A(原告)は、小学校2年生の男の子で、事故当時自転車に乗っていて道路を通行中、

近くの家から飼主B(被告)の手を離れて道路に走り出た犬が自転車のほうに近づいてきたので、

道路の端に避けようとしました。ところが、ハンドル操作を誤り道路に沿って流れる川に自転車もろとも転落し、

Aは顔面を負傷し結果左眼を失明したため、Aは犬の飼主であるBに対して損害賠償請求の訴えを提起しました。

Aののっていた自転車はAにはやや大きめであり、ペダルには十分足が届いていませんでした。

また、犬は体長40センチメートル体高20センチメートルのダックスフンド系の愛玩犬で、

噛付いたり吠えかかったという事はありませんでした。






第一審では、次の理由によりAの損害賠償を棄却しました。

@本件の犬は大型犬ではなく愛玩犬であり、脅威感を与えるような犬ではない。

A事故の際は道路上で2メートルほどAの方に歩み寄っただけであり、

未だAに対して何ら違法な侵害行為をしていない。

Aはこの判決を不服として控訴しました。






第二審では、Aの請求を認めて次の通り判示しました。

@Bの手をはなれた犬がAに近づいた事と、普段から犬嫌いであったAが近づいてきた犬に

一瞬ひるんだ事が、自転車の操作に十分なれていなかったことと相まって転落事故が発生した。

A飼主の手を離れれば、事故の発生がありえるにもかかわらず、

Bが鎖をはずしたのは注意義務を欠き民法718条の責任がある。

※)民法718条(動物占有の責任)動物の占有者は、その動物が他人に加えたる損害を賠償する責に任す、

但し、動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその保管を為したるときはこの限りに在らず。

ただし、ペダルに足が届かずしかも乗り慣れていない自転車に乗っていたAに90%の過失相殺が認定されました。

Bはこの判決を不満として最高裁に上告しました。







最高裁では次の通り判示してBの上告を棄却しました。

「右事実関係のもとにおいて、7歳児童にはどのような種類の犬であってもこれを怖がるものがあり、

犬が飼主の手を離れれば本件のような事故の発生することは予測できないことではないとして、

上告人に民法718条所定の損害賠償責任があるもとした原審の判断は、正当として是認する事ができる。」

ただし、この判決には1名の反対意見がありました。

反対意見の要旨は次の通りです。

民法718条の「損害」は動物の動作によって一般に生ずるであろうと認められる損害でなければならないということ、

また、「注意義務」は通常払うべき程度の注意義務であって、異常な事態に対処しうるべき程度のものではないこと、

が前提とされるものであり、本件は小型犬でありそれを放した場合に本件のような事故の発生を予見し、

または予見の可能性があるとすれば、苛酷なまでに過剰な注意義務を課していることになる。

したがって、本件の犬のように人に危害を加える恐れがない犬については、

これを放置しても注意義務に欠けるところはないものと考える。






本件については、大きく分けると二つの論点があります。

一つは、民法718条「動物占有の責任」は相当の注意義務を払った場合には免責が認められる」

という規定ですので、本件について「相当の注意」が払われたかという事が論点になります。

「相当の注意」とは、「通常払うべき程度の注意義務まで課したものではない」(最高裁判例s37.2.1)

と解されていますが、その程度は、個々の場合についてその動物の種類、

性質および周囲の状況に応じて具体的に決めていく事になります。

判例上では危険度の高い動物とそうでない動物とでは、注意義務の程度を異にしてます。

しかし、犬の場合は飼主に対しては非常に従順な性格を持っていますが、飼主以外の者に対しては

必ずしもそれと同様とは言えないのが普通ですので,原則として、

犬を放置している事は注意義務違反を問われる事になります。

もう一つの論点は、犬の行動とAの損害との因果関係の問題です。

本件の犬は、被害者に噛付いたり吠えたりしていませんので、第一審判決では、「本件の犬の加害行為と

損害発生との間に法的因果関係があるものと認めがたい」として、損害賠償責任を否定しました。

第二審および最高裁では、Aが犬が嫌いであり、その事実と相まって路上に放置された犬の存在がAの自転車

の操縦に影響を及ぼした為転落事故が発生した、ということで因果関係を認めています。

ただし、判決では、自転車はAには不適当な大きさであり、しかもAは自転車の操縦に不慣れであったことから、

90%の過失相殺を認めており、そのため実際の損害賠償額はかなり名目的なものになりました。

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