「一目惚れだったから」
強い想いを感じた。
嫉妬すら感じられない程に。
青春ラプソデー。B
「――せいぜい、どの位までなら行けるかしらね」
青空に向かって呟く少女。
「――さあ、どうだろうな」
それを軽く流しながら、青空を背にマースは答えた。
「俺はアイツ次第だからなあ」
「あたしは、そういうわけにもいかないもん。大佐くらいが限界ってところかしら」
「大佐まで行けば相当なモンだろ。それこそ、将軍家のご令嬢以外でその地位に就いた女性軍人なんて聞いたことねえし」
「じゃあ、大佐にする」
簡単に言ってくれる――。
マースは頼もしくも、苦笑した。
『 大 し た 夢 想 家 だ と 思 わ な い ―― ? 』
話すうちに、自分にだけ明かされたの胸の内。
「彼は本気で、真っ向勝負で出世できると信じてるのよ」
胸に秘めた、想い。
「マースは下で働くって決めてるんでしょ?それなら、あたしは彼の上を行くわ」
険しい道を平にすることはできないかもしれない。
それでも少しの間だけ、道標くらいにはなれる。
女である自分が早く出世することで、彼に対する風当たりを幾許かは弱められる。
「あたしは自分の直感だけは信じてるの。彼は上に行ける――軍を、この国を変えることができる」
新入生総代として壇上に上がる姿を見たときから。
「――容易く運命くらい信じられるわ」
「……だってよ。熱烈な愛の告白だと思わねえか?ロイ」
「……」
ロイは沈黙した。
昨日から、一ヶ月間のインターンに入ったは言うまでもなく公欠中だ。
校内は何処となく静かで。
「たった一人いないだけで、これだぜ?普段は何も感じないのにな」
不在であって初めて分る。
強烈な、存在感を。
「凄いヤツに見込まれたもんだな、お前も」
未来だと
希望だと――彼女は言った。
「まったくだ」
ロイは笑う。気負いなく、ただ。
「――期待には応えなくてはな」
一切の迷いは、そこにはもう無かった。
「目指すか――?」
あの高見を。
親友の問いには、微笑で返す。
利用できるものは利用する。
盗める技術はすべて、盗む。
「とりあえず手始めに…国家錬金術師の資格でも取ろうかと思ってるよ」
「――ははっ!道標も追い越す勢いだな!」
「当然だ。あいにく負けたままは性に合わない」
まして――
「惚れた女なら尚更だ」
これも運命だと
何時の間にか疑いも無く、信じられるから。
「――さて、俺はもう行かねば」
「お、今日も図書館でお勉強か?」
「ん?――ああ、」
デートだ。
「は――?」
豆鉄砲を食らったマースに、ロイはまた微笑う。
出逢って此の方初めて見せる、意地の悪い笑顔で。
「ダリス家のご令嬢とな」
パタン――
閉まった扉に放心しながら、マースは額に手を当てた。
「――!は、はは…ッ!こりゃあ参った!」
あの、優等生が?
真面目一徹の?
それこそ鉄仮面のロイ=マスタングが?
「こりゃぁマジでひょっとするかもな――」
そんな
甘く切なき――青春の日々。
「――ということがあっただろう?」
「ああ、そういやあ、そうだったな」
若かりし頃の思い出に立ち返っていた2人は、はたと現実に引き戻される。
「俺達ももう25かー、四捨五入から斬り捨ての時代だなあ…そうすりゃ、あと5年はハタチと言い張れる」
「何なんだ、その悪足掻きは。…まあ確かに、最近腰が痛むことが良くある――」
「やめてよ、ジジ臭いなあ」
「仕方ねえだろー?そういうお前はちっとも変らねえけど――は?」
ロイとマースは同時に、階上へと視線を移した。
「や。久しぶり」
あの頃と同じ、笑顔。
「おー!――じゃねえや、大佐!ほんと久しぶりだな!」
「もう、ヒューズ少佐…<大佐>つければいいってもんじゃないでしょ」
ぼやくに、「まーまー今更固ぇこと言うなって!」とマースは笑った。
「よしよし――んじゃあ、俺は仕事に戻るかな!」
――お疲れさん!!
マースは去り際に、の頭をぽんぽんと軽く叩いていった。
「……大佐」
上と下。
2つの双眸が交差する。
「随分、遅かったわね」
「ええ、焦らすことも覚えまして」
は笑った。
「ロイ=マスタング!!」
回り始めた、最初の場面。
注意される前に、ロイは自分から返事をした。
「――ああ、何か用か?」
何年かぶりの、解禁。
それは
「昇格おめでとう、…ロイ」
―――追いついた、証。
2人が隔たれていた段差がなくなる、予兆。
「ねえ、ロイ…?これで、あたしもう――」
女に戻ってもいいのよね?
答えは、極上の微笑と広げられた腕だけで。
背中を追うことも、向けることも、二度とないように。
「ああ、もちろんだ」
あの日から少しずつ縮まっていた距離は、今一気に0になった。
それを無くす代わりに生まれたものは――温もりとキスと愛のすべて。
「いやあ、長い青春だったよなァ…」
影から見守っていたマースは、一人穏やかに笑った。
2004/09/18