ピーターソン年式不明
 20歳の時にコーンパイプでパイプ喫煙を始めて、その後初めて買ったまともなパ
イプがピーターソンだった。それまで数本持っていたオモチャみたいなパイプに比べ
るとそれは全ての点で感動的だった。煙から水分を除去して口にジュースが来ないよ
うにするピーターソン・システム、煙が舌にあたらず、舌が痛くならないピーターソ
ンリップ、そして他にはない個性的なシェイプ……..。

全部で10本近くのピーターソンを買った。どれも一番安いクラスであったが。

 その後、何年もたってダンヒルの凄さがわかるとともに、結局ピーターソンの細工
は所詮は初心者向きのものであり、なんの細工もないクラシックなビリヤードが上手
く吸えれば不必要、それまで評価していたあの構造をおせっかいな雑音のように感じ
るようになった。人にあげたりしていつの間にか手元には一本も残らなかった。

 10年ほど前、鳴り物入りで登場したシャーロック・ホームズ・シリーズをアメリ
カから買ったことがある。あえてピーターソン・システムがついていないズルを選択
したが、これが不味くて吸えたものではなかった。木が低劣で煙が重い。昔買ってい
た低グレードと変わらない味であった。以後、私のなかでピーターソンは「駄目パイ
プ」として位置づけられた。

 だが、ここのところのクラシックパイプ収集で今までの歴史認識が次々に変更をせ
まられている状況下、なんとなくピーターソン再評価の思いが頭をもたげて来た。そ
んな時、ほとんど偶然手に入れたのがこのパイプである。

 「K&P Pipe」として出品されていたが故に、ピーターソンハンターの目を逃れ
たと見え、ふざけ半分でちょっかいを出した10数ドルが、競争入札なしで落ちてし
まったのである。だが届いたパイプを吸ってみた時の驚きは大きかった。今まで吸っ
たものはピーターソンではなかった、と思った。

 それにしてもこのパイプ、年代もグレードもわからない。雰囲気的にはそんなに古
くなく、1960年代くらいか、と想像する。ホールマークが打ってあるのでシル
バーバンドだと思ったらニッケルメッキ、しかもホールマークは全く出鱈目で雰囲気
だけのニセモノと判明。刻印はK&P DUBLIN とあるだけだ。マウスピースもハンド
カットではないだろう。また少なくとも戦後ではPリップではない通常リップは低グ
レードのようだから、ハイエンド・ピーターソンではあるまい。

 しかしこのスモーキング・クオリティーはどうだ。ひとことで表現すれば戦前ケイ
ウーディーに酷似している。私が勝手に「醤油味」と呼んでいるあのアルジェリアン
の味だ。そして吸い口側の煙道が極細なうえ、さらに加工精度が高いので煙の微細な
コントロールが可能、ちびちび吸うことが出来る。そうとう練れたパイプである。

 このパイプには今まで自分が速く吸いすぎていたことを教わった。

意識的にちびちび吸えば、最後まで美味く吸えるのである。良いオートバイに乗って
いれば、自然に運転が上手くなるのと同じである。バイクやパイプが教えてくれるの
だ。

 20世紀初頭以前のアルジェリア・ブライヤーなどの味を知ってから、それまでサ
ンドブラスト、ラスティックばかり吸っていたのが、木が良ければスムースも美味
い、と思うようになった。

 しかしこのピーターソンはそれでは収まらない。やはりパイプはスムースのほうが
王道なのか、とさえ思わせてくれる。と言うのもブラスト系のパイプはマイルドにな
る反面、喫味の輪郭がぼやける。いっぽう上質なスムース系ではタバコの味がはっき
りとするうえ、上手く吸えば最後のほうの喫味はブラスト系をうわまわることがわ
かったのだ。とにかく最後の最後まできっちり楽しめる点、このパイプを上回るもの
は私のコレクションにはない。

 昼間、仕事をしている時も「ああ早くウチに帰ってあのパイプが吸いたいな」と、
思うだけで胸がドキドキするようなパイプはざらにはない。打ち勝ちがたい麻薬の感
覚であろう。

以下、狂ったように集めたピーターソン特集、当然Pre Republic

ばかりである。(アイルランド独立の1949年以前製造で刻印が

Made in Ireland、それ以降は Made in the Republic of Ireland になる)






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