| England’s Forgotten Tobacco Pipe Makers
(序章) |
バーリングを吸ってその真髄に触れてからというもの、現在語られているクラシック・パイプの名品をほとんど吸ってしまった、という感慨に襲われた。おそらく古今東西これより優れたパイプメーカーはないのではないか?とも思った。 そして不思議なことにバーリング以後、個別のパイプをミクロな視点で紹介してゆくことに段々興味が失せてきている。それよりも、何ゆえ英国には際立って優れたパイプが多いのかと言うあたり、もっと大きく引いた視点で英国パイプを俯瞰したいという心境になってきた。 かねてより頭の片隅にひそんでいた疑問探索への漠とした欲求が抑えられなくなってきたのである。パイプ本体より、パイプの歴史をとりまく状況に興味が移ってきた、と同時に現在人口に膾炙される英国パイプの緒メーカーがその全てであろうか?という疑問にもどうしても立ち入ってみたいのである。 オートバイの話になる。現在若年層の間でますます戦前のブリティッシュ・バイクへの興味が昂まっている。だがそこに私はひとつの傾向を見逃すことが出来ない。すなわち人気が高いのはノートン、ヴェロセット、AJS&マチレス、トライアンフ、など戦後まで生き延びたメーカーに集中している点だ。サンビーム、ラッジ、エクセルシャー、ニュー・インペリアルなど二次大戦までに消えた名車中の名車が出て来ないのはどうしたことか? これは巷間出回る資料の多寡に関係している。圧倒的に多いのは戦後まで生き延びたメーカーの伝記・歴史なのだ。 (註:戦後のBSA製サンビームや2ストロークのエクセルシャーは戦前の本物とはなんの関係もない) もとより英国パイプにおいてはダンヒル、コモイ、チャラタン、サシエニ、ロウ、GBD、バーリング、BBBなどの大御所に加え、ハードキャッスル、パーカー、ワインゴット、オーリックなどの多少マイナーなメーカーに至るまで、語られるのは全て戦後まで少なくとも名前だけは生き延びたメーカーである。 かねてより英国のバイクとパイプの歴史には同様の流れを見てきたのだが、さらに英国のパイプとバイクには興味深い共通点がある。 1930年代から多くのメーカーは合併・吸収にさらされ、時代とともに品質を劣化させていった点だ。 オートバイで言えば戦前までで姿を消したメーカーは大資本に降らなかったが故に、独自性を持ちつつも衰退して行かざるを得なかった、と言えば一面的に過ぎる。 実は第二次大戦以降まで生き残れなかったメーカーに共通していたのは軍隊にオートバイを供給しなかった、ということらしい。戦後不要になった軍用バイクの多くはメーカーに格安で払い下げられた。各メーカーは自社の中古バイクを修理し、色を塗り替えて安く販売した。戦後の復興期には交通機関が不足しており、オートバイは引っ張りだこだったから、これが出来たメーカーは糊口をしのぐ事が出来たというわけである。 (軍用車を作っていたのは BSA, Triumph, Norton, Ariel, RoyalEnfield,Velocette, Matchless である) ただし軍用車を供給しなかったメーカーでもわずかながら生き残ったものもあった。 ダグラス、パンサー、ヴィンセントなどである。だが、これらもおよそ1960年頃までに姿を消す。興味深いのはこの3メーカーの立地が、他の多くのメーカーとは異なり、バーミンガムやロンドンと言ったオートバイ生産の中心地から離れていたことだ。 ( Douglas = Bristol Panther = Yoke Vincent = Kent ) 経済学で言う「集合の理」、すなわち工業生産においては同じ産業は固まっていたほうが有利であるということも言えるだろうが、今ほど通信の発達していない当時においては、中心地から離れることは即、業界最新情報からの懸絶ということも意味しただろう。 (ただしこの三者が生き残った理由はその隔離ゆえのユニークネス、と見ることも出来るが・・・) つまり言い得ることは、ある産業内における緒メーカーの興亡は意外な要素に影響されると言うことであり、それを突き止めるには当時の社会情勢の知識が必ず必要になってくる。同時にそのメーカーの立地なども重要な意味を帯びてくるだろう。 以上を踏まえ、戦後まで生き残れなかったがゆえに忘れ去られた英国パイプメーカーを新たに調べて忘却の彼方から救い出し、同時にその背景をあぶりだして英国パイプ史のパースペクティヴを拡げる、というのがこの新シリーズの眼目である。 |
|
|
| パイプ目次1へ戻る | パイプ目次2へ戻る | パイプ目次3へ戻る |