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10年ほど前のことです。
近くの方の紹介で、80歳の老婦人が相談にみえました。車から降りてくる様子を拝見しますと、足はとぼとぼといかにも歩行が不自由なご様子です。老婦人の訴えや、聞き出した内容ですが、「半年ぐらい前から右膝が腫れて痛くなり、病院で治療を受けていたが、あまり改善の兆しがない。治療は内服と注射、それに2週間に一度水を抜いてもらっている。抜いた水は薄いが少し黄色味を帯びている。」といいます。
「漢方で治るでしょうか」との質問に、「漢方は薬方が合えば必ず効きますよ、もし治らない場合は、それは漢方が悪いのではなく、私があなたの病気にあった薬方を選んで差し上げれなかったということです。」と答え、続いて、「喉が渇きますか」と尋ねますと、「渇きます」という答えが返ってきました。「夜間、排尿に起きますか」と尋ねてみますと、「2、3度起きます」いう答えです。私はこの下肢の力のない様子と、口渇と、夜間尿を目標に八味丸(はちみがん)にヨクイニンを別包として2週間分さしあげました。
その丁度2週間後、「少し良いようです」と薬を取りに来られました。そこで更に2週間分同じ薬方をさしあげました。またその2週間後、老婦人は、「痛みは七分通りとれました。水はまだ少し貯まっていましたが、抜いて貰った水をみると今までの半分くらいでした」と、少し希望を見出したようです。私も気を良くして、更に同薬方を2週間分、これでおそらく痛みもとれ、水ももう貯まらなくなるだろうと期待して待っていたのですが、次回やってきておっしゃるには、それ以上どうも進展がないようなのです。
不思議に思いながら、患部をみせて頂きますと、膝にはまだほんの少しですが、腫れがあり、薄〜いピンク色に色づいていて、他体部に比べわずかだがほてっています。そこで今までの薬方に更に蒼朮を別包として加えて、2週間分さしあげました。八味丸加ヨクイニン蒼朮の意です。これを飲み始めて、痛みは急速に取れ、水も貯まらなくなり、この薬方を3カ月ほど飲んで、もう良いようなのでと、老婦人はお礼の言葉を述べ、最後の薬を持って帰って行きました。
この老婦人の膝関節水腫は八味丸加ヨクイニンで七分通りよくなりましたが、それのみでは完治するに至りませんでした。これに蒼朮をたった一味加えただけで、すばらしい効果を収め得ました。一味の妙、驚嘆に値します。「一味といえどおろそかにすべからず」と肝に銘じた次第です。
それでは、なぜ朮に目をつけたといいますと、以前、膝関節水腫に使用する薬方を研究していたときに、膝関節水腫に良く使われる防已黄耆湯と越婢加朮附湯の共通の薬味は朮であり、これが関節水腫に特異的に効を発揮しているのではと気がついたからです。
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