『真夜中のロンリー』


男は帰宅の途にあった。
狛江駅から15分、男の家はある。
頬を吹き抜ける夜風がひんやりして冷たかった。
「今日も寒いな」男はそうつぶやきながら足を速めた。
ふと夜空を見上げると星が輝いていてとても綺麗だった。
そして、家で待っているであろう彼女を思い浮かべながら思った。
「今日も抱くか…」。

小さなアパートの2階に1DKの男の家はあった。
薄暗い階段を上り玄関の前に立った。
ドアの横には前の住人の表札なのであろう「桜井」とある。
「そろそろ…」と言葉にならない事を言いながら
足元に置いたままになっているもう一つの置き土産、鳥かごに目をやった。

玄関を開けると彼女はそこで待っていた。
男の足音で帰ってきたのが分かるのだ。
うたた寝をしていたらしく少し眠そうだった。
「ただいま」男は疲れた体に微笑を浮かべそう言った。
彼女の顔を見ると安らぎを感じ、仕事の疲れさえも無くなっていく気がするのだ。
大きな瞳で男を見つめる彼女に言葉は無い。
男は近寄る彼女をそっと抱きしめた…。

ここへ引っ越してきたからこんな生活が半年続いている。
彼女とはここで出会った。
近所には彼女との生活は隠している。
移り行くこの町並みを眺め続けてきた彼女を見ながら
「奇妙な同棲だな」男は時折そう感じるのだった。

昼間の彼女は冷たかった。
つれない態度で彼を軽くあしらっていた。
休日でさえ一緒に外へ出かける事もない。

食事も男と彼女は一緒に食べる事はなかった。
会話がある訳でもなく。
部屋には重い沈黙が支配していた。

夜が更けた。
ベットの中で男は彼女を抱いていた。
寝息を立てている彼女は産まれたままの姿であった。
夜の彼女は昼間の彼女から豹変する。
妖しげに毎夜、男の枕下に入ってくるのだ。

彼女の頭に鼻を近づけるとシャンプーの匂いがした。
男はその匂いが好きだった。
少し長めの彼女の頭の毛を撫ぜるととても柔らかかった。
彼女は起きたらしい。
そっと目を開けると、愛くるしい視線を男に送った。
男の手は止まらない。
彼女の全身を愛しつづけた。
彼女は爪をそっと立てて敏感にそれに反応した。
「女が欲しいな…」
彼女には聞こえないような声でそっとつぶやくと、ぐっと彼女を引き寄せた。
そして喉を鼓動させていた彼女は思わず声を上げた。
「ニャーッ」。