海風学園マッチメーカー部の部員達がリィルのアーマード・ナイトを見に行ってから、数日が経っていた。
リィルは、当たり前のことだが、相変わらず初等部の講師である為、部員達と会うことはなかった。本当ならかおるなどはシミュレーターで稽古などをつけてほしいとお願いしたいのだが、それは顧問の戸板からきつく止められていた。
そんなわけでアーマード・ナイトを見せて貰う前と変わらない風景が部室の中には広がっていた。もちろん話の内容は、リィルとその夫アレクのアーマード・ナイトの事でいっぱいだったが。
がらがら、っと扉が開く。今掃除が終わったのだろうか、桜が一冊の雑誌を手に部室に入ってきた。
鞄を置くと、雑誌の一ページを、他の部員に見せ始める。
「ほらほら、書いてあるでしょ」
そのページには、とある大会の参加要項が載っていた。
大会の名前は、Best of Dollers。今年で第八回となる、マッチメーカーの大会としては、中堅どころのレベルの大会だ。
その大会要項の一部が、第七回の時とは少し変わっていた。第七回の時までは、試合が行われるクラスが、普通のトーナメントとジュニアトーナメントの二つにわかれていたのだが、今度新たにシミュレーターの部が加わったのだ。
海風学園のマッチメーカー部は、自前のアーマード・ナイトを持っていないため、今まで実践大会には参加できなかった。しかし、シミュレーターの部なら話は別だ。
「なるほど、これなら僕達でも参加できるな」
「でしょ」
その意図を理解した入来は、さっそく顧問の戸板に、参加したいということを伝えに行った。
シミュレーターの部なら怪我する可能性も全く無いと言うことで、それはすんなり許可された。
「さて、大会だけど、誰がでるんだ?」
戸板が部室にやってきて、大会への登録準備が始まった。
戸板の声に応えて手を挙げたのは、かおるだけだった。
「あれ? 俺だけ?」
驚いた顔をするかおる。他の部員達は、迷っている様子だ。
「先生、僕も出ます」
入来が手を挙げる。これで、マッチメーカー部のシミュレーターでの、上位二人が参加することになる。
「なんだ、二人だけか。他の部員はいいのか?」
結局、今回は海風学園で一、二を争う腕の持ち主の二人が参加すると言うことで決まった。
最後に戸板は忘れていたように大会の日程を聞いた。
だが、大会が行われる日を伝えたところで、戸板の顔が曇った。
「すまん、その日、駄目なんだが‥‥‥」
言いづらそうに言う戸板。
戸板の話はいまいち要領を得なかったが、どうやらはずせない用事が入っているらしい。
「えーっ、じゃ、どうしようか」
困った顔をする部員達。
大会に参加するには、未成年者は保護者同伴でなければならないのだ。このままでは参加できなくなってしまう。
「そうだ、リィル先生を誘いませんか?」
桜が、名案を思いついたかのように言う。
「おい桜、リィル先生にこれ以上迷惑かける気か? リィル先生はもうドーラーを引退したと言っているだろう」
とたんに口調がすっぱくなる戸板。
しかし、それにすかさずかおるがフォローを入れる。
「え、でも、この間リィル先生、アーマード・ナイトに乗ったじゃないすか。聞いてみるだけだったら、かまわないと思うけどな」
確かに、このあいだとは事情が違う。
それに、シミュレーターとはいえ大会なのだから、できることなら勝ちたい。その為に、リィルに色々な技術を教えて欲しいと言うこともある。さらにリィルなら今は海風学園の教師なのだから、保護者としても問題はない。
「だいたい、戸板先生さえ平気ならリィル先生を誘う必要はなかったんだよ」
痛いところを突かれ、戸板はしぶしぶお願いに行って良いと許可した。
「すいませーん、リィル先生いらっしゃいますか?」
職員室に桜の声が響きわたる。
かなり大きな声なのだが、驚く先生はいない。毎度のことだ。
「あら、桜さん?」
ちょうどリィルは、帰り支度をしている所だった。
リィルが廊下に出ると、入来が話し始めた。
「実は、僕とかおるが、今度シミュレーターの大会に出ることになったんですけど」
そこでいったん区切る入来。
「それで、もしよろしかったら、僕達の引率をお願いしたいのですが‥‥」
リィルが歩みを止める。
「引率? 私なんかでよければいいけど‥‥。戸板先生は?」
「戸板先生、何か用事があるんですって。リィル先生、引率、お願いしますっ」
変わって桜が答える。
「あら、そうなんだ。‥‥‥大会って、いつなのかな?」
また断られたらどうしよう。そうは思ったものの、嘘をつくわけにもいかないので、大会の日付を教える入来。
それを聞くと、リィルはほっとしたように言った。
「あ、それならぎりぎり大丈夫ね。ほら、私は、朱里先生の替わりだから、朱里先生が復職されたら、もうこの学校にはいられないのよ」
「そっか、リィル先生そしたらいなくなっちゃうんですよね」
がっかりしたように言う桜。しかしすぐ気を取り直す。
「あ、そうそう、リィル先生、先生も大会に参加しませんか?」
え、私が? そんな顔をするリィル。
「その大会なんですけど、この辺じゃ結構大きな大会でして、僕達が参加するのはシミュレーターの部なんですけど、他にトーナメントもあるんですよ」
説明をする入来。
「ねぇリィル先生、あのカミラでトーナメントに参加してくれませんか?」
「うーん、そうねぇ‥‥‥」
考え込むリィルを見て、とりあえずほっとする三人。
「またドーラー始める決心はついたから、それはもういいんだけど、まだリハビリ中なのよね。だから、大会参加はパスね」
がっくりするかおる。結局カミラが戦うところは見れないらしい。
「それじゃ、こういうのはどうですか?」
桜はそう言うと、雑誌のページを見せる。
そのぺーじには、でかでかと《ミス・ドーラーコンテスト》の参加要項が載っていた。
「何言ってるの、私なんかが出ても、駄目よ」
卑屈になるリィル。何かコンプレックスがあるのかもしれない。
「えーっ、私、リィル先生ならいいところまでいくと思うんですけど。この間のパイロットスーツ姿、かっこよかったですっ」
うんうんと頷く入来とかおる。
「桜さん、こういうミスコンって、ほとんど水着審査なのよ」
桜にだけ聞こえるように耳打ちするリィル。そういえば、と思い出す桜。去年も水着姿の女性が、優勝トロフィーを持っていたような気がする。
「だから、ミスコンはパスね」
さっき一度パスしたんだから、今度は「も」じゃないのかな? などと考えながら、今度は他のページを指さす。
「じゃあ、これは?」
今度桜が指さしたのは、「アーマード・ナイトコンテスト」の所だった。
「アーマード・ナイトコンテストかぁ‥‥」
今度は興味を示すリィル。
「そうだよ、リィル先生、カミラなら入賞間違いなしだって」
かおるがはやしたてる。
「ほら、旦那さんの、‥‥‥‥‥‥なんて言ったっけ?」
アレクのアーマード・ナイトの名前が思い出せないかおる。
「アーダベルトだろっ!」
「そうそう、そのアーダベルトもいっしょにさっ」
考え込むリィル。まぁ確かに、腕が鈍っていようがなんだろうが、アーマード・ナイトコンテストならなんら問題はない。
「そうね、これなら‥‥‥。アレクにも相談してみるね」
まるで出ることが決まったかのように喜ぶ桜達。
リィルも内心喜んでいた。まだ自分がドーリングでわくわくできることに。
「ねぇ、アレク」
帰宅後、夕食の時間、リィルは大会のことをアレクに切り出した。
BestofDollersの事を話してから、アーマード・ナイトコンテストの事を切り出す。
「どうかな?」
「どうかな、って、お前はどう思ってるんだ?」
アレクは、漬け物に箸をのばしながら聞き返してきた。
食事する手を止めて答えるリィル。
「私は、参加した方が良いと思う。私って、今は一応教師でしょ。教師っていうのは生徒の事を考えなくちゃいけないんだよね。生徒のためを思って行動しなきゃいけないんだよね」
質問しているのか自分に言い聞かせているのかわからない口調で言うリィル。
「だから‥‥‥」
「ストーップ」
アレクが、話を続けていたリィルを止める。
「そうじゃない。リィル、お前はどうなんだ? その大会に出たいのか?」
「私‥‥?」
きょとんとするリィル。アレクの目は真剣だった。
「そうだ、お前がだよ。他に誰がいる?」
「そりゃ私しかいないけど‥‥」
煮えきらないリィル。その様子を見ると、アレクは茶碗と箸を置いて言った。
「言っただろう、リィル、お前は生徒のために自分を着飾るつもりか? 違うだろ。お前は、教師になることが目的なんじゃないだろ。自分に合うものを捜している途中だろ。それならば、なぜ着飾る必要がある? 着飾らないと教師になれないなら、そんな夢すぐに捨てろ」
アレクはそこまで言い切ると、茶碗に残ったご飯を一気に食べた。
「ごっそさん」
そしてリィルの返事も待たず、居間へと移動していった。
残されたリィルは、アレクの言葉を噛みしめていた。
「私か‥‥‥。私は、出たい‥かな」
数日後、リィルからマッチメーカー部に宛てて、引率の件と、アーマード・ナイトコンテス
トに、カミラのみが参加することが告げられた。
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