによってケーブルによる音質は違う評価となる場合がある。
この様にケーブルをオーディオシステムの一要素として解析してみると、ケーブル単体では分からない
音を変える色々な要素が分かってきます。
AV機器の設計者のお力を借りて更に歩を進めたいと考えています。
音楽信号とは;20Hz〜100kHz
人の耳は正弦波で20Hzから20kHz程度の音が聞こえると言われています。
音楽の波形は正弦波ではなく、色々な音色、即ち波形を持っている歪波交流信号です。
人の耳は波形の違いを音色の違いと判断しているので、この歪波交流をフーリエ変換してみれば、
その高調波成分は100kHz程度まで在るのではないかと私は考えています。
とすると、アナログオーディオケーブルは20Hzから100kHz、何と4桁の帯域を使っている訳です。
汎用のケーブルで4桁の帯域を使用するものはまずありません。LANケーブルでもせいぜい2桁でしょう。
音楽は単一の信号ではありませんので、この帯域全体のバランスで音を聴いていることになります。
ケーブルで音が変わらないと主張している方の中にはある1点の周波数で測定した結果に大差が無い
事を理由に、ケーブルを替えても音は変わらないとの論旨を展開をされている方が居られますが、
上記した減衰量の周波数特性のように20Hzから100kHz程度までの周波数特性を比較しないと
差は議論できないと私は考えています。