ー老架式ー
陳家太極拳簡介





はじめに

今回ここで紹介する陳家太極拳は、台湾にて杜毓鐸公が伝えたものである。
杜毓鐸公は大陸に住まれていた幼少時に、父親が河南省の役人であったため陳家溝出身の武術家が護衛に付き、その関係で子息である杜公も陳家太極拳を学ばれるようになったとのこである。
この杜毓鐸公が台湾に移住されて伝えたるようになった陳家太極拳には、老架式砲捶、それから忽雷架(小架)の三つがあるといわれている。套路の伝承に関しては、杜毓鐸公から学んだそれぞれの学生の時期により、やはり若干套路の内容が異なるようである。
また、この陳家太極拳の伝授を受けた者が、自己の得意とする拳法にフィードバックして、学んだ套路に改変を加えたりしている可能性も十分考えられるので、その点学習者は注意が必要である。
現在大陸で見受けられる陳氏太極拳の套路も、老架・新架・小架などがあるといわれているが、伝承者により細部や雰囲気が異なるのは、周知の事実である。中国の方々は、師の套路の模倣よりもより「自分」を加味したものの方を一般的に尊ぶのかもしれない。(私見)
斯く言う小生の学んだ陳家太極拳も、日本人の伝承者の手を経ることにより、台湾から伝えられた套路そのものではない様に感じる。
さて、先だって杜毓鐸公在りし日のビデオを観ることが出来たが、やはり武術誌等で以前から言われているように、公の陳家太極拳には(表演時の年齢も関係してか)発勁動作の部分が若干不完全のようであった。また、公に10年に渡って陳家太極拳を学ばれたという台湾の方と交流した時に受けた印象は、初期の頃に武壇に伝わった套路よりも大陸系の陳式に近い雰囲気が強かった。あくまで推測であるが、これは公が武壇から離れて普及されるようになってから、その勁力を現代の陳式から逆輸入したのかもしれないと思った。
ちなみに、この方は武壇で受け継がれている陳家太極拳の套路に対しては、長拳を長く学ばれた徐紀氏の影響が強く出ていると指摘されていた。
以前は、自分が学んだ套路に近いものを陳家溝の古老が行っていると聞き、偶然古い形が台湾に伝わりそれが巡り巡って自分が学べるとは・・・・・・などとロマンを感じたものであるが、実際にはやはり劉雲樵公が杜毓鐸公に手を貸して再編したものであり、またその伝には武壇より学習に行った徐紀氏の影響が色濃く出てしまったのではないかと考えるものである。
もっとも、個人的にはこれも陳家太極拳のたどった「進化」の形と理解しており、何ら後悔などはしていないし、むしろ貴重な套路を学ぶ事が出来た幸運を強く感じるものである。
ということで、ここで紹介する套路は、大陸で現在普及している陳式太極拳とは、大幅に異なるものである。
ただ、内包する意味(内勁)においては何ら劣るものではないと考える






陳家太極拳・老架式(低架)

第一動作:開門式 (起式)



太極拳の開門式は一般的に、両手を開掌(手の甲を上にして)のまま同時に持ち上げ、肩の高さまでゆっくり上げてから下に降ろす。小生も色々な太極拳を見てきたが、その雰囲気に若干の差違はあったが、やはり共通なものを感じる。
小生の学んだ老架式も、やはり両掌を上げて降ろすのであるが、その上げる両掌をひねるながら上げるところに大きな特徴がある。

@ 両手甲を正面に向け、足を肩幅分空開けて立つ。(虚領頂勁・二目平視)
A 両掌をゆっくり肩の高さまで、掌を回転させながら上げていく。この時回転する掌が、肩の高さで丁度回転を終了するように気を付ける。(沈肩墜肘)
B 今度は膝を曲げて馬歩になりつつ両掌をゆっくり回転させながら、腰の高さまで下げる。前腕部が地面と平行になるような形にし、やはり掌の回転を下げ終わった時に終わるようにシンクロさせる。(気沈丹田・尾呂中正)

ここで動きの他に注意しなければならないのが、呼吸である。
一般的に太極拳の動作が、呼吸法と深く結びついていることはよく知られている。

ここで紹介する老架式でも、呼吸法を学ばなければいけない。
まず開門式の@では自然呼吸であるが、Aの動作時には掌が上がるのに合わせて息を吸って胸部を膨らませる。次にBでは、両掌を降ろす動作に合わせて、息を吐きながら腹部を膨らませていく。ここで学ぶのは「逆式呼吸」であり、後々発勁などによる内臓の損傷を招かない様にするものである。



第二動作:金剛搗碓

開門式の最初の立ち姿を「無極式」といい、開門式の動作は何も無い所(無極)より「陰・陽」を生むものであり「両儀」の状態を現しているである。
そして第二動作である金剛搗碓は、この二つが更に変化したものであり「四象」として位置づけられている。これ即ち、上下左右の四つの方向である。

@ 開門式で下に降ろした腕を、左の方向に刺し出す。この動作では、両腕の捻じりを強く意識する。
A 顔の前を、それぞれ肘を支点にした動作で円を描きながら両腕を廻す。写真では指を開いているが、当会での老架式の錬功は指一本一本による内力(纏絲勁)の運用に主眼が置かれているためである。(手眼相合)
B 右手の回転を写真の位置で停める。(不離肋)



C 前の動作からまず右脚を外側に開いて後、全体重をこれに掛けて左脚を引き寄せる。(右脚は爪先のみ接地)両腕は力を抜くように下向きにして構える。
D 左脚を低く大きく伸ばして下勢となり、右手は腰へ左手は内股を滑らせるように移動させる。八卦掌のように斜めに落ちる動作ではなく、どちらかというと地面を歩くような感じで足を出すこと。
E そのまま体重を移動して左弓歩となり、斜めにせり上がる。左手は物をすくうような感じで鼻先の高さまで上げる。特に重要なのは、両脚底より起こる纏絲勁であり、ゆっくりじっくり這い上がるが如く伝えなければ、この動作の意味が半減してしまう。

開門式からここまでの動作スピードは、多少の緩急こそあるが太極拳らしくゆったりしたものである。



F 全体重をしっかり左脚に移動する勢いを利用しつつ、左掌を下方に按しながら右拳を下からすくい上げるように打ち出す。この時、上がる手と下がる手はシンクロすることが大切であり、どちらかが先に動作を終えてはいけない。また右半身は上方向の意念を、左半身は下方向への意念を維持する。スピードは体重移動の勢いに乗る感じで、速くなる。
G 次に右脚を「ドスン!」と降ろしながら、一気に右拳を丹田の前で構えた左掌に打ち落とす。右脚でこの時地面を蹴ってはいけない。この落下する脚は、喩えるなら相撲のしこに近い感じである。






纏絲勁


参考:纏絲図
纏絲勁は、本来なら全ての動作に含まれ強調されるべき存在なのであるが、小生のHP作成能力の限界もあり、今回はこれのみを付しておく。
不明点等あれば、「ミッドナイト公園」で・・・・・


金剛搗碓使用法

「TanTan館」