ウィルソン ハンドメイド 1950年代

ブラッターより先に手に入れ、作家系を再考するきっかけになったパイプ。

「1950年代コロラドで少数が作られ、人気を博したハンドメイド・パイプの
新品」という出品者の説明に、ふらふらと落札したのが迷宮の始まりだった。

どこを調べてもわからない。アメリカのパイプ・フォーラムにスレを立てて質
問してみたが返事が一件もない。インターネットの検索でもお手上げである。
刻印もWilson Handmade だけで他には何も打たれていない。

いったいハンドメイドを標榜するパイプで最古のものはいつ頃なのか?ハン
ドメイドと言ったところでほとんどのパイプは手作りだ。わざわざ明記する理
由があるとすれば、マウスピースとボウルのインテグリティー(一体性)の向
上ぐらいしか考えられない。マシンメイドパイプとはボウル・ターニング(削り
だし)に旋盤を使ったり、マウスピースがモールド成型である場合に使われ
る。多くの安物パイプは別会社から買い入れたマウスピースを使っていたの
はサンクロードの歴史で見たとおりだ。

外観ではなく、内部におけるインテグリティーとはボウルとマウスピースそれ
ぞれの煙道のコンセントリシティー、すなわち穴の中心が一直線で合う度合
い、が高いということだ。これは簡単なことではない。

このパイプは吸い口からのぞくとボウルの底まで完全なコンセントリシティー
を確保している。ところがマウスピースを抜いてホゾを見ると穴は真ん中から
ずれている。おそらくなんらかの方法で両者の穴を一直線にアラインした後、
外部の成型に移ったと見られる。

ウィルソンなる人物はこのアライメントにこだわってパイプを作ったのだろう。
それがこの時代におけるハンドメイド・パイプの主眼だったと推察する。

北欧のパイプ作家のハンドメイドは外観がフリーハンドなところが最大の特
徴である。

だが一流作家はどれもパイプ内部のエンジニアリングにも一家言持っている
ものだ。

しかるにハンドメイド・ブーム以後は内部のエンジニアリングは等閑に付され、
外観だけがファンシーなものが多く出回った。内部にこだわり、外観はきわめ
てオーソドックスなこのウィルソンとは逆である。

20世紀初頭から半ばにかけて猖獗を極めたシステム・パイプ(多くはアルミ
製のフィルター)、そういうものに疑問を投げかけ、フィルターによる雑音を廃
し、謂わばアコースティックな煙を得るために、煙道の精度やエンジニアリン
グを追求したのが「ハンドメイドパイプ」の始まりである、と定義したい。背景に
はパイプを趣味としてとらえる層が拡大して、タバコ葉を味わうためのインスト
ゥルメンツとしてパイプをよりシビアに見る向きが増えたこともあったろう。

50年代と言えばアメリカが繁栄を最も謳歌した時代。パイプも趣味として広が
りを見せたに違いない。ウィルソン氏など、名前が残っていないところを見れば
単なるディレッタント(熱狂的アマチュア)であったのかもしれない。だがそれを
売るほどまでのムーヴメントが、この時代のアメリカにあった事に注目しないわ
けにはいかない。

グループ5相当で肉厚のボウルであるからシャープさに欠ける味であり、私の
好みではない。だが製作者のねらいどおり煙のスムースネスは素晴らしい。
木質もグレインも申し分ない。外観のフィニッシュも丁寧で、ケイウーディなどの
量産パイプとは一線を画す。

手元に置くよりこうしたシェイプが好きな人に譲って、感心してもらったほうが
ウィルソン氏も喜ぶだろう。


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