デポ剤の筋注について



看護スタッフを相手にデポ剤(油性の薬液)筋注について話したときのレジュメ。
この手技はずさんに行われがちなのだ。

1.一つ一つの手技はスタッフと患者さんとの交流の基本要素であり、それをおろそかにしてはならない。
2.手技の一つ一つの動作には意味がある。なるべく知っておきたい。

話の中ではこの二点を強調したつもり。
2については、手技の修得はある程度無批判に行われる―「からだで覚える」―ことも確かに必要だが、事後的にであれその意味を知っておく方がよい、と私は考えている。もちろん、単に習慣的に行われるだけで意味がなかったり、根拠に乏しい動作もある。そのような動作を見直すということも大事だと思う。





デポ剤筋注の手技について

1.デポ剤による注射部位反応

●注射部位反応とは

デポ剤の投与によって発生したと考えられる注射部位の異常。
疼痛、硬結、横紋筋融解症などがある。
これは患者さんに苦痛をもたらし、注射拒否の理由になることもある。


●注射部位反応の危険因子

1.注射頻度
2.肥満
3.不適切な注射針長、口径
4.注射部位のrotationを怠ること
5.不適切な注射部位
6.高濃度のデポ剤の使用(HPD50mg<100mg)
7.注射部位反応の既往
8.一回投与量
9.その部位に対する通算注射回数


2.「air-bubble&Z-track」法

これは筋注全般について推奨される手技だがデポ剤の場合注射部位反応を防ぐため特に重要になる。

a.5cm(2インチ)の注射針を用いる。

殿部の上部領域に1回あたり3ml未満注射する。

筋層まで届く程度に長く、注射するときの抵抗で組織障害が起こらない程度十分大きな口径。

筋注が皮下組織・脂肪組織注になっていることが多い(Cockshot.W.P.らの報告では女性で5%、男性で15%のみ!が正しく筋層に達していた)

三角筋より中殿筋が好ましいとされている。後者の方が吸収速度が遅く、痛みも少ないという理由。前者は橈骨神経の損傷もあり得るとされている。
中殿筋の方が患者さんの羞恥心を刺激するが、安全で痛みが少ないこと、効果も正確であることを説明して協力して頂くべき。
さしあたり、痛みが強い人、硬結のある人から切り替えて行くようにすればよいか。

問題点:中殿筋に注射する場合、十分に太く長い注射針を用意できるか?21G、1.5インチが筋注の最低ラインだろうが、デポ剤ではもっと長い方がよい。。


b.薬物を吸い上げた後に0.1mlの気泡をシリンジ内に吸入し、注射針を変更する。

これはすべての筋注で行ってほしい。
注射針の変更は、吸入の際に注射針の外側に組織を刺激する薬液、結晶、ガラス片が付着することと、針が曲がるなどすることがあるため必要である。


c.酒精綿で注射部位をふき、注射前に乾かす。さもなくばアルコールは結合組織内に浸透し、局所刺激を引き起こすことがある。


d.注射部位の皮膚を一方に引っ張り、しっかりと保持する。

問題点:このZ-track法を行いながら注射するのはデポ剤では相当な力がいる。


e.薬物を緩徐に気泡も含めて注射する。気泡は注射針から筋肉中に最後まで注入し、注射針を引き抜いた時結合組織に薬物が残らぬようにする。

注射は上から行って、気泡が最後に入るようにする。


f.注射針を引き抜く前に約10秒間待ち、しかる後に素早く抜き、皮膚を乾かす。


g.注射部位を揉んではならない。このようなことをすると薬物が筋肉からしみでてしまい、結合組織に浸透するかもしれない。

軽くガーゼで押さえるだけにする。急速な効果を期待する(デポ剤ではその反対)ときに揉むことは許されるが、痛みを和らげる、硬結を防ぐためには(しばしば信じられているのとは異なり)有害無益である。ただし、大量投与(アナテンゾールデポ毎週800〜1100mgという量)の場合、筋層への蓄積を防ぐためにマッサージをして硬結が改善したという報告はある。しかし、これは通常ありえない超大量(!!)であり、参考にならない。


h.ガラス粒子の注射を防止するためにアンプルは用心して扱うべきである。


Belangerら(1982,1985)によればデポ剤にこの手技を用いることで大半の注射部位反応が消失した。

ただし、施行上の問題点がある。特にZ-track法はデポ剤では力を要するため難しい。
デポ剤が筋層に投与され、しかも皮下組織を障害しない、という目的を意識しながら、現場で可能な範囲で行っていく、というのが現実的だろう。最低限行うことを決めておき、後は危険因子に応じて個別に行っていくというのが妥協点か。


3.おわりに
そもそもデポ剤を何故使うのか、ということから本来は考えるべきである。
原則としてデポ剤は病気の理解と治療についての同意が不十分な患者さん、ましてや拒薬する患者さんで使うべきものではない。副作用が発現したときの対処を難しくするし、何より安易なデポ剤使用は強制治療につながる。
当院においてもこの点について再検討する必要があると考えている。