松浦機械製作所見学記
2000年5月28日
福井県福井市にある工作機械メーカー。中小企業だが世界一の工作機械を製造。 その工場の秘密に迫る。5年社会。日本の工業の資料として活用できる社会科の話。
1松浦機械製作所 
 「メタルカラーの時代4」(山根一眞小学館)に紹介されている松浦機械製作所を訪問した。
 福井県福井市の漆原町にその工場はあった。
 周囲は田園地帯で、近くには国道8号線が走っている。
 さて、松浦機械製作所は金属製密工作機械「マシニングセンタ」(MC)で世界一の実力を誇っている。
 マシニングセンタ(MC)は、工作機械の一種である。
 工作機械とは機械を造る機械のことである。英語ではマザーマシンと呼ばれている。製造業では欠かせない機械である。松浦機械製作所の専務取締役(せんむとりしまりやく)渡辺清一氏によると、その国の工業水準(こうぎょうすいじゅん)は、工作機械の生産額で分かるという。
 ちなみに日本は工作機械の生産額は18年連続で世界一である。2位は、ドイツ。3位アメリカである。
 
工作機械生産額 (単位:百万ドル
日本 9,007
ドイツ 70701
アメリカ 4.503
もともと工作機械はアメリカで造られたものであり、かつてはアメリカが首位の座についていた。それを日本が抜いて現在ダントツの世界一の座に着いているのである。
 唐津一(からつはじめ)氏や長谷川慶太郎(はせがわけいたろう)氏によると世界に流通している工作機械の半分は、日本製だそうである。
 「工作機械受注額の推移」(こうさくきかいじゅちゅうがくのすいい)を見ていただければ分かるが、1993年のバルブショックを受けて工作機械の受注額は激減(げきげん)している。しかし、その後、長い不況(ふきょう)が続いているにもかかわらず受注額(じゅちゅうがく)は増えている。
 唐津(からつ)氏や長谷川(はせがわ)氏は、「日本の工作機械がなければ世界のモノづくりがなりたたない。」とその著書で繰り返し述べておられるが、工作機械の受注額(じゅちゅうがく)を見ればそれが実感できる。いくら不況であっても工作機械なしには工業はなりたたないのである。
 
2 世界一の性能を誇るMC
 では、工作機械の一種である、マシニングセンタ(MC)とは何か。
 
工作機械は、金属などの材料を加工して製品を作るための機械である。具体的には、刃物(工具)を使って削る、穴をあける、ねじを立てるなどの作業を行う。
 従来はこうした作業を別々の工作機械が行っていた。MCはこうした作業を一つの機械でできるようにしたものである。
MCに取り付けられた工具。200種類以上の工具を取り
付けられるものもある。回転させて自動的に
着脱する。
 MCは、一台の機械でなんでもこなす。目的に応じて工具を自動的に着脱(ちゃくだつ)し、削ったり穴をあけたりして設計図通りの品物を作り出す。しかも全自動で夜でも運転できる。
 製造業の省力化(しょうりょくか)、高速化には、欠かせない工作機械である。
 では、松浦のMCは、どこが世界一なのか。
 まず、世界最高速である点である。
 MCは工具を回転させて金属などを削って形を作る。
 他社のMCでは、30000回転が限界(げんかい)である。しかし、松浦のMCは、最高で75000回転もする。他社の2倍である。
 高速回転によって生まれる利点は数々ある。
 まず製品が早く仕上がるという点。それから、削り後がきれいであるという点。そして、非常に精密(せいみつ)な加工ができるという点である。
 できあがった製品を見せてもらったが、薄さ0,2ミリの羽のような製品。それから、直径 0,6ミリの歯車、米粒よりはるかに小さい歯車の金型を削り出すというのだから驚きである。
 この他にも、削り出す製品を移動させる台を動かす精度、コンピュータによる制御(せいぎょ)など松浦機械の作り出すMCは、世界一の性能を誇っている。
3 世界一のMCはこうして生まれた
では、どうしてこのような優秀(ゆうしゅう)なMCを製造できるようになったのであろう。
 第一にあげたいのが「誰もやっていない」「やれない」ことに挑戦するということを社訓(しゃくん)としている点である。
 取締役(とりしまりやく)の渡辺氏より次のような話を聞かせていただいた。
 今から23年前(昭和52年)、ファスナーで有名なYKKは、自社のファスナーの生産を向上させるためには、35000回転以上のMCを必要とするというという結論を得た。
 ところが、世界中のどこにも35000回転を出せるようなMCはない。
 YKKのスタッフは、世界中の工作機械メーカーを回ってお願いするが、どのメーカーの返事も「不可能」だった。当時のMCは、2000回転が主流だった。一挙に10倍の以上の速さを出せというのだから無理もない。
 困り果てたYKKのスタッフは知り合いの紹介をえて、福井の松浦機械製作所という小さな工場を知る。
 松浦のMCは当時すでに6000回転を誇っていたとはいえ、一挙にその7倍のスピードを出さなければならない。大変難しい仕事である。
 しかし「誰もできないこと」に挑戦するという社訓を守って取り組んだ結果3ヶ月で35000回転のマシンの制作に成功する。
 こうして松浦の機械がYKKで動きはじめる。その結果、YKKでは、これまで使っていた工作機械を40台から21台に減らすことができ、工作に関わる人員を42名から18名に減らすことができた。生産性を一度に2倍にあげることができたのである。
 次にあげたいのが、人を育てるということに一番力を注いでいるという点である。
 松浦のMCは、松浦のMCを使って製造されている。それこそ千分の1の精度である。しかし、最も重要なスピンドルの部分は人が造っている。ほこりがほとんどないクリーンルームでの作業を見せていただいたが、顕微鏡(けんびきょう)をのきながらの手仕事であった。
 また、渡辺氏より、次のようなエピソードも聞かせていただいた。

リニア駆動による最先端マシン。
作業効率が2倍から3倍にアップ
する。
 最新鋭機(さいしんえいき)であるリニア駆動のMCの設計者には、これを自分が出かけていって直接お客に売ってくるように指示している。部屋にこもって設計図を書いているだけではだめだ。直接お客さんにあって、使ってもらって、問題点を聞いてこなくてはだめだ。そうしないと本当にいい機械はできない。
 設計者としてやとった者にも2年間は現場で働いてもらっている。現場のことをわからないで引いた図面は使い物にはならない。

 もちろん労働環境にも強い関心を払っている。松浦機械は品質マネジメントシステム企画1SO9001を1994年、環境マネジメントシステム企画1SO14001を1998年、さらに労働安全マネジメントシステムBS8800を1999年に取得している。
 3つの規格をもっている企業は日本では20社もなく、工作機械製造メーカーではただ1つである。
 「30000万回転以上のMCを造るには、何か新しい技術の発明があったのではないか」と何度も聞いたが、答えは「経験の蓄積」というものであった。全体のバランスを整えていった結果が30000万回転につながったというのである。
 その証拠に工場内の写真撮影(しゃしんさつえい)には、全く規制がなかった。「どうぞお撮り下さい」と言うのである。一番大切なノウハウはきっと社員一人一人の頭の中に入っているのだろうと思った。
 最後に、これは中小企業ならどこでも取り組んでいることだが、単一の製品を専門化して作り出すという点である。中型から小型のMC1本にしぼって生産するというのが松浦機械の戦略である。
 ちなみに社是(しゃぜ)は、次のようになっている。
 
わが社は一流の製品を作り 顧客のゆるぎない信用を築き 社員とともに発展反映する。
  
 「日本の製造業の強さは世界一の技術を持つ中小企業にある」と唐津一氏が力説しておられるが、そのことを実感できた1日だった。
松浦機械製作所の見学写真 TOSS福井 山本一美氏のHPhttp://freedom.mitene.or.jp/~kazumi/matsuura/matsuura.htm
引用文献 「松浦ニュース」 松浦機械製作所 
       「日本の工作機械産業」 日本工作機械工業会
       「やさしい工作機械の話」 日本工作機械工業会  

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