膀胱神経症

 小ヶ倉から来たという、郵便局に勤める30歳代の男性、やせ型で顔色は青白く、背丈も小さい。

 本人の語るところによると、「最近、小便がすっきり出ない。それで3ヶ月前より病院にかかり、前立腺肥大という病名のもとで、治療を受けているが、全く改善しないので、お宅のことを聞いて相談にきた」。 「ちょくちょく尿意を催すが、排尿の量は少なく、すっきり出ない、そのほかはとくにない」といいます。

 そこでとりあえず五苓散(ごれいさん)を2週間分与えて様子を見ることにしました。次に来たとき、「少し良いようです」と本人はいいますが、私のみたところ、あまりはかばかしくないようです。

 そこで、病院の診断ではなく、あなたの口で、あなたの思ったように症状を話して下さいといいますと、「普通の人はここで小便がしたいと感じるんですが」と頭をおさえ、 「私はここで感じるんです」と胸を押さえる。いったいこの人はなにを言いたいのかと考えながら聞いていますと、続けていうには「また、小便がしたくなると地面がゆれて、地面が私をずんずん突きあげるんです、配達中でもバイクごと突き上げるんです」というのです。

 私はしばらく考えていましたが、胸で感じるのは、動悸の一種で、地面が揺れたり、突き上げたりするのは、めまいや潤動
(気の上逆により、水が衝動されて、体表部で筋肉が痙攣したり動悸を感じたり、血が逆流するように感じたりするさま)のことではないかと遅まきながら気がつきました。

 そこで、「心下悸・身潤動」を主(つかさど)る
苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)を差し上げることにしました。この薬方に転方してめきめきと症状は改善し、2ヶ月間で廃薬になりました。

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 苓桂朮甘湯証の人は、この方の場合もそうでしたが、ときに、この人は神経がすこしおかしいのではないかと思わせるような言動をすることがあります。この人が本当に前立腺肥大であったかどうかは疑問とするところで、検査の内容や結果を詳しく聞いておくべきであったと反省しています。


「症例から見た漢方」は「漢方のものさし」「病気の本質」と読み合わせていただけば、よくご理解いただけます。