私が、顎を骨折して入院した時、(事情省略)外科のベット数が少なくて、
内科の病棟に入れられた。
4人部屋で、私以外は、皆癌だったが、私が一番元気が無い様に見えた。
 
私は、昼間も常に区切りのカーテンを閉め、顎の痛みと、空腹に苦しんでいた。
友達が訪ねてきてくれたが、喋る事も重労働で、顔がはれあがっている姿を見て、
早めに切り上げて、帰ってくれた。
 
私の担当医は、新米だった。顎を殴られて入院する人は、結構多いらしく、
典型的なケースの訓練として、私が槍玉にあがったようだ。
親もいないし、告訴もしないし、やりやすかったんだろう。
 
その新米は、しょっちゅう顔を見せ、色々と質問した。
「喋るのが、辛いです」
「とにかく、痛いです」
「寝れません」
 
癌患者の前で、弱音を言わせんなと思ったが、
それは、新米野郎にとって、必要だったらしい。
 
そのうち、ギブスがはめられた。
ギブスというのは、金具を、骨に埋め込む手術が終わって、腫れが引いた数日後、
歯の隙間に針金を通して、上下の歯をさらに針金で固定するというものだ。
慣れている医者は、数時間で済むらしいが、
そいつは、新米だった。
朝から晩まで、ベテランが横について指導した。
新米は、何回も私に謝った。
「ごめんね、あと30分だから」
それを何度聞かされたことだろう。
「これが、拷問なら、とっくに吐いてるぜ」
と、言いたくても言えなかった。
 
やっと拷問が終わって、ベットに帰ると、友達の手紙が置いてあった。
いろんなイラスト入りで、おもしろい文章だった。携帯番号も書いてあった。
私は、それを一生とっておこうと思った。

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