一行は、山間の道を、しっかりとした足取りで進んでいた。
「ひゃっほぅ! 凄いや。みんな、おいでよ、早く早く」
先頭を軽い足取りで進んでいたハーフエルフは、道の曲がりしなのところで叫ぶと、あっという間に向こう側に消えていった。
「どうしたってんだ?」
騎士は、もうなれたとはいえ、やれやれというふうに肩をすくめてみせた。
「さあ、何かいいものでも見つけたのじゃなくて」
連れのエルフの娘は、そんな騎士の様子を見て、くすりと笑いながら言った。
「とにかく、いってみましょう」
女僧侶は、足早にハーフエルフの消えた方に歩き出した。
角を曲がったところで、急に開けた視界の中の風景に、三人は一斉に声をもらした。
山道の途中には、急にいくばくかの土地が開けた広場のようなものがよく現われる。今、騎士たちの目の前に現われたのも、そんな土地の一つだった。
そこが騎士たちの目をひいたのは、一面に美しい花々におおわれていたからである。
それは、今の小さな戦いに明け暮れるこの国にとって、一時の心なごむ風景であった。
「でも、不思議だな。ここにくるまでの道は戦禍の傷がまだ癒えていないのに、何でここだけ花が咲きみだれてるんだろう」
騎士は、花園の手前に立ちながら、独りごちた。
「何か、いえ、誰かの力を感じますね。暖かい力を」
僧侶は、身をかがめると、そっと花にふれた。
「ええ、確かにそうね。他の場所にくらべて、ここだけ花が咲き乱れているっていうのは、どうみても不自然だわ。嬉しい不自然ではあるけれどもね」
エルフは言いながら、花園の中深くに入って行った。彼女が通った後は、花びら一つ傷ついてはいない。
「そういう嬉しい不自然の事を、人間は奇跡と呼ぶのさ」
騎士は、軽く肩をすくめて見せて言った。そんな騎士の仕草に不自然なものを感じたエルフは、踵を返して彼の前に戻ってきた。
「どうしたっていうの。なぜ立ち止まっているの」
エルフに言われて、自分と彼女の間に何回か視線を往復させてから、騎士はぽそりと答えた。
「俺はこの中には入れないよ」
「なぜ?」
エルフは、騎士に問い返した。
騎士は言葉で答えるよりも先にその体を軽く動かしてみせた。とたんにガチャガチャという金属的な音が耳を打つ。
「ほらね。俺は君のように花を傷つけずに歩くことも、彼のように素早く根元を避けて歩くこともできない。騎士なんてものはこういった場には不似合いさ」
少し寂しげな騎士の言葉を聞いて、エルフの目が、不思議な色をたたえ始めた。
「あなたらしいわね。だけど、エルフである私がここを通っても、後には何も残らないわ。けれども、あなたが通れば跡が残る。そして、それは道になるのよ。たとえ、それがいくらかの悲しみをともなうことであろうとも。そうやって作られた道は、他の人々の指針となるはず。でたらめに歩いて、この花園全体を損なったりしないための指針に。さあ、いきましょ」
エルフは、騎士の腕を取って歩き出した。二人が進む度に、騎士のブーツに踏みしだかれて、一本の細いすじがゆっくりとのびていく。
「どうしたんだい、早くおいでよ」
ハーフエルフは飛びこんだ勢いそのままに戻ってくると、独り取り残されたようにたたずんでいる僧侶の手を引っ張りながら言った。
「やっぱり、私は二人の後をついて行くしかないのかしら……」
「えっ、何か言ったかい?」
僧侶のほとんど聞き取れないほどのささやきに、ハーフエルフは聞き返した。
「いいえ、何でもないわ。さあ、行きましょ」
僧侶は答えると、二人の歩いた跡をたどり始めた。
たぶん、1989年作。
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