verry berry Merry-go-round
---番外編 : 酔っ払いに制裁を。
「あーああー。もう、みんなだらしないなあ」
少し早い忘年会と称して開かれた飲み会は、お店よりも安上がりだということでハボック家で催されることになっていた。
とりあえずの参加者は家主の2人と、フュリー曹長、ファルマン准尉にブレダ少尉の5人。
その他の大佐とホークアイ中尉はどうしたかというと。
「……後から行くよ」
冷や汗をだらだら垂らした大佐は、それでも笑顔でそう言った。後ろに立った中尉の無表情な顔と、山積みの書類。
ただでさえ孔だらけの壁にまた一つ増えた弾痕が生々しくて、私も微笑むことしかできなかった。
――なにはともあれ、上司がいない飲み会というのは殊のほか盛り上がるものであり。
数時間のどんちゃん騒ぎを経た今、いつもは快適なリビングには屍がごろごろと転がっていた。
「疲れ身にアルコールは効くんだっつーの…」
唯一、意識がはっきりしているハボックが苦笑した。その傍らには直立姿勢のままに倒れこんだファルマン准尉が見える。(しかもうつ伏せって…呼吸できてるのかな?)
「まぁ、それにしたってヒドイかもしれねーけど…この状況」
たとえば一番酒に弱いフュリー曹長は、若年ということもあって早々にダウン。顔を真っ赤にしたまま赤ちゃんみたいに眠っているし。(時々「ムニャムニャ…」とか聞こえてきたりして可愛い)(ちなみに危ないので、メガネは外してテーブルの上に置いてあげた)
「ブレダ少尉なんて…」
「ぐおー、んががが」
「酔っ払い親父の…」
「ががががごーっ!んがーががががっ――」
「だああッもううるせえな!!」
痺れを切らしたハボックが、ワインコルクを投げる。
スコーン!と小気味のいい音と共に命中したら、ブレダ少尉は大人しくなった。
・・・・・・と、まあ、そういう状況なのである。
「でも皆だってさ、たまにはハメ外さないとやってられないだろーし」
「外しすぎだと思うけどな」
苦し紛れのフォローも跳ね除けられて苦笑が漏れる。結構飲んでたはずのハボックだけれど、後片付けのことが頭にあるから、お酒が回るのがちょっと遅いのかもしれない。
「こうなっちゃったら飲むしかないでしょ。はい、どうぞ」
開き直った私はハボックにワインを注いだ。燃えるような赤がグラスを満たしてく。
「…そう言やあ、。お前今日は割と平気じゃねぇか?」
「ああ、うん。ほら、おつまみ作ってたから、あんまり飲んでないし」
「んじゃぁ飲め飲め。俺が許す」
「嫌よ。もうあんまり飲むなって言ったのハボックじゃない」
男にとってはタチの悪すぎる酔っ払いだと言われて以来、自分では気をつけるようにしていたのに。
「いいだろ、どうせもう生き残ってんの俺しかいねぇんだし」
「でも…」
「今夜は帰りたくないの」
「――ッ」
裏声を使って上目遣いのハボックに、開いた口が塞がらない。
私の目の前には、心底可笑しそうに喉を鳴らす酔っ払い――ムッッッカツク…!
「くっくっく…今日は使えねーんだから安心しろって。最初っから自分ちで飲んでんだから」
はいはーい、分ったら飲みましょうね?ちゃん!
とか言って半ば無理やりボトルを取り上げられてしまう。まだ飲み干してなかったグラスに並々と注がれた。あんまり勢いよく注ぐから深紅の飛沫が少しだけあがって。
「あー・・・ハボック粗相!」
「悪ィ、悪ィ」
ティッシュを探そうと動く私の手。
「もう・・・これが私の世界だったら一気させられるところだよ?」
エス・オー・エス・オー…とか
「言っ――」
ペロリ。
濡れた指先に感じた生暖かい感触に、思わず息が詰まった。
「ん?どうした?」
「ど、どうしたって…いいい、今」
「舐めちゃ悪いか?」
舐めちゃ悪いかって、そんなの――
「 悪 い に 決 ま っ て ん で し ょ ー !!!」
ハボックを振り払って、なんとか鼓動を治めようとする。(ほんとビックリした…!)
そうして思い出した。
ハボックは酔っ払ってるんだ。しかも、かなり。
彼の酔い方は確か――
「ー?ほら、こっち来いって」
背後から腰を片手で引かれて、当たり前みたく膝の上に収まる。私を膝に抱えたまま、片方の手は私のお腹。もう片方の手でワインを喉へと流し込む。
そう、そうだ。
今までも酔っ払って帰ってくると「ただいまー」と抱きついたり、お風呂一緒に入ろうとしたりして。
つまり酔っ払ったハボックはいつにも増して――
(エロくなるんだった…!)
行き当たった結論に頭がくらくらする。その間にもハボックは盛んにお酒を勧めてくる。
「飲まねーんなら飲ませるぞ」
「わかったわかった、自分で飲むから…!」
すわった視線に押されて、ぐいっと一気に飲み干すこと何度かは、分らない。
思考回路はもうすっかりへろへろになって――
記憶は彼方に飛んだ。
***
――ロイ=マスタングは頑張った。
普通だったら一日で終わるはずのない書類を終わらせるほどに頑張った。
中尉でさえ「今日は私は遠慮します。みんなに宜しく」と言って帰るほどハードに頑張った。
それはみな、可愛い少女にお酌をしてもらうことを夢見て頑張ったのだ。
それなのに。
「・・・・・・」
意気揚々と開いた扉の先の光景は、あれはなんだ。
そこかしこの屍はこの際、どうだっていい。問題は、真正面のソファー。
「ん…」
天井を仰いで眠っているハボックと、その膝の上で、ハボックの首にきつく巻きついているのは――
「・・・・・・・・・?」
確認するまでもない。あれは間違いなく、だ。
ハボックに密着したまま幸せそうに眠る、あの天使のような笑顔は正しく・・・
「ひっく…ぅん?ああ、大佐――遅かったすねー…」
殺気に中ってのことだろうか。
ハボックだけが目を覚ましてロイを見やる。
「……少尉。何だ、それは」
「何だって――は?」
スムーズに装着されていく白い手袋を目にして、
ハボックは漸く飛び起きた。
「はぁ?!ちょ、ちょっと待って下さいよッ、大佐!!おい、、お前起きろ!!」
一眠りしてすっかり酔いも覚めてしまったハボックはわたわたと腕を振る。
揺り動かされて、は「ううん…」と悩ましげに唸った。
「早く起きろって!俺の命がかかってんだぞ!!」
「うん…ハボック?」
ゆっくりと目を開けたが、ハボックを見てにっこりと笑った。至近距離のそれに、ハボックの心臓も鳴るが、炎はきっと待ってはくれない。
「なぁ、?俺ら一緒に酒飲んでただけだよな??」
必死にからの弁明を引き出そうと試みる。
「ハボック・・・・」
けれど、かっちり合った視線に――
(・・・・・・あ、ヤベ)
こいつまだ酔ってる――
そう思ったけれど、遅かった。
「今夜は離さないって言ったじゃない」
焔の錬金術師の指パッチン!まで、あと5秒。
「レア・ミディアム・ウェルダン――どれが望みだ、ハボック」
「ちょちょちょっと待った!いいか、?よーく思い出せよ??」
肩を揺さぶると、「あ」と何かを思い出したが顔を赤くした。
「・・・そう言えば、ハボックに」
あと3秒。
「スススススストップ!!それはやめよう!言わんでいい!!そこはかとなく嫌な予感がするッ」
「構わんよ、?少尉に何をされたか言ってごらん?」
にっこりと青筋を浮かべた笑顔のロイが先を促す。
・・・・・・2秒、
「ハボックに――」
舐 め ら れ た 。
その言葉が出掛かっているのがハボックには分った。
このまんま、
どうせ焼かれるんなら――
「ああもうメンドクセー!!!」
ハボックはボトルごとワインを口に含んだ。
1・・・・・・
「……舐――ぅんッ」
余計なことを言うの唇を、ハボックは自分のそれで塞いでワインを流し込む。ごく、ごくと喉が鳴ったと思えば、はくてん、と力を失った。
――さて、タイムオーバー。
一度嘆息したハボックは、をソファーに優しく降ろしてそろーりと炎に向き直る。
「あー…っと、
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・できればレアで頼んます」
もちろん
「ぎゃああー!!!」
――問答無用のウェルダンゆき。
一周年企画LOG--07