場所は同じ、港町。ストーク。
時同じくして空が蒼から紫に変わる頃、街に着いたばかりの
シャウティー・ラウケマップは口説かれていた。
彼女は長い茶色の髪を紐で結んでおりお下げにしている。彼
女の透き通るような白い肌と華奢な体つきは、儚げな印象を更
に強め、彼女の危なっかしい行動を見る男性は、何となく放っ
ておけないのが不思議である。
「困ります」とシャウティー。
「いや、あなたのような美しく、優しい方こそ、我々のような傷つ
いた男性を癒してくれるのですよ。
それは傷ついた者を助けるのが、旅の神官としてのつとめで
はないでしょうか。何も傷とは血が流れるものばかりとは限りま
せん。決して薬草や魔法では癒されない無形の心の傷がある
のです。
それを癒そうとするならば、あなたの心に触れる意外に考え
られません。あなたの優しさを、ほんの少しだけ私に触れさせ
て下さい」
このような誰でも見破れる下心見え見えの詭弁を、つい本気
で考え込んでしまうのは、シャウティーである。
彼女は月の女神ラクシェの神託によりこの街に出てきたのは
良いが、入ったとたんに試練にあった。
月の女神ラクシェとは、「大切なものを保護し、育め」という訓
戒を与える神である。
その御姿は、白い衣に身を包み、その衣の下には、無数の
豊満な乳房があり、赤子に母乳を与えているといわれている。
それは、ラクシェの神像の姿は多くは、赤子を抱く母親を神
像であることからであろう。
プエルギガスの12神を代表する神であり、人間に愛の心を
与えた。
といわれている。
ラクシェの信者は、人は死後ラクシェの胸に抱かれ冥界に導
かれ、再び目覚めるまで、ラクシェの胸で眠ると言われている。
そして、ラクシェの神官は、ラクシェの信者を中心に、それ以
外の存在を愛で包み保護することを生業としている。
正面の男は、ラクシェの神官であるシャウティーをくどく口実
に、ラクシェの教えを利用している。ということである。
正面の男は見れば見るほど色男で、その上、女性の自尊心
をくすぐるようなことを次々と連発して言う。そのように女性を自
分の言葉に酔わせてから、女性との距離を縮め、心の距離も
縮める。
そして、タイミングを見計らって、傷ついた自分のあり様を見
せて、一気に口説き落とすというのが彼の常套手段である。
まったく、女性の敵である以上に男性の敵である。更に、彼
に敵対心を持つ男性は、彼のやり方をまねても滑稽なだけで
ある。
大抵の女性は、彼の手口に引っかかる。だが、シャウティー
は違った。
人一倍感受性の高い彼女には、彼の下心が筒抜けなので
ある。
しかし、だからといって彼を蔑ろにする事が出来ないのが何
とも痛々しい。そんな彼女に神の救いの手がさしのべられた。
「おい、ジョン。その娘はうちの新しい娘だよ」
酒臭い息を吹きかけるように言ってのけたのは、白き雌鹿亭
から出てきたジョアンナである。
「ジョ、ジョアンナの姐さん・・・・」
ジョンと呼ばれた色男は顔が真っ青になる。
「ああ、この娘、あんたのとこの娘だったのか・・・・悪かったよ。
だってさ、ここに来たばかりの鈍くさそうな娘で、カモだとおもっ
たからさ、それにしても、姐さんもひどいや、ラクシェの神官の
格好をさせるなんてさ。
姐さんとこの娘だって、知ってりゃぁ口説きはしなかったよ。
あ、俺、急用思い出した」
そう言うとジョンは脱兎の如く逃げ出した。
「フン、一日中暇なくせに・・・・
危なかったねぇ、嬢ちゃん。
あの男の言ってることは気になくて良いよ。ここはあんなくだ
らない男が沢山いる街なのさ。だから私の仕事が繁盛してるん
だけどね・・・・」
「あ、あの、ありがとうございます。なんとお礼を言ったらいい
のか」
「礼には及ばないさ・・・・いや、嬢ちゃん、見た所ラクシェの神
官様だろ。
頼みたいことが一つある。聞いてくれるかい?」
ジョアンナは、意味ありげな含み笑いが、ジョアンナの妖艶
さを増していた。
呟き尾形 2005年3月20日 アップ
|