ランセル 1910年代(?)   (ボヤージュ #2)

 皮のカバンやハンドバッグで有名な Lancel は 1876 年、パリで喫煙具店として
スタートしている。高級ブランドであるからパイプも高級品を販売していたのだろう。

 このパイプを見ればそれがわかる。銀巻きに最高級ハンドカットのバルカナイト・
マウスピース、ランセルお得意の革製の凝った入れ物など、普及品ではありえない。
もうこのシリーズではいちいち断らないがブライヤーの質も一級品、喫味は最高である。

 まん丸のオリフィックボタン・マウスピースであるから 1910 年代以前と推定する。

銀巻きにモンマルトルの刻印があるからいくつかあったランセルの支店のうち、パリ
・モンマルトル店で売ったものだろう。あるいはこの時代、ランセルはすでにハンド
バッグを主力商品にしていて、喫煙具はモンマルトル店だけで売ったのかもしれない。

 フランスのパイプ史を調べてゆくと、サンクロードでは普及品、パリでは高級品を
作っていたことがわかる。サンクロードがパリの下請けだったのではなく、GBDの
ようにパリにもパイプ工場があったのだ。手元に集まっているものの多くはサンク
ロード品がほとんどのようで、造りは感心しない。しかしこのランセルでようやくフ
ランス高級パイプに出会った気がする。造りが丁寧なのだ。

 感心したのは煙道の細工。マウスピース側からボウルのホゾ穴を覗くと、奥が紡錘
形に細工されており、マウスピースのホゾ開口部も10mmほどの距離で非常にス
ローなテーパーになっている。Loewe, Barlig, Comoy’s のようなトランペット状の
浅いテーパーではない。なにやら2ストローク・エンジンのエクスパンション・チャ
ンバーを思わせる細工だ。

 ハンドバッグのランセルが高級パイプを作っていたことなど、今では誰も知らな
い。最近は装身具ばかりに力を入れているダンヒルも将来はそうなってしまうのかも
しれない、とふと思ったりした。

 Nose Warmer と呼ばれる部類、全長12cm弱の短いパイプ、木質が良いので文句
なく吸えてしまうが、マウスピースの噛み跡が深いのが惜しまれる。レプリカ・マウ
スピースを作らせて愛用しようかと思う。



パイプ目次1へ戻る パイプ目次2へ戻る