詩吟と健康

心と体の構造

心は体の環境です。心に憎悪や怒り・嫉妬・ねたみ・劣等感・ウツなどを無くし、心の平穏を図ることが健康にとって根本的な課題です。心の平穏を回復し心の安らぎを維持する最も良い方法は、他に求めるのではなく自らを変えることです。

 心の構造にははっきりと意識する顕在意識と、意識できないところの潜在意識があります。
 
顕在意識というのは、心全体からみると極一部分にすぎず、人間の思考や行動の殆どが無意識のうちに潜在意識に支配されている。例えば「私はこういう人になりたい」という思いがあったとしたら、それは潜在意識からのメッセージであり、潜在意識の汚れをとれば実現する。

◆ 潜在意識とは、人間が生きていくために必要な基準となる心で、心の奥深くに存在し、目でみることも意識することもできない。そして大人になるにつれて外部から影響されなくなり、他から覗かれたりもしない。自分で有害であることや不利益であることが解かっていても、自ら操作することができない。有害な潜在意識の一例として、@自分にとって都合の悪いこと、A対面上都合が悪いこと、B欠点を知られたくないこと、C解かっているが聴きたくないこと、D偽りがばれる恐れがあること、などがあげらます。

○ 潜在意識に有害なことに思い当たるフシがあることに警戒して、指摘される危険から自分を守るために潜在意識の扉は閉じられ、その扉は開こうと思えば思うほど閉じてしまう。しかし油断しているとポッカリ開き、さらに有害なものを取り込んでしまう。そしてそれに気がつくと閉じてガードされてしまう。潜在意識とは、まことにやっかいなものですが、つまり、顕在意識によって阻害されわけです。

○ 言葉にたいしては、ほんの僅かな断片であっても潜在意識に最も認知されやすく、認知されると潜在意識の扉が閉じられガードされるために、有害であっても容易には除去することはできない。

◆ 潜在意識の扉を開く方法、つまり、顕在意識を働かせない方法としては、心を瞑想状態において心の警戒心を無くすこと。換言すれば油断している状態におくことによって潜在意識の扉は開かれます。それは、顕在意識に認知されることを避けて本来は不随意の潜在脳をコントロールするわけです。
音楽によって心身をリラクセーションに導き、潜在脳に働きかけることは、現在音楽療法として盛んに研究され、採用されています。(音楽ー耳ー脳ー自律神経ー内臓)

◆ サブリミナルメッセージとは、言葉による認知の壁を乗り越えて(言葉が聞こえないようにして)直接潜在脳に到達させる方法です。効果としては、@眠っている能力を引き出すこと。A有害な心を正しい心に入れ替えること。B正しい行動を阻害する誤った概念を消去すること。C自然治癒力を阻害する誤った観念や概念を消去すること。D新しい発想を生む。と言うものです。

詩吟の具体的効果

◆ 心身一如という言葉のように、心と体が一つであるという考えもありますが、実はそれほど簡単に言い切ることは出来ません。体の中に心があり、また、心に体が包まれ、心と体は相互に深く関連して生命が営まれているわけです。つまり体の中(脳)に心があり、目には見えない心の働きが、体(肉体)の複雑な機能を操作している。

◆ 仏教でいうところの七情「喜・怒・哀・楽・愛・悪・欲」が、みな中和すれば、肉体は大変良い環境におかれ、身体的な健康は維持できますし、逆に肉体が健全であれば心も病まずに精神的健康が保たれます。

◆ 詩吟は、心身の両面から健全性を高める芸道といえるのです。

詩歌の心(精神)に及ぼす作用

◆ 「はじめに言葉ありき、言葉は神である」と言われるように、言葉は軽視できません。詩歌は真善美の心が言葉となって吐露したものですから、人の心の琴線に直接触れるわけで、心にとって詩歌は大きな影響を及ぼします。

言葉は、最も人の心に強く反応し、快い言葉は無条件に受け容れるが、反対にその人にとって不利な嫌いな言葉には即座に拒否してしまいます。言葉で人の心に訴える、いわゆる意見や注意などは本人にとって歓迎される内容のものではないことが多く、その場合顕在意識が強く働いてこれを聞き容れようとしないものです。
 言葉は、他人を支配するが、それにも増して言葉を発する人の脳に直接働きかけます。『言霊』といわれるように、言葉には魂が込められていて、よいことも悪いことも人の心や体を支配しています。

◆ 詩歌は『真善美』の結晶といわれ、詩歌の言葉には人の心を動かす大きな力がはたらきます。「少年老い易く学成り難し一寸の光陰軽んずべからず」、「心に太陽をもて嵐が吹こうと吹雪が吹こうと」 、「一度忍べば七情皆中和す・再び偲べば五福皆中和す・・・」など、教訓的な詩歌の言葉は何の抵抗も無く自然に聴けます。ここがポイントです。一方抒情詩や風景(物)詩・叙事(歴史)詩なども、それぞれに趣があって心の抵抗もなく、心の鏡は写し取ってくれます。

◆ 『詩は絵画であり、一様の響きをだす音楽であり、音楽は魂を吹き込まれた詩である』。この名句はドイツの詩人、ゲオルク、フイールズ・ハルスデルファーが残したものです。また、ジュリオ、カッチーニと言う人は「語り言葉は音楽の女主人で、下女であってはならない」と、これらはバロック音楽に関する評ですが、それまでの模倣や情感の音楽より、言葉が優位でなければならない、つまり、ことばが音楽上最も大事であるということをあらわしたものです。

◆ 言葉や詩歌を学んだ結果を計測して、その効果を数字でみることができないけれど、言葉や詩歌が人間の情操を育み、肉体を包み込んでいる心の健康にとって、いかに大切なものであるかと言うことがご理解いただけると思います。

詩吟は呼吸の鍛錬

◆ 「人は気中にあり、気は人中にあり(葛洪の著書『抱朴子』)」といいます。ここで言う気は大気・気流のことで、気の出し入れは呼吸ですが、「昂然の気を練る」という言葉がありますが、それは呼吸を鍛錬することを指しており、まさに詩吟がこれにあたります。
 
平時における呼吸は延髄で行われてれている無意識呼吸ですが、ここで言う呼吸は大脳を使った呼吸筋の努力と開放のバイオリズム・丹田呼吸・意識呼吸を言うのです。

 今日、多方面における芸道の場において、相応の呼吸法が実践されておりますが、白隠禅師が伝える「ひさご腹呼気性丹田呼吸(白隠の呼吸法=村木弘昌著)」が原点であります。なぜならば、釈尊が難行苦行6年間、そして菩提樹の木の本に座すこと3ヶ月、ついに悟りを得た時の呼吸で、以来45年間実行されたということです。
それは「アナパーナ・サチ」といって、吐く息は長く・吸う息は短く、心をこめた呼吸であると言われます。具体的には足心(足裏の土踏まず)に心を集中して、息を吐いてはいて吐ききることに徹すると、その反動で大量の気が肺へ迎え入れることが出来るというものです。

◆ 気を練り精を養い育てていけば、種々の病気を未然に防ぐことが出来るし、熱心に取り組めば癌の予防にも役立つといわれます。丹田呼吸は元来人間にとって自然の呼吸であったのが、文明の進化によっておろそかになってきたと考えれれているのです。

◆ 長生きの秘訣について、彭祖は(八百歳まで生きたといわれる古代中国の仙人)、「その道はなはだ近くして人能く行うなし」「鴻毛(鳳の羽毛で極めて軽い)を鼻上につけると仮定して、それが300回も呼吸して動かない状態になれば、そのときこそ耳から入ってくる音・眼から入るすべてに心を煩わされることが無くなる。そのような外界のものに煩わされなくなると、寒暑にあっても平然として耐えられることができ、蜂や蠍(サソリ)の毒もうけつけなくなる。そうすると360歳の長寿もめずらしくなくなる。これこそ真人の生活である。」という。

◆ 優れた人というものは絶えず下半身に心をこめて息をしているものである。心気を下部に充実させ、下腹部に力が入っている状態。常に丹田呼吸を心がけることによって内憂(七凶=情動の狂いから生ずる七つの病で喜・怒・憂・思・悲・恐・驚)、外患(四邪=風・寒・暑・湿)を防ぎ、大気と血液が人の心と体を守ってくれるというのです。

◆ 「浩然の気を養う=孟子」ということばは、天地の間に流れている広大な元来の大気、常にその本来の根本の大気を強い腹圧呼吸によって丹田に蔵めることを実行することを言うのだそうです。

詩吟は肉体の面においても優れた効果をもたらします

(1)-詩吟は亀の呼吸と同じだ。(鶴は千年亀は万年)

@ 昭和50年頃のことであるが、永吉大造著「発声法の理論と技法(音楽の友社)」に、呼吸回数が少ない生き物は長命らしい。亀の呼吸回数は一分間に3〜5回で寿命は150年から180年くらい。ウサギは38回くらいで最高8年くらいというように書くれていが、以後研究が進み現在ではこのことが実証されました。つまり「活性酸素」が病気や老化の原因になっているということです。ほんの一例ですが、狭いところに運動させないで飼育したラットと、広いところで運動させたラットでは、運動させないラットの方が長命だったということです。結局酸素を体内に多く取り入れない方が健康長命であるということが立証されました。

A 詩吟は吸息法といって、漢詩を二句を三節で吟ずることを基本としますから絶句は6節、言い換えると6回息を吸うということです。絶句は約2分かけて吟じますから1分間の呼吸回数は3回です。

実のところは3回の息継ぎで吟じることはできなくても(1分間に3回の息継ぎというのは、呼吸に練達した場合のことであって初心者には困難なうえ、安定した伸びやかな吟をやるには5〜6回がよい)例えば、多くみて6回としても、概ね亀さんの呼吸回数と同じになるわけです。

B 人間の呼吸回数は通常1分間に十五、六回と言われますが、詩吟を続けてやっているうちに徐々にではありますが呼吸筋が鍛えられ、また、呼吸が鍛錬されて知らず知らずのうちに日常生活の中で亀さんの呼吸に近づいてまいります。まず、これが根底にあることをふまえて考えていただくと呼吸と生体との関係がよくご理解いただけると思います。

(2)丹田呼吸が生体に及ぼす影響

@ 丹田呼吸は横隔膜が上下に運動するので、内臓のマッサージになり、とくに、肝臓や胃腸が丈夫になる。

A 肺臓や心臓・脳血管が丈夫になる。

B日常生活の呼吸では、肺の底部に交換されないガスが残るが、丹田呼吸ではガス交換率が高いため、酸素がゆきわたり血液がきれいになる。

C 吟声は、丹田を強く引き締めて(呼気性丹田呼吸)これを長く引きますから自律神経のうち交感神経(夜の神経、緊張を緩和する神経)が働くために心の緊張を和らげ、各種ホルモンの分泌がよくなることから身体諸器官の機能が強化される

D 詩吟は、音程がしっかりしていて心地よく共鳴し、詩の読み下しや余韻の安定、強弱.・緩急・間・明暗・奥行きなど、適切な詩心表現や芸術吟詠のためには、健康法の呼吸法とは必ずしも一致するものではありません。

(3) 唯一呼吸のみが自律神経をコントロースする

@ 後先になりましたが、吸気は交感神経のはたらきで、呼気は副交感神経のはたらきによっていとなまれております。逆説ですが、呼気を意識して強く長くすることによって、副交感神経のはたらきを優位にできることが証明されております。したがって、意識呼吸によって自律神経を制御することができるわけです。歌をうたうとストレスが解消されて体によいということはこのためです。

A もう一つ大事なことは、副交感神経を優位に置くことによって、リンパ球が増加し、そのはたらきが活発になるということです。したがって、キラー細胞とかNK細胞とか言われるホルモンがはたらいて癌細胞を退化させるというのです。

B 詩吟で正しい発声・呼吸法を学び、日常生活における呼吸が意識呼吸になれば、健康
上意外な効果が期待されると思います。