8.

 三回戦以降、レジストは見違えるような動きを見せた。
 それは、セレスティアの動きが格段に良くなったことを意味している。
 レジストのメイン武装は、フリーズブレイドという冷却効果を持った剣である。この剣が当たると、その箇所が急激に冷やされ、コンピューターや制動に支障をきたすようになる。
 一度当てれば、有利に試合を進められるようになる。そんな武器だ。
 そしてレジストは、小さい攻撃を当てるのに適した機体だった。
 通常のアーマード・ナイトでは、未来を予見していないと不可能な動きを、レジストはやってのける。セレスティアの訓練の成果ももちろんだが、それもレオリックの脳波感知システムとリィルのグラビティボールが組み合わせによるシステムがあってのことだ。
 素早く、そして高性能なオートバランサー。パイロットの意志にすぐさま反応するコンピューター。
 レジストの前に立ちふさがるような相手は、もはやいない。そう、ヒート・エアを除いては。
「セレス、よくやった」
 準々決勝進出を決めたセレスティアに、レオリックは静かに声をかける。
 準決勝の相手はわかっていた。一足先に準々決勝を勝った、宿敵、ヒート・エアである。
「有り難うございます、レオリック様」
「ああ、よくやった。しかし、もう一試合だ」
「はい、レオリック様」
 前評判では、このブロックの準決勝進出チームは、ヒート・エアが断然一番人気だった。
 しかし今では、そのヒート・エアを倒しそこねない勢いのレジストに、かなりの人気が集まっている。
 ここは、控え室を出たところにある休憩所だった。自動販売機が並ぶ前で、セレスティアと車椅子のレオリックは話をしている。
 すでに人影はまばらだった。残るは準々決勝四試合のみ。レオリックたちが使っている控え室でまだ勝ち残っているのは、レオリックたちだけなのである。
 他のチームの人たちは、まだ観戦している人もいるが、すでに帰ってしまった人もいる。おかげで、控え室が広く使えるというものだったが。
「レオン」
 突然、レオリックに声がかけられる。
 聞き慣れた声にレオリックが振り返ると、そこにはレオリックの大学の友人、ボイス・レーダントの姿があった。
「ボイス、来てくれたのか」
「聞いたぜ、次、ヒート・エアとだってな。まずはおめでとう」
 すでにレジストの準々決勝進出の話は聞いているらしく、ボイスは明るい口調でそう言いながら、セレスティアに手を差し出した。
「あ、ありがとうございます」
 照れながらも、その手を握り返すセレスティア。
 ボイスがリィルを紹介してくれなかったら、ここまで勝ち残れたかどうかわからないのだ。その点では、ボイスもチームの一員といえる。
 そこに突然、今度は女の声がかかってきた。
「レオン、セレスティア、こんなところにいたのね」
 リィルが、あわてたように駆け寄ってきた。
「やぁ、リィルさん」
「あらボイス、来てたのね」
 挨拶もそこそこに、話を始めるリィル。
「今競技委員から聞いてきたんだけど、前の試合が早く終わりそうなのよ。片方のアーマード・ナイト、前の試合でほとんどの武装を失ってしまったんですって」
 試合に参加するアーマード・ナイトとパイロットは、二つ前の試合が終わるときには、待機室に控えている必用がある。今行われている試合の次の次がレジストとヒート・エアの試合なので、もうゆっくりしている暇はないという事だ。
「本当ですか。よし、セレス、行くぞ」
「はい、レオリック様」
 セレスティアが、レオリックの車椅子を押し、控え室へと向かう。
 その背中に、ボイスが話しかけてきた。
「それじゃ俺は観客席で見させてもらってるぞ」
 レオリックは一瞬考えて、返事をした。
「ボイスも、グラウンドサイドで観戦していかないか? ここまでこれたのは、ボイスのおかげもあるからな」
 セレスティアと同じ様な感想を、レオリックも持っている。
「‥‥問題ないのか?」
「ああ、大丈夫さ」
 少し考えた様子を見せたが、ボイスはレオリックの言葉に従うことにした。
 控え室に入る四人。最初、数台あったアーマード・ナイトも、残るはレジストともう一機を残すだけである。その一機も、先程の試合で負けてしまい、勝ち残っているのはレジストのみだ。
 控え室に帰ってきたレオリックたちが、レジストの方に近寄ると、男が声を掛けてきた。残るもう一台のアーマード・ナイトの関係者らしい。
「この機体のチームの方っすよね?」
 レオリックが責任者と知っているのか、男は一番に車椅子のレオリックに話しかけてきた。
「そうですが、何か?」
「捜してた人がいましたよ。ここのチームの関係者はいないのか? って」
 レオリックは最初ボイスの事かと思ったが、ボイスはすぐ側にいる。
「そのあたりをうろうろした後、どっか行っちゃいましたけどね」
 男は、レジストの辺りを差しながらそう言った。
「どんな人でしたか?」
「二十五歳くらいかな。ツナギ着てたから、パイロットかメカニックだとは思うけど」
 しばし考えた後、レオリックは礼を言った。
「そうですか、どうもありがとう」
「いえ、それよりも、次の試合、頑張って下さい」
 男は、自分のチームの方へ戻っていった。
 レオリックはリィルとセレスティアの方を向いて、心当たりがないかどうかを聞いてみた。
「私は心当たり無いけど‥‥」
「レオリック様、私もです」
 同じく、レオリックにも心当たりはない。ボイスには聞くまでもないだろう。
「まぁ、用が有るんだったらまた来るだろうさ。それよりも準備しよう」
「はいっ」
 ついに来るべき時が来たかと思うと、セレスティアの口調もいくぶんか固くなる。
「整備はさっき終わらせといたわ。頑張ってきてね」
 運もあるのだろうが、レジストは結局ここまでで、たった一つの武器も壊されずにすんでいた。だが情報では、ヒート・エアも無傷だという話で、条件はそれでも五分である。
 レオリックたちが連れだって待機室に入ったときには、もう前の試合が始まっているところだった。
 二つ前の試合は、やはり武装を無くしてしまった方が一方的に負けたらしい。この試合も、片方のアーマード・ナイトがすでに盾を失っていて、防戦一方になっていた。
 試合場の反対側の待機室には、同じようにヒート・エアが待機しているはずである。それを考えると、セレスティアの緊張はさらに高まる。
「‥‥‥セレス」
 そんなセレスティアに、レオリックが声をかけてきた。
「さっきの話の続きだが‥‥」
 レオリックに近づくセレスティア。
「お願いだ、‥‥勝ってくれ」
 自分でアーマード・ナイトに乗れない、レオリックの願いだった。
 それは、セレスティアにもわかっている。そしてそのレオリックの願いをかなえることこそ、セレスティアにとっての幸福なのだ。
「‥‥‥レオリック様、必ず、勝ちます」
 試合場では、一体のアーマード・ナイトが、大きな音を立てて崩れ落ちたところだった。


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