音声ケーブルに施すシールドの功罪

スピーカーケーブルや電源ケーブルのような低周波用ケーブルにシールドを施した物があるが、この功罪について考察して見よう。
1番目の問題はシールドを施すことでどの程度シールド対策になるのか?「シールド特性」
2番目の問題はシールドを施すことにより損なわれる特性がどの程度のものか?
を考察することです。

1、シールドの効果

1)ケーブルのタイプ
ケーブルは大別すると、その構造から大地(アース)との関係から平衡(バランス)型と不平衡(アンバランス)型に分けられます。静電容量の関係で示せば、平衡型は<第1図>のごとく、2つの導体は大地に対し同じ関係にあります。不平衡型では、その代表は同軸ケーブルですが、中心導体は外部導体を介して大地と結合します。














<第1図>のような構造であっても導体抵抗や静電容量に差がある(C1≠C2)場合には平衡回路とは言えず、不平衡回路となります(<図11>参照)。 重要な回線に使用される平衡型ケーブルでは、2線心の平衡度(心線平衡度、回線平衡度)が規格化され、品質管理されることがあります。

2)ノイズの種類

 対を構成する線心に発生するノイズには2種類あります。
 1番目は、対を構成する線心間に電圧を発生する、即ち、対を伝わる信号に直接影響するノイズで、ノーマルモード(正相)ノイズといわれます。
 2番目は、対を構成する線心に同相のほぼ同一のノイズが乗る場合で、コモンモード(同相)ノイズといわれます。

磁界によるノイズの発生について<図3>で説明すると、2線心が大地に対して平衡である場合、@のごとく線心間を磁力線が切る場合には、右ねじの法則で、2本の導体には逆方向の電流が発生する。即ち、2線心には電位差が発生する=ノーマルモードノイズです。一方Aの磁界に対しては2導体に等しい方向の電流が流れるため、コモンモードノイズが発生します。

<第3図>ノイズの発生




3)ノイズの誘起

ノイズの誘起には<図4>の電界による誘導と<図5>による磁界による誘導があります。

電界による誘導は静電結合により線心Aに電圧が発生しノイズとなります。右図のごとくA線心に導電材料でシールドBが施されていれば、理想解としてはAにノイズの発生は起こりませんが、現実問題としてはシールド部の導体抵抗、編組や横巻シールドのごとく穴が開いているとここから漏れてノイズが入り込むことになります。





<図4>電界による誘導の解説図






磁界による誘導は@線心に流れる電流が作る磁界φ1がA線心と大地で作るループを切ることによってAのループに起電力が発生しノイズ電流が流れます。(左図)
 AにシールドBが施されており、かつシールドが両端末で大地に接続され閉回路を構成している場合にはφ1により誘起された電流はφ1を打ち消す方向にφ2を発生することでAへのノイズ発生を防ぐ役割を果たしますが、この効果は<図6>各種金属の遮蔽係数に示すごとく10kHz以下の低周波域ではほとんど効果が無いことが分かっています。








<図5>磁界による誘導の解説図
























<図6>各種金属の遮蔽係数


 <図6>の結果から、10kHz以下では有効な金属遮蔽は無く、次項に示す対撚による外来ノイズ打ち消し効果が最も効果的です即ち、低周波域では同軸ケーブルを使用するより、2心シールド線(ビデオペアケーブル)の使用が有効です。
 オーディオ機器の磁気ヘッドや機器内配線に2心シールド線が使用される意味はここにあります。スピーカーケーブルに金属箔の様なシールドを施すのは費用対効果がほとんど無いと言えます。
 


4)対撚りの効果について

対は<図7>の如く、均一に撚が構成されている場合には、他の対や外来ノイズ(遠方解)が作る起電力は隣り合う撚のループで打ち消しあうので、対の線心間に発生する電圧は平行線に比べ圧倒的に低くなります(〜10kHzで60dB程度と言われている)。
 更にこの対撚のループを小さく、即ち短いピッチで撚り合せるたり、絶縁厚さを薄くすることで受けるノイズは少なく、打ち消し効果を上げることが出来ます。

1項でも述べましたが、線心の平衡度が高ければ打ち消し効果は良好となります。逆に撚が片撚であったり、導体抵抗が違ったりすると、打消しの効果は半減してしまいます。

均一に撚る事がノイズ低減の重要なポイントであります。













<図7>対撚の効果  (宮崎技術研究所の技術講座より引用)

 電源ケーブルのテーマでも述べていますが、住宅内の配線はVFFと言う平行2心のものが多く使用されています。電力線搬送等の高周波信号がこの様な平行線に伝送される場合にはノイズを受けると共に、ノイズの発生源ともなります。これを防ぐ為にも対撚ケーブルの利点はとても大きいと言えます。


5)ケーブルの使用方法によるノイズ感度

 ケーブルはその使用方法によってもノイズの受け方が違ってくるので、コネクタ付きケーブルを購入する際には端末の結線方法もよく確認する必要があります。

@ 同軸ケーブル
 外部導体をオープンにした時に受けるノイズを基準に各接続方法でのノイズ感度を相対比較したのが<図8>です。




































<図8>同軸ケーブルの接地方法によるノイズ感度の差(50kHz)

低周波(50kHz)で同軸ケーブルを使用する場合にも、シールド(外部導体)は片端接地の方がノイズ特性は良好です。
 同軸ケーブルは高周波では表皮効果の影響で、表皮深さに匹敵した厚さの金属箔の外部導体を有すれば、高周波信号は外界と遮断されるため、ノイズに対しては強くなります。但し、編組の様な100%絶縁線心をカバーできない構造では合線穴から電磁波が漏れ、ノイズが入り込むので、高周波での特性は悪くなります。

A 対型ケーブル

対の1線心をオープンにして、残りの1線心と大地で作る閉回路で受信するノイズを基準に、ケーブルの接地方法でノイズを受ける量を比較したのが<図9>です。





























<図9>対型ケーブルの接地法によるノイズ感度相対レベル(50kHz)



 上から2番目の如く対型の平衡ケーブルを不平衡に使用するとノイズを大変受けやすい事が分かります。最下段の様に
対にシールドを施し、片端接地で使用する場合が最も良い特性を得られます(ハイパーバランス)


6)「ハイパーバランス」は理想的な結線法

 私共は下記の配線方法を「ハイパーバランス」と称していますが、この結線方法が上記のように最も良好なシールド特性を得られることが分かります。











<図10>ハイパーバランス結線方法


<図11>は平衡型ケーブルを不平衡型ケーブルとして使用した例です。実際に市場に出ている平衡型ケーブルのRCAコネクタ付け結線では下記の様にマイナスの線心とシールドを方端末、又は両端末で接続して使用している方法が多く、上記の如く、ハイパーバランス方式に比べるとシールドレベルはかなり低下してしまいます。なぜならば、せっかくシールドで除去したはずのノイズがマイナス線心の信号に入ってきてしまうからです。













<図11>平衡型ケーブルを不平衡で使用した例




2.シールドを施すことで損なわれる特性

2番目課題のシールドを施すことによる損なわれる特性はどんな特性でしょうか?
 実際にスピーカーケーブルにシールドを施す前後で各特性がどの様に変化するかについて理論計算をして見ましょう。

1)        試算したケーブルの構造表

項  目

仕   様

導体

材質

PCOCC−A(軟銅線)

構成(本/mm)

7/7/0.18 ロープ撚

外径(mm)

1.59

絶縁体

材質

高密度PE

赤x白

厚さ(mm)

0.50

外径(mm)

2.59

対撚

介在

綿糸介在

押え巻

紙テープ重ね巻

シールド

材質・

なし

PCOCC−A

方法

編組

シース

材質

エコシース 

厚さ(mm)

1.0

仕上り外径(mm)

7.3

7.9



2)試算したケーブルの特性比較グラフ

 1)の構造表によるケーブルの回路定数は下記の様な理論計算結果となります。





















































)シールドを施した場合の変化の解説
 一次定数で最も大きな変化を示すのが緑色の線で示される静電容量です。静電容量はシールドを施すことで約20pF/mの増加があり、この結果、特性インピーダンスが低下し、減衰量が上昇しています。減衰量の増加は導体サイズが1ランク低下したことと等しくなり、音質の解像度や音の広がり等を損なう結果をもたらします。

(漏洩量の値はスピーカーケーブルの使用長は10m程度と短く、絶縁体にポリエチレンの使用を考えているのできわめて小さいのでグラフからは除外してあります。)



3、結論

スピーカーケーブルのような電力伝送用のケーブルでは外来ノイズを防ぐ為に金属箔等のシールドを施すことは、静電容量を大きくして、結果としてダイナミックレンジや解像度を損なうこととなってしまいます。音声帯域のノイズ対策としてはシールドを施すより、対型のケーブル構造にすることで、ノイズの打ち消し効果を利用するのが良く、又、経済的にも高価なシールドを施すと価格もアップしますし、「シールド」と言う言葉の安心感と裏腹に減衰量が増加しますので、本質を見誤って、価格アップと音質劣化との2重苦を背負うことになりかねません。
 アナログオーディオケーブルのような微弱電力を扱うケーブルでは上記した通り「ハイパーバランス」で使用するのが最も効果的です。また<図9>や別紙のMJ誌の加銅先生の報告の如くシールドを施さなくとも対撚線の特長を生かすことで、実用的には問題が無い製品を造る事も可能です

 今回のテーマの如く、本質を見誤った製品設計の話はオーディオケーブルの世界では他にも幾つか有ります。その一例がごてごて着飾った被覆材やネットの類いでしょう。シンプルイズベストが本質なのに、「見てくれ重視でないと売れない」といろいろ余分な物を付けた揚げ句、価格もアップするし、音質も悪くしてしまう。

  オーディオケーブルは見てくれか?

  
機器の後ろに配線され見えないのに!
  何か変では無いでしょうか??
・・・・・・・・・・・・・・・・

A

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