WDC1900(?)年

 おそらく19世紀末製造と思われる古いパイプ。
WDC、William Demuth Company (ウィリアム ディミュース)は
ドイツ移民がニューヨークに創設した会社。
一時は1000人の従業員がゐた、というから大メーカーである。
アーリーアメリカン・パイプに興味を持って時代をさかのぼってみた。
同じものを2本セットで新品で購入。一本は当ホームページ製作担当の
卒業生にあげた。

 しかし安っぽいパイプである。夜店・駄菓子屋で売ってるオモチャと
いふ雰囲気。オーラは全くない。加工精度も悪い。
だが吸ってみると驚異的にドライな煙である。French Briar の刻印、
この頃はアルジェリアはフランスの国内と見なされてゐたのだらうか?
これほど高品質のブライアーがおそらくこのやうな最も安い量産グレー
ドにさえ使われてゐたのだ。喫煙後、ボウルの底が完全に乾いて
ゐる、と言えばスゴさがわかるだらう。

 マウスピースに Solid Rubber の刻印。それまで主流だったアンバ
ー(琥珀)ステムがいよいよ、ハード・バルカナイト製にとって代わら
れてきた19世紀最後の10年程のパイプと見てよい。吸い口がまん丸
で極端に吸いにくいため、柘製作所さんに少し長めのマウスピース製作
を依頼した。差し替えて使へばオリジナルを壊さずに楽しめる寸法だ。

 上記1902年の英国製がまだアンバーを使ってゐるのに、アメリカ勢は
すでにバルカナイト。 最初にバルカナイトを採用したのはどの国だったのか?
英国パイプはアメリカの後塵を拝してゐたのか?

 全長126mmの小さなパイプである。この頃のパイプがみな小さいのは
「ふかし喫煙」でなく「肺喫煙」が主流であったろうことが推察される。
あるいはタバコ葉も洗練されておらず、辛かったのかもしれぬ。

 シガレット以前の喫煙者が全員パイプを吸ってゐた、と考へれば、
1000人の従業員と言ふ数も合点がゆく。また一般労働者が
イングリッシュ・ミクスチャだのラタキヤだのを吸ってゐたとも思へない。
マイルドとは言へぬ量産安物ヴァージニヤをガンガン吸ってゐたのに違いない。
この時代の小さいパイプの理由をそのやうに思ふのだ。