*海域アジア史研究会例会報告要旨(2003年2月22日報告。於大阪大学)*

17世紀ベトナムの宦官と対日貿易 ―文理侯陳公碑を手がかりに―

報告者:蓮田隆志

要旨執筆:山内晋次

目次:
はじめに
1.文理侯陳公碑
2.外国史料での文理侯
3.宦官の地位と対外交易への関与
おわりにかえて
報告概要

 本報告では、17世紀北部ベトナムの「文理侯陳公碑」をおもな素材として、当時のベトナムにおける宦官と対外交易との関係が考察された。

 まず第1章では、「文理侯陳公碑」の拓本にもとづいて碑文を確定し、その訓読と内容解釈の試案が提示され、あわせてその碑文に名前のみえる人物などについての関連データが紹介された。ついで第2章では、同時代の日本の朱印船貿易関係文書や朝鮮の「趙完璧伝」などの史料にみえる「文理侯」記事が紹介され、地域的・時代的な一致や官爵の一致などの点から、それらの「文理侯」と「文理侯陳公碑」の人物が同一人物である可能性が高いことが指摘された。そして、第3章では、同時代の北部ベトナムにおける宦官や王の側近勢力の動向を参照しつつ、「文理侯陳公」が王の側近・近親である有力宦官のひとりとして対外交易にふかく関与していたという推測が述べられた。最後に、報告者は、この碑文から明らかになる新事実などを再整理したうえで、「文理侯」が対外交易にふかく関与しえたのは、宦官としての立場からではなく、あくまでも他の有力な文官・武官たちとともに王の側近・近親グループを構成する構成員としての地位にもとづくと結論づけた。

討論

 討論では、まず、碑文の訓読や語句の解釈、および関連史料として紹介された日本・朝鮮史料の語句・内容などについて、いくつかの確認・質問が行われた。ついで、報告者が、この碑文が科挙官僚によって撰文されたにもかかわらず、仏教的・道教的な語句や思想がみられる点は不可解であるとしたことに関して、中国の著名な科挙官僚においてもしばしば仏教や道教への傾倒がみられ、かならずしも報告者が考えるような矛盾はないという意見が述べられた。また、報告者は、文理侯が対外交易にふかく関与しえたのは、宦官としての立場からではないとしたが、この点に関して、唐宋および清代の中国における対外交易の状況や平安期日本における蔵人所の対外貿易関与の状況などからみて、「宦官」という立場が貿易に関与しうる重要なルートのひとつであった可能性は否定できないという指摘が行われた。


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