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バーリングはこのページではかつて20年代のブルドッグを紹介した。
あのパイプは既に手元にないが手離して惜しいことをした、と今は思っている。
当時は未熟でバーリングを評価しきれなかったと言う他はない。
あれ以外にもバーリングは戦前のサンドブラスト、フォッシルを持っている。
しかしこのパイプは美味くない。元来エアキュアのバーリングにおいては当たり外れが多くなるのは仕方のないことかもしれない。長期間放置という消極的とも言えるエア・キュアリングでは木の良し悪しに左右されることが、例えば例外なく強力な個性を発揮せしめるコモイなどのキュアリングと比べて弱点になるのではないか。
そんなこともあって、妙に値段の高いバーリングには何となく乗り切れないでいたのである。
だが、ちょっと前から古いパイプ仲間の集まり(オフ会)で吸わせてもらうバーリングの美味さに魅了されるようになった。非常に微妙・繊細な美味さは借りて吸うだけでは理解が深まる筈もなく、自分のものとして最高のバーリングを入手して存分に吸い、評価してみたいと思っていた。
そんな折り、バーリングのはずればかりを引いている私を哀れに思ってか、最高レベルのバーリングを譲って頂くことになった。今回紹介するブルドッグのほうがそれである。30年代のものらしい。
今まで何度か度肝を抜かれるパイプに遭遇したことはこのページで紹介したとおりである。今回もその衝撃は大きかった。昨年のブルイエル・ショックと同等と言って良い。以下私なりの感想をまとめてみたい。
喫味についてはエアキュアリングについて誤解していた、と言わざるを得ない。おそらく多くのモダン・イタリアン・パイプがエアキュアであろうが、アクも抜けるが味も空洞化するような印象を持っていた。だが最高級のアルジェリアン・ブライヤーと言われる素材を長期間放置したバーリングの味は、タバコの味に「何も足さない、何も引かない」という描写が適当だろう。上品な味わいは似ているとすれば初期のBBBが該当する。
最高レベルの生アルジェリアンと言えば古いケイウーディーやピーターソンで熟知している。「金粉のような煙がたちのぼる」と表現したことがあるが、バーリングはその金粉度がさらに高い。異常に軽い煙が無重力のようにふわりと立ちのぼる。タバコの味の奥の奥が発現され、同時にアルジェリアの木の味の最良の部分も感得される。極めてアコースティックな特性であり、おそらくこれはバーリングだけの喫煙世界だろう。
ボウルの材質が最高なら、かつてあのブルドッグで紹介したとおり、そのエンジニアリング(内部の造り込み)にも目を見張る。しかもそれはある一点、すなわちバーリングのパイプ哲学に向かって一直線に収斂していることが、このメーカーに確固としたパイプのイデア(理想像)があったことを確信させずには措かない。
それはボウル内で発生した最高の煙をそのまますみやかに吸い手の口中に運ぶことに他ならない。完璧な煙道コンセントリシティー、マウスピーステノン開口部のテーパー加工によって煙はボウルから瞬間移動で口に達する。
さらに優れているのはフラットサドルと呼ばれるマウスピース咥え部分の造形だろう。
やや厚めで咥えにくそうに見えるかもしれないが、さにあらず、この平行断面の形状は歯の間できわめて安定性が高いのである。手をそえずに咥えっぱなしで吸う私の喫煙法では特にその優秀性がよく判る。フラットグリップでしっかりと口に固定されればこそ、吸い手は極限まで微妙な煙のコントロールに集中できるのである。
このマウスピースに深く感じいってからと言うものの、それまで最高と思っていたダンヒルのフィッシュテイルが下世話に思えるようになってきた。吸い手に媚びすぎているのだ。しかも総じてバーリングのものより幅広であるにもかかわらず、ダンヒルのフィッシュテイルは断面が曲線であるが故に、口先での安定性はバーリングに劣る。
戦後の早い時期に導入されたと思われるダンヒル・フィッシュテルビットは少し吸い手に歩み寄り過ぎており、英国製品らしくない。モノと人間の間に一定の距離感を作り、人間がモノに歩み寄る必要性を作ることによって逆に両者の親密な関係性を構築せしめる、というのがパイプに限らず優れたブリティッシュ・プロダクツの特徴であった筈だ。
だがダンヒルがその有り様だったのも頷ける。ダンヒルがエンジニアリングを重視し、煙道コンセントリシティーを完璧にするにはおよそ60年代まで待たなければならない。煙のコントローラビリティーに優れるパイプを作るには、マウスピースの形状とパイプ内部のエンジニアリングの両者に留意がなければならず、両者ともに優れるバーリングのパイプに高いインテグリティーを見るとき、このメーカーに一日の長あり、と思うのである。バーリングが英国パイプの中でも最古参の部類であるいっぽう、ダンヒルは新参者と言って良いほど新しいメーカーである、という事実が露呈したのは無惨ですらあった。
こうしてバーリングを吸うようになってから喫煙スタイルまでも変化したのは驚きである。それまで肺に入れて吸っていたのがバーリングを吸う時は、肺には入れずすぐに鼻から出す「ふかし喫煙」のスタイルになってしまったのだ。極限までちびちび吸い、少しずつ鼻から出せばタバコの味が楽しめる。タバコがくすぶって煙になる寸前、そこにタバコの香りが最も立つのがわかる。火が消えないぎりぎりのコントロールでボウルの温度を上げ過ぎることなく、底の底まできっちり楽しめる………。
バーリング・エンジニアリングの真骨頂だ。
肺を経由してから鼻で味わう煙ではそこまでのコントロールは必要ない。同様の理由でバーリングは屋外の喫煙には向かない。風があるところだとちびちびやっても香りが鼻に残らないからである。そんなシチュエーションではもっと雑なピーターソンなどの出番になろう。
ふかし喫煙の奥深さ、バーリングを吸っていたらオリエンタル・タバコが無上に美味いと感じるようになった。またしてもパイプにひとつ教わったことになる。
ところでブルドッグのほうはシェイプ感覚にもバーリング独自のものがあり、感心する。ブルドッグは最も前衛的なシェイプである、という私の持論からしても、このブルはきわめてユニークであり、前衛的でもある。特に六角形の断面形状を持つマウスピースは斬新と言う他はない。ブルドッグにしては大きく肉を削がれたサドル・マウスピースも、全体の重量を落とし口に咥えやすい要素を増やす結果になっている。
英国パイプの王道にして最高峰はバーリングかもしれない、などと考え、惚れ込んだのであれば、さっそくバーリングを買い漁るしかない。
だがここに紹介するもう一本のベントは大はずれだった。
Pre-Transition であるにもかかわらず、不味いパイプだ。特に後半は煙に味がなくなり吸えたものではない。
「バーリング恐るべし」とは当たりはずれの落差の大きさを言う。ダンヒルと同等以上の値段だから、はずした時のショックは大きい。バーリング・コレクターの手元にははずれのパイプが死屍累々か、などと想像する。
(であればこそ自らのコレクションの中から最高レベルのものを選んで譲って頂いたOld
Briar 氏には感謝の言葉もない。)
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