空の下。
奏でる僕らの、



















青春ラプソディー。(UNDER THE SKY)


















人が。
人が溢れているようで、実際、特定の人物たちしか寄り付けない場所がある。
すべての階段を昇り切らなければ辿り着けない場所は、思い返してみれば様々な色を見せてくれた。
多くは青、強くは橙色を。







「本気で言ってる?」
眉間に皺を寄せて問いかける少女に、同じ制服を着たロイは一歩たじろいだ。
貴重な自習の時間を費やすからには、それ相応の価値がなければならない。知らぬことは学べ。無知を恥じて、教えを請え。



『利用できるものは利用するの。家柄も能力も容姿も周囲の人間も、全部。利用されてる振りをしても、最後は逆に利用するの。時には道化を演じ、油断させて――牙は隠しておく』



それこそが、記憶の片隅に残る父の遺言なのだと、今、自分に向かって嘆息する少女は言った。
また、『だから、私のことも大いに利用すればいいのよ。まあ、女の扱いなんて結局は慣れだけれど』とも。










「・・・・・・ちょっと、ロイ=マスタング?今の答えは本気かって聞いてるんだけど?」
「ああ、至って本気だが」



今日も例外ではない。屋上で行われる、2人だけの秘密講義。
指導教授は

履修している生徒はロイ=マスタングただ一人というシンプルな青空学級。





「貴方って人は、彼女が寂しいって言ってるのに "今、忙しいんだ。明日でも構わないかい?" って返すの?勉強を理由に?」
「学生の本分は勉学だ。当然の回答だろう?」
「学生の本分なんて聞いてないのよ。ちなみに、貴方の本心もね」
大きく息を吐くロイに「はい、今度はマニュアル通りにどうぞ?」と、
は一度だけ手を叩いた。










TAKE2.――アクション!



「・・・・・・マスタングさん、わたしなんだか寂しくて・・・。貴方に今すぐ、会いたいの」
「今すぐ、かい?それは困ったな・・・」
「そう・・・よね。大事な考査前ですものね」
「いや・・・私には君より大事なものなどないのだが、ね。わかった、今どこにいるんだい?すぐに行くよ」
「マスタングさん・・・・・・。ありがとう。その言葉だけで私は十分よ。わがまま言ってごめんなさい。試験、頑張ってね」
「待ってくれ、
――。すまない・・・俺、君に甘えていたな。こんな風に言えば、優しい君が引いてくれると分かっていたのに・・・・・・ずるい男だ、私は」
「そんなこと――」
「待っていてくれ、
。やはり、すぐに行くよ。無理を言って悪いが・・・・・・
私も今すぐ君に会いたくなってしまったから・・・・・・・・・・・・」



カーット!










「・・・・・・ふむ。まぁまぁ及第点、てところかしら」
「それは少々、厳しすぎないか?一人称の使い分けから間の取り方まで完璧だっただろう」
憤慨するロイに、
は「だって、まだ照れがあったし」と努めて冷静に突っぱねた。



「ところで、ロイ=マスタング?女を口説くときのコツは?」
「・・・・・・決して、照れるな」



「良く出来ました」
にっこり笑った
には、薄く染まったロイの耳の色はお見通しだったようだ。







「でも、ここってときはわざと照れるのも効果的かもしれないわね」
「・・・まったく、注文が多いな」
「相手は女なんだから、仕方がないわ」



くすくす笑いながらも、異性であるロイに恋愛のイロハから女の口説き方まで伝授する
自身は、どこでそれらを身につけたのだろうか。
一度、それとなく訊いたこともあったが上手にはぐらかされてしまった。



『私を口説き落としたら、教えてあげてもいいわ』



そう言って笑った彼女は、もうひとつ、





『ああ、でもそれも不可能な話ね』










もうとっくに、私はロイ=マスタングに落ちているのだから。















(――さらりと言ってくれるものだ)
照れもせずに面と向かって告げられたとき、狼狽したのは他でもないロイだった。当の本人は、彼女の教えよろしく顔色ひとつ変えずに微笑んでいただけで。



「そう言えば、ダリス嬢とはキスのひとつくらいした?」
「――優秀なる師の言いつけ通り、手の甲にひとつだけな」


「効果は?」
「上々」



肩をすくめるロイの答えに満足したのか、
は「ふむ」と頷いてロイの両肩に手を置いた。その唐突に訪れた柔らかい感触に、心臓が跳ね上がる。
肩に置かれた手。
いつもより間近にある双眸――たったそれだけのことなのに。













「時に、ロイ=マスタング。貴方、キスの経験は?」





「は・・・?」
現実に引き戻されたロイは目を丸く見開く。
ようやく沈みかけていた太陽も、驚いてまた昇ってきてしまったのではないか。そんな風に思ってしまうほど、辺りは急に橙に染まっていく。



「いきなり何を言い出すかと思えば・・・」
「あら、重要なことよ。鼻と鼻がぶつかるのは、よろしくないわ」
「よろしくないって・・・・・・」



ロイにいくら経験がなかったとしても、キスするときの心得くらいはある。そのまま真正直に顔を近づけたのでは、唇の前に鼻先が当たることぐらい物理的に考えて予想できる範疇だ。





・・・君は俺を馬鹿にしてるのか?」
「そういうわけじゃないわよ。ただ、念には念をって、よく言うでしょう?」
可笑しそうに目を細める
にロイはひとつだけ嘆息し、流れるような動作でその細い腰を抱いた。
念には念を――?




「君の場合は念を押しすぎだ」



素早く、
の唇を自分のそれで塞ぐ。
間違えようのない角度で、的確に、やわらかく、触れるだけ。





「・・・・・・さて、これで安心したか?
教授」
「ええ、一応ね」
「一応ってな・・・」



うめいて、片手を額にやりながらはた、と気づく。
同じ色に染められた場所の中で、薄紅に染まった一点に。







・・・?」
「安心したわ。あんなお嬢様に貴方のファーストキスはもったいないもの」



いつもよりも声量を落として、頬を染めて。










――ここってときはわざと照れるのも効果的かもしれないわね。










(ああ、本当にその通りだ)
胸中で苦笑しながら、背けられた顔をもう一度とらえようと顎に手をかける。



「ロイ=マスタング・・・?」
「念には念を――だろう?」



同じ角度で近づける。
念には念を。
愛すべき師からの教訓は実行せねば。
――もっとも。







紫へと変わる空間のなか、触れるはずだった唇は重たい鉄扉によって霧散したのだけれど。







ギィィ・・・と開きゆく扉。宙を飛ぶ身体。入ってくる人影。







「ロイー?
ー?って――」



ラベンダーよりも濃い天を眺めながら背中から落下したロイと、両手を突き出したままの
を捉えた視線は。
惚けた様子の、友のもの。










「・・・・・・・・・・・・なにやってんの?お前ら?新手のコント?」
「「いや、別に」」























僕らの青春ラプソディー。
これからも、大事に奏でてゆきましょう。





















一周年企画LOG--012