第八回《Best of Dollers》
その日の天気予報は一日中晴れと予想し、降水確率は0%だった。
今日は三日間行われる大会の最終日。トーナメント三回戦〜決勝戦と、アーマード・ナイトコンテストとミス・ドーラーコンテストの最終審査が行われる。
入来とかおるが参加したシミュレーター大会は、大会初日に開催されていた。
「うーん、惜しかったよなぁ」
この大会中、何度目のかおるのつぶやきだろうか。
「おい、まだ言ってるのか」
入来が、もううんざりという表情で言う。
シミュレーター大会の結果は、入来は残念ながら二回戦で負けてしまったが、かおるはなんとベストエイト進出というすばらしいものだった。
だが、かおるにはこのベストエイトというのが気にくわない。
「だってさぁ、あと一回勝ってれば、アーマード・ナイト手に入ったんだぜ」
これも、もう何度も言っている言葉だ。
「しかも、勝てない勝負じゃなかったんだから。あそこであんな無謀なこと、やらなきゃ良かったよ」
かかかかかっ
マシンガンの弾が尽きる。
「くそっ、弾切れかっ!」
焦る声は、かおるのものだ。
相手のアーマード・ナイトが迫ってくる。それを見たかおるは、自分のアーマード・ナイトを必死にバックさせる。
「残りの武器は‥‥‥」
しかし、すでにすべての武器の弾がつきている。
「くそっ、八方ふさがりか」
かおるも相手も、わずかながらずつダメージを受けている。かおるが左腕に持っていたラージシールドは、先ほどの相手の攻撃により、すでに壊れていた。幸いに腕にまでダメージはきていないが、もう盾はない。相手の盾も同じように壊れている。ただ相手は盾を手放すときに、失敗したらしく、腕が多少破損している。
しかし、相手の手にはまだ剣が残っている。かおるにはもう何の武器も残されていない。これが大きな違いだ。
何も武器が残されていないというのは、正確には間違っている。まだかおるには、アーマード・ナイトを直接使った、パンチ攻撃がある。しかし、パンチやキックを繰り出すには、それが届く距離まで近づかなければならない。そんな近くまで近づいたら、相手の剣にばっさり斬られてしまうかもしれない。
しかし、このまま逃げ回っても、らちはあかない。今はまだこっちが勝っているからと言って、このままではあの剣で切られる。それなら‥‥‥
そう思ったかおるは、意を決して突撃した。
「馬鹿! かおる、そのまま逃げてろ!」
突撃したかおるを見た入来が、悲痛の声を上げる。
「あいつ、本当にわかってなかったんじゃないのか? この試合がイニングマッチ二十分だって」
イニングマッチ二十分とは、マッチメーカーの試合方法の一つだ。もし両者とも腕や脚などが壊されずに二十分経った場合、アーマード・ナイトに与えたダメージ量でその勝負を決める。
この他に、制限時間無しで、どちらかの腕や脚など、アーマード・ナイトの一部が壊されるまで戦うバトルマッチや、どちらかのコクピットハッチが壊れるまで戦う、文字どおりのデスマッチなどがある。
このシミュレーターの大会は、イニングマッチ二十分でおこなわれていた。海風学園ではいつもバトルマッチで試合をしていたが、試合が二十分以上長引くことなどあまりないので、問題はないとみんな思っていた。
だが、今試合をしているかおるは、どうやらその事を忘れてしまっているか、元々理解できていないらしい。なぜなら、この試合は始まってからすでに十五分以上が経ち、なおかつ与えたダメージはかおるのほうが多いのだ。二十分経って判定に持ち込まれた場合、今のままならかおるの勝ちは目に見えている。残り時間は逃げ回っているだけでもなんとか勝てるのだ。
ひょっとしたら、かおるは「判定勝ちなんか嫌だ」と思っているのかもしれない。
かおるの性格ならそれも納得できるが、しかし今回は納得できない。なぜなら、この試合に勝てば、ポイントチケットが貰えるからだ。
ポイントチケットと言うのは、マッチメーカー用製品専用の金券で、図書券のような物だ。カタログがいっしょに配られていて、何ポイントで最新のシミュレーターが買えるかとか、アーマード・ナイト用の武器は何ポイントで買えるだとかがが載っている。
本来、アーマード・ナイトは高価で、そう簡単に買えるものではないのだが、ポイントチケットを使う場合、マッチメーカー振興支援の為、かなり割り引いてアーマード・ナイトなどを買えるようになっている。
Best of Dollersの各大会で上位入賞した場合、報償としてポイントチケットが貰えると知ったのは、この試合の直前だった。同時に、シミュレーターの大会でポイントチケットが貰えるのは、ベスト四進出の選手だと知った。
つまり、かおるがこの試合に勝てばポイントチケットが手に入り、もしかしたら、自前のアーマード・ナイトが買えるかもしれないのだ。
その話を聞いたかおるは、絶対に勝ってやる、と言っていた。だから、かおるが判定勝ちなんていやだ、というはずは今回に限ってはない。と入来は思っている。
「それなのに、なんでだよ‥‥‥」
まだ勝つ可能性は残っているのに、それに気付かないかのように嘆く入来。
かおるの試合のアナウンサーも、驚いたように声を上げる。
「おっと、水野かおる選手、このまま逃げ切れば勝てるのに、突撃をかけるぞ! 武器はもう残っていないのに、これは無謀か?」
まさに無謀だったのだろう。
かおるは一気に相手のふところに飛び込むと、右パンチを相手胴体にたたき込む。
「やったか?」
一瞬期待する入来。だが、その右パンチは確かにダメージを与えたが、致命傷にはなっていないのは明らかだった。
相手のアーマード・ナイトが剣を横に払う。
かおるのアーマード・ナイトは、胴体から上下に二分され、そのまま爆発した。
その瞬間、自前のアーマード・ナイトの夢も一緒に爆発してしまった。
「そうだな。ちょっと無謀だったかな」
入来は、落ち込んでいるかおるに向かって言う。少しだけ、かおるの無謀さを責めているようだ。
「でも、しょうがないわよ。今回ベストエイトだったんだから、次の大会では、もっと練習して、今度は一位か二位か三位ね」
部員達は、海風学園で一番強いのはかおるで、そのかおるが勝てなかったのだから、仕方ないと納得していた。
かおるは、みんなの期待に応えられなかったというのも、自分を責めたてる一つの理由らしい。
「あ、リィル先生いるよ」
桜が前方を指さす。そこは、アーマード・ナイトコンテストの会場だ。
色々な大きさの、色とりどりのアーマード・ナイトが、あるものは直立不動の体勢に武器を持ち、またあるものはポーズをつけて、会場内に一見無差別に並べられている。その光景は、まるでアーマード・ナイトの森のようだ。さながら人は、そのアーマード・ナイトの森の間を歩いているような感じだ。
そのアーマード・ナイトの森の入り口付近に、リィルのアーマード・ナイト、カミラは立っていた。その右手には、前の見せてもらったときと同じ剣が握られている。
「リィル先生、どうですか?」
リィルの所に駆け寄った部員達が聞くと、どうやらなかなか好評なようだった。
審査は、投票で決まる。得票数が一番多かったアーマード・ナイトが、コンテスト優勝となるわけだ。
「さすがに、あのアーマード・ナイトにはかないそうにないけどね」
そのアーマード・ナイトとは、前評判一位の、会場の中央に配置されているアーマード・ナイトだった。
そのアーマード・ナイトは実践でもかなりの強者らしく、トーナメントの優勝候補にもなっている。
リィルは知らなかったのだが、そのアーマード・ナイトはヘリオスという名で、このあたりでは知らない者はいないというアーマード・ナイトだった。
外観も黒を基調に赤でペイントされており、センスが光っている。なおかつ実力があるためファンが多く、このコンテストでも組織票がどんと入っているという噂だ。
「よーし、それじゃあ、みんなでカミラに投票してこようぜ」
部員達は、ヘリオスに負けじと、カミラに組織票を入れに行った。
『第三位、カミラ! 得票数138票!』
アナウンスに続いて、わーっという部員達の嬉しい悲鳴が上がる。
やはりヘリオスにはかなわなかったようだが、それでもなんと三位入賞だ。
続いて、二位と一位が発表される。やはり一位はヘリオスだった。得票数はなんと 628票と、ダントツだった。
「そんなに差があったのねぇ」
驚いたように言うリィル。まぁ確かに、実力があって人気もあれば、人気がうなぎ登りに上がっていくのも当然だ。
三位ということで十分に喜んでいたリィルと部員達だったが、その後のアナウンスは、さらに部員達を、特にかおるを喜ばせた。
『なお、五位以上入賞されたアーマード・ナイトの所有者の方には、ポイントチケットが贈呈されます』
「ん、五位以上入賞って言うことは、私ももらえるみたいね」
誰かに向かって言ったわけではないが、リィルがつぶやく。
「ね、ポイントチケット300点分とか貰えるみたいだけど」
部員達に向かってそう言うと、部員達は目を輝かせながら、カタログの一ページをリィルに見せた。そのページには、《小型アーマード・ナイト(中古品)250〜350ポイント》と書かれていた。これなら、一台はなんとか買えるようだ。
喜ぶ部員達、特にかおるの喜び様はすごかった。ポイントを貰えるのはリィルなのだが、リィルはもちろんマッチメーカー部に寄付という形にするつもりだったので、それは何の問題もなかった。
こうして、部員達の喜びを残して、BestofDollersのアーマード・ナイトコンテストは終わった。
事件が起こったのは、いよいよトーナメントの決勝が行われる時だった。
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