読書日記/恩田陸
| 05.6.15 「『恐怖の報酬』日記」(恩田陸/講談社) |
| 恩田さん初のエッセイ集で、恩田さんがお酒好き飛行機嫌いってのは以前何かのインタビューで見てたけど、まさにそれについて「酩酊混乱紀行」と銘打った初海外旅行紀行文(?)です。あー楽しかったv。行き先はイギリス・アイルランドで、まず見た目まんま地球の歩き方な表紙デザインがナイス(笑)。紀行文ってよりは、現地の風景に触れながらの恩田さんの妄想イメージや小説作法がとってもざっくばらんに語られてて興味深いんだけど、これが飛行機に乗る前後だとプチパニック状態でテンションはメーターを振り切れて、話が飛ぶ飛ぶ(笑)。脈絡のない妄想とノンストップな語り口がとにかく楽しいです。助けて千秋さまー!(爆笑) 場所が持つ力、そこを舞台に浮かび上がるイメージを掘り起こしてじっと見つめる。それらがいつか書かれるだろう小説の一場面になるだろうという予感、それをほとんど気分と勘だけで書き上げていくという作法はとっても納得できるなあ〜。読んで感じてた通りってか。イメージや風景自体が強い物語を持ってるんだよね。そして恩田さんの妄想の中で人物もまた風景に負けない存在感を主張する…そんな感じ。熟成すればするほど濃い味わいにないそうだよなーお酒と一緒でねv そうそう、何の因果かその後無事二度目三度目の海外旅行も果たされたそうで。雑誌「旅」参照って書いてあったので早速バックナンバーもチェック(こういう時図書館勤めって便利だーv)。チェコとスペインだったんですが、チェコがすごくよさ気だったな〜〜食べ物も景色も美味そーvそして「木曜の男たちの邂逅」がすごく面白そうです…誰かと言わず恩田さんに是非書いていただきたいなと(笑) |
| 05.6.15 「夜のピクニック」(恩田陸/新潮社) |
| 実は読む前、地元FM局の本のコーナーで、「(いろいろ賞取って評判だけど)どの辺が面白いのか分からなかった」と言われてたとゆー話を聞いてたのとユージニアの後だったんで(笑)どうよと思ってたんだけど、いやーこっちは私、すごーく面白かったv。「どの辺が?」ってのは多分「ドラマが何も起こらないじゃん??」ってことなんだろうな〜。全編ただ歩いてるだけだからそれは確かにそうなんだけどね、でも高校生ってのがポイント。恩田さんの描く高校生が好きってのもあるけど、歩く前と後では全然違ってるんだよ。それが可能な年代でもあり、この時この場所だから何かが動き出すという非日常空間があって引き込まれるんだよな〜〜。ただ歩いてるだけでこれってすごい。 歩行祭。全校生徒がわずかな仮眠を挟んで24時間歩き続ける過酷な行事でありながら、3年生の時には誰もが最後まで歩き通せず脱落するのを涙ながらに拒むという、高校生活を締めくくる最後の行事でもある。実際に恩田さんの母校で行われていた行事だという話だけど、ただ自分の思い出を綴っただけでは決してない。そこにはホントにどこにでもいそうな高校生たちがいて、こんな風に友達や好きな人のことが大半を占めてたよなあという懐かしくなるような想いがある。あくまで「物語」、作者の話じゃなく彼らの話なのがいいv。そしてこれがティーンズ小説なら主人公目線の恋愛バナになるとこだけど、恩田さんはその誰からも少し距離を置いたところから見ていて、その距離感がやっぱり今の自分に近くて入りやすいのかもね。眩しいよーう(笑) メインとなるのは、死んだ父親の浮気相手に同じ年の子供がいるという子供にとってはヘヴィな事実を、それまでその存在を無視することでバランスを保って来た融と、むしろ少しでも近づきたいと思ってる貴子の関係の変化で。高校3年ではじめて同じクラスになって以来、その間に漂う微妙な緊張感はむしろつきあってると噂になるほどで、意識はしまくってるわけだけど兄弟だと認めたことも言葉を交わしたこともない。敵意とも言える表情を見せる融に貴子はこの歩行祭の間にもし一言でも彼と話ができれば…と自分にささやかな賭けをする… それぞれに3年間を過ごして大事だと思える友人に出会い、それでも決して全部は見せることのなかった自分を、普段なら家に帰って一人でいる夜の時間に友達といる非日常と、ひたすら歩き続けて真っ白になっていく頭と心がさらけださせてくれる。普段言わない言葉、見せない表情…それが零れることでそれまで頑なだった心がほぐれたり、考えるのを避けていたことを別の視点から素直に見ることができたり。たった一晩で自分を知り、それまで見ていた世界より一回り広い世界を知るその変化は劇的だ、「ドラマがない」なんてとんでもない。ガード固かった融が忍や貴子をテリトリーに入れる、昨日まで不可能だと思っていたことがするっと可能になるのには何だか泣けてしまう、嬉しくて。友達との何気ない会話やほのかな恋心(かわいいぞ忍v)もいいんだよなあ〜〜。読んだ後のこの爽やかな満足感。あー読んでよかったv しかし映画化されるそうですが…これは映像で見るとどうなんかしら(歩いてるだけ・笑)私的には文章のがぎゅんぎゅん来そうな気がしますー。 |
| 05.6.15 「ユージニア」(恩田陸/角川書店) |
| これは私の実家のあるK市が舞台なんですねー。知ってる場所がほとんどなんでイメージはとっても明確に浮かんでくるし、この場所で何が起こるんだろうとワクワクしたんですが、読み終わった後これがどうもどんな話だったのか輪郭がハッキリしなかったという…; かつてある名家で起きた大量毒殺事件、その生き残りの少女が大学生の時に関係者の証言を集めて書いた一冊の本、さらに20年の時間が過ぎて再び証人たちに会う誰か…インタビュー形式で語られる関係者の回想は事件のある一面を浮かび上がらせ、それが集まることでもやもやとした「真実の形」が見えてくる。でもそれすら表面的な真実に過ぎず、起こったことは分かっても、心まで読み解くことは決してできないといった感じ。謎のインタビュアーからは目的も「真実を知りたい」という強い意志も感じないし、証言者にとってもある意味あの夏のことはすでに完結していて、遠いことを語る眼差しをしてるような。最後に浮かんでくる絵は未来に連なるものではなく過去の残像なのだ。誰かにとっての真実が他の誰かにとってはそうではないし、真実だと思っている本人でさえ意識していない何かが心の奥底にあるかもしれない。でもそれは最後まで分からないし、分かったところでどうにもならないことなのよねー。誰にとってもそれは「過去」だから。 以下ネタバレですが、緋紗子の求めたユージニア−永遠の静けさと世界が消え一人になれる国−ってのがそもそも救いがない;で、一応これが事件の背景だとされるわけだけど…冒頭とラストを読むと、むしろどうして緋紗子がそういう思いを抱いたかが隠された真実のような気がした…緋紗子本人も意識していないかもしれないけど、「青い部屋」に対する恐怖が全ての根源だとしたら怖いのはむしろ奥様;;信心深く篤志家で、養護施設を訪問して子供達にお菓子を配る、というエピソードでしか出てこない人だけどゾッとした。自宅に作った懺悔室で、幼い緋紗子に、目が見えなくなったのは何かの罰だと神に許しを乞わせたとか。あるいは我が子の目が見えるようになる「奇跡」のために何か大きな犠牲が必要だと思ってたんじゃないかとかね。とにかく緋紗子の静けさを望む心はそこで生まれたとしか思えないもんなーあー怖。まあこれも何の根拠もない想像だけど、とにかく緋紗子自身が真実だと思っているものすら違うかもしれない、という輪郭のはっきりしない残像だけが残る物語だったなあ〜。ていうか、それを狙った作品なんだと思うけど、同じように結末がはっきりしなくても「小夜子」の雰囲気はすごく好きなんだけどね〜。今もそこにあり、これからもあり続けるだろう「学校」とそこを出ていく「生徒」ってどちらも先に繋がっている。でも「ユージニア」はここで行き止まりでどこにも行けない感じなのがちょっと苦手かな。 |
| 04.7.30 「ドミノ」(恩田陸/角川文庫) |
| 親本では27人+1匹の登場人物紹介にイラストが付いてたのが文庫ではなくなったそうですが。いやー全くいらないですね!むしろ邪魔(笑)。なぜなら皆出てきてしゃべりだした途端にガッチリとキャライメージが湧くので…容姿とかそんなに詳しく書いてなかったと思うんだけどTV見てるみたいに映像と声まで聞こえてきそう。 おかげでこの大人数が入り乱れるドタバタコメディなのに、全然とっ散らからずむしろ整然としてて、前の部分どんなんだっけと遡って確かめる必要もない。何よりすごいなと思ったのは、このドタバタの行方だけじゃなく、いくつかあるグループの話がどうなるのかがちゃんと気になること。一番面白かったのは関東生命サイドですね〜!決算月の最終日、一つの契約が間に合うかどうかの攻防戦がサイッコーにスリリング。28才中堅OLといいつつ実質支社の要みたいな和美に元伝説のレディースえり子姐さん、いや〜カッコよかった(笑)。それからガラスの仮面を彷彿させる(?)子役の二人、すごく大人びてたけど、ライヴァル兼女の友情もたくましく。そんな風に単なるシチュエーションコメディにならず、ちゃんと彼女達一人一人に日常があり日々戦ってる人生があるのが読んでて面白かったな^^ |
| 04.6.13 「ライオンハート」(恩田陸/新潮文庫) |
| 出版された当時から「恋愛小説」だという帯が付いてたので、実はそんなに急いで読まなくてもいいかなと思っていた。恩田さんの作品はかなり恋愛色が薄くって、これまで「恋愛」がメインどころか重要な味付けになったこともあんまりないんじゃないかなあ。でもいろんな抽斗を持つ作家だけにたまにはベタベタな恋愛モノにチャレンジしてみたかったのかなーなんて思っていたんですが…さすが恩田陸、一筋縄じゃいかなかった^^ メロドラマと言えばすれ違い、でも現代ですれ違いドラマはもはや成立しないだろから時を駆けるSFにしちゃった、というのがまずスゴイ(笑)。そして一組の男女の恋愛が成立する過程ではなく、出会うことそのもの、その一瞬に恋愛の喜びと悲しみをギュ〜〜っと凝縮させちゃう恩田さんの筆がすごくドラマチック♪いや意図としては時を越えて結びつく運命的な魂ってのがメインなのかもしれないけど、私的には輪廻する魂よりもそれぞれの時代それぞれの人生でただ一度だけ出会うその瞬間、純粋な「逢いたい」という願いと出逢えた瞬間に全てが満たされる幸福感こそが自分好みな恋愛小説だったなあ〜vv映像の美しさ―雨のにおいや、どこか古色を帯びた時代掛かった色合いまで脳内スクリーンに映し出され大音響で音楽まで鳴り響くみたいな。 5つの短編で5つの時代のエドワードとエリザベス。私の好みは最初の「エアハート嬢の到着」と「春」の二人ですねー。やっと逢えたという涙が出るほどの幸福感と失う痛みにシンクロしてしまうほどの一瞬。これぞ恋愛!って感じです。私、恋愛の過程にはあんまり興味ないけどやっぱりね、必然のギリギリの想いってのには揺さぶられます^^ それぞれの時代の歴史的一幕と思わずメモって整理してみたいと思ってしまう(笑)構成も面白いな。恩田さんの作品って構成はゆるやかな大きな枠で、その中ですごく自由に筆が踊ってる印象があって。それでも拡がりすぎて収拾つかなくなることなくちゃんと枠内で収まるのがすごいな〜って思ってたんだけど、これは最初にかなりキッチリ構成されてる感じ。「光の帝国」なんかもそうだったかな?それでも最初に設計図引いたりするというよりもっと自然にそれをやってのけてる印象もあるなー。パズルのピースを持った瞬間に、それをどこに置けばいいのか分かるみたいな感じ?恩田さんの小説作法も興味深いね^^ |
| 04.6.5 「麦の海に沈む果実」(恩田陸/講談社文庫) |
| 北海道の湿原に囲まれた青い丘、12から18までの少年少女たちが暮らす「学校」は三月の国…物理的には断絶されていないのに筆一つで「陸の孤島」を作りだしちゃうのが流石恩田さん〜って感じ^^。浮世離れした、むしろどこかファンタジックな設定なのにまるで息遣いが聞こえるかのようなリアリティがあるのは恩田さんの描く少年少女だからかなあと。閉ざされた空間で殺人事件や怪しげな出来事が起こって…という外側だけは新本格に似てるけどこれが全然違うんだよね。「謎」が解かれるために存在してるんじゃないというか…誰も解こうとしていないというか(笑)、あるいは解かれる必要がないのかも。一応ミステリ風の展開だけど、恩田さんの場合は話がどう転がっていくのか全然予想がつかなくって謎よりも駆け抜けた先にどんな風景が広がるのかが気になって、ただ語られる物語にどっぷり浸かれる幸せを味わえました^^ どんな少年が出てくるのかも恩田作品のわくわくポイントですが、も、これは私の好み的には黎二ですね〜(握り拳)。こーいう少年描かせたら上手すぎダ…ぶっきらぼうさやまだ全てを包み込めるほど大きくない手が年相応で、そのくせハッとするほど優しくて。ワルツシーンは反則よね、くうっ。黎二視点の物語も読んでみたかった… ところでこの話って最近続編が書かれたんじゃなかったっけ?そういう情報だけどっかにインプットされてたものの、読み終えた後、えーこれの続編って一体どんな話???と…この後の理瀬の話なのかしら…ひえーブ、ブラック?(何)。この三月の国を出た理瀬にはどんな道が続いているんでしょう。この話とは全く違う理瀬が見られるんだろうな〜。 |
| 03.5.31 「ネバーランド」(恩田陸/集英社文庫) |
| 古い名門男子校の寮「松籟館」、それぞれの事情で冬休みをそこで過ごすことになった4人の少年たち。年代物の木造家屋特有のあのひんやりした暗さ、普段はにぎやかなはずの建物を覆う静寂や窓ガラスが風に鳴る音…そんな舞台にもそそられるけど、何よりこれからここで何かが始まるという予感に引っ張り込まれるなあ^^ 恩田さんの描く少年少女は年相応の他愛のなさを見せながら内面はどこか大人びた感じが好きなんだよね〜。この4人の少年たちもそう。「学園生活はバランス感覚が全てだ」とそれぞれが暗黙のうちにキャラクターやポジションを了解しあってきたバランスを、再構築しなければならないだろうという手探りの緊張感。特別ドラマチックなわけじゃないのに、このドキドキする高揚感!確かに心理劇なんだけど底に潜む連帯感や酩酊感(いや毎晩酔っぱらってたからでなく/笑)のおかげか、ドロドロギスギスしてなくてどこかカラッとしてるのが恩田さんらしい。 「ネバーランド」というタイトルも面白いな〜。永遠に大人にならない国。でも、彼らはむしろ子供でいたくないと思っているんだもんね。実際考え方も周囲との接し方も大人に近い彼らだけど、でもやっぱり大人じゃないことを彼ら自身も知っている。この微妙な年代ってのがそもそも好きなんだけど(笑)、それは短い期間で大きな内的変化をとげうるからなのかも。日常の中の非日常を共有しながら、他人との距離をはかる用心深さ。時に相手を拒絶しても自分のテリトリーを守ろうとする攻撃性を見せながら、決してしたり顔でかき回さずぽつりと呟かれた言葉に優しさを発見をしたり。そんな小さな積み重ねを経て生まれる新しい関係がいいのだ〜。 読みながら所々じわじわきてたけど、ラストにはほんとヤラれた(TT)。「一緒に行ってくれるか?」と光浩が言うのがどれだけの変化か…他人を受け入れるのも自分をさらけ出すのも怖いのは、彼らの年代ならごく当たり前だと思うけど、その壁を越えるのが大人になる通過点の一つなんだろう。ううう眩しいよーう>< ただ闇雲に大人になりたいと思うよりも、子供である自分を自覚する方が大人に近づくのかもしれない。彼らにはまだこの狭い世界しかないけど、その世界が持つ意味はきっと一週間前とは全く違うんだろうな。そこは逃げ込む場所じゃない。子供でしかいられない自分を囲む檻じゃない。一足先に軽やかに飛び出して行った統を見送りながら、きっと置いていかれたような焦燥感は3人にはないハズ。そこは彼らがイイ男になる力を溜める国だから。 |
| 03.3.3 「象と耳鳴り」(恩田陸/祥伝社文庫) |
| 秋くんのお父さん、退職判事で参歩好き(笑)な関根多佳雄さんが、「言葉」から謎を解く短編集。一編一編はごく短いし、誰かが零した言葉から謎を解体するという点では確かに純粋なパズラー小説なんだろうけど、そこは恩田陸。普通ならパズラーに必要なのは1足す1は2みたいな論理的帰結だけで、そこが逆に言えば私的にモノタリナイ気持ちになることも多いんだけど、多佳雄さんの(つか恩田さんの)バアイはその論理に行き着くまでに「想像力」というのがかなり大事なウエイトを占める気がするんだよねえ^^。想像力というか…妄想力?(笑)要は、誰かが語る言葉から、物語を喚起する力というか。観察力ももちろん。語る人の性格に対する洞察も見逃せません。それらを組み合わせて一番しっくりくる物語が、つまりは論理的にも正しい、とそんなカンジ^^。ホントのことを言えば解かれるために存在するような謎にはそれほど惹かれないんだけど、 恩田さんのはパズラー小説を書いてもやっぱり物語なところが好きだなあ〜。 それに主人公や脇が共通だと、短編なのに長編を読んだよーな満足感があるしー。なんたってあの秋くんの兄と姉、春と夏が登場してウレシイ♪なんだか名前の通りの三兄弟だなあー。そしてそれだけじゃないところが深みがある。見かけ通りじゃないというか。その二人の性格がにじみ出る「机上の論理」は面白かったなあ〜(笑)いいね、ライヴァルな兄妹って^^。次に「待合室の冒険」が来るあたり、やっぱり純粋パズラーじゃなくてキャラクターも大事らしい<自分(笑)。論理のキレイさで言うなら「曜変天目の夜」と「ニューメキシコの月」も好きかな。 「魔術師」は「六番目の小夜子」を彷彿とするような。小夜子が学校という呪縛のある場所が持つ意思ならこれは都市の呪縛。もし長編になったとしても、モチーフは似てても同じような話にはならないんだろうな〜。それはまだまだセンシティブな秋くんと、自分の人生をすでに歩いてきた多佳雄さんの違いかな。…でもホントのところ、「関根三兄弟が喋りまくって空振りしまくるミステリ」はもっと読みたいですが…(笑)。秋くんはどういう道へ進むのかなあ〜^^ |
| 02.9.15 「木曜組曲」(恩田陸/徳間書店) |
| 恩田陸の作品はどこか懐かしい感じがするけど、これもそう^^。昔読んだ海外のミステリとか夏樹静子の「Wの悲劇」とか。でも懐かしいけどどれにも似てはいない、という感じなんですよねえ。うぐいす館の居間を舞台にわずか3日の舞台劇、うーん面白いです^^。 4年前に死んだ作家、時松重子。彼女の命日だった木曜日に毎年集まる縁の深い5人の女達。4年目の今年、彼女たちの記憶の蓋が開く―。時子という抗いがたい磁場を持つ女性が、5人の記憶を通して浮かび上がってくる。微妙に違う時子像。それはそれぞれの主観、あるいは妄想のフィルターがかかってるからで最後に現れた絵さえもひょっとしたら真実ではないのかもしれない。でもそれは恩田作品では問題じゃあないんだよね。何と言っても「妄想を商売とする女達」がそれぞれに魅力的なんだもの。殺人事件に巻き込まれ、お互いを疑い、殺人者の影に怯える「懐かしの」ミステリに出てくる女達とは全く違う。妄想を糧にどんどん大きくなっていく物書きの性が一番の読みどころだなあ^^。5人の女達の頭の中で展開する、お互いに対する観察眼というかやっぱり妄想というかも物書き、あるいは本好きの目線だなあという感じで、だから本好きは恩田陸に共感しちゃうんだろうなあ。 |
| 02.8.19 「月の裏側」(恩田陸/幻冬舎文庫) |
| ホラーというかSFというか。恩田陸の作品にジャンルはあんまりキッチリとしたものではないけれども。底に流れてるのは懐かしい感じのSFチックだけど、料理の仕方が恩田陸なんだよなあ。日常の雰囲気というかね。恩田さんの作品ではいつも非日常の中の日常が際立ってますね^^。 完璧に計算されたシステムの、古の水路が縦横無尽に走る街、箭納倉。堀に攫われたように行方不明になって何日か後に戻ってくる人々、猫の白雨が拾ってくる人体に似た「何か」―。こういうモチーフが単に別の何かに取って代わられるというホラー、あるいは人類に悪意を持つ何かとの対決、という料理にはならないのが恩田陸の作品。恩田さんの断片的な思考のベクトルが面白いんだよね〜。人間という「種」の、多様であろうとする戦略と一つになりたいという誘惑。なんだか頷けるところもあって、かなりSFチックだけれどもこの先人間はどういう進化をするのかなあなどと考えてしまいます。 …それにしてもいつも思うことだけど、恩田陸の描く少年少女もいいけど40〜60くらいの男の人がすごーく魅力的。多聞も高安も三隅教授も、大人なんだけどどこか稚気というかかわい気があっていいんだよねえ^^。文学しりとりのシーン好きだなあ〜。 |
| 01.8.10 「上と外 全6巻」(恩田陸/幻冬舎文庫) |
| いやー、一気読みでしたねー。続きが気になって…。まとめて読んで良かったなあ(笑)。 南米G国でクーデター発生!それに楢崎一家が巻き込まれた…などと帯を読むと、突飛な設定の上に成り立ってる話なのかとおもいきや、ちゃーんと日常とつながっているのだ。冒険小説であり家族小説であり、ファンタジーであり日常であり、童話でありジュブナイルでもある…そんなお話でした。特に冒険・ファンタジーと家族・日常のバランスがいいなあ。どんどん思いがけない方に話が転がってるのに、日常にはちゃんと足が掛かってる。子供達が知恵と前向きさで道を切り開いていくところなんか、懐かしい童話みたいで、読んでて楽しかった。練や二コ、練のじいちゃんみたいな人物にも嬉しくなってしまうしね。 最後の最後、練と千華子が一緒に切り抜けてくれたらよかったな、と思わないでもなかったけど、賢パパと千鶴子ママサイドと、二コサイドを同時に生かすにはあれしかなかったかもね。うーん、それにしても雰囲気を文章にするのが上手い作家だなあ。 |
| 01.8.7 「三月は深き紅の淵を」(恩田陸/講談社文庫) |
| タイトルもだけど、出だしから物語にグイグイ引きずり込まれる魔力がありますねえ。小学生くらいの頃、惹かれた「物語」は何度も何度も借りて繰り返し読んだ。あの、好きな本を読んでいる時の幸せな感覚が呼び覚まされるカンジ。主人公は大抵子供で、ちょっとだけ冒険や非日常があり、かといって荒唐無稽な夢物語ではない、そんな話が好きだったかもしれない。恩田陸の物語では主人公は大人なんだけど、どこかあの頃に好きだった自分自身を幸福にする力を持った子供達に通じるところがあるような。解説でも恩田陸の小説の「懐かしさ」について触れられているけど、私が感じる懐かしさは、そんなところから来ているのかもしれない。 物語の構成もとっても面白いのだけど、4章で「作者」が詳しく語ってくれているので割愛。でも「幻の本」と同様、この現実の「三月は深き紅の淵を」も「どの章が好きか」とか本好きが集まって話したくなるような魅力に満ちていることは確かでしょうねー。とにかく本好きには共感の嵐な言葉がポンポン出てくる。恩田陸の小説作法も垣間見え、なるほど、だから恩田陸の本って直接「気持ち」に響いてくるところがあるんだなーとか。うん…恩田ワールドでおもしろい(他の言い方を思いつかなひ)本だったですね。ほう…っ(嘆息)ってカンジですか。(←わからんって…) |
| 01.5.5 「六番目の小夜子」(恩田陸/新潮社)再読 |
| この学校には一つの伝承がある。3年に1度「サヨコ」になった者は、それを誰にも知られることなく、ある一つのことをやり遂げなければならない。今年はその「六番目のサヨコ」の年一一。 進学校の高3という、どことなく閉塞した特別な一時期。「学校」というそこにいる間しか効果を発しない呪縛。なんというか恩田陸の文体の持つ独特の雰囲気が一番の魅力なのだ。決してセンチメンタルに傾かず、一致団結して何かに立ち向かうようなウソ臭さもなく。でも「学校」にいる間だけの一体感というのも確かに底にあって。どこにでもありそうな懐かしさと、どこにもなさそうな憧れを伴う舞台。理屈で収まりのつかない現象もいくつか起こるとは言え、ホラーの部分はそこではなく、なんでもない日常に何かが起こりそうな予感を行間に感じてドキドキするのだ。学園祭の劇シーンは映像が頭の中でクルクル回るよう。後から設楽くんが言うように、本来は別に怖いものではないはずの台本なのに、それを演っている全校生徒が「これは恐ろしい話なのだ」と思ったために生まれる異常な程の緊張感が文章であますところなく味わえて「スゴイ!」と思う。 この雰囲気のある文体はそのまま人物の魅力でもある。民族学的な「お客さん」の側面を持つ転校生、沙世子。好奇心旺盛で人を観察するのが好きで、大人びてるけど他人に自分を全部さらけ出すのは怖いという10代らしさがまた魅力的な秋くん。動物的直感で物事の真実を捉える由紀夫、これといって取り柄はないけど、こちらも自然体で物事を受け止められる雅子。秋くんのお父さんや文化祭実行委員長の設楽くんも。彼らの会話や関わり方が読んでてとっても気持ちいい。とってもフツーなのにどこか特別な感じ。中でもやっぱり秋くんがいいなあ。大人っぽさも子供っぽさも持ってるのに、なんとなく精神的に安定してるところが好きなのかもなあ。 この物語では、全ての謎が解かれることはさほど重要じゃないんだと思う。なんで同じ名前なのかとか、どうしてカギを送ったのかとか、自分的にもそこを突き詰めたいとは思わない。同じ制服を着て「学校」で同じ時を過ごす最後の一年。再び春が来てそこから出ていく秋たちと、これから来るまだ見ぬ誰かを迎える「学校」。その大きな流れと、その流れの中にいる間だけの特別さがなんとも不思議な力をもっていて惹きつけられるのだ。 |
| 01.5.5 NHKドラマ愛の詩「六番目の小夜子」 |
| 3日の朝、NHKで「六番目の小夜子」を一挙放送していたのをたまたま観てしまった。オッ、なんで中学生なんや、学校の怪談みたいやんか。とか思ったものの、秋くん役の子がなかなかよくてなー。思わず3時間ぶっとうしで観て、昨日もわざわざビデオに撮って残りの6話を全部観た。で、そのあと原作を読み返したんであった。 原作一回しか読んでないので、漠然としか覚えてなかったんだけど、改めて原作読んでみると、ドラマ版はかなり違う。高校生が中学生になってるだけじゃなくて、大体主人公がオリジナルだし、家族構成も全部バッサリ作り替えてあるし、そもそも軸になるテーマが全然違う。原作が「学校」という容れ物そのものが核なのに対して、ドラマ版は「まだ何者でもない自分」に不安を感じ「別の自分」になりたがる子供が、「小夜子」を通してそこから脱却するまでのストーリーかな。だから当然原作よりストレートすぎるのは否めない。んだけど、原作あんまし覚えてなかったんで、ドラマはドラマとして結構面白かった。中学生日記的なところはともかくとして、秋くんの、周りより少しだけ大人びてて、それでいて年相応に自分を掴みきれなくて持て余してるとことか。周りに比べると淡々としてて、先頭に立って謎に挑むような役どころじゃないところが、原作で「いいなあ」と思った秋くんのイメージに重なってさー。ジャニーズ系(?)の顔立ちだったけど、抑え目の演技がなかなか(←本人の性格か?)。つーわけで秋くんの心理に焦点当ててドラマを観てしまったかも。 それと弟役の由紀夫くん(原作では親友だけど)もヨロシ。原作にはないオリジナルな展開だけど、離婚した両親に別々に引き取られた性格の全然違う兄弟の、ちょっと複雑な心理描写が、本筋とはカンケーないけど惹きつけられ。説明臭いモノローグじゃなくて、微妙な表情とか態度がいいのだ。ユキの「兄ちゃん」って言い方がなんか好きだわー。 →跡地 |
| 01.5.1 「puzzle」(恩田陸/祥伝社文庫) |
| 書き下ろしの「中編推理小説」(つーか、余白と字が大きいので短編と言ってもいいかも?)、この中で「魅力的な物語」を作り上げるのは結構ムズカシイんじゃないかと思うんだけど、恩田陸はなかなかやってくれます。 1・piece (パズルのピースを) 2・play (継ぎ合わせて) 3・picture (出来上がった不思議な絵にハッとする) 章タイトルが現す通り、これはそういう話なんである。 ピースはいくつかの記事。廃虚の無人島で、死体で発見された3人の男。「さまよえるオランダ人」。「2001年宇宙の旅」の制作発表。昭和の元号秘話。「ボストンブラウンブレッド」のレシピ。二万五千分の一地形図の作り方。さて? 継ぎ合わせるのは二人の検事、休暇を利用して事件のあった廃虚の島を訪れた志土と春だ。「青年期を過ぎつつあり、そろそろ中年と呼ばれることへの抵抗がなくなってきている年代」の男二人だが、友人同士ならではの気安さと、他に誰もいないから素でいられるのか、交わされる会話から浮かび上がる二人の人間像がとてもいい感じなのだ。知的で大人なのにどこか稚気があって。廃虚の跡を踏みながら、不可解な3人の死体のあったところを辿り、志土がその状況を語っていく。 最後に現れた1枚の絵。それはかなり変わった絵なのだけど、この廃虚の現場で語られたからこその現実感があって、人間の思惑を超えた大きな力に、何故か晴れ晴れとした読後感さえ漂う。舞台となった廃虚の島がいいというのもあるが、志土は、春とならこの絵を共有できると思ったわけで、この二人のどことなく特別なつながりが、結局のところこの話の一番魅力的なところのような気がするな。「俺の服はやらんぞ」って、どういう意味だろー?気になる〜。 |
| 01.4.26 「光の帝国 常野物語」(恩田陸/集英社文庫) |
| 恩田陸は4冊目なんだけど、いいですね〜。昨年次々出したハードカバーも読みたいなあ。 この話は「遠目」や「遠耳」などの力を持つ一族、常野の血を引く人々の連作短編だ。古今東西の古典から他人の情報までを「しまう」、未来を見る、人間達の間に混じっている異質な者たちを「裏返す」等々。この能力者達に力を入れて書いたなら、非常によくあるティーンズ向けSFになるところだが、彼らは気負わずごく自然に普通の人間達の間に混じって生活している。権力志向を持たず、穏やかで、それでいてどことなく人を惹きつけるところのある彼らの物語は、全く架空の世界とは思えない不思議な存在感がある。そして一つ一つ、語り手も視点も物語もそれぞれ別の味わいで読ませるのに、読み進むうちに常野の現在、過去、未来が見えてくるのだ。あとがきで作者が書いているように、それぞれ独立した長編としても再構築できそうな、短編とは思えない読みごたえ。謎だけ残して雰囲気で読ませる話と違い、その短編の中でしっかりと輪が閉じている。一見共通点は「常野」だけかとおもいきや、ちょうど真ん中の話あたりからそれぞれの輪が連なっているのが分かってくる。 「過去」を描いた表題作「光の帝国」はこの短編集の真ん中にあって、現在の彼らと未来の彼らをつなぐ橋渡し的な存在だ。そのせいかもっとも「常野」に焦点を当てた話で、この中では彼らの能力故に辛い目にあう唯一の話と言っていい。それなのにその辛酸な過去の出来事の中にすら、日々の喜びと未来への希望が書かれていて震えるのだ。この話が中心となり結びつけられた短編たちが、「常野物語」という大きな流れを作っていく。ラストの「国道を降りて…」も良かったなあ。是非今回のキャラや設定を使った長編を読んでみたいですね。 恩田陸の人物たちはごてごてした飾りがなく、とてもフツー。会話だってごく現代風な軽やかさがあるのに、中に芯が一本通ったような強さがなんとも魅力的。すんなり物語に入っていける。そして語りも好みなのだよ。大げさに煽るような書き方じゃないのに、逆にジワジワといろんな思いが込み上げてくるような。作者自身にまだまだどんな引き出しがあるのか、とっても楽しみなのだ。 |