S.T.デュポン  1970年代(?)  (ボヤージュ#8)

インターネットでパイプを買うようになって4〜5年だが、まだ e-Bay
に手を染める前はヤフオクで買っていたこともある。その頃の一時期、
大量に出回ったのが、ライターで有名なフランスは S.T.Dupont の新
品・デッドストックのパイプである。デュポンのライターと言えばダンヒル
と双璧をなし、ブランド・イメージは極めて高い。その名を冠したパイプ
は見たことがなく、目が釘付けになったのである。

思い余って落札、吸ってみたら美味かったのである。その頃はまだダン
ヒルなど古いものは一本も持っておらず、主に80年代のものを吸ってい
た。数本所有するどのダンヒルよりも美味かったのはショックであった。
以後、当校クラブ員にも声をかけ、みんなで10本ほど買ったのである。
(今回も部員所有のものを集合させた)

ちょうどその頃、 Richard Carlton Hacker の “The Ultimate Pipe Bo
ok” を読んでいて、「オイルキュアリングのナッティー・フレイバー」という
言葉が気になっていた。そうしたらデュポンの味がまさしく「ナッツの香り」
そのものであり、オイルキュアリングのなんたるかを初めて味わったので
ある。みんなで一気に10本ほど買い占めた勢いが、その時のショックを
物語っている。

今は懐かしい思い出である。と言うのも最近はこれより美味いパイプに囲
まれているから出番も少ない。自分で所有するのは2本だけである。だが
「ナッティー度」においては今だにこれの上を行くパイプは持っていない。
もしかするとデュポンは本当にピーナッツオイルなどでキュアリングしてい
たのかもしれない。

出番が少ない理由は他にもある。造りが極めて悪いのだ。とてもダンヒル
に対抗できるレベルではない。煙道コンセントリシティーも低く「クリーナー
は簡単には通りません」状態。マウスピースの材質もお粗末で、磨いても
光らない。シェイプも練れていない。

デュポンのパイプは資料が全くなく、製造年代は推測するしかない。日本
語まで含まれる各国語の説明書の雰囲気からして70年代初期前後では
ないか? e-Bay でも過去に一度しか見たことがなく、短期間作られただ
け、またアメリカには輸出されなかったようでもある。

だがその後、アメリカのコレクターとの交信で、デュポンの素性が明らか
になった。なんとイタリアのGiGiで作っていたと言うのだ。ジジが高級メ
ーカーでないのは知られているから、デュポンはパイプに参入する時から
大きな間違いを犯したことになる。ブランドネームからしてダンヒルなみの
ハイグレードを狙っていたのは明白だからだ。箱やパンフレットの造りか
らもそれはわかる。

おそらく70年代初頭まで世界を席巻したパイプブームが生んだプロジェ
クトであったろう。だがこんな造りのパイプにデュポンの名前がふさわし
くないことはすぐに感得されたに違いない。早期撤退・歴史抹殺が行な
われたことは想像に難くない。

デュポンからはひとつだけ学ぶことがある。オイルキュアリングを極めれ
ばそんなに良い木でなくとも充分美味いパイプが作れる、という事だ。実
際キュアリングの味だけでいえばデュポンは私のコレクションではトップ
クラスなのである。70年代という推測が正しければ、これは大きな意味
を持つ。現代においてもキュアリングによって、こういう喫味を出せるに
違いないからだ。

それにしてもイタリアにおいて「失われたオイルキュアリング」が息づい
ていたとは奇怪このうえない。サビネリ、カステロ、ベッカー、リナルド、
と乏しいイタリアン・パイプの経験ではオイルキュアリングの味には出会
ったことがない。 それを売り物にする Radice (ラディーチ)などは断じ
てオイルキュアリングの味ではなかった。

パイプにはしっかりと Made in Franceの刻印がある。これが虚偽であっ
たとは情けない限りだが、イタリアあたりまでOEMの依頼先を求めてサン
プルを送らせ、その時点で合格したものの、量産させたらクオリティーは最
低だった、というストーリーを想像してしまう。最初のサンプルでは優れた
キュアリングに驚いて「これならダンヒルにも勝てる」などと思って喜んだの
かもしれない……….。

どうせ外部に作らせるなら、ダンヒルに対抗し得るフランス製ハイグレード
を、金に糸目をつけることなく展開してほしかった。それが出来なかったと
ころにフレンチ・パイプシーンの限界が見える。

スムースのパイプもオイルキュアリングの味、サシエニのオールド・イング
ランドに酷似していて美味い。GiGiのパイプを吸ってみたくなった。


パイプ目次1へ戻る パイプ目次2へ戻る