ボサ・ノヴァの神様、アントニオ・カルロス・ジョビン、

ジョアン・ジルベルトを生んだ国、ブラジル。

そのブラジルを捨てた、美貌のボサ・ノヴァ・シンガー、国近奈々。

加納考一は、奈々の身辺にしのびよる不審な影に、神経をとがらせている。通りすがりのヘルメット姿の賊が、考一の腕を刃物で切り裂いて、逃げたのだ。奈々を狙った可能性も捨てきれない。

付き人によれば、去年、奈々の部屋に、男が忍び込んだものの、CD一枚と、楽譜を残して立ち去ったという。付き人は奈々とともに、男の顔を目撃していた。男は、ヘルメットの賊とは別人だった。男は、奈々の父親、国近晴之だった――。

国近晴之――ボサノバのスタンダード・ナンバー、『パウリスタの太陽』で、世界中にその名を知られる作曲家である。だが、その素顔は、コカインをさばく、ブラジル犯罪組織の大幹部だった。

奈々は、父の暴力に耐えかね、日本へ逃げてきた。だが、そんな娘を許す父ではない。広く親しまれている『パウリスタの太陽』は、実は奈々が作曲した作品であり、その証拠も奈々の手元に残っているからだ。

奈々のマンションが、ふたたび荒らされた。
考一が駆けつけたとき、すでに犯人の姿は消えていた。去年と同じく、国近晴之のCDアルバムと、『パウリスタの太陽』の譜面を残して――。

考一は、現場でかかっていたトム・ジョビンのCDアルバム『ANTONIO CARLOS JOBIM/THE COMPOSER PLAYS』に気づく。そのサウンドを手がかりに、犯人像を明確に推理してみせるが、事態は予想しない方向へ流れはじめる。

ポーの小説『盗まれた手紙』に暗示される事実。
奸智にたけた犯人の、大胆不敵な計略。
莫大な著作権料を約束する、スタンダード楽曲をめぐり、黒い欲望がうごめく。

明示された手がかりと、精緻な論理で、真犯人をあぶりだす、
フェア・プレイ精神あふれる音楽推理小説。



















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