異名同病

 五島の70才代の男性が相談にみえました。「3年前直腸のポリープを手術して以来、ずっと下痢が続き、引き続き病院で治療を受けているがまったく改善の兆しがない。下痢は軟便で、したくなると急いでトイレにいかないと時々失禁する。しかしトイレにいっても少ししか出ず、頻回に何度もいく」といいます。

 漢方でいう裏急後重(しぶりばら)です。「下痢をしていても、すっきり出てしまわないで、そのため下腹が脹って苦しい。ながい間下痢をしているので、すっかり痩せ衰え、畑仕事も思うようにできない」とこぼします。

 そこでこの下痢
に対し桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)を2週間分さし上げました。これを飲み終わっての報告では、大変調子がよいとのことです。3カ月ほど続けて、もう大丈夫だろうと休薬しました。

  また、60歳代の婦人(家内の叔母)が便秘して困ると相談にみえたことがありました。病院でもらった下剤をのむと、腹が痛んで少し出るだけで、すっきり出てしまわず、下腹が脹って苦しいというのです。

 この婦人は肥満していますが、筋肉のしまりはあまり良くありません。どちらかというと水肥りタイプで、浮腫とまではいきませんが、皮下に湿を蓄えているようです。

 五島の方とは症状は全く反対ですが、この婦人の便秘に対しても
桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)をさし上げたのです。これを1週間のむと自然排便があるようになり、しばらく続けて休薬しました。

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 最初の男性は下痢しており、次の女性は便秘していたのですが、二人共、腸が弱ったためにおこってきた症状で、共に桂枝加芍薬湯でよくなりました。下痢や便秘は単なる結果で、現れて来ている症状は正反対であっても、病因が同じであると同じ薬方でよくなります。現代医学では、下痢症と便秘症は全く異なった病気として治療します。しかし漢方では、病因を治す事を考えます。病因が治ると病気(結果)は必然的に治るのです。したがって、漢方ではその病因の治療法すなわち、薬方名をもって病名とします。漢方的にいうとどちらも桂枝加芍薬湯証という病気です。


「症例から見た漢方」は「漢方のものさし」「病気の本質」と読み合わせていただけば、よくご理解いただけます。