| ジェームス・アプシャル訪問記 |
2006年4月、年に一度の訪英・モールトン詣での時、偶然Tillshead Pipeすなわち James Upshall を訪れたレポートをお届けしよう。 サザンプトンの定宿からレンタカーでソールズベリー付近経由、いつものルートでブラッドフォード・オン・エイボンのモールトン邸に向かう。途中、道路工事で「迂回せよ」の表示。地図を調べてB級国道のルートを通ることにした。ところがその途上に Tillsheadという村を地図上に発見...........。 頭の中に思いがよぎる。 このティルスヘッドというのはもしかして、ジェームス・アプシャルの工場の所在地か...........? このあたり、典型的な英国の田舎、丘陵地帯に小さな村が点在している。いずれにしてもちょっとの寄り道で済みそうだから行ってみよう、と決心。 かつてアメリカのパイプ専門誌「Pipe & Tobacco Magazine」にアプシャルが紹介されている記事を読んでいたから、工場の外観は憶えている。どうせ小さな村だろうからすぐ見つかるだろ、と思っていざティルスヘッド村へ。 ホントに小さい村だ。 そして Tilshead Pipe 社はすぐに見つかった。社と言っても民家一軒の大きさ、さっそく突撃取材。ドアをあけたらロックミュージックが大音量でかかっている。「ごめんください」と呼んでもだれも出てこない...........。 ここで、アプシャル・パイプについて。 チャラタンから分かれて1977年創立、経営危機の後、曲折を経てギリシャの不動産屋、モーティ・イズラッチ氏の出資で再建、やはりチャラタン出身のバリー・ジョーンズ氏を工場長にして現在にいたっている。(詳しくはHackerの本参照) アシュトン、ファーンダウンと並んで英国パイプの新御三家と言われる。James Upshall の名前はハイグレードのみ、B級品は Tilshead の名で売られる。なおアストレイ(Astley)などは実はアプシャルの製作であった。 さて呼んでも誰も出てこない工場に恐る恐る入ってみると、奥のほうのガラス張りの仕事部屋で太った、ひとの良さそうなおじさんが一心にパイプを作っている。「あ、ジョーンズ氏だな」と雑誌の記事を思いだす。我々に気づくとラジオを消してニコニコしながらこちらにやってきた。(私の同行者2名はパイプには全く興味なし) まるで10年来の知人のように歓待してくれる。 たしかにこんな静かな村で一日中一人でパイプを作っていたら人なつこくもなるだろう。 工場というよりは一人でやってる作業場というオモムキである。 いろんな話を聞いた。現ダ○ヒルの悪口。きっかけは私が携行していた戦前のダ○ヒルを見せたことから。「キミはなんでこれを吸うんだ?」 「いやあ、おいしいからです」「そうだ、それ以上の理由はない!これが本当のパイプだ」 その他、ここでは書けないような、現ダ○ヒルの真実など.........。 キュアリングについては「わが社では古い良い木を寝かせて使っているから必要ない」、「アメリカで売れてるが、アメリカ向けの巨大サイズは本当のところウンザリだ」「今、古いチャラタンのシェイプを復活させようと思ってる」 と言って、チャラタンの昔のシェイプチャートを見せてくれた。やはりアプシャルはチャラタン系統である。 使い込まれた旋盤、いくつもの麻袋に詰まったブライヤーブロック、染色の染料が染み付いた壁、21世紀を思わせるものはなにもない環境、時間が止まっている........。 モールトンには昼までには到着の約束、わずか小一時間の訪問だったが英国パイプづくりの現場を見られて良かったと思う。 帰り際にパイプの一本でも買っていれば美談・記念にもなったろうが、買わなかった。 私のアプシャル評は確定していたからだ。言いにくいことでジョーンズ氏には申し訳ないが、私はアプシャルを美味いパイプだとは思わない。 キュアリングがなされていない、というのが感想、言い換えればキュアリングしないと吸えないような材料で作られたパイプである。チャラタン系のフリーハンドがかったシェイプも好きになれない。 ただしアプシャルのパイプはチャラタンからつながる歴史の重みがあり、それは現チャラタンよりも濃厚である、と言えよう。ジョーンズ氏が作り続けてきて、身につけたチャラタンの芳香である。 チャラタニアンは一本持っておくべきかもしれない。 この後、ひょんなことからモーティ・イズラッチ氏とメールをやりとりすることになった。氏は大変なパイプ・コレクターで、知識も豊富だから今後の展開が楽しみである。 |