『君がいた部屋』

君と過ごした部屋の小さな窓。
君のお気に入りの場所だったね。
君はいつも外を眺めていたっけ。
僕の帰りを見ていてくれたよね。

でももうそこには、君のぬくもりはないんだね。
今は部屋の明かりに照らされて犬のぬいぐるみが見えるよ。


突然の転勤。
三日前から君は僕の前に現れなくなったね。
勘の良い君は分かっていたんだね。
君が愛用していた百円ショップで買った白い小さなお皿。
部屋を出ていく時、外へ置いておいたんだ。
きまぐれな君は、気に入らないものだとそっぽを向いたっけ。
「もう上げないよ」って怒ったりもしたね。

さあ、夕飯だよ。
君の好物だったマグロのお刺身。
私も好きだったからって、いつも二切れしか上げなかったっけ。
今日は君だけの為に買ってきたよ。
会社から1時間半。
体調不良だと嘘をついて帰ってきたよ。
君に会える訳ないって分かっていても…。


ごめんね。
雪が降ってきたよ。
ずっと君を待ちつづけたかったけど、コートを忘れてきちゃったんだ。
明日からお互い新しい生活が始まる。
今日で私はこの町とお別れだ。
そして君とも。

今は少し欠けてしまっている君のお皿。
私からの最後の夕食。 置いていきます。

元気でね。
さようなら…。