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<<架空女子プロレス団体>>
「WWW(トリプルダブリュー)〜金曜8時のシンデレラ〜」
作:ウエダハツ

2002.02.22〜2003.05.05

※この作品はフィクションであり、文中に登場する人物・団体名等は
実在するものとは全く関係ありません。

<<架空女子プロレス団体>>
「WWW(トリプルダブリュー)〜金曜8時のシンデレラ〜」
第1回大会(02.02.22);東京・後楽園ホール


「先の見えないこの混沌とした時代に糸筋の光明が差し込んでまいりました。
2002年2月22日、プロレス史はこの日のことを忘れることはないでしょ
う。プロレス新時代、WWW(トリプルダブリュー)の旗揚げ戦です!」

〜 いつもそう、君のことそう、思い出してそう、気絶しそう。あきらめない、
怖がらない、挑戦しなきゃ未来などない。ドリーミング、駆け抜けてその足で、
ドリーミング、掴み損ねても、明日があるまた次がある! 〜


「ここ東京、水道橋にある後楽園ホールは夢を追い求める観衆で溢れています。
私、15年ぶりに闘いの学舎に戻ってまいりました、実況の古舘任三郎です。
解説は新団体、WWWのコーチでもあります山本大鉄さんです。山本さん、ど
うぞよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
「いやあ、それにしてもよく入りました。ここ後楽園ホールは闘いの聖地とも
呼ばれていますが、まさに巡礼に来たかのようにたくさんのプロレスファンが
押し寄せています。山本さん、これはWWWに対する期待の大きさを物語って
はいませんか」
「そうですね。本当にありがたいことです。今日にたどり着くまでには本当に
大変な道のりでした。私どもフロントはもちろん、営業の社員も頑張りました。
また、選手もですね、今日のために一生懸命練習してきています。こんなにも
集まってくれたお客さんの期待に、必ず応えてくれるものと思います」

「さあ、山本さんから心強いお言葉をいただいたところでリング上に目を移し
てまいりましょう。リング上ではセミファイナル45分1本勝負が行われてお
ります。新団体、WWWの旗揚げに際し電撃復帰を果たした4選手がリングに
昇っております。ただいま攻撃を仕掛けておりますのが元SMW、飢狼姫こと、
工藤みなみ。強烈なスリーパーで長谷川秋恵の太い首をぐいぐいと締め上げて
おります。これは苦しそう。コーナーのデビー・マレットが心配そうに見てお
ります。このデビーと長谷川はかつて、老舗女子プロ団体、電撃女子プロレス
でタッグチームを結成しておりました。今日は久々のタッグ結成であります。
一方、工藤のパートナーは女子プロレスの神様、ジャガー横谷です。今、工藤
とタッチしてリングに入ってきました。長谷川をローブに振って、ヒップアタ
ックだ。山本さん、この動きは昔のままですね」
「本当に恐れ入りますね。ジャガーは今年40歳になりますけれど全然衰えて
ないですね。これもね、日頃のトレーニングの賜なわけですよ。普通は引退し
たらトレーニングしませんよ。そりゃ少しはやりますよ。でも現役の頃ほどは
やらないわけですよ。ところがですね、ジャガーは引退してからも現役と同じ
くらいトレーニングしてきたわけです。だからあんな素晴らしい動きができる
んですね。いやあ本当に頭が下がります。僕なんかとてもできませんよ」

「おっと、ローリングソバット。長谷川も負けてはおりません。強烈な一発が
ジャガーのアゴにヒットしました。ここで長谷川からデビーにタッチ。キック
から首を掴んでDDT。ジャガーの脳天をキャンバスに打ちつけました。そし
てそのままフロントネックロックだ。足を胴にからみつけて動けなくしている。
これは危ないぞ。がっちり決まっている。工藤がカットに入るも長谷川に捕ま
った。これは危ない、危な〜い」
<カンカンカンカンカンカン!>
「おっと、ここでジャガーがギブアップ。デビー・マレットがジャガー横谷か
らギブアップを奪いました〜っ」
「う〜ん、これは驚きましたね。ジャガーも万全のコンデイションだったので
すが、デビーに捕まってしまいましたね。ああいう締め技は一度はいってしま
うとなかなか逃げられないんですよ。その前のDDTで頭を打ってたでしょ。
あれで一瞬、脳震盪みたいになってたんですね。それで逃げられなかったんだ
と思います」

「なるほど、あのDDTが効いていたんですね。それにしても女子プロレスの
神様、ジャガーが負けてしまうとは、何だかこの団体の恐ろしさを見た思いが
いたします。工藤みなみ・ジャガー横谷組対長谷川秋恵・デビーマレット組の
一戦は13分25秒フロントネックロックにより、デビーがジャガーからギブ
アップを奪っております。さあ、このあとはメインイベント、新団体、WWW
のエース決定戦、タイガーハニー対キャンディー深津の試合をお届けします。
この放送は闘いの聖地、後楽園ホールより実況生中継でお送りしております」

** は〜じめての方も〜、気軽に投稿してよね〜、ルル〜、夕プロ〜 **

「さあ花道をキャンディー深津選手が入場してまいります。ZWPからハルシ
オン、そしてこのWWWのリングへと流れ着きました。漂流する天才、キャン
ディー深津。果たして今夜このリング上で波止場を見つけることができるので
しょうか。今、闘いの大海原へと入ってきました。そして反対側の花道からは
今日がデビュー戦、タイガーハニー選手が入場です。疾風のように駆け抜けて
サードロープの下をすり抜けてリングインだ。この頃流行の女の子はコーナー
ポストに昇るような無粋なことはしないのか。トラのマスクをつけてはいるも
のの今までのタイガーマスクとは趣を異にしております。山本さん、このタイ
ガーハニーという選手、独特の雰囲気がありますね」
「そうですね、古舘さん、いいことを言ってくれました。この選手はですね、
ウチでスカウトした選手じゃないんですよ。ウチはね、深津とか、工藤とかを
エース候補としてスカウトしたわけですが、ある日、ぷらっと現れましてね。
勝手に入団しちゃったんですよ」

「えっ、勝手にですか?」
「そうなんですよ。勝手に道場のリングに上がって次々とウチの選手を負かし
ちゃったんですよ。それでこれは大変だということで急遽会談を持ちまして。
お前は何だと。道場破りかと聞いたところ、いや私はプロレスがやりたいんだ
ということなので正式に入団を認めたところなんです」

「ほほう、それはまた異色な選手ですね。で、このタイガーハニーというキャ
ラクターも本人の希望なんですか?」
「いや、それは私のアイデアです」
「えっ?山本さんの?」
「そうです。昔、新日本にタイガーマスクっていたでしょ。佐山選手ですよ。
彼に似た動きをするもんですからね、これはいけると。こいつなら女版タイガー
マスクになれると思って、私がつけたんです」

「そ、そうですか・・。これはまた大変な選手が現れたものでありです。片や
漂流する天才、そしてまたこのタイガーハニーも身元不明の天才レスラーのよ
うであります。新団体、WWWの旗揚げ戦、メインイベントのゴングが鳴ろう
としております。この放送は闘いのオリンピア、東京・後楽園ホールより実況
生中継でお届けしております」

<カーン!>
「今、ゴングが鳴りました。新団体、WWWの旗揚げ戦メインイベント60分
1本勝負であります。身元不明の天才、タイガーハニーと漂流する天才、キャ
ンディー深津、ふたりの天才ががっちり握手を交わしました。おっと、深津の
奇襲攻撃、キックからいきなりのジャーマンスープレックス。タイガーハニー
は後頭部を痛打した。カウントはワン・ツー・・。ツーで返しました。素早く
リング下に逃げるハニー。山本さん、深津は奇襲攻撃をかけてきましたね」
「いや、今のは奇襲なんかじゃないですよ。コングが鳴った瞬間から試合は始
まっているわけなんです。ハニーは握手を求められたときに油断してしまった
んです。そこを深津にジャーマンをやられてしまったわけですよ。このへんの
ところがまだまだ甘いですね」

「さあ、リング下のタイガーハニー、リングインするタイミングをうかがって
おります。深津が牽制しております。漂流する天才、キャンディー深津、再び
闘いの大海原に出航してまいりました。今夜このタイガーハニーの首をとって、
WWWという波止場を占拠することができるのか。ロープサイドを堤防のよう
に両手を広げて回っております。山本さん、ハニーが入ってこられませんね」
「そうですね、でもハニーは焦ってはいけません。リング下には20秒いても
いいわけですから。気持ちを落ち着かせてリングに入ればいいわけですよ。相
手のペースに乗らないことが大事です」

<16、17、18>

「今、ハニーがリングインしました。深津が腕をとってロープ振る。ドロップ
キックだ。バネのきいた一発がヒット。続いて今度はコーナーポストに振る。
サルトモルタルだ。次々と華麗な技を連発します。巻き投げからアームロック。
なかなかいい動きを見せております、キャンディー深津」
「もう完全に深津のペースですね。さすが色々なリングに上がってきたことは
あります。選手は初めて対戦する相手は怖いわけですよ。相手がどんな技を出
すのかわからないですから。それでどうしても動きが小さくなってしまうもの
なんですが、深津はノビノビと闘っていますね。さすがはベテランです。ベテ
ランと言うと本人に怒られてしまうかも知れませんが、歳をとっているという
意味じゃなくてね、プロレスが巧いという意味でベテランと呼んでいいかと思
います」

「さあ、リング上ではねちっこいグランドの攻防になっております。アームロ
ックから首を足で挟み込んで横三角絞めのような形になっております。何とか
もがいてポイントをずらしていくハニー。ロープに近づいていきます。ロープ
ブレイクだ。窮地を脱しましたタイガーハニー。本日がデビュー戦であります。
WWWのリングに突然現れた身元不明の天才、タイガーハニー。そのマスクの
下にはどんな素顔が隠されているのか。一見はベビーフェイスに見えますが、
実は悪魔のような心を持つヒールかも知れません。謎に包まれた未確認生命体
タイガーハニー、深津と距離をとって構えています。山本さん、ハニーの方も
落ち着きを取り戻したんじゃないですか」
「そうですね、もう大丈夫だと思います。逆に深津の方が、あれっ、こんなは
ずじゃなかったのに、って思っているんじゃないでしょうか。うまくハニーに
はぐらかされている感じがしますね」

「なるほど、天才同士の騙し合いになっているわけですね。闘う者でしかわか
らないビミョーな駆け引きが行われているのかリング上。両者は力比べの体勢
に入っています。パワーでは深津の方が上回っているか、ぐいぐいと押し込ん
でいます。ブリッジで耐えますタイガーハニー、綺麗な人間橋が作られました。
その上に乗る深津、何度も反動をつけて潰しにいく。おっと、ハニーのボディ
シザースだ。深津の胴を挟みきるように締め付ける。深津の顔が苦痛に歪んで
います。これは効いているようだ〜っ」
「古舘さん、このタイガーハニーという選手は脚の力がもの凄く強いわけなん
ですよ。道場で脚の屈伸運動をやりますよね、ヒンズースクワットですよ。あ
れをやってもハニーは他の選手の2倍、3倍やってもへっちゃらなんですよ。
他の選手がもうダメだとへたりこんでも、そこから逆にペースが上がっていく
んですね。私も色んな選手を見てきましたが脚力の強さで言えば、この選手が
ダントツの一番です」

「そうですか、他の選手がもうダメだとなってからペースが上がるという、こ
のあたりにこの選手の凄さというか、精神的な強さを感じますねえ。ハニーは
かなり負けず嫌いな性格なんじゃないですか」
「ああ、それは言えると思います。練習してましてもね、一番じゃないと気が
済まないんですよ。例えば、ある選手がベンチプレスで何キロ上げたとなると
自分も上げないと気が済まないわけなんです。ランニングしても一番、スパー
リングも一番になりたいタイプですね」

「すると、このタイガーハニーはWWWで一番身体能力の高い選手になるわけ
ですか」
「総合的にはそうです。ただ、背筋だけならこの深津やセミに出ていた長谷川
の方が上ですし、プロレスの試合は経験とか勘とかが勝負を左右しますからね。
試合になってしまえば工藤、ジャガーともどっこいどっこいというところだと
思います」

「リング上は依然としてハニーのボディシザースが決まっております。深津の
胴をちぎらんばかりに締めております。おっと、深津の両手がハニーの太い脚
を抱えたぞ。このまま一気にひっくり返そうというのか〜っ。ひっくり返した。
ボストンクラブだ。ハニーの背中がエビのように反り返っていきます。これは
凄い角度になった。深津の強烈なボストンクラブ、ハニーの腰が90度に折ら
れていく。ハニー危な〜い。あっと、深津、自らボストンクラブを解きました。
山本さん、これはどういうことですか」
「いや、わかりません。何かを狙っているんじゃないでしょうか」
「深津、ハニーの首根っこを押さえてロープに振った。走り込んでカウンター
のラリアットだ。ハニーの体が一回転。腹からキャンバスに叩きつけられまし
た。苦しそうです。さあ、深津はクビを掻き切るポーズだ。何が出るのか〜。
ああっ、これはアルゼンチン・バックブリーカーだ。先ほど痛めつけた腰に更
に攻撃を加えます。肩の上にハニーを担ぎ上げた〜っ。山本さん、ボストンク
ラブをはずしたのはこの技を狙っていたんでしょうね」
「そうですね。たぶん、深津としてはボストンクラブではギブアップがとれな
いと判断したんですね。そこでラリアットでダメージを加えておいてもう一度
背中を攻める作戦に出たわけですよ。これはタイガーハニー、ピンチですよ」

「タイガーハニー、絶体絶命のピンチに陥っています。キャンディー深津のア
ルゼンチン・バックブリーカーが背骨をへし折らんとしております。ミシミシ
と音が聞こえるようであります」
「深津の背筋力は並じゃないんですよ。ウチの団体でも1、2を争うパワーの
持ち主ですからね。早く逃げないとこのままきめられてしまいますよ」

「さあ、キャンディー深津のパワーが全開だ〜っ」

「キャンディー深津のアルゼンチン・バックブリーカーが決まっています。今
夜がデビュー戦のタイガーハニー、いきなりの大ピンチであります。マスクの
下の表情は苦痛に歪んでいることでありましょう。新団体、WWWのエースを
決める闘い、勝つのは深津か〜っ。おっと、深津、がっくりと腰を落としまし
た。山本さん、こ、これはどうしたことですか」
「ああっと、やってしまいましたか・・。実は、深津は腰に故障をかかえてい
ましてね、それが原因で2度引退してるんですよ。十分に休んで復帰してきた
はずなんですが、張り切りすぎてしまいましたか・・」

「深津が腰を押さえております。攻め込んでいたはずの深津のアルゼンチン・
バックブリーカーが逆に深津自身を追い込む結果になりました。これはタイガー
ハニー、絶好のチャンスを迎えることになりました。しかし、ハニーの動きも
止まっているぞ。攻めることを躊躇っているようにも見えます」
「ハニーはここで一気に攻めないとダメですね。ヘタに同情でもしたらうまく
丸め込まれてしまいますよ。勝負の世界はそう甘くないです。ここは心を鬼に
しても攻めなくてはいけません」

「さあ、山本さんの声が届いたのかタイガーハニーが反撃開始です。深津を持
ち上げてボディスラム。もう1回ボディスラムです。深津、そうとうダメージ
が大きいのか、動きがピタリと止まってしまいました。ハニーがもう一度持ち
上げて、今度はシュミット式のバックブリーカーだ。リングの中央に置いた。
コーナーポストに飛び乗る。こちらを向いた。何が飛び出すのか。ああっと、
何だ、この技は!!」
<ダダーン!!>
「や、山本さん、何ですか、これは」
「ハニーフラッシュです」
「ハ、ハニーフラッシュ? 今、一瞬光ったようにも見えましたが・・」
「そうでしょ、私も道場で初めて見たときはびっくりしましたよ。凄い技だと。
それでハニーフラッシュと名付けたわけです」

「えっ、ハニーフラッシュとは山本さんが名付けたわけですか?」
「そうです!」
「そ、そうですか。それにしても凄い技が出たものです。深津がダウン。立て
ないでいます。ダウンカウントが数えられています」
<3、4、5、6、7・・>
「フラフラと立ち上がる深津、大丈夫でしょうか。おっと、ハニーがバックを
とった。後ろ手に腕をロックする。後方に投げた〜っ。タイガースープレック
スだ〜っ」
<ワン、ツー・・、スリー!>
<カンカンカンカン!>

「決まりました〜っ、最後は鮮やかなタイガースープレックスが炸裂、漂流す
る天才、キャンディー深津を海底深くへと沈めました〜っ。山本さん、最後の
ハニーフラッシュからタイガースープレックスの連携は見事だったんじゃない
ですか」
「そうですね。ハニーフラッシュも完璧でしたが、そのあとのスープレックス
も素晴らしいフォームでした。どうですかね、前半は苦戦しましたがデビュー
戦としては上々だったんじゃないですか」

「タイガーハニー見事なデビュー戦を果たしました。観衆に手を振って応えて
おります。一方の敗れましたキャンディー深津、まだリング上に横たわってい
ます。腰のアクシデントさえなければ、もしかしたら勝っていたかもしれませ
ん。惜しかったですねえ」
「まあ、これは勝負の運とでもいいましょうか。仕方ありませんね。逆に言う
と深津の腰が限界に達するまで、ハニーの方が耐えたということが言えるわけ
ですよ。並の選手でしたら簡単にギブアップしていたところが、ハニーは耐え
てしまうわけですよ。それで深津は限界を超える無理をしてしまったわけです。
肉を斬らせて骨を断つじゃありませんけれど、あのアルゼンチン・バックブリー
カーは、ハニーの方も攻めていたわけですね」

「なるほど、あのシノギ合いの結果、深津の腰の方が先にまいってしまったと
いうわけですね。それにしてもいい試合でありました。山本さん、この新団体
WWW、何だか面白い団体になりそうですね」
「ありがとうございます。古舘さんにそう言ってもらえると心強いです。この
団体はニューストロングスタイルということで、華やかで楽しいんだけれども
しっかりとした力強さも持っていきたいと思っています。小さなお子さんとか
お年寄りに楽しんでもらいつつ、目の肥えたファンの期待にも応えていくつも
りです。これからもどうかよろしくお願いします」

「実に楽しみになってまいりました新団体、WWW。今、記念すべきメインイ
ベントを終えた両者が向かい合っています。勝ったハニーが深津に向かって手
を差し伸べるております。この握手に答えるのか、深津」
<バシッ>
「おおっと、ビンタだ。深津がハニーの頬を張った。悔しいでしょう、キャン
ディー深津。あと一歩のところまで攻め込んでおきながら、勝ちを逃してしま
いました。何事か、ハニーに訴えております」
「なあに、また次に勝てばいいんですよ。負けたらまた明日から、いや、今晩
からでも稽古して、また挑戦すればいいんですよ。そしたらハニーもうかうか
としていられませんよ。そうやって切磋琢磨していくのが一番いいんです」

「おおっと、花道から誰かがやってきましたよ。これは矢樹清美ですね。深津
とはZWP時代に同じリングに上がっておりました。今日は放送前の第5試合
に出場して、福岡ヒカルと30分時間切れになっていますが、おおっと、その
福岡もリング下にいます。深津、矢樹、福岡、元ZWPの3選手が揃いました。
タイガーハニー包囲網を作ろうとしているのか〜っ」
「この3人はZWP時代に軍団を作っていたんですよ。えっと、ヒッキーズで
したか。そんな名前でした。新しい団体で復帰して、また一緒にやっていこう
と思っているのかもしれませんね」

「これは旗揚げ早々大変なことになってきました。ニューヒロイン、タイガー
ハニーに対し、ヒッキーズが全面戦争を仕掛けていくのか。来週以降の展開が
本当に楽しみであります。さて、来週は東京・デイファ有明からWWWの熱い
戦いをお届けいたします。長谷川秋恵対デビー・マレット、タイガーハニー・
工藤みなみ・ジャガー横谷組対キャンディー深津・矢樹清美・福岡ヒカル組の
試合を中心にお届けする予定です。本日の解説はWWWの山本大鉄さん、実況
担当は古舘任三郎でお送りしました。山本さん、今日は本当にありがとうござ
いました」
「ありがとうございました」
「それではまだ闘いの興奮冷めやらぬ、東京・後楽園ホールよりお別れいたし
ます。ご機嫌ようサヨウナラ!」

〜 いつもそう、君のことそう、思い出してそう、気絶しそう。あきらめない、
怖がらない、挑戦しなきゃ未来などない。ドリーミング、駆け抜けてその足で、
ドリーミング、掴み損ねても、明日があるまた次がある! 〜


<<架空女子プロレス団体>>
「WWW(トリプルダブリュー)〜金曜8時のシンデレラ〜」
第2回大会(02.03.01);東京・ディファ有明


「今宵もまた、迷える子羊たちが安息の住みかを求めて集まってまいりました。
もはや正義という名の秩序はリングの上にしか存在しません。さあ、ウダウダ
言わずにこの闘いを見よ。WWW旗揚げ第2戦の始まりだ〜っ!!」

〜 いつもそう、君のことそう、思い出してそう、気絶しそう。あきらめない、
怖がらない、挑戦しなきゃ未来などない。ドリーミング、駆け抜けてその足で、
ドリーミング、掴み損ねても、明日があるまた次がある! 〜


「東京ベイサイドに突如出現した洒落た格闘技ホール、ディファ有明。本日は
1800人の観衆を飲み込んだ、ここディファ有明より新団体WWWの中継を
お届けしてまいります。私、実況担当の古舘任三郎、解説は山本大鉄さんです。
山本さん、今日もよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします。いやあ、古舘さん、この会場はとても
お洒落な感じがしますね。こんなところでプロレスの試合なんて時代も変わっ
たなって感じがします。僕らが現役の頃はエアコンもないぼっこい体育館ばか
りだったですよ。いやあ、今の選手は本当に恵まれてますよ」

「本当にそうですよね。それと、客層も全く変わってますよね。昔はいわゆる
チビッコとお父さんが多かったのですが、今は若いサラリーマン、OLが多く
なっていますよ。何だか私と山本さんは場違いな感じすらしますよね」
「まったくです」
「さあ、本日はここディファ有明よりWWWの熱き闘いをお届けするわけです
が、リング上はセミファイナル45分1本勝負が終わったところであります。
マッスルエリート、長谷川秋恵対マジカルサブミッション、デビー・マレット
のシングルマッチは14分26秒、腕ひしぎ逆十字でデビー・マレットが勝利
しております。山本さん、今、映像が流れておりますが、どうですかこのマレ
ットの動き。するすると長谷川の上を泳ぐように仕掛けてます」
「素晴らしい動きですね。デビーはウチの団体の中でも関節技をやらしたら、
1、2を争う選手なんです。僕らはキメッコって言ってるんですけどね、よく
リングでスパーリングやるでしょ。あのときにお互いに関節技をかけあうわけ
ですよ。10分のスパーリングなら10分の間にお互いに何度もかけあうわけ
ですよ。それでお互いに勉強し合うわけなんです。デビーはウチに来る前から
関節技が得意で他の選手たちにもよく教えているんです」

「なるほど、それでですか。この腕を掴んでから十字にきめるまでのスピード
も凄い早さですね。長谷川も何だかわからなかったんじゃないですか」
「古舘さん、こういう動きはですね、頭で考えてたんじゃできないわけです。
日頃の練習で何度も繰り返して体に覚え込ませるんですよ。それがいざという
ときに自然に出るもんなんですね」

「う〜ん、それにいたしましても惚れ惚れするような見事な動きでありました。
注目のシングルマッチ、長谷川秋恵対デビー・マレットの一戦は腕ひしぎ逆十
字でデビー・マレットが勝利しております。さて、このあとはメインイベント、
先週、衝撃のデビューを果たしましたタイガーハニーが、飢狼姫、工藤みなみ、
女子プロレスの神様、ジャガー横谷と組んで、キャンディー深津、矢樹清美、
福岡ヒカルのヒッキーズと6人タッグでぶつかります。この放送は東京ベイサ
イド、ディファ有明より実況生中継でお届けしております」

** 読もうぜ夕プロ〜、タダだからグー、あっ、延長お願いしま〜す **

「さあ、アップテンポな曲が流れましてヒッキーズの3人が入場してまいりま
す。先頭は漂流する天才、キャンディー深津、腰の負傷は癒えたでしょうか。
続いて、奥様はグラップラー、矢樹清美です。どんな状態からも関節をとるこ
とができると豪語しております。そしてしんがりが、月を踏む女、福岡ヒカル
です。必殺のムーンサルトフットスタンプ、今夜はどこへ着陸するのでしょう。
今、3選手がリングイン。おっと、ヒッキーズのポーズだ。これは完全復活を
果たした証なのかヒッキーズ。3選手からは笑みもこぼれております」
「まあ、うれしいのもわかりますけどね。まだ試合はこれからなんですから、
あんまり気が緩むのもどうでしょうか。グループをアピールしたいのであれば
試合の中でやるべきですね。そういう点ではまだまだ甘いなと思います」

「山本さんの厳しい言葉をもらってしまいましたヒッキーズ。果たしてどんな
闘いを見せるのでしょうか。続いて、タイガーハニー、工藤みなみ、ジャガー
横谷が入場してまいります。トラとオオカミとジャガー、猛獣が3匹集まりま
した、WWWのアニマルトリオ。ヒッキーズを食い散らすことができるでしょ
うか。おっと、ヒッキーズが奇襲攻撃だ〜っ。矢樹がハニーにドロップキック。
深津はジャガーを客席に放り込む。福岡は工藤をリング内に引きずり込んだ」
<カーン!>
「ここで試合開始のゴングであります。メインイベント60分1本勝負が開始
されました。リング上は福岡と工藤の対決だ。福岡のボディスラム。リングの
中央に置いた。おっと、コーナーポストには深津が昇っているぞ。飛んだ〜っ。
セントーンだ。強烈な一発。今度は福岡がコーナーに昇る。フットスタンプ!
工藤の腹に強行着陸っ。おおっと、今度は矢樹だ。ボディプレ〜ス!」
<1、2・・>
「カウントはツー。工藤かえしました。山本さん、ヒッキーズのコンビネーシ
ョンはさすがじゃないですか」
「そうですね。先ほどは僕も言い過ぎました。素晴らしいコンビネーションで
す。ヒッキーズ、いいんじゃないですか」

「WWWのアニマルトリオ、完全に分断されてしまいました〜っ」

「完全復活を果たしたヒッキーズの前に散らされてしまったのか、アニマルト
リオ。工藤が捕まっております。深津が工藤をコーナーに振った。ポストに背
中を打ち据える。そこへヒッキーズの3人が突進だ〜っ」
<ヤーッ>
「おっと、何ですか、これは。ダチョウ倶楽部のネタですか。これには工藤も
怒ったか。深津にパンチを繰り出す。しかし、うまくかわしてアームホイップ。
きれいに投げました。漂流する天才、キャンディー深津。そこへ矢樹清美のド
ロップキックだ。工藤はリング下に転がった。すかさず福岡がコーナーポスト
に駆け上がる。プランチャーか、プランチャーか、おおっと、工藤とは逆方向
に飛んだっ。タイガーハニーへのミサイルキック。矢樹はジャガーに向かって
トペコンヒーロー。目まぐるしい動きです」
「いやあ、これは驚きました。素晴らしいコンビネーションです。ヒッキーズ
の3人は攻撃をしながらも相手の位置をしっかり見てます。今も工藤に攻撃し
ている間にもリング下のハニー、ジャガーの体勢をきっちり確認しているわけ
ですよ。ハニーもジャガーもね、まさか自分のところに飛んでくるとは思って
なかったと思います。こういう不意をつく攻撃ってのは効くわけです。これは
ハニー組は一気にたたみ込まれてしまうかも知れませんよ」

「試合は場外戦になっております。すっかりペースを握った感じがいたします
ヒッキーズ。今度は3人がそれぞれに攻撃を仕掛けております。山本さん、こ
れは試合の権利はどうなりますか」
「古舘さん、この試合はですね、トルネード方式と言いましてリング上にいる
選手の誰もが試合の権利を持っているわけなんです。ですから誰からフォール
してもいいわけなんです。もちろんギブアップでも構いません」

「なるほど、とにかくリング上で勝負を決めればいいわけですね」
「そうです。リング下はダメです。それと場外カウントもありません。あくま
でもリング上で決着をつけなくてはならないんです」

「するとこの場外戦はリング上で決着をつけるための布石にすぎないわけです
が、それにしても激しい闘いが繰り広げられております。客席はイスがなぎ倒
され、帰る場所を無くした観衆が立ちつくしてこの闘いを見守っております。
やっとリング上にはタイガーハニーが戻ってきた。身元不明の天才レスラー、
タイガーハニー、今夜もあのハニーフラッシュが炸裂するのでしょうか。福岡
がリングに上がってくるところを捕まえた。ロープに振ってドロップキック。
立ち上がるところをもう一発。きれいなフォームで叩き込んでいきます、タイ
ガーハニー。もう一発だ。山本さん、凄い跳躍力ですね」
「そうです。ハニーの脚の力はウチの団体でも一番なんです。普通でしたら、
ああいう、その場跳びのドロップキックはそんなに高く飛べないわけですよ。
ところがハニーは軽く飛んでしまいます。そのへんはさすがです」

「おっと、後ろから深津が来た。先週の敗戦の復讐をするつもりか。バックを
とってジャーマンスープレックスだっ。これは先週も見せた強烈な一発だ〜っ」
<1、2・・>
「カットに入りました工藤みなみ。深津のジャーマンをカット。しかしすぐに
福岡がリング下に放り出す。リング上は2対1の様相になっています。ピンチ
を迎えておりますタイガーハニー。ジャガーは相変わらず矢樹に捕まったまま
です」
「う〜ん、これはよくないですね。ハニー組の方は即席タッグなものですから
連携がよくありません。完全に分断されてしまっています。それに比べてヒッ
キーズの方はあうんの呼吸とでも言いましょうか、声をかけなくてもわかって
いるという感じです。タッグチームとしての力の差が出てますね。古舘さん、
いいタッグというのは1+1が3にも4にもなるチームのことを言うんです。
このヒッキーズの3人も1+1+1が5にも10にもなってますね。このまま
ではハニー組が勝つのは難しいかも知れませんね」

「山本さんの分析ではヒッキーズ有利ということですか」
「そうです。ハニー組としたら何とか流れを変えたいですね」
「さあ、やっとここでジャガーがリングに戻ってきた。矢樹を場外でパイルド
ライバーに沈めて、ようやくリングに上がってまいりました。女子プロレスの
神様、ジャガー横谷。待っているのはヒッキーズのリーダー、月を踏む女こと、
福岡ヒカルだ。ジャガーをロープに振った。ラリアット。おっと、ジャガー、
ラリアットを側転でかわした。そのままロープの反動を利用してもう一度側転
してのフラッシングエルボー。福岡のアゴのあたりをとらえたぞ。ダウンした
福岡を起こして反対側のロープに飛ばす。今度はヒップドロップだ。ジャガー
の得意技、ジャンピングヒップドロップが出ました。たまらずリング下に逃げ
ます、福岡ヒカル。そこに待っているのは工藤だ。ニヤリと笑ったぞ。出るか、
出るか、出た〜っ、額への噛みつきだ。飢狼姫、工藤みなみの噛みつき攻撃が
出た〜っ、リンゴをかじるように額に噛みついた〜っ」
「ああっと、出てしまいましたか。工藤はね、こういうこともするんですよ。
これで相手のペースを狂わせるんです。僕は正直言ってこういうのは好きじゃ
ありません。でも、どういうプロレスをするかはその選手の自由ですからね。
工藤がそういうファイトをするというのならそれも仕方がありません。反則な
んてしなくても勝てる選手なんですけど・・」

「元SMWの飢狼姫、工藤みなみは噛みつきにこだわる女です。噂によります
と噛みつき攻撃のために八重歯を整形したとも聞いております。歯を矯正する
と言うのはよくありますが、この選手は外向きに整形しております。恐るべき
噛みつき魔、工藤みなみ。おっと、福岡の額から血が流れてまいりました〜。
口元を真っ赤に染めた工藤、恐ろしくもあり、美しくもあります」
「いやあ、僕は恐ろしいですね・・」
「リング下の凄惨な状況を尻目に、リング上ではジャガーと深津がやりあって
います。激しいエルボーの打ち合いです。気の強いふたりだ、どちらも譲りま
せん。おっと、エプロンサイド矢樹が戻ってきた。深津のジャーマンでダメー
ジを受けたハニーに忍び寄る。あっと、山本さん、矢樹がマスクに手をかけて
いますよ。ああっと、破いた〜っ。ハニーのマスクを引き裂きました〜っ」
「古舘さん、これはいけませんよ。矢樹はハニーに揺さぶりをかけるつもりか
も知れませんが、こんなことをやっちゃあいけません。これはよくありません」

「リング周辺は三様の闘い模様になっております。リング上はジャガーと深津、
リング下で工藤と福岡、そしてエプロンではハニーと矢樹、私もいったい誰の
対決を実況していいのかわからなくなってきております。ああっと、ジャガー
と深津もリング下へと戦場を移しました。替わりに上がってきたのが矢樹だ。
奥さまはグラップラー、矢樹清美、タイガーハニーをリング中央へと引きずっ
た。何がでるのか、腕をとった〜っ。三角締めだ〜っ。リング中央でハニーを
生け捕りか〜っ」
「がっちり決まってます。先ほどはマスクに手をかけた矢樹ですが意外と冷静
に戦況を見ているようです。リングの真ん中でしょ。これはハニーもキツイで
すよ。誰かカットに入れればいいのですが・・」

「リング上、がっちりと三角締めが決まっております。ジャガーはリング下で
深津に捕まっている。カットに入れない。工藤は・・、ん?・・何と、工藤は
笑っています。口元を真っ赤に染めてカメラに向かって笑っております。噛み
つき魔、工藤みなみ、リング上のことはお構いなしか、また福岡の額に噛みつ
いた〜。これはリング下も凄いことになっております」
「いやあ、本当に恐ろしいですね・・」
「え〜、試合の権利はリング上の闘いにあります。矢樹がハニーを仕留めれば
ヒッキーズの勝利です。引き裂かれたマスクの端から苦しそうなハニーの素顔
が見え隠れしております。しかし、ロープまであと少しです。じりじりとロー
プサイドまで逃れて、今、ロープブレイクです。助かりましたタイガーハニー。
すぐさま矢樹が次の攻撃に移ります。腕をとってロープに飛ばした。戻ってく
るハニーにカウンターのサイドスープレックスだ!」
「これは矢樹の得意技なんですよ」
<1、2・・>

「カウントはツー、跳ね返しましたタイガーハニー。しかし、追い込まれたぞ。
矢樹が潜り込んだ。今度は高速のバックドロップだ。押さえ込む」
<1、2・・>
「ツーだ、危ない危ない。相変わらずリング下でジャガー横谷は捕まっている。
ハニーは孤立無援状態だ。矢樹がまたロープに振った。サイドスープレックス!
ハニーの体が風車のように回った〜っ」
<1、2・・>
「おっと、ギリギリで返した。ハニー、絶体絶命のピンチだ。矢樹がバックを
とった。腕をロックする。ああっと、これはタイガースープレックスの体勢だ。
掟破りか、掟破りのタイガースープレックス〜っ」
<1、2・・>
「かえした〜。ハニー、かえしました。山本さん、これは意地で返したんじゃ
ないですか?」
「そうですね、もう意地しかなかったと思います。ハニーも自分の得意技で負
けるわけにはいかないと思ったんでしょう。それにしても仕掛ける矢樹の方も
たいした度胸ですよ。ハニーの気持ちに火をつけに行きましたね」

「さあ、矢樹が喉元を掻き切るポーズを見せた〜っ。ロープに飛ばしてとどめ
のサイドスープレックスだ〜っ。おっと、ハニーが丸め込んだっ、矢樹が一瞬
のうちに小さく折り畳まれました〜っ。ワン、ツー、スリーッ!! 3つ入り
ました〜っ、逆転のスモールパッケージホールド〜。山本さん、やりましたよ」
「うまかったですね。矢樹がスープレックスに入る、ほんの一瞬前に首に腕を
回して、滑り込むように丸めました。あんなにキレイに丸められたらちょっと
返せませんよ。さすがはタイガーハニーです。矢樹もね、いいところまで追い
込みましたが、最後の最後で油断しました。サイドスープレックスを連発した
でしょ。あの何回もやっている間にハニーはタイミングを憶えてしまったわけ
ですよ。それで一瞬早く首固めにもっていくことができたわけです」

「なるほど。悔しいでしょう、矢樹清美。レフェリーに抗議しておりますが、
完璧にスリーカウントをとられてしまいました。リング下からは深津とジャガー
も戻ってきた。福岡と工藤はまだリング下だ。ああっと、今度は福岡が工藤に
噛みついている〜っ。いやはや凄いことになっております」
「本当に恐ろしいです」
「旗揚げ2戦目も大変な試合になってしまいましたが、ニューヒロイン、タイ
ガーハニーは何とか勝利を手にすることができました。ああっと、まだ噛みつ
いております・・・。さて、来週は千葉県・千葉公園体育館からWWWの熱い
戦いをお届けいたします。長谷川秋恵・デビーマレット組対キャンディー深津・
福岡ヒカル組、タイガーハニー対矢樹清美の試合を中心にお届けする予定です。
本日の解説はWWWの山本大鉄さん、実況担当は古舘任三郎でお送りしました。
山本さん、今日は本当にありがとうございました」
「ありがとうございました」
「それではまだ闘いの興奮冷めやらぬ、お洒落な格闘空間・ディファ有明より
お別れいたします。ご機嫌ようサヨウナラ!」

〜 いつもそう、君のことそう、思い出してそう、気絶しそう。あきらめない、
怖がらない、挑戦しなきゃ未来などない。ドリーミング、駆け抜けてその足で、
ドリーミング、掴み損ねても、明日があるまた次がある! 〜


<<架空女子プロレス団体>>
「WWW(トリプルダブリュー)〜金曜8時のシンデレラ〜」
第3回大会(02.03.08);千葉・千葉公園体育館


「深い深い森を抜けて、ぽっかりと浮かぶ月明かりが見えると、そこが闘いの
ワンダーランド。プロレスという神聖なる力に導かれて今夜も大勢の民たちが
胸ときめかせて集結してまいりました。ニューストロングスタイル、WWWの
格闘イリュージョンの始まりだ〜っ!!」

〜 いつもそう、君のことそう、思い出してそう、気絶しそう。あきらめない、
怖がらない、挑戦しなきゃ未来などない。ドリーミング、駆け抜けてその足で、
ドリーミング、掴み損ねても、明日があるまた次がある! 〜

「ここ千葉公園体育館は森林の奥に根をおろすようにたたずんでいます。道に
迷った人生の旅人たちがぷらっと訪れたら、そこが格闘空間。今夜は自然に囲
まれましたこの会場からWWWの熱き闘いをお届けしてまいります。解説は、
WWWのコーチでもあります山本大鉄さんです。山本さん、今夜もどうぞよろ
しくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「さて山本さん、この新団体WWWの放送も今回で3回目になるわけですが、
なかなかの評判のようで今夜のチケットも売り切れらしいですね」
「ありがとうございます。おかげさまで前売り券が完売しまして、急遽当日券
を用意したんですがこれも発売開始30分で完売してしまいました。せっかく
来ていただいたファンの方には申し訳なかったのですが、何人かの方にはお帰
りいただくことになりました」

「まあ入場できなかったファンの方には今夜の放送を楽しんでいただくという
ことで何とぞご勘弁いただきたいですね」
「そうですね。それとですね、チケットは前もって買っていただくとありがた
いですね。早く買っていただければいい席もありますから、当日並んでいただ
くこともないですしね」

「なるほど、それがWWWを生で見るコツなわけですね。さて、リング上では
本日のセミファイナル30分1本勝負が行われております。マッスルエリート
長谷川秋恵、マジカルサブミッション、デビーマレット組対漂流する天才こと
キャンディー深津、月を踏む女、福岡ヒカルの一戦です。今、深津が長谷川の
両足を固めてインディアンデスロックの体勢になっております。山本さん、こ
のふたりの対決、エリート同士の闘いとは言えませんか」
「そうです、まさしくエリート対決です。長谷川はちょっと気持ちが弱いとこ
ろがあるんですよ。それでなかなか飛び出せないのですが、体力的にはウチの
中で1、2を争う選手です。深津の方はケガが多いんです。しかしこの選手も
コンディションが万全ならトップに立ってもおかしくないです。このふたりの
対戦はなかなか興味深いです」

「深津のインディアンデスロックがきまっております。そのまま首をロックし
て引き上げる。これは鎌固めだ。ぐいぐいと締め上げていきます」
「古舘さん、このふたりはね、ウチで一番背筋の強いふたりなんですよ。ふた
りとも後ろから見ると、惚れ惚れするような背筋をしてますよ。この鎌固めは
ふたりの背筋が正面から引っ張りっこしてるわけです」

「ふたりの背中が綺麗なアーチを描いております、リング上。おっと、デビー
がカットだ。深津の腹にストンピングを入れます。鎌固めが崩れた。長谷川が
回転してコーナーに戻る。今、デビーとタッチしました。深津も福岡とタッチ。
デビーのドロップキック。2連発。リング下へと逃れます福岡。そこへデビー
が突っ込んだ〜っ、トペスイシーダ。福岡の真正面に突き刺さりました」
「これは効きましたね。デビーは本当に思いきりのいいファイトをします。今
の技もね、正直に言うと飛ぶ方は怖いんですよ。でもそこで躊躇してしまうと
逆に危ないわけです。思い切ってやっちゃった方がかえって安全だったりする
わけなんです」

「おおっと、コーナーポストに深津が立っているぞ〜っ、リング下のデビーを
狙っているのか。飛んだ〜っ、ああっと、セントーンだ。まるで2階からセン
トーン。山本さん、これは危ないんじゃないですか」
「あ〜っ、無茶やりますね・・。深津は腰を痛めて2度も引退してるんですよ。
それなのにあんな高さからセントーンとは・・・。ちょっとあきれましたね。
僕は今、思い切ってやっちゃった方が安全だと言いましたけどね、あれは並の
根性じゃあできませんよ。いやあ、凄すぎます」

<カンカンカンカン!>

「あっと、ここでゴングだ。特攻隊のようなトペ、身投げのようなセントーン
まで出ましたが、無情にもここでタイムアップ、時間切れです。いやあ、山本
さん、この闘い、もう少し見たかったですね」
「そうですね、これからと言うところで終わりになってしまいました。残念で
す。今度はこのふたりのシングルなんかも見たいですね」

「セミファイナル30分1本勝負のタッグマッチは時間切れのドロー、引き分
けに終わりました。さて、このあとは人気沸騰のタイガーハニーが虎ハンター
矢樹清美とシングルで激突します。この放送は森の格闘劇場、千葉公園体育館
より生中継でお届けしています」

** あと半年は持つんじゃない? メルマガ生命、すっ、すいません
           まぐまぐ版も、めろんぱんも、両方読んでね〜 **


「さあ、奥さまは虎ハンター、矢樹清美の入場です。先週のディファ有明大会
ではタイガーハニーのマスクを剥ぐという暴挙に出ました。今夜はどんなファ
イトを見せるのか。おおっと、これは何でしょうか。虎のマスクを被っており
ます。矢樹清美、今夜はマスクを被っての入場だ〜っ」
「これはハニーと同じデザインのマスクですねえ」
「奥さまは虎ハンター、矢樹清美。何を考えているのか、タイガーハニーのマ
スクをつけて入場してまいりました。続いて反対側の花道より、未確認生命体
タイガーハニーが入ってまいります。押し寄せる人波をくぐり抜けて颯爽と今、
リングに入りました。WWWの新星、タイガーハニーであります」
「ハニーは今日で3試合目ですけどね、何だか風格が出てきましたね。団体の
トップとしての自覚が出てきたみたいです」

「そのハニーに突っかかっていく、もうひとりのハニー、矢樹清美。おおっと、
自らマスクを破りました。マスクを引き裂いて素顔の矢樹清美が現れた。あっ、
山本さん、ペイントですか。矢樹は顔にペイントをしてますね」
「そうですね。彼女はWWWに入る前はアメリカで試合をしていまして。そこ
でグレート・ヤギという名前で暴れまくっていたわけです。そのときのキャラ
クターを逆輸入してきましたね」

「しかし、これはおどろおどろしいペイントであります。心臓の悪い方や子供
さんはあまり見ない方がいいかもしれません。日本初登場のグレート・ヤギ、
今、コールされて右手を上げました。おっと、ハニーがドロップキックで先制、
ヤギをリング下に落とした。そしてロープに飛んで空中殺法がでるのか、出る
のか、おおっと、ノータッチで飛んだ〜っ、トップロープ越えのトペだ〜っ」
「タイガーグライダーです」
「タイガーグライダーですか、まさにグライダーが空を飛ぶようなフォームで
リング下のヤギに向かって行きました、タイガーハニー。山本さん、この技は
相当危険な技なんじゃありませんか」
「もちろんです。もし相手が避けてしまったら凄いダメージになりますからね。
ですからスピードが勝負なんですよ。相手がリング下に落ちたらすぐに仕掛け
ないと間に合わないわけです。ハニーはロープに飛んで走っているうちに相手
の位置を捕捉していてですね、リバウンドの瞬間に微調整するわけなんです。
もうそれは何度と練習してましたよ」

「山本さんはハニーが練習しているときからこの技を見ていたわけですか」
「そうです。見ていただけじゃありませんよ、僕も何度もこの技を受けました」
「えっ、山本さんも受けたんですか」
「そうです。この技はね、古舘さん、ぐ〜んと伸びてくるわけですよ。来たっ
と思ったらもう当たってるんです。僕なんか一度、顔面にハニーの頭が当たり
ましてね、鼻血が止まりませんでしたよ」

「そうですか。山本さんに鼻血を出させたわけですね。道場では鬼軍曹と呼ば
れている山本さんを流血させるとは大したものであります、タイガーハニー。
リング上に戻ってまいりました。ヤギも追いかけるように戻ってくる。ハニー
が待ち受けているぞ、ロープ越しにヤギを捕まえた。ブレーンバスターの体勢
だ。持ち上げた〜っ、ブレーンバスター。おっと、ヤギが空中で反転したぞ、
ハニーの後ろに降り立った。あっと、毒霧だ〜っ」
「これはね、古舘さん、リング下にいたときに口に含んできたんですよ。僕も
現役の頃にやったことがあるんですけどね、コンドームの中にシロップを入れ
とくわけですよ。それをタイツに忍ばせておいてちょっとしたスキに口に入れ
るわけです。で、歯で噛み切るわけです」

「なるほど。今、山本さんから衝撃のネタばらしがありました。と言うことは
ヤギも口にコンドームを入れていたわけでしょうか。そしてそれはゆうべ使う
つもりだったのに使わなかった残りだったのかも知れません」
「おそらくそうでしょう」
「おどろおどろしいペイントをしたヤギの人間っぽい一面を見た気もいたしま
すリング上。視界を奪われたハニーにヤギが舌なめずりしているぞ。腕をから
めた。ダブルアームスープレックス。綺麗にきめてまいります。今度はフロン
トスープレックスだ。このあたり得意技のサイドスープレックスへの布石なの
でありましょうか。さあロープに振ったっ。出るか伝家の宝刀、おっとこれは
払い腰だ。柔道技の払い腰を見舞ってきました〜っ」
「う〜ん、古舘さん、ここがヤギの凄いところです。あの払い腰とサイドスー
プレックスは同じような体勢から繰り出すわけですが、払い腰の方は一歩踏み
込んでるんです。あれを先週のようにスモールパッケージに丸めることは難し
いですね。ヤギも先週の闘いを研究してきたわけです」

「さすがであります、矢樹清美、いや、グレート・ヤギ。奥さまでありながら専
業のプロレスラーであります。今夜もご主人の夕食を仕込んでから会場に来て
いるのでしょうか。奥さまは虎ハンター、いや、今夜は奥さまは怪奇派です」
「ハニーはダメージが大きいですね。プロレスのリングは多少弾むようにでき
てるんですけど、ウチのリングは結構硬めなんですよ。ですから投げ技などは
効くんです。何発も喰らってますと全身が段々だるくなってくるわけなんです。
ハニーもここらへんで反撃しないといけませんよ」

「さあ、得意の投げ技を連発していきますグレート・ヤギ。今度は何を狙って
いくのか。ブレーンバスターか、ブレーンバスターの体勢で持ち上げました。
おっと、そのままコーナーポストへと乗せた。雪崩式か、雪崩式の大技を狙っ
ていくのか。サイドスープレックスか、得意技のサイドスープレックスをここ
で出すのか〜っ」
「古舘さん、危ないです。こちらに来ますよ」
「ああっと、何と、場外に向かって仕掛けようとしている。 危ない、危ない、
何と、実況席に向かってのサイドスープレックスだ〜っ!!」
<ガラガラガガ〜ン!!>
「古舘さん、大丈夫ですか」
「・・はい、だ、大丈夫です。ただ今、放送席に両選手が降ってまいりました。
ヤギの場外への雪崩式サイドスープレックス、何と、放送席を粉々にしてしま
いました。凄い迫力です。私、一瞬言葉を失ってしまいました」
「本当にどいつもこいつも無茶しますよねえ」
「山本さん、そう言いながらも何だかうれしそうですよ。内心喜んでるんじゃ
ないんですか」
「ははは、バレましたか。いやあ、思い切りがいいってことは気持ちがいいで
すから。古舘さんには申し訳ないですが、僕は正直、お前たちよくやったって
いう気持ちですよ」

「まったく・・、選手も選手ならコーチもコーチであります。背中から本部席
に落ちたふたりがフラフラとリングに戻っていきます。恐ろしい体力、凄まじ
いまでの気力であります両雄。果たしてこの勝負の結末はどこへと辿り着くの
でありましょうか。先にリングに入ったのはヤギの方だ。ハニーをロープに振
った。パワースラムだ。リングの中央で決まった。カウントはワン、ツー・・
返した。カウントはツーです。山本さん、ヤギはそろそろフィニッシュを狙っ
てますかね」
「狙ってますね。さっきのサイドスープレックスで相当追い込んでますからね、
ここはチャンスです。一気に行きたいですね」

「おおっと、ここでヤギがマスクに手をかけた。先週と同様、今夜もハニーの
マスクに手をかけました。ビリビリとマスクを引き裂いていきます。精神的に
追いつめる作戦か、虎ハンターの面目躍如だ〜っ」
「これはヤギの方が焦ってますね。本来ならここでマスグを剥ぐ必要なんかな
いわけですよ。どんどん技を出していくところなんですが、ヤギは先週みたい
に切り返されるのを恐れているわけなんです。だから逆に手が出なくなってし
まったんです」

「なるほど、ヤギとしては手の内を全部見せてしまったわけですね」
「そうです、そうです。次の手がなくなってしまったわけですよ。かと言って
攻めないわけにもいかない。それでマスクに手がいってしまったわけです」

「さあ、どうするのかヤギ。得意のサイドスープレックスに賭けるのか」
「こうなったら行くしかないでしょうね、しかしハニーもそれを待ってますよ」
「ハニーの頭を掴んでロープに振った〜っ。フロントスープレックスだ。サイ
ドスープレックスには行きませんヤギ。カウントはワン、ツー・・返します。
ハニーの方も必死に返していきます。さあ、ヤギが首を掻き切るポーズだ。こ
れはフィニッシューと繋ぐサインか。ハニーをリング中央にボディスラム。そ
してコーナーポストに昇った。距離を計っているぞ〜。両手を広げた。そして、
飛んだ〜っ、ダイビングヘッドバット〜っ、ああっと、かわしたっ。ハニーが
かわしました。ヤギのダイビングヘッドバットは自爆だ〜っ。今度はハニーが
コーナーに昇る。出るか、出るのか、デビュー戦で見せたあの技が出るのかっ、
出た出た〜っ、ハニーが飛んだ〜っ!!」
「ハニーフラッシュですよ」
「タイガーハニーの必殺技、ハニーフラッシュがヤギを直撃した〜っ!」
「これは決まりましたよ」
「ヤギはどうだ、立てるのかっ。レフェリーがカウントを数えます。どうだ、
ダメージが大きいか」
<7、8、9・・>
「何とか立ち上がった。しかしハニーが待ちかまえているぞ。脚をフックする。
腕をねじり上げて、卍固めだ〜っ、ハニーの卍固め、リング中央でがっちりと
きまっている。オクトパスホールド、卍固め〜っ。トラがタコに変身した〜。
どうだ〜っ、きまったか〜っ。きまった、きまりました。ヤギがたまらずギブ
アップ。ハニー勝ちました〜っ、最後はオクトパスホールド〜っ」
「いやあ、最後はきわどかったですね。ヤギは最後のところで迷ってしまいま
したね。どうだったかわかりませんが、サイドスープレックスで勝負する手も
あったかと思います。う〜ん、残念です」

「そうですか、やっぱり先週負けていることが頭にあったんですかね」
「そりゃそうですよ。選手は負けた試合のことは忘れませんからね。敗因は何
だったのか、どうすればよかったか、それを考えるわけです。先週の場合、サ
イドスープレックスのタイミングを憶えられてしまったことが敗因だったわけ
です。そしてそのタイミングを、ハニーはまだ憶えていると思ったわけですね。
う〜ん、でも自分の得意技ですからね。やっぱり勝負すべきだったと思います」

「なるほど、ふたりの間には深い心理戦も繰り広げられていたわけですね。そ
れにいたしましても凄い闘いを見せつけてくれました両雄。館内からは拍手も
沸き起こっております。本当によくやりました。さて来週は東京・大田区体育
館からWWWの熱い戦いをお届けいたします。長谷川秋恵対キャンディー深津
のエリート対決、タイガーハニー・デビーマレットの異色チーム対ジャガー横
谷・工藤みなみ組の試合を中心にお届けする予定です。本日の解説はWWWの
山本大鉄さん、実況担当は古舘任三郎でお送りしました。山本さん、今日は本
当にありがとうございました」
「ありがとうございました」
「それではまだ闘いの興奮冷めやらぬ、森林の格闘空間・千葉公園体育館より
お別れいたします。ご機嫌ようサヨウナラ!」


<<架空女子プロレス団体>>
「WWW(トリプルダブリュー)〜金曜8時のシンデレラ〜」
第4回大会(02.03.15);東京・大田区体育館


「いくつもの名勝負がこの体育館から生み出されていきました。東京、大田区
体育館です。今夜もまたプロレス史に残る名勝負が生み落とされるのでありま
しょうか。歴史の証人になるために、真実の目撃者になるために、時の立会人
として大勢の人たちが集ってまいりました〜っ。WWWの時は来た〜っ!!」

〜 いつもそう、君のことそう、思い出してそう、気絶しそう。あきらめない、
怖がらない、挑戦しなきゃ未来などない。ドリーミング、駆け抜けてその足で、
ドリーミング、掴み損ねても、明日があるまた次がある! 〜


「大田区体育館は、なぜか名勝負の生まれる場所であります。いつからか人は
大田区伝説なる言葉をも生み出しました。今宵もまた新たな伝説が生まれるの
でありましょうか。さて、今日はいつも解説をしていただいている山本大鉄さ
んがレフェリーとしてリングに上がっているため、解説にはスペシャルゲスト
をお招きしております。本日のスペシャルゲスト、史上初の身体障害者お笑い
芸人、ホーキング青山さんです」
「どうも〜、ホーキング青山です」
「青山さん、今夜はどうぞよろしくお願いします」
「あっ、こちらこそよろしくお願いします」
「青山さんは大田区にお住まいということで、ここ大田区体育館は庭みたいな
ものだと思うのですが、よくこちらには観戦にみえるのですか」
「ええ、たまにですけどね。あんまり家から近すぎるのも味気ないですから、
後楽園ホールとか、日本武道館の方が多いですけど。まあそれでもやはり地元
なんで、わりとよく来る方だと思います」

「そうですか。今夜はWWW初めての大田区体育館大会ということなんですが、
青山さんはWWWの試合はご覧になったことはあるのですか」
「ええ、旗揚げ戦からずっと見ています」
「どうですか、お気に入りの選手なんかいますか」
「お気に入りというわけではないのですが、タイガーハニー選手には注目して
ますね。独特な雰囲気というか、オーラみたいなものが出てますね。あの〜、
ハニーフラッシュですか、あれをぜひ生で見たいと思っています」

「なるほど、そのタイガーハニーは本日はメインのタッグマッチに登場します。
デビーマレットと組んでジャガー横谷・工藤みなみ組と対戦いたしますが、そ
の前にセミファイナル30分1本勝負、長谷川秋恵対キャンディー深津の一戦
がまもなく行われようとしております。両選手の紹介です」
<ハセガワ〜アキ〜エ〜>
「今日も背筋が美しい、マッスルエリート、長谷川秋恵」
<キャンディ〜フカ〜ツ〜>
「漂流する天才、人生いろいろ、キャンディー深津です」
<レフェリー、ヤマモトダイテツ〜>
「この放送はプロレス伝説工場、大田区体育館より生中継でお届けしています」

** くちびる寂しい・・ 読みなってばよ 夕刊プロレス **

「リング上では長谷川秋恵対キャンディー深津のシングルマッチ、30分1本
勝負が行われております。青山さん、これはなかなか見応えのあるカードです
よね。いい試合が期待できそうですが、どう見てますか」
「僕はどちらかと言えば、深津の方が好みですね」
「えっ、青山さんはポッチャリ系が好きなんですか」
「いや、そういうわけではないんですけど。基本的には誰の挑戦でも受けると
言うか、誰が一番強いんだかはっきりしろと言うか、こんな会社やめてやると
言うか。まあ早い話、いい女ならみんな好きなんですけどね」

「ははは。それでも長谷川は嫌だと」
「何を言ってるんですかっ。いつ私が長谷川さんを嫌だといったんですかっ!
嫌いとかそういうことを言ってるんじゃないんですっ、私は特定の人の名前を
あげて便宜をはかったことなんて一度もありません。ここのところははっきり
と述べさせていただきたいと思います!」

「時事ネタですね」
「爺ネタです」
「さあ、リング上ではねちっこいグランドの展開になっております。長谷川の
リストロックが深津の動きを封じています。体をよじって逃れようとする深津。
くるくるっと回転します。その動きに遅れまいとついていく長谷川。腕のとり
あい、バックのとりあいが続いております」
「ふたりともグランドがうまいですね」
「ふたりとも素晴らしい肉体を持っているのですが、それに加えてこの技術。
さすがはエリートと呼ばれているふたりであります」
「確かこの深津にタイガーハニーは勝ったんでしたよね」
「そうです。開幕戦では深津とハニーが対戦しましてハニーフラッシュからの
タイガースープレックスでハニーがピンフォール勝ちしています。青山さんは
その試合はご覧になったんですか」
「ええ、その日は殿にお食事をごちそうになりまして、たまたまテレビでその
試合を見たわけですよ。いやあ、殿もハニーにはびっくりしてましたよ」

「えっ? 殿って・・、殿っていうのはたけしさんですよね」
「ええ、そうです。殿と一緒にベッドで見てました」
「・・・・」

「さあ両者の動きが激しくなってまいりました。深津をスタンディングのヘッ
ドロックに捕らえます長谷川。ぎりぎりと締め上げます。深津がロープの反動
を利用してはずした。長谷川がロープに振られてショルダータックル。両者の
筋肉がリング中央でぶつかったっ。互角だ。長谷川がもう一度ロープに飛ぶ、
もう一回ショルダータックルだ。今度は激しいぞ。深津がダウン。パワーでは
長谷川の方が上か〜っ。観客に向かってマッスルポーズだ〜っ」
「今、凄い音がしましたよ。大丈夫ですかね」
「おっと、すっくと立ち上がった深津、長谷川のバックをとった。ジャーマン
スープレックスだ〜っ。カウント、ワン、ツー・・かえしました〜」
「今のジャーマンはビクトル・ザンギエフがバズ・ソイヤーに見舞ったジャー
マンに似てましたねえ」

「おっと、凄いコメントが出ました。デレビをご覧のみなさんもこのコメント
を聞いたら、青山さんがエセプロレスファンでないことがおわかりになるかと
思います」
「誰が、エセですか」
「いやあ、結構いるんですよ、エセファンが。プロレスファンだと言うので、
突っ込んだ話題なんかを振ってみると、全くチンプンカンプンだったり。特に
お笑いの方に多いんですよ。いや、これはホントですよ」
「それマジ!?」
「すいません、青山さん。それ他局ですから・・」
「世界の缶詰〜っ」
「他局ですってば!、え〜、リング上はまたグランドの攻防になっています。
今度は足首に照準を絞ったか深津、長谷川の足首を脇に挟んでヒールホールド
のような体勢になっています」
「これはどこが効くんでしょうかね」
「う〜ん、どこでしょうか。足首とヒザでしょうか。こういう技の解説は山本
さんがいてくれると助かるのですが・・」
「便秘に効くとかってことはないですよね」
「それはないと思います」
「どうもすいませ〜ん」
「長谷川がロープに逃れていきます。ロープブレイク。レフェリーの山本さん
がふたりを分けます。おっと、深津が足首を放しません。おおっと、そのまま
リング下に転げ落ちた〜っ。深津が場外戦に誘ったのか、場外乱闘か〜っ」
「おお、来ました。来ましたよ、古舘さん」
「おっと、深津が長谷川を連れて放送席の方にやってきました」
<バンッ!>
「深津が長谷川の頭を机に叩きつけました。青山さん、大丈夫ですか」
「いやあ、凄い迫力ですね。すぐそばまで来たのでお尻でも触ろうかと思った
んですがビビっちゃって手が出ませんでした」

「何言ってるんです。ビビってなくても手は出せないじゃないですか」
「いや、棒は出せますからね。この棒を口にくわえてタッチするわけです」
「それは気持ちいいんですか?」
「古舘さん、何を言ってるんですか〜。気持ちよくなるために触るんじゃない
ですよ。やっぱり目の前にプロレスラーがいたら、触りたいと思うのがファン
じゃないですか。プロレスラーというものを少しでも感じたいわけですよ」

「なるほど、失礼しました。ファンの純粋な気持ちというわけですね」
「そうです、そうです。まあ、でもどちらかと言えば触られたいですけどね。
技なんかもかけられたいですよ〜。雪崩式ジャーマンがあるんだから、車椅子
ジャーマンがあってもいいんじゃないでしょうか」

「どんなのですか、車椅子ジャーマンって。かける方が車椅子ですか、かけら
れる方ですか」
「かけられる方ですよ。どうやって私がかけるんですかっ」
「おおっと、そうこうしているうちにスピードアップしてきましたリング上、
深津が長谷川をロープ振る。あっと、逆転のローリングソバットだ。長谷川の
ソバットが深津のアゴをとらえた〜っ。ワン、ツー・・危ない、危ない。深津、
何とか返しました」
「深津〜っ、負けるな〜」
「長谷川が深津のバックをとった。バックドロップ〜っ、捻りを加えた一発だ。
深津の脳天がマットに突き刺さった〜っ。しかし、フォールにはいきません。
KO気味の深津を立たせて、もう一発バックドロッ・・いや違います、前です。
ベンジュラム・バックブリーカーだ。ヒザの上に深津を背中から落としました」
「懐かしいなあ、ビル・ロビンソンがよくやってましたねえ」
「あっと、そしてキャメルクラッチだ〜っ。ロビンソンのあとはザ・シークだ。
深津の背中が反り上がっていきます。ああっと、だめだ、だめだ。ギブアップ。
キャンディー深津、ギブアップです〜っ」
「深津は腰が悪いんでしたよねえ」
「そうなんです。旗揚げ戦もそれで落としてるんです」
「やっぱり、体調が万全でないなら休んだ方がいいですね。そうしないといい
試合なんてできませんよ。私も下痢のときは集中できなくていいトークができ
ないですから」

「なるほど、なかなかいいことを言ってくださいました。キャンディー深津、
今日も白星を勝ち取ることはできませんでした。次の試合には是非とも下痢を
直して、いや、腰を直して出場して欲しいものです。逆に長谷川は見事に勝利
をおさめました。さあ、このあとはお待ちかね、タイガーハニーの登場です。
この放送はプロレス夢工場、大田区体育館より実況生中継でお届けしています」

「さあメインイベント、60分1本勝負のタッグマッチであります。タイガー
ハニー・デビーマレット組対工藤みなみ・ジャガー横谷組の一戦です。すでに
リングには4選手が上がっております。レフェリーの山本大鉄さんが4選手に
なにごとが注意しております」
「時間が押してるから急げって言ってるんですかね」
「そうかも知れません。テレビ局サイドから言わせてもらえば何とか放送時間
内にフィニシュまで持っていってもらいたいものです」
「これは勝ち負けは決まってるんでしょうか」
「う〜ん、通常はハニーが勝つようにマッチメークするものでしょうが今日の
相手は工藤とジャガーですからね、そう簡単には勝たせてもらえそうにありま
せんよ」
「と言うことは乱入でしょうか。そう言えば先週まで出ていた矢樹選手がまだ
出ていませんねえ」

「矢樹選手は本日は他団体に出ていて欠場なんです」
「あ〜っ、もりおかプロレスですね。スケベなグレート・コジローのところに
行ってるんですか。惜しいなあ、矢樹選手見たかったのに〜」

<カーン!>

「始まりました本日のメインイベント、先発はタイガーハニーとジャガー横谷
であります。おっと、いきなりロープに飛んだタイガーハニー、マットに伏せ
てかわしますジャガー、その上を飛んで反対側のロープに飛びますハニー、そ
こへウラカン・ラナだ。ジャガーのウラカン・ラナ。それを素早くエビ固めに
切り返しますハニー。さらにそれをジャックナイフに固めるジャガー、カウン
トは、ワン・ツー・・返します」
「素早い動きですね〜」
「間髪入れずハニーのドロップキック。高い打点で綺麗にきまりました。そし
てジャガーの腕をとってロープ飛ばした。カウンターのドロップキックだっ。
ジャガーの胸板を突き刺すように決まりました。さあ今度はコーナーに飛び乗
ったぞ。ジャガーが起きあがるのを待っている〜っ」
「えっ、もしかして、ハニーフラッシュですか?」
「飛んだ〜っ、ミサイルキックだ〜っ。ああっと、これはジャガーにかわされ
ました。ジャガーはハニーの頭部を掴んで自軍のコーナーに連れていきます。
ここで餓狼姫、工藤みなみと交代いたします」
「ああ、惜しかったですねえ、ハニーフラッシュかと思いました」
「試合開始から一気に攻め込んだハニーでしたが、ここでベテランチームに捕
まってしまいました。工藤が首投げからスリーパーにいきます。がっちりと首
をとらえましたアナコンダ殺法。いつあの恐怖の噛みつきが出るのか戦々恐々
であります」
「あの噂は本当なんですか、あの〜八重歯を外向きに矯正したっていう話は」
「本当です。私も半信半疑だったんで先週、試合後にインタビューに行ったん
です。そしたら控え室で弁当を食べている工藤に会えまして。確認してみまし
たら何と外向きなんですよ、八重歯が。いや、あの90度外へ向いているわけ
ではなくて心持ちなんですけど、明らかに外向きなんです」
「それは生まれつきではなくて矯正したんですか」
「本人はそう言ってました。その方が噛みつきやすいんだそうです」
「噛みつきやすいって反則じゃないですか・・」
「まあそうなんですけど。おおっと、その噛みつきにいくのか、工藤がカメラ
目線でニヤッと笑った〜っ。いった〜っ、今夜も流血の惨事かタイガーハニー
の額に、マスク越しに噛みついた〜っ。あっと、デビーがカットだ。デビーマ
レット、工藤の顔面に蹴りを見舞いました。ハニー助かりました」
「噛みついたり、顔面蹴ったり、この放送は大丈夫なんでしょうか。たぶん、
私に噛みついたりしたら放送中止でしょうね、はははは」

「あっ、青山さん、今の発言が工藤に聞こえたようですよ」
「えっ?」
「ここでハニーがデビーにタッチ、工藤もジャガーとタッチした。おおっと、
工藤がこちらを見ています。あ、青山さん、逃げた方がいいですよ」
「と言われても逃げられませんよ。前も後ろも詰まっているじゃないですか」
「工藤がゆっくりと近づいてきます。ロープをくぐってエプロンから降りる。
何をする気でしょうか。まさか噛みつくのか、障害者に噛みつきか。そんなこ
とをされては今後の放送が危うくなります。ピンチだ、WWW存亡がかかった
大ピンチが訪れました〜っ」
「おいおい、やめてくれよ。やめてくれ、ああ〜っ」
「カメラさん、リング上を映してください。リングではハニーとデビーがジャ
ガーをとらえております。ふたりがかりのブレンバスター。ジャガーの体がマ
ットに叩きつけられた〜っ。デビーがジャガーを持ち上げた。ボディスラムだ。
さあコーナーポストにはハニーが昇っているぞ。出るか、出るのか、ハニーフ
ラッシュか〜っ、ハニーフラッシュだ〜っ」
「ああ〜っ、やめてくれよ、おいおい」
「きまった〜っ、ハニーフラッシュが炸裂〜っ。しかし試合の権利があるのは
デビーの方だ。デビーがダメ押しのノーザンライトボム〜っ。フォール、ワン、
ツー、スリーっ。ジャガー立てません。ハニーフラッシュからノーザンライト
の連携の前に無惨にも砕け散りました〜っ」
「いててっ、このやろう、いてて」
「あっと、もう放送時間がなくなってしまいました。本日の実況は古舘任三郎、
解説はスペシャルゲストのホーキング青山さんでお送りしました。青山さん、
今日は本当にありがとうございました」
「ああ〜っ、ああ〜っ」
「それではまだ闘いの興奮冷めやらぬ、大田区体育館よりこのへんでお別れい
たします。みなさま、ご機嫌ようサヨウナラ!」


<<架空女子プロレス団体>>
「WWW(トリプルダブリュー)〜金曜8時のシンデレラ〜」
第5回大会(02.03.22);東京・日本武道館


「東京の夜空を1台のヘリコプターが飛んでおります。ご覧下さい。上から見
るとまるで星のようであります、日本武道館。その星の飛沫のように長い列が
這い出しております。九段下の駅から日本武道館へ続く長い列、16000人
の観衆が今夜、星の飛沫となる。WWW旗揚げシリーズ最終戦で〜すっ!」

〜 いつもそう、君のことそう、思い出してそう、気絶しそう。あきらめない、
怖がらない、挑戦しなきゃ未来などない。ドリーミング、駆け抜けてその足で、
ドリーミング、掴み損ねても、明日があるまた次がある! 〜


「日本武道館は満員です。すり鉢状の客席には、びっしりと観衆が座っており
ます。今夜の解説は山本大鉄さんです。山本さん、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「それにしても山本さん、よく入りましたねえ。満員御礼ですよ」
「ありがとうございます。これもね、毎試合、手を抜かずに頑張ってきた選手
たちへのご褒美だと思います。ご褒美と言ったら変ですかね。ファンのみなさ
まからのガンバレよ、っていう激励だと思っています」

「さあ今夜はここ日本武道館からの生放送であります。注目のメインイベント、
急遽来日しましたケニアからの挑戦者、オーター・パワーがいきなりタイガー
ハニーと激突します。山本さん、このオーター・パワーとはいったいどんな選
手なんですか」
「はい。この選手はですね、かなり大型の選手です。190センチぐらいあり
ますかね、体重も100キロはあります。それでいながら全身がバネのように
やわらかいんです。これは凄い選手ですよ」

「190センチ、100キロですか。女子選手としてはかなり大きいですよね」
「そうですね。男の僕よりもだいぶ大きいです」
「ちなみにタイガーハニーは168センチ、60キロですから、身長で22セ
ンチ、体重は40キロも違いますよ」
「大変ですね。格闘技は10キロ違ったらかなりのハンデですからね、40キ
ロ差は大変なことだと思います。でもね、ハニーはきっと克服してくれるもの
と思います。ハニーの身体能力は素晴らしいものがありますからね」

「う〜ん、そうは言いましても不安は拭いきれません。突如訪れた謎の挑戦者、
オーター・パワーはこのあと登場です」

** ドライブ・ユア・ドリームス 夕刊プロレス **

「リズミカルなテーマ曲でケニアからの挑戦者、オーター・パワー選手が入場
してまいります。おっと見えました、この選手です。褐色の巨体に黄色いマス
クを被っております。このマークは何でしょうか、幾何学模様のマークがプリ
ントされたマスクを被っております。まるでミステリーサークルであります。
ある朝、突如として現れるミステリーサークルのように、急遽来日を果たしま
した、人間水力発電所、オーター・パワー。今、ゆっくりとリングに上がりま
した」
「大きいですねえ。リングに上がると余計に大きく見えます」
「続いて人気沸騰のタイガーハニーが入場してまいります。花道には大勢のフ
ァンが集まっています。山本さん、凄い人気ですね」
「ははは、そうですね。でも、そちらからは来ませんよ」
「えっ? それはどういうことですか?」
「上です」
「上っ? おおっと、上です。タイガーハニーは日本武道館の天井にいます。
あっと、落ちてきました。おお〜っ、これは凄い。こんな入場の仕方がかつて
ありましたでしょうか〜っ。天井から吊された状態で、コーナーポストの上に
着地です。ふわっと、まるで羽でも生えたかのような動き。これは驚きました」
「そうでしょう。今日はせっかくの武道館大会ということなので、演出面にも
凝ってみました。どうですか、古舘さん」

「いやあ、これはびっくりしました。こんなことができるんですねえ」
「いや、誰でもできるというわけではありませんよ。タイガーハニーの人並み
外れた運動神経がなせるワザです。他の人にはできませんよ」

「ハニーのセコンドが背中につけていたロープをはずしております。これには
オーター・パワーも驚いたことでしょう。とんでもない方法で入場してきまし
たタイガーハニー。さすがであります」
「古舘さん、実はこういうところから勝負は始まっているわけなんです。正直
言いましてオーター・パワーは今の入場に驚いたと思います。そこで、何くそ
と思うか、これはかなわないなと思うかで勝負は決まってしまうんです。もし
ハニーの運動神経に怖じ気づいているようなら、既にここでオーター・パワー
の負けですね」

「なるほど。どうでしょうか、ケニアからの刺客、オーター・パワー。その表
情からは気後れなどはしていないようにも見えます」
「大丈夫ですね」
「さあ、両選手の紹介です」
<オ〜タ〜・パ〜ワ〜>
「褐色の水力発電所、オーター・パワーであります」
<タイガ〜ハニ〜>
「その実力は今だ底なし沼、未確認生命体、タイガーハニーです」
<レフェリー、ジャガー横谷>
「本日のレフェリーは選手でもあります、ジャガー横谷です」

「あれっ、山本さん、あれは誰ですか」
「あれはマネージャーのミスタースズキです。ケニアからオーター・パワーを連
れてきた男です」

「リング下のひときわ小柄な男。妙に愛想がいいです。ドーモドーモと観客に手
を振っております。まるで選挙区をまわる立候補者のようであります」
<カーン!>
「さあ始まりました本日のメインイベント。タイガーハニー対オーター・パワー
の60分1本勝負であります。山本さん、ハニーはこれまでにキャンディー深津、
グレート・ヤギの2選手をシングルで破ってきましたが、今回の相手はちょっと
手強いんじゃないですか」
「そうですね、深津もヤギもいい選手ですけど、どちらかと言えばテクニシャン
の選手ですよね。まあ深津はパワーもありますが、何せ小柄な選手です。それに
比べますとこのオーター・パワーはとにかく大きいですからね、真正面からいく
と苦戦すると思います。ですからね、ハニーは揺さぶっていかなくてはダメです。
足を使って撹乱することです。そうすると一瞬のスキが生まれてくるわけです」

「なるほど。しかし、山本さんの忠告に背くようにハニーは正面からいっていま
す。両手を伸ばして力比べにいくようだ。これは無謀だぞ、タイガーハニー」
「これは無謀ですねえ」
「がっちりと組んだっ。オーター・パワーの銀杏のような掌がハニーの手を握り
つぶすように掴んだ〜っ。これは圧倒的な力の差だ。ハニーがまるで水に入れた
綿菓子のように潰れていきます。凄いパワーであります」
「ちょっと無謀すぎましたね。まあ選手としてみれば、お前どれくらいやれるん
だと、いっちょ試してやろうという気持ちはわかります。それにしても少し無茶
でしたね」

「おっと、マネージャーのミスタースズキ、今までにも増してドーモを連発して
おります。小憎らしい男であります」
<ブウ〜ッ>
「観客からブーイング。それでもドーモであります」
<ブウ〜ッ>
「さらにドーモドーモと連発しております。この男めげません」
「古舘さん、こういうマネージャーは困り者ですね。僕は好きじゃありません。
やっぱり試合中はリングに集中してもらいたいものです。せっかくオーター・パ
ワーといういい選手を連れてきたわけですから、もっとこの選手の魅力を見せて
あげて欲しいものです。それがいいマネージャーだと思います」

「さあリング上、捕まっておりますタイガーハニー、力比べから逃げられないで
います。まるでゾウがトラを踏みつけている、そんなようにも見えます」
「これは長い時間捕まっていると危ないですよ。だんだん手の握力がなくなって
くるわけですよ。そうすると手と手をクラッチする技ができなくなってしまうわ
けです。それだけじゃなくて、ロープに飛んだりコーナーポストに昇ったりする
ときにも手に違和感が残ってバランスを崩したりするんですね。だからハニーは
早く何とかしなければなりません」

「おおっと、ハニーの足がようやくロープに届きました。ロープブレイクです。
助かりましたタイガーハニー。しかしオーター・パワーの攻撃は続いております。
ロープに振った〜っ。カウンターのベアハッグだ〜っ。今度は背骨だ〜っ」
「ああ、また捕まってしまいましたか。もう完全にオーター・パワーのペースで
すね。これはハニー、大変なことになりましたよ」

「タイガーハニー、オーター・パワーの大放水に飲み込まれてしまいました〜っ」
<ブウ〜ッ>
「ミスタースズキのドーモにも余裕が感じられます。ブーイングを浴びてもにこ
やかにドーモを連発します。山本さん、悔しいですけど手も足も出ない状況じゃ
ないですか?」
「う〜ん、そうですね、今のところは手も足も出ないというところでしょうね。
正直言いまして僕もここまで体力差が出るとは思いませんでした」

「ここまでは圧倒的な体力差をうまく活かしております、ケニアからの挑戦者、
人間水力発電所、オーター・パワー。褐色の肉体に黄色いマスクが映えておりま
す。この幾何学模様のマスクの下にはどんな顔があるのでしょうか。素晴らしい
体躯を持ち、かつ冷静に試合を進めております」
<ハニー、ハニー、ハニー、ハニー>
「館内からはハニーコールが起こっております。ハニーは何とかこの窮地から脱
出したいところです」
「あれっ、古舘さん、あれを見てください。ハニーが何かしてますよ」
「おおっと、何をしているのでありましょうか〜っ。ハニーが自らマスクのヒモ
をはずしております。血迷ったかタイガーハニー、いったい何をしているのだ。
山本さん、これはいったいどういうことなんですか?」
「いや、僕にもわかりません」
「これは苦しさのあまりの行動なのか、どうしたのか、タイガーハニー」
「古舘さん、とれちゃいますよ」
「ああ〜っ!」
「こ、これは・・」
「何でしょうか〜っ、ト、トラのマスクの下から、新たなマスクが現れました!」
「何でしょう、このマスクは」
「タ、タイガーハニーが変身しました〜っ!!」

「山本さん、何ですか、この気味の悪いマスクは」
「いや、僕も見たことありません。何ですかね、この模様は」
「口がパックリと耳まで開いたデザイン、まるで口裂き女です」
「口裂き女ですか、僕はスイカのお化けかと思いましたよ」
「おっと、急にハニーが反撃を始めました。エルボーだ、オーター・パワーの
脳天に右のヒジを叩き込んでいきます。ああっと、これはたまらない。ベアハ
ッグがほどけました。しかし、ハニーは離れません。オーター・パワーの左肩
に右脚を引っかけてぶら下がっております。まるで鉄棒の足掛け回りのように
片足を引っかけたままエルボー攻撃を続けてまいります。連打だ、連打だ」
「これは効いてますよ。何たってヒジ打ちですからね」
「じりじりとオーター・パワーが後ずさりしていきます。コーナーに詰まった。
ハニーはセカンドロープに足をかけて、なおもエルボー攻撃を続けていきます。
あっと、ここでオーター・パワーが反撃開始。助走をつけてのパワーボムだ〜っ、
2メートルの高さから落とした〜っ」
「これは狙ってましたねえ〜。コーナーまで下がったのは助走の距離を作るた
めだったようです。このオーター・パワーという選手は打撃に対しても打たれ
強さを持っているようですね。普通だったらあんなにヒジ打ちを喰らって平気
でなんかいられません。僕だったら一発で失神しちゃいますよ。古舘さんなら
失禁しちゃうかも知れませんよ」

「確かに失禁してしまうかも知れませんね。そんな強烈なエルボーを耐えて、
反撃に出したパワーボム。こちらの方は失禁どころか脱糞してしまうかも知れ
ませんよ」
「脱糞しますね」
「さあオーター・パワーがハニーの体を担ぎ上げたっ、バックブリーカーだっ
必殺技カナディアンバックブリーカーが出た〜っ、人間水力発電所が最大出力
の大技を出したぞ〜っ。ハニーの体に100万ボルトの電流が流れる〜っ」
「シビれます、シビれますよ」
「ハニー絶体絶命の大ピンチ〜、山脈からの大雪崩だ〜っ。カナディアンバッ
クブリーカーがハニーの意識を押し流そうとしております〜っ」
「古舘さん、これはマズイですよ。完全に上に乗っちゃってるでしょ。前か後
ろかに重心がズレてたら何とかなるんですけど、見て下さい、オーター・パワー
の肩の上でバランスがとれてるんですよ。これでは逃げられません。はっきり
言って、ハニーは大ピンチです」

「あっと、山本さん、ハニーが何かしてますよ」
「何をしてるんでしょうか、何かを出してますね」
「ハニー、コスチュームの胸のあたりから何かを出しました。そしてオーター・
パワーの頭に被せております。あっ、山本さん、これはマスクですね。マスク
の上からマスクを被せてますよ」
「どういう意味があるんでしょうか・・」
「ああっと、オーター・パワーがもがいております。何やら苦しそうです」
「古舘さん、あのマスク、穴がありませんよ」
「えっ? あっ、本当です。オーター・パワーに被せたマスクは目や鼻や口が
あいておりません。これでは呼吸ができないでしょう。ああっと、これはたま
りません。オーター・パワー、慌ててカナディアンバックブリーカーをほどき
ました」
「これは驚きましたねえ、まあ厳密に言えば反則ですけど」
「ここでハニーが攻め込んでいきます。目の見えないオーター・パワーを持ち
上げた〜っ、ボディスラムだ。マスクを剥ぎ取ります。そして、これは何だ、
首4の字固めだ。座っている相手の肩に肩車のように乗っての首4の字固め。
その体勢で前方に体重をかけている。オーター・パワーの左足首を掴んだぞっ。
山本さん、何ですか、この技は」
「帆掛け船です」
「えっ? ほ、帆掛け船ですか」
「そうです。見てください、あの体勢から上下が逆転するんです」
「おっと、ハニーが横回転してパワーを仰向けの体勢にしました〜っ」
「ほら、あのオーター・パワーの足がマストみたいでしょう、だから帆掛け船
なんです。道場で何度も練習してた技ですよ」

「ハニーの秘密兵器、帆掛け船、オーター・パワーをとらえた〜っ」
<カンカンカンカン!>
「ああっと、オーター・パワーたまらずギブアップです。タイガーハニー、大
逆転勝利をおさめました〜っ。いやあ危なかったです、タイガーハニー。山本
さん、あの技はいったいどこが効いてたんですか」
「まず首4の字ですから首ですね、それからヒザです。足首を持たれて伸ばさ
れてますからヒザの靱帯を攻められてるわけです。そして頸椎ですね。オーター・
パワーは体もやわらかい方なんですが、何せハニーの脚力は並外れていますか
らね。首の方が耐えられなかったんじゃないでしょうか」

「なるほど、この技はハニーの特性を活かした技なわけですね」
「その通りです」
「おっと、リング上ではハニーが暴れております。口裂き女のようなマスクの
ハニー、いつもとはまるで別人です。この変わり様はどうしたことでしょうか。
あっ、今、レフェリーのジャガー横谷がハニーにトラのマスクを被せました。
おやっ、何だか落ち着いたようですね。山本さん、これはどういうことなんで
しょうか」
「う〜ん、僕にもちょっとわかりません。よく選手はマスクを被ることで性格
が変わったりするのですが、あのスイカのお化けみたいなマスクを被ると凶暴
な一面が現れたりするのかも知れません」

「それにいたしましても、今回の試合は今までのタイガーハニーとは違った感
じの試合になりました。どちらが本当のハニーなんでありましょうか。ナゾは
深まるばかりです。あっと、リング上ではオーター・パワーのマネージャーで
あるミスタースズキが何事かクレームをつけておりますが、そろそろ放送時間
がなくなってまいりました。山本さん、本日はどうもありがとうございました」
「ありがとうございました」
「それではこのへんで超満員の日本武道館からお別れいたします。ご機嫌よう
サヨウナラ!」


<<架空女子プロレス団体>>
「WWW(トリプルダブリュー)〜日曜8時のシンデレラ〜」
第6回大会(02.12.08);神奈川・横浜アリーナ


「8ヶ月の沈黙を破ってあのWWW(トリプルダブリュー)が戻ってきました。
ここ横浜アリーナはその沈黙が何であったかを証明するために用意された舞台
であります。今夜は未確認生命体タイガーハニーが、女格闘族スナイパー一族
と命懸けの大勝負に臨みます。WWWの新たなる闘いが始まりま〜すっ!!」

〜 ただそれだけなのに、あなたの想い出は、
  なぜか、優しい冬の日の日だまりのようです 〜


「おっと〜、会場の照明が落とされました〜。レーザー光線が満員会場を飛び
回っております。その光線がリングに集結した〜っ」
<ガガガガガーン>
「ああ〜っ、な、何ということでしょうか〜っ。リングが爆発してしまいまし
た。これはいったいどういうことなのか。WWWの新しい闘いを象徴する演出
なのでしょうか。それとも本物のテロなのか〜っ。会場がザワついております。
や、山本さん、これはいったいどういうことなのですか」
「古舘さん、頭上をご覧ください」
「えっ、上ですか・・。おおっと〜、あれは何だ〜っ、横浜アリーナの天井に
巨大な円盤が浮いております。まるでUFOです。その円盤が徐々に高度を下
げて、先ほどまでリングのあった場所に降りようとしております。山本さん、
あれは何なんですか?」
「古舘さん、驚かないでくださいよ。あれが今日のリングなんです」
「山本さん、驚かないでという方が無茶ですよ。これが驚かずにいられますか。
円形のリングが降臨してまいります。今宵の戦場はこの円形リングだ〜っ。今、
巨大なクリスマスケーキが横浜のド真ん中に緊急着陸いたしました!」

「のっけから視聴者のみなさまには度肝を抜くような映像をご覧いただきまし
た。今からちょうど2時間前、会場の中央にあった四角いリングが爆発、その
あとに円形リングが舞い降りたわけです。山本さん、これは凄い演出でしたね」
「いやいや、驚かせてどうもすいません。僕も何もそこまでという気もしない
でもないのですが、WWWの新しい闘いを見せたいという、まあ意気込みとで
も言いましょうか」

「なるほど、しかし、ビックリしました。ところで、山本さん、今回は今まで
のWWWの大会とは趣が違っていますが」
「ええ、そうなんですよ。今回はWWW主催の格闘イベント、ドリーム・ワン
なんです」

「ドリーム・ワン?」
「はい。世界の格闘家を一同に集めてのバーリ・トゥード、何でもありの闘い
なんです。近年、男子の方ではPRIDEとかUFCとか総合格闘技の大会が
開かれてきましたが、ついに女子の闘いも始まったわけです。今回はその最初
の一発目としまして、ウチの代表選手として矢樹清美とタイガーハニーが出場
することになったんです」

「というと、これはWWWの本流とは違う大会なんですね」
「まあ僕の中では同じ闘い、プロレスも総合も関係ないと思っているんですが、
ルールが違いますのでね、今回はドリーム・ワンという名前にしたわけです」

「それにいたしましても、山本さん、凄いお客さんですよ。超満員ですね」
「ありがたいことです。矢樹もハニーもこのお客さんの期待に応えてもらいた
いものですね。いや、応えなければいけません」

「さあ、それではCMを挟みまして、矢樹清美vsハリウッド・アリ、タイガー
ハニーvsキャサリン・スナイパーの2大対決をお送りいたします。この放送は
総合格闘技の貿易港、横浜アリーナより実況中継でお届けしております」

** 最強タッグは最後の試合で優勝決まるのなんでだろ〜
  なんでだろ〜、なんでだろ〜、ななななんでだろ〜、チャッチャッ **


「キャンディー深津、福岡ヒカルに先導されて、今、リングに矢樹清美が入場
しました。山本さん、矢樹はグローブを着けていますね」
「そうなんですよ、古舘さん。この試合はアリ側の強い要望によって、矢樹に
とって過酷なルールになっているわけです。グローブの着用もそうなんです」

「さて反対側の花道からボクシング女子世界チャンピォン、ハリウッド・アリ
が入ってきました。歓声が一段と大きくなります」
「さすがに凄い人気ですね。華がありますからね」
「何と言っても現役の世界チャンピォンであります。こんな試合がまさか実現
するとは思いませんでした。山本さん、この試合を実現するには相当の苦労が
あったんじゃないですか」
「そうなんですよ、古舘さん。でもね、ウチとしてはどんな条件でも呑むつも
りで交渉してきましたから。アリ側の要求は全部受け入れてきたわけです」

「そのひとつが矢樹のグローブ着用なわけですね」
「そうです。まあしかし、矢樹もたとえ不利な状況でも何とかしてくれるもの
と思います。彼女には柔道のベースがありますからね。投げることができれば
一発で決められますよ。何たって床は石ですからね」

「そうでした。言い忘れておりましたが本日のリングは異常なリングでありま
す。通常のリングと違って床は大理石でできています。頭から落ちれば即死の
危険もあります。まさにガチンコの対決、放送コードギリギリの闘いです」
「ギリギリのアウトですね」
<カーン>

「ゴングが鳴りました。3分5ラウンドの闘い、5ラウンドで決着のつかない
場合はドロー、判定はありません。両者はボクシンググローブを着用します。
頭部へのヒジ打ち、ヒザ蹴りは禁止。頭突きは全面禁止、寝技は30秒以内で
スタンド状態で試合再開です。山本さん、このルールはあまりにも不公平では
ないですか?」
「そうですね、確かに厳しいルールです」
「おっと、アリが前へ出たジャブジャブ、ジャブの連打に矢樹が下がっていく。
円形のリングに沿って逃げていきます。距離を大きくとって何とか逃げきった。
危なかった矢樹清美、ボクシングで勝負してはアリにはかないません」
「古舘さん、今のようにね、リングをうまく使えばいいわけですよ。距離を保
ちながら隙を狙って懐に飛び込むわけです。そして寝技に持ち込むわけです」

「しかし山本さん、寝技は30秒ですよ」
「いや、30秒あれば十分です。関節をきめてしまえば一瞬で壊すことができ
ますからね、そうすれば試合は終わりですよ」

「今、山本さんの口から恐ろしい言葉が出ました。やはり、山本さんはこんな
ルールを要求してきたアリを壊してしまえと思っているわけですね」
「いえいえ、そんなことないですよ。ただ真剣勝負ですからね、ヤラなければ
ヤラれてしまうわけですから。手加減しているわけにはいきません」

「ヤルかヤラれるか、弱肉強食、強い者だけが生き残る遺伝子を賭けた闘い。
そのイバラの道をふたりのファイターが突き進んでおります。おっと、まただ。
アリが前へ前へ出ていく。マシンガンのような連打だ。矢樹、危な〜い」
<カーン>
「おっと、ここで1Rの終了です。矢樹、ゴングに救われました」
「危なかったですね。やはり、ハリウッド・アリは一流の選手ですね。矢樹の
つけいる隙が全くありませんでした。さすがチャンピォンです。こうなったら
矢樹は奇策でいくしかないでしょう」

「奇策というと、アリキックみたいなものですか」
「そうですね、猪木さんがやったみたいに、寝たまま闘うのもひとつの手だと
思います。それで寝技に持ち込めればこちらのものですからね」

<カーン>

「第2Rの開始です。セコンドの福岡ヒカリが何事がアドバイスしております。
その作戦とはいったい何なのでありましょうか。おおっと、寝ころびました。
山本さんの言うとおり寝たまま闘うようです。しかし山本さん、これは30秒
ルールに抵触しませんか?」
「おそらく引っかかるでしょう。30秒に1回は立ち上がらなければなりませ
んね。アリはそこを狙ってくるのかも知れません」

「ああっと、アリが突っ込みました〜っ。寝転がる矢樹に覆い被さっていく。
パンチ、パンチ、激しい攻撃だ。アリの猛ラッシュが矢樹を襲った〜っ」
「大丈夫ですよ、矢樹の顔を見てください。狙ってますよ、関節技を狙ってい
ます。ほら、掴まえますよ」

「おっと、アリの動きが止まった〜っ。右手を掴まれた〜っ。矢樹の両足がス
ルスルとアリの首にからみつく。三角絞めだ〜っ。三角絞めがアリを捉えた。
山本さん、この入り具合はどうですか?」
「いいですよ、決まってますよ」
「アリも必死に逃げる。どうだ、どうだ、世界チャンピォンの首を獲るのかっ。
きまっている、きまっている。完璧に捉えたぞ〜っ」
<ブレイク!>
「ああっと、ここでブレイクだ。30秒ルールに泣かされました。残念、矢樹っ。
あと一歩というところでチャンスを逃しました。おおっと、アリが殴った〜っ。
ブレイクした途端に左のフックが矢樹の顔面を直撃だ〜っ、山本さん、これは
反則じゃないですか」
「反則ですよ」
<カンカンカンカン!>

「あっと、ここでレフェリーがゴングを要請しました。山本さん、これはアリ
の反則をとりましたね。ああ、矢樹は完全にKOされてしまいました」
「これはひどいです。これは完全に反則負けですね。矢樹が心配です」
「館内からもブーイングが起こっています。その中をさっさと引き上げていき
ますハリウッド・アリ。矢樹の三角絞めに地獄を見たのか、ブレイクの瞬間に
いきなり殴りつけました。殴られた矢樹はまだ立てません」
「おそらく立てないでしょう。何たって世界チャンピォンのパンチですからね。
それにしてもアリは汚いですよ。スタンドで再開だったんですから堂々と勝負
して欲しかったです」

「山本さんの怒りももっともです。矢樹の容態が心配であります。今、福岡と
深津が背負って引き上げるところであります。さて、このあとはメインイベン
ト、タイガーハニーが女格闘族、スナイパー一族の長女キャサリン・スナイパー
を迎え撃ちます。この放送は世界格闘界の表玄関、横浜アリーナより生中継で
お届けしております」

** 武藤の前では右ヒザ立てちゃうのなんでだろ〜
  なんでだろ〜、なんでだろ〜、ななななんでだろ〜、チャッチャッ **


「厳かな調べが流れる中、キャサリン・スナイパーの入場です。ただ闘うこと
だけを目的に生きる一族スナイパー。その長女キャサリンがドリーム・ワンの
リングに参戦してきました。長い金髪を後ろに束ねております。その瞳は早く
も戦闘モードか、狙撃手のように冷たく危険な意志を放っております」

「山本さん、このスナイパー一族というのはかなりの猛者揃いと聞いています
が、いったいどうなんですか?」
「変わってますよ、この一族は。まずですね、この一族には男がいないんです」
「えっ、男がいないって、それはどういうことですか」
「この一族は代々女性によって引き継がれているんですよ。男の子が生まれて
くると、谷に捨ててしまうんです」

「ええっ、そ、そんなことが許されるのですか?」
「もちろん、今はそんなことはしていませんよ。それでも男の子が生まれると
すぐ養子に出されるのです。一族の技術とか裏技みたいなものを継承するのは
女性だけに限られるという伝統なんです。ですから一族には男性がいません」

「う〜ん、凄い一族でありますスナイパー一族・・あれっ、しかし、山本さん、
子孫を残すためには夫が必要ではありませんか」
「それが人工授精なんですよ。かつては夫を持ったのですが今では結婚もせず
に子供を産みます。世界中のフィジカルエリートとの人工授精です。しかも、
最近は産み分けの技術が進んだので男の子が生まれるケースはほとんどありま
せん。完全なる女性だけの一族なのです」

「恐ろしい一族です。恐ろしいまでの女尊男卑。なぜそこまで男性を忌み嫌う
のか男としては何だか承服しがたい心境であります」
「全くです」
「今、キャサリン・スナイパーがリングインしました。すでにタイガーハニー
は臨戦態勢に入っております。マスク越しに鋭い視線を飛ばしておりますっ。
山本さん、このハニーが一時期行方不明になっていましたが、いったいどうな
っていたんですか?」
「ハニーはですね、旗揚げシリーズの後に海外武者修行に行きたいと言い出し
ましてね。ウチとしては次のシリーズのこともあったので引き留めたんですが、
どうしても聞き入れないものですから、ウチと提携している海外のジムに行か
せたわけです」

「ははあ、それでWWWは休眠状態になっていたわけですか」
「ええ、やはりエース不在ではお客様にも失礼ですからね。それぞれが修行を
積んで、半年後にもう一度集まろうということになったわけなんです」

「ハニーのセコンドにはWWWに戻ってきた選手たちが勢揃いしております。
ジャガー横谷、工藤みなみ、長谷川秋恵、デビーマレット。この試合はもはや
ハニーひとりの闘いではありません。WWWの存亡を賭けた一戦とも言えます。
一方、キャサリン・スナイパーのセコンドには、二女ライアン、三女モニカ、
五女ナオミがついています。姉妹なのに全然似ていないのがまた不気味です」
「父が違いますからね」
「・・・・。常識はずれの女格闘族スナイパー、こちらもアイデンティティを
賭けた闘いだ。セコンドがリングから降ります。試合開始だ〜っ」
<カーン>
「この試合は10分2Rで行われます。両者ともオープンフィンガーグローブ
を着用、ヒジ、ヒザによる攻撃も認められますが、後頭部への打撃は反則です。
両者とも全く動きませんっ。距離を大きくとったまま睨み合っています」
「ファーストコンタクトが大切ですよ」
「まるで肉食動物が獲物を襲う瞬間を探っているようです。いったい喰われる
のはどちらの遺伝子なのかっ。ふたりの距離が少しずつ縮まっていきます」
「ゾクゾクしてきますね」
「いった〜っ、キャサリンのタックルだっ。あっ、ハニーのヒザが出ました。
これはカウンターで決まったぞ〜、キャサリンの顔面を突き上げた。そして、
後ろに回り込む。首だ、首をとった、スリーパーだ、スリーパーだ」
「これはいけますよ。胴締めです、胴締めにいった方がいいですよ。よ〜し、
入りましたっ、これは完全に入りましたよ」

「チョークスリーパーだ〜っ、タイガーハニーのチョークスリーパーがキャサ
リン・スナイパーの首を挟み切ります。キャサリンの黒い瞳が泳いでいます。
山本さん、これは決まったんじゃないですか」
「決まりました。これは逃げられません、早く止めた方がいいです」
<カンカンカンカン>

「ここでセコンドからタオルが入りました。ハニー強し、スナイパーの長女を
秒殺です。恐るべしは未確認生命体タイガーハニー、バーリ・トゥード初戦を
見事に飾りました。山本さん、強かったですね」
「いやあ、ハニーは落ち着いてましたね、キャサリンを相手にこんなにできる
とは思いませんでした。あっぱれです」

「おおっと、スナイパー一族がリングに上がりました。二女ライアンがマイク
を持って何事かニーに向かってアピールしております」
<ハニー、オマエハ イチゾクノ ウラギリモノダ、ゼッタイ ユルサナイ>
「えっ、山本さん、これはいったいどういう意味ですか?」
「・・・」
「山本さん、山本さん?」
「・・・」
「あっと、もう放送時間がなくなってしまいました。本日の実況は古舘任三郎、
解説はWWWの鬼軍曹、山本大鉄さんでお送りしました。それではまだ闘いの
余韻の残る、ここ横浜アリーナよりこのへんでお別れいたします。みなさま、
ご機嫌ようサヨウナラ! ハニー、お前は誰なんだ?」


<<架空女子プロレス団体>>
「WWW(トリプルダブリュー)〜月曜8時のシンデレラ〜」
第7回大会(02.12.16);鹿児島・鹿児島アリーナ


「おおっと〜、ウォーター・パワーの強烈なベアハッグが長谷川の背骨をへし
折るか〜っ、人間水力発電所の動力にスイッチオオオオ〜ン!!」

〜 ただそれだけなのに、あなたの想い出は、
  なぜか、優しい冬の日の日だまりのようです 〜


「褐色の人間水力発電所に核融合施設が合体。ここ鹿児島アリーナは一触即発
の危険地帯になっています。今夜開幕しました<レディースタッグリーグ戦>、
あのウォーター・パワーが強力なパートナーを引き連れての出場です。解説は
WWWの鬼軍曹、山本大鉄さんです。山本さん、今夜もよろしくお願いします」
「こちらこそ、お願いします」
「さあ、リング上をご覧ください。この選手がパワーの連れてきた選手です。
ザ・プルトニウム、もう名前を聞いただけで危険だとわかります。対戦相手は
WWWの長谷川秋恵、デビー・マレット組です。リーグ戦への参加が決まって
コスチュームを揃えてまいりました。青地に白のストライプです。山本さん、
この長谷川・デビー組の動きはどうですか?」
「キビキビしててなかなかいいですよ。ただ、今夜は相手が悪すぎますね」
「まったくであります。長谷川の攻撃が全く通用しません」
「もう分断するしかないですよ。分断して2対1で攻めることです」
「ああっと、しかし逆に分断されてまった。プルトニウムが力任せに長谷川を
リング下へ放り出した。そしてデビーの首を鷲掴んだ〜っ、ネックハンギング
ツリーだっ。片手で持ち上げた〜っ。片腕で核融合、指先から放射能、完全に
デビーを汚染してしまうのか〜っ」
「まずいですねえ、逃げられませんよ」
「リング下ではパワーが長谷川を捕まえている。カナディアンバックブリーカー、
大放水だ〜っ、リング下では長谷川が大水に飲み込まれた〜っ」
<カンカンカンカン>
「ここでデビーがギブアップ。おおっと、そのまま放さずにチョークスラムっ、
非情です、暗黒核融合、ザ・プルトニウム。凄まじい破壊力を見せつけました」
「このチームは有力な優勝候補ですね、いや、凄すぎますよ。長谷川・デビー
もいいチームなんですが・・。でも、あの怪力には敵いませんでしたね。押し
潰されてしまったという印象です」

「リング上に戻ってきましたウォーター・パワーと共に勝ち名乗りを受けます、
ザ・プルトニウム。最終戦の日本武道館でもその両手を挙げることができるの
でしょうか、今後の展開が楽しみであります。さて、このあとは謎の落葉姉妹、
もみじ&かえでが登場するリーグ戦をお届けします。この放送はのっけから大
噴火の鹿児島アリーナより実況生中継でお届けしております」

** DSEのライバルがどんどん潰れてくのなんでだろ〜
  なんでだろ〜、なんでだろ〜、ななななんでだろ〜、チャッチャッ **


「さて今夜開幕のレディースタッグリーグ戦、出場8チームを紹介していきた
いと思います。まずは先ほど登場しました、ウォーター・パワー&ザ・プルト
ニウム組、褐色の大型ファイターコンビです。続きまして、こちらも優勝候補
の狂拳コンビ、マクレガー・ホースト&ニール・サップ組です。メガトン級の
パンチでKOの山を築きますか。一方、WWWからの出場はタイガーハニー&
ジャガー横谷組、長谷川秋恵&デビー・マレット組、ヒッキーズからはキャン
ディー深津&福岡ヒカル組がエントリーされています。また、工藤みなみはイ
ンドの武器商人サンダー・ロケット・シンと組んで出場です。その他にもドク
ター・テング&キング・ガラッパの妖怪コンビ、もみじ&かえでの落葉姉妹が
出場し、最終戦の日本武道館大会まで全28試合が行われるわけであります。
山本さん、ズバリ、優勝はどのチームだと思いますか?」
「う〜ん、難しいですね。僕としましては、ハニー&ジャガー組を始めとする
WWW勢に優勝して欲しいんですが、パワー・プルトニウム組が一歩抜き出て
いるという感じがします。暴走さえしなければ優勝戦に出てくると思いますよ」

「あと、ホースト&サップ組も有力ですよねえ。このふたりはケイワンからの
出場選手なんですが勢いに乗ってくれば一気に突っ走るんじゃないですか?」
「そうですね、今夜のハニー&ジャガー組との闘いは注目です。どんな闘い方
をしてきますか、とても楽しみです」

「それから山本さん、ダークホース的な存在として、テング&ガラッパ組とい
うのも気になるのですが、このチームはどうでしょう」
「全くの未知数ですね。正直に言って、僕も全く素性を知らないんです。この
チームはリングでの姿を見ないことには何とも言えません」

「得てしてそのような伏兵チームが躍り出たりもいたします」
「そうですね、このあと出てくる、もみじ&かえで組も要注意ですよ」
「さあ、花道からそのもみじ&かえで組がやってきました。真っ赤なコスチュー
ムに身を包みまして落葉姉妹が今、リングインです。華やかです。続きまして
対戦相手のキャンディー深津・福岡ヒカルが入場してきます。先日のドリーム・
ワンに出場しました矢樹清美もセコンドとして入場です。もう恒例になりまし
た、花道中央でヒッキーズのポーズだ。お客さんも一緒にポーズしております」
「僕はこういうのはどうかと思います。これから試合なんですからもっと集中
して欲しいですね。ああいうのは試合が終わってからでもできますから」

「おおっと〜、花道のヒッキーズにもみじとかえでが奇襲攻撃だ〜っ。トップ
ロープを飛び越えてのスイシーダだ〜っ。ヒッキーズの3人に命中だ〜っ」
「やっぱり・・」
「凄い飛距離です。落葉姉妹のスイシーダ、5、6メートルは飛んでいますよ」
「古舘さん、この姉妹はですね、ニューカレドニア島の出身なんです。それで
子供の頃からいつも海に飛び込んで遊んでいたわけですよ。そんな子供時代を
送ってきたものですから、へっちゃらなんですね。普通はね、怖くてなかなか
飛べないわけです。リングから場外に向かってだと相当高さもありますからね。
そのへんを難なくこなしてしまうのが、この姉妹の強みですね」

「なるほど、崖の上から飛んでいたわけですねえ。ところで、山本さん、その
姉妹のリングネームがなぜ、もみじとかえでなんでしょうか?」
「なんででしょうかね、日本の紅葉が気に入ったのかも知れません」
「そのもみじとかえでが、深津を無理矢理リングに上げました。ターゲットを
深津に絞ったのか〜。福岡は頭を打ったのかまだ立てません。ふたりががりで
深津を攻めます。ロープに振って、タブルのドロップキックだ。蹴った瞬間、
後方にくるっと一回転、美しいフォームです。リングの中央にボディスラム。
寝かせておいてコーナーポストに昇った〜。おっと〜、ふたり同時のムーンサ
ルトプレスだ〜っ。きまった〜、山本さんっ、こんなの初めて見ましたよ」
「見事な空中技です。これは度胸だけじゃできません、このふたりは凄い身体
能力も持っていますよ。このままだと深津もやられてしまうかも知れません」

「今度はもみじが深津を肩車だ。かえでがロープをくぐってエプロンに出るぞ。
何だ、今度はいったい何をするのか〜。かえでがスワンダイブでロープに飛び
乗った。コルバタだ〜っ、深津の首にネクタイのようにぶら下がる。二階から
のコルバタ落としだ〜っ。危な〜い、深津、真っ逆さまに落ちました〜っ」
「これは危険ですよ。こんな技は見たことないですからね。受ける方としては
何をされるかわからないわけですよ。すると変に力が入ってしまって受け身が
とれないんです。深津も後ろへ倒されることを予測していたんじゃないでしょ
うか。それが前へですからね、驚いたでしょう。大丈夫でしょうか」

「深津、ゴロゴロと転がってリング下に逃げます。やはりダメージは大きいか。
それを追ってまた飛ぶのか、落葉姉妹。ふたり揃ってロープに飛んだっ。反動
を利用してのトペコンヒーローだ。しかし、もみじだけだ、かえではそのまま
反対方向にリバウンド、リングに入ろうとする福岡に向かってボディアタック。
綺麗にきまりました。もみじとかえで、右へ左へとリング狭しと飛び回ってい
ます。山本さん、これはもう完全に落葉姉妹のペースですね」
「そうですね、でも気をつけないとセコンドの矢樹がいますからね」
「リング下は深津ともみじ、リング内は福岡とかえでの闘いになっております。
かえでのツームストンパイルドライバー。福岡の脳天をマットに打ち込んだ。
そして素早くコーナーポストに昇ります。今度は何を出すのか。観客にアピー
ルしております。フィニッシュか、一気に決めてしまうのかっ。ああ、しかし、
ポストに昇ったかえでの足を矢樹が掴んでいます。これは反則だが矢樹は放し
ません。そうこうしているうちに福岡が蘇生したぞ、コーナーに歩み寄る。足
を掴まれたまま動けませんかえで。そこへ福岡のデッドリードライブだ〜っ。
背中からマットに叩きつけました。今度は福岡がポストに昇る。距離を計って
いるぞ。飛んだ〜っ、ムーンサルトフットスタンプ〜っ。決まった〜っ、福岡
の踵がかえでの胃袋にめり込んだ〜っ」
「モロに入りましたねえ、これは逆転しましたね」
「パートナーのもみじは深津に掴まれて戻れない。福岡はかえでの足を絡めて
サソリ固めだ。これは決まった。完璧に決まった。かえで、ギブアップっ」
<カンカンカンカン>
「あ〜、いいところまでいきましたが残念、もみじ&かえで、散りました〜。
山本さん、惜しかったですねえ、あと一歩のところだったんですが」
「そうですね、一時はヒッキーズ負けたかなと思いましたがさすがです。まあ
厳密に言えば矢樹の行為は反則ですが、反則負けにするほどのことでもありま
せんし、ヒッキーズの逆転勝ちと言ってもいいんじゃないでしょうか」

「それにいたしましても善戦しました落葉姉妹。まるで本物の葉っぱのように
クルクルと宙を舞いました。今、満員の観衆からも拍手が贈られております」
「負けはしましたが、いいファイトでした。まだまだリーグ戦は続きますから
このあとの活躍に期待したいですね」

「リング上ではヒッキーズが例のポーズです。初戦を見事白星で飾りました。
さて、このあとはメインイベント、タイガーハニー&ジャガー横谷がケイワン
の刺客マクレガー・ホースト&ニール・サップを迎え撃ちます。この放送は、
鹿児島アリーナより生中継でお届けしております」

** タイトル戦に限ってレフェリーが昏倒するのはなんでだろ〜
  なんでだろ〜、なんでだろ〜、ななななんでだろ〜、チャッチャッ **


「テレビの前のみなさまには先週放送されましたドリーム・ワンの映像をご覧
いただいています。タイガーハニー対キャサリン・スナイパーの闘い、一瞬で
勝負が決まりました。このヒザです。低いタックルで入ってくるところにヒザ
を当てました。そして素早くバックに回ってチョークスリーパー。山本さん、
鮮やかにきまりましたねえ」
「そうですね、キャサリンも捕まえたと思ったら、後ろに回られていたという
感じじゃないでしょうか。とにかくハニーの動きは早かったですよ」

「ああ、この上から写した映像を見ますと、まるでトラがガゼルの首筋に噛み
ついているようです。リングの上なのにまるでサバンナだ、弱肉強食の厳しい
世界が広がっています」
「古舘さんなら、すぐに喰われてしまいますね」
「まったくです」

「山本さん、このあとですが、ライアン・スナイパーが気になる発言をしまし
たね。ハニーのことを一族の裏切り者だと言っていましたが」
「ええ、実はハニーはスナイパー一族出身なんです」
「えっ、何ですか、それはいったいどういうことなんですか。タイガーハニー
の母親はあのマリア・スナイパーということですか」
「いえいえ、違います。ハニーはスナイパー一族に拾われた子供だったのです。
スナイパー一族は女性だけで技術を継承しているわけですが、血にはこだわら
ないのです。優れた運動能力のある女性であれば寛容に一族に受け入れている
のです。ハニーは孤児院にいたところをマリア・スナイパーに素質をみとめら
れて引き取られたわけです」

「これは衝撃的な事実が明らかになりました。未確認生命体タイガーハニーの
生い立ちが初めて公表されたわけであります。それで、ライアンの言う一族の
裏切り者とはいったいどういう意味なんでしょうか」
「実はそのあたりのことは僕にもわからないんです。ハニーと一族の間に何か
事件が起きて、それがもとでハニーは一族から抜けたらしいのですが、詳しい
経緯についてはよくわかりません。ハニー自身も話したがりませんので、それ
以上のことはどうもはっきりしないんです」

「そうですか、あまり語りたくない事実があるのかも知れませんね」
「たぶん、そうだと思います」
「スナイパー一族はハニーとの対戦を要求しているのですよね」
「はい、キャサリンの敵討ちということで、妹のライアンとモニカが名乗りを
挙げています。まあ、これはバーリ・トゥードですから、WWWのリングでと
いう話ではなく、次回のドリーム・ワンでということになると思います」

「なるほど、WWWだけでなくドリーム・ワンの方も目が離せませんね」
「そうです。ハリウッド・アリに敗れた矢樹清美もリベンジを狙っていますし、
長谷川秋恵もやってみたいと言っています。まあ練習内容とかもプロレスとは
少し違ってくるのですが、その経験をまたプロレスで活かせばいいわけですし、
何より挑戦するという気持ちがいいじゃないですか。負けたっていいんですよ、
勝つまで練習すればいいわけです」

「本当に、山本さんはストロングスタイルですね」
「そうですかね、これが当たり前だと僕は思っているんですけどね」
「そうこうしているうちにリング上には、タイガーハニー&ジャガー横谷組が
登場しています。今夜の相手は強豪、マクレガー・ホースト&ニール・サップ
の狂拳コンビ、ケイワンからの殴り込みです」
「えっ、古舘さん、今、ケイワンって言いませんでしたか?」
「ええ、言いましたけど・・」
「ケイワンじゃありませんよ、ケイリンです」
「ケイリン?」
「ええ、競輪ですよ」
「ち、ちょっと待ってください、山本さん。ミス・パーフェクトのマクレガー・
ホーストと野獣のニール・サップですよね」
「古舘さん、全然違いますよ。ケイワンの選手が来るわけないじゃないですか」
「マクレガー・ホーストとニール・サップじゃないんですか?」
「マクリの大下と逃げの佐藤ですよ」
「大下と佐藤?」
「そうですよ、ほら、入ってきました」
「ああ、確かに自転車に乗ったふたりが入ってきました。丸太のような太股、
肉厚な腰つき、まさしく競輪の大下と佐藤です」
「そうですよ、マクリの大下と逃げの佐藤です」
「しかし、山本さん、何で競輪の選手がプロレスのリングに上がるんですか」
「いやあ、やはりリーグ戦ともなると、8チームくらい揃えないと盛り上がり
ませんからね。知人に頼んで頑丈なのをよこしてもらったんです」

「そんな・・、あの狂拳というキャッチフレーズは何なんですか」
「凄い強腱ですよ。ワイヤーみたいに強いアキレス腱ですよ」
「今、大下と佐藤がリングに入りました。ジャガーが襲いかかる。素人相手に
容赦ない攻撃だっ。ゴングが鳴りました、本日のメインイベント、レディース
タッグリーグ戦公式戦です。ジャガーのボディスラムだ、リング中央で大下を
投げ飛ばした。フォール、1、2、スリーッ。ああっと、早くもカウント3が
入ってしまいました。あまりにも不甲斐ない競輪コンビ」
「そりゃそうですよ、競輪選手にプロレスは無理です」
「・・・」
「でも、鍛えればいい選手になる可能性はありますよ。凄い太股ですからね」
「し、しかし、リングに上げるのは少し早すぎたようです。試合時間は8秒、
ボディスラムからの体固めでジャガーが大下からフォールを奪っております」
<おい、お前たち、今度は競輪で勝負してやるぞ、首洗って待っておけ>
「競輪コンビのマイクアピールが虚しく響いています。早くも花道を下がって
いきます猛獣コンビ。いったい何を思っているのでありましょうか・・。さて
来週は愛知県体育館よりレディース・タッグ・リーグ戦の中盤戦をお届けして
まいります。キャンディー深津&福岡ヒカル組vsドクター・テング&キング・
ガラッパ組、タイガーハニー&ジャガー横谷組vsウォーター・パワー&ザ・プ
ルトニウムの試合を中心にお届けする予定です。どうぞお楽しみに。それでは
山本さん、本日はどうもありがとうございました」
「ありがとうございました」
「それでは鹿児島アリーナよりお別れいたします。みなさん、ご機嫌ようサヨ
ウナラ!」

<<架空女子プロレス団体>>
「WWW(トリプルダブリュー)〜月曜8時のシンデレラ〜」
第8回大会(02.12.23);愛知・愛知県体育館


「噛みついた〜っ、餓狼姫、工藤みなみの牙が落葉姉妹の額を真っ赤に染めて
いきます。聖なる夜は壮絶な流血戦で始まった〜っ!!」

〜 ただそれだけなのに、あなたの想い出は、
  なぜか、優しい冬の日の日だまりのようです 〜


「名古屋城の天辺に堂々と座っている飾り物、シャチホコ。そのシャチホコが
返り血で濡れそうです。今夜はここ愛知県体育館より、実況中継でお送りいた
します。本日は特別ゲストとして史上初の身体障害者お笑い芸人、全身を拉致
された男、ホーキング青山さんです。青山さん、よろしくお願いします」
「いきなり凄いことをいいますねえ。いやあ、よろしくお願いします」
「早速ですが、リング上は凄いことになっております。レディース・タッグ・
リーグ戦公式戦、工藤みなみ&サンダー・ロケット・シン組vsもみじ&かえで
組の一戦なんですが大流血戦になっております。先週、深津&福岡組と華麗な
試合を見せた落葉姉妹ですが、今夜は入場途中に工藤&シン組に襲われまして、
工藤の噛みつき、シンの凶器攻撃で大流血に追い込まれています。青山さん、
のっけからショッキングな映像ですねえ」
「私のアップも相当ショッキングですけどね。いやあ、最近では滅多に見なく
なった流血戦ですからね、かえって新鮮ですよ。妙にドキドキしたりします」

「テレビの前のみなさまにはちょっと刺激が強すぎかもしれませんが、どうか
チャンネルを変えないでいただきたいです。あっと、また噛みつきだ。今夜の
工藤は荒れています。外向きに整形したという八重歯を額に突き刺します」
「私もやられたことありますが、あれ、本当に痛いんですよ。本当に外向きに
してますからね。リンゴじゃないんだから、やめて欲しいですよ」

「そうでした。青山さんも工藤の犠牲者になったのでした。今夜もまた犠牲者
にならないとも限りません」
「やめてくださいよ」
「一方、インドの武器商人、サンダー・ロケット・シンは持参した凶器袋から
何かを取り出しております。これは何だ?」
「スプレーみたいですねえ」
「何か白い泡状のものが吹き出しております。これはシェービングクリームか?
シェービング・クリームを取り出し、かえでの顔面に塗りたくっております」
「あれは少し気持ちいい感じですね。何をするんでしょうか」
「おっと、またシンが凶器袋から何か出したぞ。カミソリだ、刃物が出ました。
危ない、危ない。かえでの額に押しつけたぞ〜っ。ああっと、眉毛だ。眉毛を
剃っています。ああ〜っ、一気に剃り落とした〜っ。これはひどい〜っ」
<カンカンカンカン>
「ここでレフェリーがゴングを要請。これは青山さん、反則をとりましたかね」
「どうせなら剃るのなら脇の下とかを剃って欲しかったですねえ。そうすれば、
ギブアップもとれたんじゃないでしょうか」

「なるほど、確かにそうかも知れません。工藤&シン組は反則負けで0点です。
落葉姉妹の方は2点を獲得。しかし、悔しい勝利であります」
「恥ずかしい勝利です」
「ああっと、泣いております、かえで。右の眉が完全に剃り落とされてしまい
ました。ああ〜っ、左の眉もだっ。サンダー・ロケット・シン非情な攻撃です。
一方のもみじも工藤の噛みつきで大流血、文字通りの真っ赤になっております。
凶悪コンビの紅白歌合戦、青山さん、どっちの勝ちですかね」
「僅差で白組ですかね」
「このあとは公式戦、キャンディー深津&福岡ヒカル組vsドクター・テング&
キング・ガラッパの一戦をお届けいたします。見上げればシャチホコ、愛知県
体育館より実況中継でお届けしております」

** タイトル戦に限ってレフェリーが昏倒するのはなんでだろ〜
  なんでだろ〜、なんでだろ〜、ななななんでだろ〜、チャッチャッ **

「いててててて〜っ」

「大変なことになっております。餓狼姫、工藤みなみがホーキング青山さんに
噛みついております。先ほどの白組が勝ちとのコメントが気に入らないのか」
「いててて、古舘さん、何とかしてくださいよ。いて〜っ」
「と言われましても・・、おお〜っと、福岡だ。次の試合に出る福岡と深津が
やってきました。福岡がかえでを救済、深津はこっちにやってくる」
<ゴガラガンゴン>
「青山さん、大丈夫ですか?」
「・・・・」
「今、深津が工藤を連れて客席になだれ込みました。青山さん、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫じゃないですよ〜、古舘さん、助けてくださいよ」
「おっと、リング上は形勢が大逆転だ。シンが3人がかりで攻められています。
もみじがシンを肩車だ。かえでがロープをくぐってエプロンに出る。これは、
先週見せたあの技なのか〜。かえでがスワンダイブでロープに飛び乗る。コル
バタだ〜っ、シンの首にネクタイのようにぶら下がる。二階からのコルバタ落
とし〜っ。危な〜い、シンが真っ逆さまに落ちた〜っ。そこへ、福岡のムーン
サルトフットスタンプだ〜っ。胃袋の上に突き刺さった〜っ」
「まるでドラキュラに杭打ったって感じですねえ」
「まさしくドラキュラに杭。インドの武器商人、サンダー・ロケット・シンに
とどめを刺しました」

「古舘さん、あそこ、あそこ、誰が来ますよ」
「おっと、花道から走り寄る影。誰だ〜っ」
「鼻が長いですよ〜、天狗みたいです」
「テングです。ドクター・テング、今夜初登場の選手です。おおっと〜、何と
トップロープに直接飛び乗った〜。ドロップキックだ〜っ、福岡にヒット!」
「ゲタ履いてますよ、ゲタを。あんなのいいんですか?」
「本当です。ドクター・テング、高下駄を履いております。高下駄でのドロッ
プキックに、さすがの福岡もまいったか、リング下に逃げます」
「凄いですねえ、ゲタを履いてあんなに飛べるものですかねえ。ゲタに細工が
あるのなら、私もあのゲタ欲しいです。履けませんけど」

<カーン>

「ここでゴングが鳴りました。レディース・タッグ・リーグ戦公式戦、福岡&
深津組vsテング&ガラッパ組の一戦です」
「あれっ、ガラッパ選手はどうしたんですか?」
「本当ですね、ガラッパはまだリングに入ってきていませんが・・。ああっと
青山さん、あそこです。あそこにいますよ」
「げっ、あ、あれですか?」
「客席の中で深津に組み付いている怪人の姿が見えます。カメラさん、もっと
寄ってください。この選手です、キング・ガラッパ。緑の肌が光っています」
「要するに、カッパなんですね。それにしても気色悪い色ですねえ」
「まったくであります。あまりにも異様なコスチュームに観客も逃げておりま
す。青山さん、あんなのに噛まれたら大変ですね」
「冗談じゃないですよ、あんなのに噛まれちゃったら、気色悪くて、晩ご飯が
食べられませんよ。思い出したら夜も眠れません」

「あっ、青山さん、今のコメント聞こえたようですよ」
「ええ〜っ、ち、ちょっと、古舘さん、そこどいてください。逃げますよ」
「どいてと言われましてもここ狭いですし・・、ああっと、ガラッパがこちら
に向かって来ております。まるで濡れているかのような緑の肌が、異様な光沢
を携えて迫っております。青山さん、来ますよ、来ますよ」
「だから、どいてくださいよ・・」
「青山さんっ」
「あっ、ああっ、ぎゃ〜っ」
「こ、ここで一旦CMに入ります。この放送は絶叫の愛知県体育館より中継で
お届けしております」

** 3本勝負の2本目が短時間で終わるのはなんでだろ〜
  なんでだろ〜、なんでだろ〜、ななななんでだろ〜、チャッチャッ **


「青山さん、大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃないですよ、どいてくれって言ったじゃないですか」
「いやあ、しかし意外でした、ガラッパ。ガラッパは青山さんのファンだった
ようです。首筋に熱いキスマークを残していきました。どうですか、ご気分は」
「喰われるかと思いましたよ、もっと優しくして欲しかったです」
「まんざらでもないようであります。さて、リング上は華麗な空中戦が繰り広
げられております。高下駄仮面のドクター・テング、下駄を脱いでもその跳躍
力は変わりません。右へ左へと飛び跳ねております。パートナーのキング・ガ
ラッパはグラウンドが得意なようです。福岡&深津組を翻弄する動きを見せて
います。青山さん、これは驚きですね」
「そうですね、こんなテクニックがあるのなら、あんな気色悪いコスチューム
やめればいいと思うんですが、どうなんでしょうかね」

「そのへんのところはナゾであります、キング・ガラッパ。怪奇派なのにテク
ニシャン、不気味であります。おっと、これは何だ。福岡の腕を複雑に絡ませ
ております。足もとった、足も絡ませていく。何なんだ、この技は」
「こんな技、見たことありませんよ」
「福岡の体が小さく折りたたまれていきます。これはパラダイス・ロックか。
カッパ王がシャベを繰り出したぞ〜、ひっくり返した。パラダイス・ロックだ、
おっと、更に、首に足を引っかけて丸め込むぞ」
<1、2、スリーッ>
「あっと、決まってしまいました。福岡がフォールを取られました〜っ」
「何でしょうか、あの技は」
「まるで荷物を片づけるような淡々とした作業できっちりとフォールを奪って
しまうあたり、相当の実力者なんでありましょうか、キング・ガラッパ。まさ
しくキングの名にふさわしい選手であります」
「カッパが王制なのかどうかはわかりませんけどね」
「今、両手を上げております、ガラッパ」
「もうひとりの方のテングですか、この選手もよかったですよね」
「そうでした。驚異の跳躍力を見せたテングと、そして芸術的業師ガラッパ。
このコンビ、優勝候補と言ってもいいのではないでしょうか」
「福岡&深津組も優勝候補だったわけですよね。それを破ったんですから立派
な優勝候補ですよ。ハニー組との対戦が楽しみですよね」

「そのハニー&ジャガー組とは来週の最終戦でぶつかることになっています。
優勝の行方を左右する闘いになりそうです。そしてその前に、ハニー組は今夜、
重要な一戦が待っております。褐色の巨体コンビ、ウォーター・パワー&ザ・
プルトニウム組との対決です。青山さん、楽しみですねえ」
「このふたりは、もうなだれこんで来て欲しくないです」

「入ってきました、褐色の巨体コンビ。人間水力発電所ウォーター・パワーと、
暗黒核融合ザ・プルトニウムであります。先週の開幕戦ではデビー・マレット
を片手でのネックハンギングでKOし、病院送りにしております。おそるべき
ふたりであります」
「あれっ、パワーのマネージャーはどうしたんですか? ほら、ちっちゃくて
ドーモ、ドーモって言ってた人」

「ミスタースズキのことですか。いますよ、そこに」
「えっ? ああっ、レフェリー? 古舘さん、これはマズイですよ。どうして
相手チームのマネージャーがレフェリーなんですか」

「実は山本大鉄さんが新幹線に乗り遅れまして、今夜の名古屋大会に間に合わ
なくなってしまったのです。それで急遽、決まったようです」
「それにしてもおかしいですよ」
「おっと、そのあたりのことが気になるのか、ハニー&ジャガー組も抗議して
おります。しかし、これは試合開始前のコイントスで決まっています。WWW
サイドは長谷川秋恵、パワーサイドはミスタースズキを指名してのコイントス
を行い、その結果、ミスタースズキに決まったわけであります」
「別にさっきの試合のレフェリーでいいじゃないですか」
「ジャガーもそう主張しているのか待機しているレフェリーのミスターキンタ
を指さしております。おっと、キンタもリングに上がってきました」
「キンタでいいですよ、キンタでいきましょうよ」
「ああっと、プルトニウムのショルダータックル! キンタが客席に吹っ飛ば
されました。キンタ、大丈夫でしょうか」
<カーン>
「ミスタースズキがゴングを要請だ、試合開始です。プルトニウムとハニーが
殴り合いだ。ジャガーはパワーの首に飛びついた。飛びつき逆十字を狙うのか。
しかしロープにもつれました。ふたりともリング下に転落。早くも乱戦模様に
なってきました。青山さん、気をつけてください」
「ま、またですか〜」
「リング上はハニーとプルトニウムの闘いだ。プルトニウムの喉輪が決まって
いる。先週はデビーがこのまま持ち上げられてKOされています。危ないぞ、
ハニー。おっと、持ち上げた〜っ。片手で核融合、指先から放射能、プルトニ
ウムのネックハンギングが決まった〜っ。リング下ではパワーのカナディアン
バックブリーカー、まるで先週の再放送を見ているかのようなシーンだ〜っ」
「うわあ、これはキツイですねえ、指がノドに食い込んでますよ」
「ハニーまでも被爆してしまうのか、愛知県体育館は今世紀最大の放射能漏れ
現場になった〜っ。おっと、ヒザが出たぞ。キャサリン・スナイパーを倒した
右のヒザがプルトニウムの顔面をとらえました。しかし、放しません、プルト
ニウム。連打だっ、ハニーの体がエビのようにしなってヒザ蹴りを出します。
しかしまだ放さない。無防備な顔面を蹴られながらも放射能を放ち続ける指先
は止まりません。まるで太陽を掴むかのように仁王立ちしております」
「すごい根性ですねえ、ノーガードの顔にヒザですよ。信じられません」
「あっと、リング下のパワーが戻ってきた。ジャガーはもう完全にKO状態だ。
リング下に置き去りにして戻ってきたぞ〜っ。そしてハニーの背中に向かって
パンチだ、パンチ、これは一方的になってきました」
「首つりにして殴ってますよ、これは反則じゃないんですか」
「タイガーハニー大ピンチだ。ジャガーはリング下で倒れたままです。ハニー
の背中にウォーター・パワーの丸太のような腕が叩き込まれます。まるで釣り
鐘を打っているようだ。一足早い除夜の鐘のようですっ」
「何とかしろよ、ハニー」
「パワーが後ろに下がって助走をつけてのパンチだ〜っ。おおっと、ハニーの
凄いヒザ蹴りがプルトニウムに決まった〜っ。強烈な一撃がでた〜っ」
「古舘さん、今のは普通のヒザ蹴りじゃなかったですよ。パワーがパンチを出
した瞬間に体をずらして足の裏を合わせてたんですよ。それでパンチの勢いも
プラスされたヒザ蹴りが出たんです。さすがハニー、凄いですよ」

「グラグラと崩れ落ちますプルトニウム、強烈なヒザ蹴り失神しまいました。
頭を抱えていますパワー。ここはハニー、チャンスです。素早くパワーの後ろ
に回り込んだ。バックをとって、ジャーマンスープレックスだ〜っ、パワーの
巨体が浮き上がった、投げた〜っ。パワーの首が90度に折れ曲がったぞ〜っ」
<カンカンカンカン>
「おっと、ここでミスタースズキがゴングを要請だ」
「え〜っ、何ですかいったい・・」
<ジャガー横谷選手のリングアウトで、ウォーター・パワー組の勝ち>

「おおっと〜、ミスタースズキ、ジャガー横谷のリングアウトをとりました。
確かにジャガーはリング下ですが・・・、これは納得いかない裁定であります」
「納得いきませんよ〜、目の前でジャーマンが決まっていたじゃないですか。
やっぱり、キンタにしとけばよかったのに・・」

「逃げるように引き上げていきますミスタースズキ。そのあとをプルトニウム
に肩を貸したパワーが行きます。追うことすらできないハニー&ジャガー組、
大きなダメージを負ってしまいました。このあとのリーグ戦の行方が心配であ
ります。来週は日本武道館よりレディース・タッグ・リーグ戦の優勝戦の模様
をお届けする予定です。どうぞお楽しみに。それでは青山さん、本日はどうも
ありがとうございました」
「こちらこそ、どうもありがとうございました」
「それでは、大波乱の結末を迎えた愛知県体育館よりお別れいたします。みな
さん、ご機嫌ようサヨウナラ!」


<<架空女子プロレス団体>>
「WWW(トリプルダブリュー)〜月曜8時のシンデレラ〜」
第9回大会(02.12.31);東京・日本武道館


「今夜、雪の東京で優勝チームが決定いたします。第1回レディース・タッグ・
リーグ戦優勝戦、勝ち残るのはハニー・ジャガー組か、それとも怪しげな天狗
と河童でありましょうか。まもなく最後の闘いが始まろうとしております!」

〜 ただそれだけなのに、あなたの想い出は、
  なぜか、優しい冬の日の日だまりのようです 〜


「日本武道館は最後の対決を前に、一瞬、静まりかえっております。3週間に
わたって闘われてきましたレディース・タッグ・リーグ戦、ついに優勝チーム
を決める闘いが始まろうとしております。今夜の解説はWWWの鬼軍曹こと、
山本大鉄さんです。山本さん、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
「早速ですが、星取り表をご覧ください。8チームが3週間にわたって激闘を
繰り広げてまいりましたが、残り1試合を残してこのような星取りになってい
ます。山本さん、この結果はどうですか、予想通りですか」
「そうですね、残念なことに最後までリーグ戦を続けられなくなったチームが
2チームもありました。開幕戦でウォーター・パワー&ザ・プルトニウム組に
病院送りにされてしまったデビー・マレットと長谷川秋恵のチーム、それから、
先週、ハニーのヒザ蹴りで右目を負傷してしまったザ・プルトニウムのチーム
ですね。ともに優勝候補の一角だっただけに残念でした」

「先週の放送でお届けしましたハニー&ジャガー組とパワー&プルトニウム組
の試合で、ハニーのヒザ蹴りを受けたプルトニウム選手ですが、右眼窩底骨折
で全治2ヶ月という診断が出まして、残念ながら、残りのリーグ戦は棄権する
という事態になっております。その結果、全勝が1チームでドクター・テング
&キング・ガラッパ組、続く1敗がタイガーハニー&ジャガー横谷組、2敗が
キャンディー深津&福岡ヒカル組、3敗が工藤みなみ&サンダー・ロケット・
シン組、もみじ&かえで組、そして最下位が全敗がマクリの大下&逃げの佐藤
の競輪コンビとなっています。山本さん、こうなってみますと先週のハニー組
とパワー組の試合がターニングポイントになったという感じがしませんか」
「そのとおりです。あの試合でハニー組が勝っていたらよかったんですが、結
果はリングアウト負けですからね。ハニー組はパワー組に0点、一方、テング
組はパワー組から不戦勝の2点獲得ですから、雲泥の差ですよ。テング組は運
がよかったって感じですね」

「運も実力のうちとはいいますが、その容貌も相まってか、何だか全てが予定
通りに運ばれているようにも思えてしまいます、現代に甦った怪奇派コンビ。
今夜もまたあの人間離れしたプロレスを見せるのでありましょうか。しかし、
山本さん、ハニー組にも頑張ってもらいたいですよねえ」
「そうですね、まだ逆転優勝の可能性が残っているわけですから、最後まで諦
めちゃいけません。勝てばいいんですから」

「えっと、ハニー組が勝つと同点になるわけですが、こういう場合はどうなる
わけですか。もう一試合やるのですか?」
「これはですね、直接対決の結果で判断するわけなんです。同点の場合は直接
対決の勝敗で優勝チームが決まることになります」

「ということは、ハニー組が勝てばその時点で優勝というわけですか」
「はい。逆に言うと、テング組は引き分けでも優勝というわけです」
「ははあ、となるとテング組は無理せず引き分け狙いでくるかも知れませんね」
「まあそうです。でもね、古舘さん、そんなことはしないと思いますよ。選手
はいつも勝つことを目的に試合しているわけですから、そんな引き分けでいい
なんて考えてませんよ。逆にそんなことを考えていたら勝てる相手にも負けて
しまいます」

「なるほど。ますます試合開始が楽しみになってまいりました。レディース・
タッグ・リーグ戦、初の女王コンビになるのはいったいどちらのチームであり
ましょうか。まもなく試合開始のゴングが鳴ります。この放送は小雪舞い散る
決戦場、日本武道館より中継でお送りしております」

** 2003年第一弾ライブ開催!!
   ホーキング青山の 『一人で勃てました?!』
   1月31日(金)PM7:30から 新宿ロフトプラスワンにて **


「さあ入ってまいりました、タイガーハニー&ジャガー横谷組。WWWの威信
に賭けても、優勝杯をわたすわけにはいきません。いつになく厳しい表情に見
えますタイガーハニー。ジャガー横谷も鋭い視線です。山本さん、ふたりとも
かなり気合いが入ってますねえ」
「そりゃそうですよ、この試合はふたりだけのものではないわけです。WWW
の面子がかかっているわけですし。リーグ戦を棄権することになったパワー&
プルトニウム組の分まで頑張らなければいけませんよ。それがハニー組の責任
でもあるわけです」

「今、タイガーハニーがサードロープをくぐってのリングイン、すでに戦闘態
勢に入っています。続いてドクター・テング&キング・ガラッパ組の入場です。
怪しげな音楽が流れてきました。不規則なリズムが会場を異様な空間に変えて
いきます。この段階でもう怪奇派コンビの術中にはまってしまっているようで
もあります。まるで暗闇の夜道をたったひとりで帰宅するような心細さ、誰も
の記憶にもある幼い日の恐怖が甦ってきます」
「あっ、古舘さん、あれを見てください」
「おおっと〜、これはいったいどういうことなのか〜っ」
「古舘さん、ミスタースズキですよ」
「おっと〜、花道からミスタースズキが現れました。ウォーター・パワー&ザ・
プルトニウムのマネージャーでありますミスタースズキ、今夜はドクター・テ
ング&キング・ガラッパ組を先導して入場だ〜っ。山本さん、これはいったい
どういうことですか?」
「う〜ん、どういうことでしょう。パワー組が棄権することになりましたから、
テング組に乗り換えたのかも知れませんよ」

「何という男でありましょうか、ミスタースズキ。この男にとって二股三股は
当たり前なのか、リング下の一夫多妻制であります」
「これはやっかいですよ。リング外からちょっかい出されたりしますと気が散
りますからね、勝負に集中できるか心配です」

「さあ、全勝で最終戦を迎えました怪奇派コンビ、テング&ガラッパがリング
に入りました。今日も高下駄を履いておりますドクター・テング、一方、緑色
の濡れた肌が光っていますキング・ガラッパ。見た目は怪奇派ですが、中身は
相当の実力者であります。天を舞うようなドロップキックに、荷物を片づける
ような固め技、全勝は決してまぐれではありません」
「そうですね、実力はハニー組とどっこいだと思います」
「おおっと、襲いかかった〜っ、先に仕掛けたのは怪奇派コンビだ。テングが
ハニーを場外へと放り出す。ジャガーはガラッパに捕まったぞっ。ガラッパの
強烈なボディスラム、まるでメンコを地面に叩きつけるようだ。いつの間にか
テングがコーナーに昇っている。飛んだ〜っ、高下駄を履いたままでのフット
スタンプだ〜っ。両手を真横に広げてジャガーの腹の上に急降下だ〜。まるで
田んぼに立つカカシのような出で立ちであります」
「あのフットスタンプは危険ですよ。選手はフットスタンプを受けるときには
腹筋に力を込めて、耐えるわけです。そうしないと内臓を痛めてしまいます。
ところが、テングのフットスタンプはあの下駄の歯が腹筋の隙間に突き刺さっ
てくるわけですよ。あれをやられてはちょっと耐えられませんね」

「苦しそうでありますジャガー横谷、リング下へエスケープ。今度はハニーだ、
ハニーに向かってガラッパのトペコンヒーロー。漆緑の物体がトップロープを
超えてハニーに衝突。まるでコケに覆われた大石が飛んでいったように見えま
した。ああっと、反対側ではテングがコーナーポストから場外に向かって何か
狙っている。いった〜っ、ジャガーへのボディアタックだ〜っ」
「完全に怪奇派コンビのペースになりましたね」
<カーン>

「ここで試合開始のゴングです。レディース・タッグリーグ戦の最終戦です。
全勝で突っ走るテング&ガラッパ組に、1敗で追走しますハニー&ジャガー組、
最後の闘いが始まりましたっ。本部席の前ではガラッパとハニーがもみ合って
おります。ガラッパが巧みにハニーの後ろに回り込んだ〜っ。これはチキンウ
イングだ、チキンウイング・フェイスロック。カッパ大王のサブミッションが
ハニーの動きを封じ込めたぞ。山本さん、これはどうですか?」
「きまってます。きまってますけどね、ハニーはサブミッションへの返し技は
得意ですから。何とかしてくれるものと思います」

「おっと、山本さんの言うとおり、ハニーが顔の前のグリップを少しずつはず
していきます。ガラッパの緑色の右腕に自分の腕をねじ入れて切りにいきます。
はずれた。そしてヘッドパットだっ。ハニーが後頭部を使ってガラッパの顔面
に打ち込みました。これはガラッパ、効きましたか。無防備な顔面にハンマー
を打ち込まれたようなものです。ずるずると後ずさりしていきます」
「こういうのがハニーの怖いところなんですよ。ハニーはスナイパー一族から
色んな闘い方を教わってますからね。急所を狙って一発で倒してしまうような
こともできるわけです。この顔面へのヘッドパットは効きましたよ」

「ああっと、ガラッパのマスクから鮮血が流れ出しております。ハニーのヘッ
ドパットで鼻血か、カッパが赤い血を流しております。そのガラッパに向けて
追い打ちのヘッドパットだ。ゴンという鈍い音が放送席にまで聞こえてまいり
ます。今夜のハニーはご機嫌ななめなのか、いつになく厳しい攻撃であります。
ガラッパを追っていきます。ガラッパ、リング内に逃げ込みました。コーナー
のテングに交代します。タッチだ」
「あっ、これはいけませんよ」
「おおっと、ミスタースズキです、スズキがリングに入ろうとするハニーの足
を掴んでいます。そこへテングが助走をつけて走り込んでくるぞ〜。ドロップ
キックだ。高下駄です。テングの高下駄を履いたままのドロップキックだ。こ
れにはさすがのハニーもまいったか。スズキ、手を放しません。テングはもう
1回助走をつけてのドロップキックだ。これもハニーの横っ面に突き刺さった。
これはのっけから厳しい攻撃の連続だ〜っ。ハニー、大丈夫でしょうか」
「う〜ん、しかし下駄を履いての攻撃は明らかに反則ですからね。レフェリー
が厳しくチェックしなければいけません」

「ようやく今、レフェリーのミスターキンタがテングの高下駄を脱がせました。
裸足のテングだ。だが裸足のテングも手強いぞ。先週の放送では福岡&深津組
を圧倒する空中殺法を披露しましたテング、まるで大リーグボール養成ギプス
をはずされた星飛雄馬のようにのびのびと動き回ります。軽いステップです。
軽いステップでリング内を丸く周回します」
「やわらかい動きです。バネが日本人のものとは違いますね」
「日本人というよりは人間のものと違う気がいたします。ドクター・テングの
動き。聞くところによりますと医師免許も持っているそうであります。今宵は
どのような技で対戦相手に死亡を宣告するのでしょうか。おっと、ローリング
ソバットだ。ハニーのお株を奪う動き、小さな竜巻が起こりました」
「鋭いキレですね。あれをアゴにもらったら一発でおしまいですよ」
「単なるキワモノではありません、ドクター・テング。並はずれた身体能力を
有しております。ここでハニーがジャガーとタッチだ。勢いよくリングに飛び
込んできて、そのままロープに飛んだ。ショルダータックル、それをテングが
飛び越える。リバウンドするジャガーにアームホイップだっ。もう一回、もう
一回、三連発だ。起きあがるジャガーにドロップキック。高い打点から綺麗な
フォームで繰り出した〜っ」
「素晴らしいですね、感心します。この選手は相当の実力者ですよ」
「山本さんも自分の立場を忘れてしまっています。そりほどまでに素晴らしい
ドクター・テングの動き。これはハニーを上回っていると言っても言い過ぎで
はないんじゃないですか?」
「本当ですね、ハニーに匹敵する運動神経を持っています」
「ここでガラッパに交代、こちらも怪奇派ながら実力者です。ジャガーの後ろ
をとる。ジャガーも切り返す。更にその後ろをとった。めまぐるしい攻防です。
足をかけた。テイクダウン、ジャガーの上に乗りましたガラッパ。山本さん、
ジャガーもグランドは得意なんですけどねえ」
「そうです。ジャガーは道場で他の選手に教えている立場なんですが、それが
こうも簡単にバックをとられるとは・・。いや、びっくりです」

「ジャガーの腕を後ろ手にロック、足も折りたたんだぞ。淡々とした動きです。
まるで引っ越しの荷物を梱包するように、ジャガーも片づけられてしまうのか。
おっと、これはボーアンドアローだ、弓矢固め。しかも腕もロックされていま
す。こんな弓矢固めは見たことがありません。亀甲縛りのようであります」
「亀甲固めですね」
「キング・ガラッパの亀甲固め、完全にジャガーを梱包しております。これは
たまらずハニーがカット。ストンピングだ。しかしコーナーにテングが昇って
いるぞ、何かを狙っている。ボディアタックだっ、天狗の舞いだ〜っ。おっと、
ハニーが受け止めた。ぐっとこらえて、逆さまに持ち上げたぞ〜っ。そのまま
ツームストンパイルドライバーだ〜。脳天からマットに打ちつけました〜っ」
「古舘さん、見ましたか。あのボディアタックを受け止めてのパイルドライバー
ですよ。ウォーター・パワーのような巨漢の選手なら考えられますが、ハニー
のような小柄の選手があんなことをしてしまうんです。今の場面にハニーの秘
められた潜在能力を見た気がします」

「しかし、山本さん、テングも立ち上がりましたよ。すっくと立ち上がりまし
たドクター・テング、ハニーと睨み合っております。おおっと、何をしている
のか〜っ、テングが自らのマスクのヒモをほどいています。真っ赤な天狗のマ
スクを脱いで素顔になるつもりなのか〜、ミスタースズキが慌ててエプロンに
上がってきました。あっと、取った取った〜っ、テングがマスクを取りました」
「これは、ライアン・スナイパーですね。ハニーが倒したキャサリンの妹です」
「おっと、ガラッパもマスクを取ったぞっ、山本さん、こちらはモニカですか」
「そうです。スナイパー一族の二女ライアンと三女モニカですね。驚きました。
まさか、ふたりがマスクを被ってまで乗り込んでくるとは思いませんでした」

「噛みつかんばかりに何かを叫んでおりますライアン・スナイパー、ハニーも
応酬しております。凄い剣幕です。これはいったいどうなってしまうのでしょ
うか。レフェリーのミスターキンタが間に入ります。が、そのキンタを後目に
ライアンとハニーはもみ合ってリング下へ、場外に戦場が移りました。一方の
モニカもジャガーを連れて反対側の花道へと進んでいきます」
「これはまずいです。ふたりとも熱くなってますから、このままリングアウト
になるかも知れませんよ。ハニー組は落ち着かなくてはなりませんよ」

「両者リングアウトならテング組、いや、スナイパー姉妹の優勝ということに
なります、レディース・タッグ・リーグ優勝戦。ハニーとジャガーには冷静に
なってもらいたいですが、ああっと、広い武道館の奥にまで進んでいきます。
これは山本さん、20カウントで戻れなくなるんじゃないですか」
「その可能性はあります。これはまずいですよ」
「レフェリーのカウントが進んでいきます。これはちょっと戻れそうにありま
せん。ジャガーはモニカに捕まっています。ハニーもライアンと殴り合いだ。
場外カウントも耳に入っていないようです。ミスタースズキがエプロンでその
様子を見ております。この男だけが冷静だ。この男の罠にはまったか〜」
「古舘さん、あれは誰ですかね」
「えっ、あれは・・大下ですか。競輪コンビの大下ですね。何をしているんで
しょうか。ああっと、大下がジャガーに何か訴えてますよ、何でしょうか」
「乗れと言ってるんですかね」
「あっと、そのようです。ジャガーも大下に気づいたようです。モニカを振り
切って大下の自転車の後ろに乗った。しかし、レフェリーのカウントは進んで
います。間に合うのか、間に合うのか、大下が凄い勢いで自転車を飛ばすぞっ」
「間に合いますよ、間に合います」
「17、18、ジャガーが飛び込んだ〜っ、自転車からのトペスイシーダ〜っ」
<カンカンカンカン>
「どうだ〜っ、間に合ったのか〜っ」
<12分30秒リングアウトにより、ジャガー横谷選手の勝ち>
「間に合った〜っ、ジャガーのリングアウト勝ちです。山本さん、優勝ですよ」
「さすがはマクリの大下です。鬼のような足を見せてくれました」
「第1回レディース・タッグ・リーグ戦はハニー&ジャガー組が優勝杯を手に
いたしました。今、ジャガー横谷がミスターキンタによって右手を挙げられて
おります。いやあ、山本さん、厳しい闘いでしたねえ」
「そうですね、それにしても最後にジャガーがいい仕事をしてくれましたよ。
モニカと乱闘になっても冷静さを忘れていませんでした。20カウントのギリ
ギリまで勝負を諦めていませんでしたね」

「それとマクリの大下ですよ、凄い追い込みでした。ああ、リング上ではその
大下とジャガーががっちりと握手しております。まるでこのふたりが優勝した
みたいです。ハニーはまだライアンと組み合っています。山本さん、ハニーと
ライアンはどこかで決着をつける必要があるんじゃないですか」
「そうですね、ウチの方でも早急に検討してみたいと思います」
「そろそろ放送時間もなくなってまいりました。山本さん、今夜はありがとう
ございました」
「こちらこそ、どうもありがとうございました」
「それでは小雪舞い散る大晦日、日本武道館より、ハニー&ジャガー組の優勝
をお伝えしてお別れしたいと思います。みなさん、ご機嫌ようサヨウナラ!」


<<架空女子プロレス団体>>
「WWW(トリプルダブリュー)〜月曜8時のシンデレラ〜」
第10回大会(03.3.3);東京・後楽園ホール


「灯りをつけましょ雪洞に、お花をあげましょ桃の花。今夜は後楽園ホールの
ひな壇もおひな様一色です。3月3日のレディース・デイ。今夜、女だらけの
WWW新シリーズが開幕です!」

〜 ちょっとオトナの気分で、カフェオレなど頼んで、
そっとアナタにウインクしてみたくなる 〜


「後楽園ホールは今夜、桃の花が満開であります。WWWが企画しましたレデ
ィース・デイ。本日は観客全員が女性です。右も左も女性だらけであります。
今夜も解説はWWWの鬼軍曹、山本大鉄さんです。山本さん、どうぞよろしく
お願いします」
「よろしくお願いします。いやあ凄いことになりましたねえ。僕も長いことプ
ロレスに関わってきましたが、こんなに女性ばかりの会場は初めてですよ。何
か落ち着かなくて困ります」

「本当です。何だか圧倒される感じがいたします。今日は山本さん、ちょっと
勝手が違いますが頑張っていきましょう」
「わかりました」
「さてリング上は、ジャガー横谷選手の引退試合が行われております。30分
一本勝負、ジャガー横谷vs長谷川秋恵の一戦です。すでに10分が経過して
おります。山本さん、ジャガーの引退は突然のことで驚いたのですが、これは
前から決まっていたことなのですか?」
「ええ、そうなんです。ジャガーはWWWに参戦するときから一年だけという
契約だったんです。それで一年経って、団体も軌道に乗ってきたということで
約束どおり引退することになったわけです」

「そうですか。それにしても惜しいですね」
「そうですね。でも、若い選手たちも延びてきていますし、ジャガーにはまた
新しい挑戦をしてもらいたいと思います」

「実は来週からは山本さんに替わって、ジャガーに解説席に座ってもらうこと
になっています。山本さん、今夜が最後の解説になってしまうわけですね」
「そうです。一年間解説席に座らせていただきましたが、今日で最後になりま
す。下手な解説で視聴者のみなさんには聞きづらかったかも知れませんが、お
許し願いたいと思います。まあ、まだ今日は終わったわけではありませんから、
最後まで全力で務めさせていただきたいと思います」

「さあリング上は動きが早くなってまいりました。ジャガーが長谷川をロープ
に振ってヒップアタックだ。ジャガーの得意技であります。もう一回ロープに
振ってもう一発だ。高い打点のヒップアタックが長谷川の胸板あたりにぶつか
りました。そして今度はドラゴンスリーパーだ。長谷川の左腕をからめて首を
ねじ切ってまいります。山本さん、ジャガーの動きがいいようですね」
「そうですね。ジャガーもこの日のためにコンディションを整えてきてますか
らね。本当に引退してしまうのか、と思うほどの動きです」

「おっと、長谷川の長い脚がロープに届きました。ロープブレイクです。白い
リングシューズがライトに光っております。フィジカルエリートであります」
「古舘さん、ジャガーは引退試合の相手に長谷川を選んだでしょ。これは長谷
川に期待しているということなわけです。本来ならエースとして活躍できる力
がありながら、なかなか上に行けない長谷川へのエールみたいなものですね。
長谷川はこの試合で期待に応えなければいけませんよ」

「そうですね。WWWのエース争いではタイガーハニーに大きく水をあけられ
た感があります長谷川秋恵。ジャガーの闘魂を伝承して、一回り大きくなって
欲しいものです。さあここでジャガーがボディスラム。長谷川を寝かせてコー
ナーポストに昇った。フットスタンプだっ。これは強烈に決まった。苦しそう
であります長谷川。胃袋のあたりを押さえています。その長谷川を起こして首
をとったぞ。ブレーンバスター。小柄なジャガーが長谷川を綺麗に投げました」
「バランスがいいですね。相手を持ち上げるっていうのは、力だけじゃないん
ですよ。相手の体勢を崩して投げれば小さな選手でも投げられるわけなんです。
このあたりの技術は他の選手たちにも見習ってもらいたいですね」

「エプロンサイドにはWWWの選手たちが揃ってこの試合を見守っております。
ジャガーの脳裏には格闘生活25年が走馬燈のように甦っているのでしょうか。
今度はダブルアームスープレックス。長谷川の体が風車のように回転しました。
さあ、そろそろ決めに行くのか〜っ、場内にアピールして、卍固めだっ。オク
トパスホールドが長谷川の動きをとめた。どうだ、これで決まってしまうのかっ」
「この卍は完璧ですよ。完璧に決まってますが、どうでしょうか。長谷川も意
地でもギブアップはしたくないところでしょう」

「あっと、長谷川が上体を起こしてきた。ばずした。長谷川が驚異的なパワー
で卍固めをはずしました。唖然とした表情で見上げるジャガー、そうでしょう
完璧に決まっていたはずの卍をはずされてしまいました」
「チャンスですよ、長谷川はここを逃してはいけません」
「長谷川が自らロープにとんだ。何を狙うのか〜っ、おおっと、シャイニング
ウィザードだ〜っ、ジャガーの顔面にヒット、まるで重戦車のひき逃げだ〜っ」
「これはいいです」
「フォールだ。1、2、スリーッ。スリーカウントがはいりました。長谷川の
シャイニングウィザード一発がジャガーの25年に幕をひきました〜っ」
「う〜ん、凄い一発でしたね。これはいい餞別になったと思います」
「強烈な餞別が炸裂しました。ああっと、長谷川が泣いております。ジャガー
と熱い抱擁を交わしております。よくやりました長谷川。」
「いい試合でしたね、本当にいい試合でした」
「ああ、山本さんも心なしか涙声であります。素晴らしい引退試合でした。今、
満員の会場からも温かい拍手が送られております。ジャガー横谷、25年間、
本当にご苦労様でした。さて、この後は本日のメインイベント、WWWシング
ル王座決定戦、タイガーハニーvs元川エミリの一戦をお届けいたします。この
放送は会場全体がひな祭り状態の後楽園ホールより中継でお送りしております」

** 夕刊プロレス年度末シリーズ「チャンピォン・カーニバル」が開幕!!
   ドボンシステム導入でトップ10争いは大荒れ必至
   初代年間チャンピォンに輝くのはいったい誰なのか・・ **


「青コーナーより我闘書蔵の元川エミリが入場してまいります。SMW倒産後
自ら格闘塾を設立、その実力を証明するためにWWWのリングに駆け上がって
まいりました。我闘書蔵(ガトーショコラ)の塾長、元川エミリです」
「いい顔をしてますね。あのね、古舘さん、人は不思議なもので背負う物がで
きると自然にいい顔になるんですよ。これはいい試合が期待できそうです」

「続いて赤コーナーからタイガーハニーが入ってきます。今夜は新設のWWW
シングル王座を賭けて闘います。未確認生命体タイガーハニー。今夜はいった
いどんなファイトを見せてくれるのでしょうか。今、リングに入りました」
「この試合はWWWの初代王者を決める闘いですからね、ハニーは絶対に負け
られません。万が一、負けるようなことになったら、エース失格ですよ」

「山本さんから厳しいコメントが出ました。元川が我闘書蔵を背負うのなら、
ハニーもWWWを背負っております。背負い荷を賭けた闘い、負けたら空荷に
なる闘いであります。リングアナより両選手のコールが行われます」
<モトカワーエミーリーッ>
「我闘書蔵塾長、元川エミリ。ブルーの格闘着に身を包んでいます」
<タイガーハニーイーッ>
「WWWのエース、タイガーハニー。オーバーマスクを投げましたっ。今夜は
レッドのマスクとパンタロン。元川とは対照的な真紅のコスチュームです」
「古舘さん、ハニーは衣装を新調してきたでしょ。選手ってのはこういう日は
気合いが入るんですよ。何かリフレッシュしたというか、よしやるぞっていう
気持ちになるんです。ハニーはかなり気合いが入っているように見えます」

「なるほど、山本さんのおっしゃるとおりかも知れません。いつもはクールな
ハニーがどこかはやっているようにも見えます。平静を装ってはいても仮面の
下は熱いのか、現代女性の恋のようであります。会場に集まった2000人の
女性の、ひとりひとりの化身が今夜のハニーなのかも知れません」
<カーン>
ゴングが鳴りました。60分一本勝負、WWWシングル王座決定戦でありま
す。今、映っておりますこのベルト。このベルトを巡ってふたりの女戦士が闘
うわけであります。まずは元川が仕掛ける。力比べにいくと見せかけて蹴った。
ハニーをロープに振ってドロップキックだっ。カウンターでパーンと決まった。
ハニーのマスクを掴んでの首投げ。そして、スリーパーだ。山本さん、元川と
いう選手は基本の技を的確に決めてきますね」
「そうですね。人に教えていることもあってか、技の流れはとてもスムーズで
すね。たぶん、繰り返し練習しているパターンなんでしょう」

「さあスリーパーでぐいぐい締め上げていきます。スタミナを奪う作戦でしょ
うか。おっと、ハニーが苦しそう、苦しそうです。これで決まるのか」
「いや、古舘さん、チョークですよ。反則です」
「今、チョークスリーパーを解きました元川。突然のシュートを仕掛けます。
続いては背中にまたがってのキャメルクラッチだ。ハニーの背中がエビぞりま
す。山本さん、これは完全に元川のペースで進んでいませんか?」
「いや、まさしく元川のペースですね。反則をうまく使うところなんか、なか
なかのものですよ。本当はいけないんですよ。でもプロレスのルールでは4秒
まではOKなわけですから。ずるく闘うのもプロレスのうちというわけです」

「キャメルクラッチの体勢からフェイスロックにいきます。これはキツイか。
ハニーの首が90度ねじれて、更に上体もエビぞりになっています。ハニーの
首をねじきらんばかりです。おっと、元川が技をほどいた。あ、いや、違いま
す。指を噛んでます。ハニーが元川の小指に噛みついた。技がほどけます。こ
れも完全な反則なんですが、4秒以内ならOKというわけですね」
「そういうわけです」
「指を噛まれては抵抗できません元川。さっと、ハニーが元川の懐に潜った。
バックドロップだ〜っ。脳天からマットに打ちつけた。そして、背中にストン
ピング。ストンピングの嵐だ。元川を踏み潰さんとしております。そして強引
に起こして、もう一発、バックドロップ。またもや脳天から逆落としだ〜っ」
「これは効いてますよ。ハニーのバックドロップは捻りが利いていましてね、
後ろに投げるというよりは、真っ逆さまに落とすわけです。ですから受け身が
とりにくいんです。元川といえどもこれを何発も喰らっては危ないですよ」

「フラフラの元川を起こしてもう一発狙っていきます。おっと、切り返しだ、
前方に回転してのヒザ十字固めだ。これはきれいに入りました。リング中央で
がっちりとヒザ十字が決まっております。ハニーの右脚がまるでトラバサミに
かかったように固定されております。逃げられない。逃げられません。ハニー
のヒザが喰いちぎられてしまいそうです。上体を起こして何とかロープにたど
り着きたいハニー。一歩一歩にじり寄っていきます。もう少し、もう少しです。
伸ばした指先がどうにかロープに届いた。ロープブレイクです」
「いやあ、助かりましたね」
「おっと〜っ、今度は元川のバックドロップだ〜っ。高速で叩きつけた〜っ」
「おかえしですね。ヤラれたらヤリかえす、これもプロレスの基本なわけです。
同じ技をやり返すことで、精神的にも反撃しているわけなんです」

「おっと、ここで元川がハニーを場外へ叩き出した。場外戦だ。まずはハニー
を客席に放り投げる。お客さんが蜘蛛の子を散らすように逃げていきます。今
度はイスだ、イス攻撃っ。ハニーの背中に何発も叩き込みます。そしてハニー
をリング内に戻しました」
「このあたりは冷静ですね。場外でダメージを負わせておいても、決着はあく
までリング内でというわけです。これはハニー、ピンチです」

「ハニーをリング内に入れて、元川はエプロンからコーナーに昇った。ボディ
アタックだ。大きく羽根を広げてハニーを包み込んだんだ。カウントは、1、
2・・返した。ハニー返しました。元川の攻撃が続きます。ボデイスラムだっ。
マットに寝かせておいて、今度は反対側のコーナーに昇るぞ。飛んだ〜っ、エ
ルボードロップ。ハニーの喉元にグサリと突き刺さりました。カウントは、1、
2・・返しました。元川の猛攻が続きます。ハニーを無理矢理に起こして持ち
上げた〜。ツームストンだ、ツームストン・パイルドライバー。ハニーの首が
グニャリと曲がりました。そして、何だ、今、指をクルクルっと回しました」
「あっ、あの技が出ますよ。元川の得意技です」
「またコーナーに昇ったぞ。飛んだ〜っ、おっと回転した。これはファイヤー
バード・スプラッシュだ〜っ。空中で一回転してのボディプレス〜っ、決まっ
たあ〜っ。しかし、フォールには行きません。ハニーの頭を起こしてバックに
回ったぞ。フルネルソンだ、座ったままのハニーにフルネルソン。そして前方
に回転してブリッジだっ。何だ、この技は。山本さん、何ですか、この技は?」
「ショコラクラッチです、元川の秘密兵器ですよ。相手の体を柔軟体操の前屈
のように折り曲げ、しかも首はフルネルソンで固めています。さすがのハニー
もこれにはたまらないでしょう」

「恐るべき拷問技だ、ショコラクラッチ。ハニーの首をへし折ろうとしており
ます。しかし、山本さん、なぜ山本さんはこの技のことを知っていたのですか?」
「それは僕が元川に教えたからですよ」
「えっ、山本さんが教えたのですか?」
「そうです。このカードが決まった日に元川から電話がありましてね。ハニー
を絶対に倒したいから稽古をつけてくれと言ってきたわけです。普通、そんな
ことしますか、対戦相手のコーチである僕に稽古をつけてくれなんて。しませ
んよ。それで、どういうことなんだ、本当にやる気あるのかと言いましたら、
あると言うので一週間稽古をつけてあげたわけです。それで何と言いますか、
僕にしてみれば選手はどの子も可愛いわけですよ。ハニーにも頑張ってもらい
たいが、元川にも勝って欲しい。そういうわけで技をひとつ伝授したわけです」

「なるほど、そんな裏話があったのですか。それにいたしましても、とんでも
ない技を伝授してしまったものです。ハニーもまさか、山本さんが元川に力を
貸していたとは思いますまい。しかし、山本さん、ハニーは大丈夫でしょうか」
「う〜ん、大丈夫じゃありませんね。ショコラクラッチの前にバックドロップ
やパイルドライバーを喰ってるでしょ。あれは元川の作戦だったわけですよ。
首へのダメージを与えておいて、ファイヤーバードからのショコラクラッチ。
このへんの連携はさすがうまいですね。やられた、っていう感じです」

「そうなると、これは大変なことになりますよ。初代WWWシングル王者が他
団体の選手になってしまうわけです。うまい具合に山本さんを丸め込み、タイ
ガーハニーをも倒してしまうのか元川エミリ。苦しそうですハニー、その苦し
さがマスク越しにもわかる気がいたします。おっとと、はずれたぞっ。元川の
ショコラクラッチがはずれました、これはどういうことでしょうか・・」
「汗ですよ。今日はテレビマッチですからリングの上にはライトがついている
わけですよ。道場で練習していたときとはリング上の温度が違うんです。それ
で滑ってしまったのかも知れません。これは元川、チャンスを逃しましたよ」

「惜しいチャンスを逃しました元川、九死に一生を得たハニー。しかし、元川
もめげずに攻め続けます。ロープに飛んでラリアットだ〜っ。首刈り弾が炸裂っ
ハニーの体が衝撃で一回転しました」
「あくまでも狙いは首ですね。もう一回、ショコラクラッチを決めれば勝てる、
そう思っているんでしょう」

「元川、ハニーと距離をおいています。ハニーが立ち上がるのを待って、もう
一回ラリアットを狙っているのか。地団駄を踏んでのラリアット、いった〜っ。
エルボーだっ。ハニーがカウンターでエルボーを出した。元川がダウン。さあ、
今度はハニーがコーナーポストに飛び乗る。こちらを向いた。何が飛び出すの
か。ああっと、この技は、山本さん!!」
「ハニーフラッシュです」
<ダダーン!!>

「ハニーフラッシュだ〜っ、デビュー戦でも見せた大技です。一瞬光った〜っ」
「何度見ても凄い技です」
「ハニーフラッシュが決まった〜っ。元川はダウンだ。ダメージが大きいのか
立てません。ダウンカウントが数えられます。おっと、しかし、ハニーが攻め
込みます。腕をからめて顔に手を回した〜。これはチキンウイング・フェイス
ロックだっ。おっと、そのまま前方に回転したぞ。ブリッジした。これはチキ
ンウイング式のショコラクラッチだ〜っ。今度は元川に拷問地獄〜っ、リング
中央で完全に逃げ場もありませんっ」
<カンカンカンカン>
「ここでギブアップ、元川ギブアップです。元川エミリ敗れました〜っ」
「でも元川はよく頑張りましたよ、あのショコラクラッチがはずれてなければ
勝っていたと思います。本当にいい試合でした」

「山本さんからも最高の褒め言葉が出ております。名勝負でありました。今、
闘い終えたふたりが握手しております。館内からも自然に拍手がわき起こって
おります。ハニーは、元川は、今日会場に集まった彼女らの心の代弁者に成り
得たのでしょうか。本当にいい試合でありました。さて、山本さん、そろそろ
放送時間もなくなってまいりました。この一年間、素晴らしい解説をどうもあ
りがとうございました」
「こちらこそありがとうございました。今日で解説席を離れますけれど今後も
WWWの道場で若い選手たちを鍛えてですね、もっともっとプロレス界を盛り
上げていきたいと思っています。期待していてください」

「それではこのへんで、東京・後楽園ホールよりお別れいたします。みなさん、
ご機嫌ようサヨウナラ!」


<<架空女子プロレス団体>>
「WWW(トリプルダブリュー)〜金曜8時のシンデレラ〜」
第11回大会(03.4.4);東京・ディファ有明


「サクラのつぼみが開き始めた今日、闘う赤い花々は満開を迎えております。
オペラレッドの美女たちが、タイガーハニーを捕らえようと鋭い視線で狙って
います。 奪い取るのは、首か、ベルトか。 ハニー危うし〜っ!!」

〜 雨の夜に抱きしめた腕の中で あの日キミが見つけた答えはサヨナラ
肩を寄せて歩いたこの道の続きを 今でもひとりで風の中で 〜


「街中ではサクラの花がピンクに色づいておりますが、ここディファ有明では
真っ赤な花たちが咲き乱れております。そして、解説席にも一輪の華が咲きま
した。今夜から山本大鉄さんに替わって解説を務めていただきます、ジャガー
横谷さんです。ジャガーさん、どうぞよろしくお願いします」
「しおれそうな華ですが、よろしくお願いします」
「いやいや、とんでもありません。ジャガーさんは先日引退したばかりという
ことですので、選手の立場からも色々とお話いただければと思います。どうぞ
よろしくお願いします」
「わかりました」
「さてリング上は、30分一本勝負、長谷川秋恵vsアメージング・ギャングの
一戦が行われております。といいましても、ほとんどがリング外の闘いになっ
ております。おっと、また場外だ。客席になだれ込んでいきますアメージング・
ギャング。すでに10分が経過しておりますが、リングの上にいたのはほんの
わずかであります。完全にギャングのペースになっております」
「長谷川はこういう闘いは苦手ですからね。早くリングに戻って闘いたいです」
「逆に言うと、ギャングはこれでいいわけですね」
「まあそうですね。でも私はこういうファイトは嫌いです。やっぱりプロレス
はケンカじゃないんですから、力と力、技と技を正々堂々とぶつけて欲しいで
す。その上でお客さんに満足してもらうのがプロのプロレスです」

「なるほど、さっそくジャガー節が飛び出しました。さあ、その言葉が届いた
のか、ギャングを振り切って長谷川がリングに戻ってきました。ジャガーさん、
ジャガーさんは引退試合の相手にこの長谷川を選んだわけですが、それはやは
り期待の現れと思ってよろしいのですか」
「そうですね。長谷川はもっと若い頃から見てますが、いいものを持っている
んです。体も大きいしバネもある。筋力も素晴らしい筋力をしています。それ
なのに今ひとつ伸び悩んでいます。それはハートの部分なんです。あまりにも
他人に気を遣いすぎるがために一歩引いてしまうんです。まあそれは長谷川の
いいところでもあるんですが、プロレスラーとしてはいけないことなんです。
もっと自分が前に出ていくんだという気持ちを持って欲しいですね。まあ期待
していますよ」

「その長谷川が反撃に転じます。ギャングをロープ振って、ローリング・ソバ
ットだ。胸板にヒット。そのまま頭を抱えてDDTだっ。流れるような連携で
ギャングを攻め込んでいきます。さあ距離をとったぞ。対角線から何を狙って
いるのか〜っ、おおっと、シャイニングウィザードだ〜っ。ギャングの顔面に
ヒットした〜っ。まるで重戦車のひき逃げだ〜っ」
「あれは効くんですよ」
「フォールだ。1、2、スリーッ。あっけなくスリーカウントがはいりました。
長谷川のシャイニングウィザードがギャングの横っ面をひき逃げました〜っ」
「長谷川はバランスがいいんですよ。相手がどんな体勢でいても的確にヒザを
いれてくるんです。元々体も大きくてスピードにのって走り込んできますから、
まともに入ったらたまらないんですよ、本当に」

「ジャガーさんに言われると説得力があります。やはり効きますか」
「効くなんてもんじゃないですよ。引退試合の夜はまともにアゴが開かなかっ
たんですから。本当に最悪の引退試合でした」

「そうですか。それは大変な餞別でした。今、アメージング・ギャングがアゴ
を押さえてうずくまっております。さっきまでの大暴れぶりが嘘のようです。
相当に効いたのでありましょうか。ジッと長谷川を睨みつけますが、心なしか
戦意喪失のようにも見えます。長谷川秋恵、ジャガーさんの前で見事に強豪を
倒しました。ジャガーさん、この長谷川、いずれはタイガーハニーとも闘うこ
とになるんじゃないですか」
「そうですね。ハニーがベルトを巻いているわけですから当然狙っていくこと
になるでしょう。本人がどう考えているかはわかりませんが、ベルトを獲って
こそエースですから。やがて挑戦することになると思います」

「さあ、そのタイガーハニーはこのあとWWWシングル王座のベルトを賭けて
福岡ヒカルと対戦いたします。この放送は春爛漫のディファ有明より実況中継
でお届けしております」

** タイガーハニーが、4/5、JWPの金町大会に出場します!!
東京・葛飾区金町地区センター5階文化ホール 18:30開始
JR&京成「金町」北口から徒歩2分 応援してね〜 **


「青コーナーより挑戦者、福岡ヒカルが入場してまいります。ヒッキーズ改め、
レッド・ヒッキーズのリーダーであります。キャンディー深津、矢樹清美を引
き連れています。赤いバンダナ、赤いTシャツ、赤いリングシューズ。そして、
くちびるにはワインレッドのルージュであります。妖しく咲いた美女3人組、
レッド・ヒッキーズが今夜、ハニーの首を刈り取らんとしております!」
「妖しいですねえ」
「妖しいです!」

「続いて赤コーナーからタイガーハニーが入ってきます。腰にはWWWベルト
が輝いております。今夜が初防衛戦の未確認生命体タイガーハニー。いったい
どんなファイトを見せてくれるのでしょうか。今、リングに入りました」
「何かもめてますね」
「おっと、早くもレッド・ヒッキーズの3人がレフェリーにクレームをつけて
おります。これは何でしょうか」
「コーナーがどうしたとか言ってますね」
「ははあ、なるほど、レッド・ヒッキーズだから赤コーナーに立とうとしてい
るわけですか。しかし、今夜は挑戦者ですからこれは仕方ありません」
「くだらないですね。そんなことにこだわるより試合に集中して欲しいです」
「そう言えば挑戦者の福岡は、ハニーと元川エミリの間で王座決定戦が行われ
たことが気に入らなかったようで、強引に今夜のタイトル戦をねじこんだよう
です。レッドに装いを新たにしたのは気合いが入っている証拠かも知れません。
リングアナより両選手のコールが行われます」
<フクオカーヒカールーッ>
「レッド・ヒッキーズのリーダー、福岡ヒカル。ルージュが妖しく光ります」
<タイガーハニーイーッ>
「チャンピォン、タイガーハニー。オーバーマスクを投げました〜っ。今夜も
レッドのマスクとパンタロン。ハニーも真っ赤に染まっています」
「ふたりとも赤ですか、華やかですねえ。まあ若いうちしか着れませんけどね」
「そういうジャガーさんもデビュー当時は赤い水着を着てましたよね」
「遠い昔の話です。もう忘れました」
<カーン!>

「さあゴングが鳴りました。60分一本勝負、WWWシングル選手権でありま
す。両者がリングをステップで回ります。華麗な動きのハニー、福岡も負けじ
と素早い動きです。がっちりと組んだ。まずは首相撲であります。お互いの首
を掴んでおります。動きません、両者一歩も引きません。まるで磁力で引きつ
けられているように、ぴったりとふたりの体が一体になっております」
「互角ですね」
「互角です。激しいライバル心が歯を食いしばってこらえております。思えば
14ヶ月前、メインに出場したハニーに対し福岡は放送前の第5試合に出場し
ておりました。14ヶ月経って、ふたりの距離は縮まったようでもあり、全く
縮まっていないようでもあります。どうですか、ジャガーさん」
「もともとふたりの実力にはそれほどの差はないと思います。福岡にだって、
ベルトを巻く力はあると思います。ただ、チャンピォンは強いだけではダメな
んです。いつもメインに出て団体の顔にならなくてはいけないんです。そこら
へんの自覚がちょっとハニーの方が勝っているというところでしょうか」

<ブレイク!>

「レフェリーがふたりを離しました。これは珍しい光景です。リング中央での
ブレイクです」
「珍しいですね、私も初めて見ました」
「もう一度仕切直しでしょうか。またじりじりとリング中央に寄っていきます。
スライディングだ、福岡のスライディングタックル。ハニーを前方に倒した。
そして、ストンピングだ。ハニーの背中に何発も叩き込んでいきます。猛烈な
ストンピング。ハニーの無防備な背中に絨毯爆撃が降り注いでいます」
「キツイですね。肺の裏側を蹴られると息が詰まるんですよ。そうなると一瞬
動けなくなりますからね。早く逃げた方がいいです」

「ジャガーさんの指摘どおり、動けませんハニー。福岡がゆっくりとコーナー
に昇っていきます。飛んだ〜っ、フットスタンプだ〜っ、ハニーの背中に飛び
降りた〜っ。おっと、かわした。かろうじてかわしました」
「危なかったです。もし背骨の上にもらってたら、試合を続けられなかったと
思います。福岡もえげつないことやりますねえ」

「今度は福岡がハニーを場外に蹴り出したぞ。場外戦に持ち込むのか、ああっ、
場外では深津と矢樹が待っている。両側から頭と腕を掴んで、ハニーを十字架
状態にした。そこへ福岡のスライディングキックだ〜っ。ハニーの顔面に赤い
シューズが突き刺さりました〜っ。まるで赤いミサイルでも打ち込まれたよう
です。続いて、今度は何を仕掛けるつもりなのか〜っ、ハニーをリング下の床
に寝かせています。深津と矢樹が手足を抑えているぞ、ああっと、福岡がコー
ナーポストに昇っている。何だ、何をする気なのか〜」
「またフットスタンプですかね」
「飛んだ〜っ、コーナーポストから場外へのフットスタンプだ〜っ。ハニーの
腹の上にピンポイントの空爆〜っ、直撃だ〜っ」
「これはむごいですねえ」
「むごすぎる空爆だ〜っ」
「ハニーは大丈夫でしょうか、両手両足を固定されてましたからねえ。普通、
フットスタンプを受けるときは腹筋に力をこめて耐えるのですが、今のは体が
伸びきってましたから、力がはいらなかったんじゃないでしょうか。ちょっと
心配です。それにしても今日の福岡は全く手段を選ばないですね。そこまでし
てもハニーを倒したいということでしょうか。それはそれで立派ですけどね」

「館内からはブーイングも飛んでいます。赤く衣替えしたレッド・ヒッキーズ、
その赤色の意味は対戦相手の流す血のことだったのでしょうか。そして最初の
犠牲者になってしまうのか、タイガーハニー。これは大変な防衛戦になってし
まいました。リング下で動けません、タイガーハニー。福岡はいち早くリング
内に戻っています。レフェリーが場外カウントを始めます」
「これはまずいですね」
「レフェリーのカウントが進んでいきます。ようやく立ち上がりましたタイガー
ハニー、苦しそうです。エプロンから這うようにリングに戻ります」
「相当なダメージですね。ここはこらえどころです」
「さあ福岡がやってくる。悪魔に魂を売り渡したのか、非情な攻撃を見せてい
ます、今夜の福岡ヒカル。レッド・ヒッキーズのリーダーであります。ハニー
をロープに振って、キチンシンクだ〜っ。またしても胃袋への砲火だ。執拗な
攻撃です。ジャガーさん、福岡は完全に胃袋の一点突破を狙ってますね」
「そうですね。ただ、おなかへの攻撃だけでフォールを奪うのは大変ですから。
どこかで別の大技につないでいく必要があると思います」

「なるほど。しかし福岡にはダイビング・フットスタンプという大技もありま
すが、これはフォールを狙える技ではないんですか?」
「狙えますね。ただ、もう何発か出してますから、ハニーに読まれる可能性も
あります。福岡は何か別の技を狙った方がいいと思いますよ」

「おっと今度はハニーを対角線に振ったぞ、コーナーポストに飛ばしておいて、
側転のエルボーだっ。続いてフェイスクラッシャー。流れるような連携を見せ
ています福岡。ハニーはされるがままだ。さあ、ここで福岡の首刈りポーズが
出ました。一気に決めにいくのか〜。リング中央でのバックドロップだ〜っ、
真っ逆さまに落とした〜っ。ハニーの体がエビのように折れました〜っ」
「これは効きますねえ」
「カウントはワン・ツー・・かえしました。ハニー危うし、このままWWWの
ベルトを手放してしまうのか。今夜のハニーは全くいいところがありません。
フラフラと立ち上がるハニーに、今度はラリアット〜っ。福岡のハイスピード
なラリアットがハニーの首を刈った〜っ。ワン・ツー・・かえしました〜っ。
かろうじてかえしました、タイガーハニー」
「福岡は後頭部に狙いを変えましたね。これでいいと思います。後ろに受け身
をとる場合は、腹筋に力をいれて首を起こしておく必要があるんです。そうし
ないとリングに後頭部をぶつけて脳震盪を起こしてしまいます。前半戦で腹を
攻められたハニーは腹筋に力がはいらなくなってますから、この攻撃は有効だ
と思います」

「一気に攻める福岡、パワーボムだ〜っ。今度も急角度だっ。後頭部をキャン
バスに打ちつける〜っ、ワン・ツー・・かえしました。何とかかえしました。
しかしダメージは確実に蓄積されていきます、ハニー。絶体絶命です」
「だいぶ苦しいですね。何か一瞬の返し技を狙いたいところですが・・」
「今度はブレーンバスターっ、垂直落下だ〜っ。ハニーの脳天がマットに突き
刺さった。ワン・ツー・・・・かえしましたっ。かろうじてかえしました」
「もう限界ですね、そろそろ危ないです」
「おっと、しかしここで福岡は、あえてハニーをリング下に放り出しました。
何をするつもりでしょうか。ああっと、また深津と矢樹がやってきます。また
フットスタンプを狙うつもりなのでしょうか、とどめを刺すのか〜っ」
「う〜ん、ちょっとわからないですね。せっかくのチャンスだったのに、なぜ
場外戦なんでしょう。私ならリング内で決着をつけますけどね」

「何でしょうか、深津と矢樹はハニーを花道の方へつれて行きます。場外フェ
ンスの外の花道に寝かせました。あっと、福岡は鉄柱に昇っています。しかも
後ろ向きだ〜っ、何だ、何だ、いったい何をする気なんだ〜っ。ああ〜っ!!」
「ムーンサルトですね」
「ムーンサルトフットスタンプだ〜っ、場外への大回転〜っ!!」
「ちょっとお客で見えませんねえ」
<お席にお座りください、お席にお座りください>
「福岡のムーンサルトフットスタンプが出ましたが、どうでしょうか。これを
まともにくらっていたら、さすがにハニーもたまりませんが・・」
「あれっ、長谷川ですか?」
「・・長谷川ですね、長谷川が見えます。深津と何かやりあってますね・・」
「古舘さん、古舘さんっ、聞こえますか、レポーターの辻です」
「あっ、レポーターの辻さんですか。いったい何が起きたのですか?」
「はい。入社一年目の辻義経がお届けします。今、大変なことが起こりました。
福岡選手のムーンサルトが出る直前にですね、正規軍の長谷川選手が飛び出し
てきまして。タイガーハニーを抑え込んでいた深津と矢樹を蹴散らしました」

「えっ、長谷川がですか?」
「そうです。そして福岡選手がムーンサルトを出したときに信じられないこと
が起きたのです。ハニーはムールサルトを避けただけでなく、福岡選手の着地
直前の両足を水面蹴りで払いましてですね、福岡選手はヒザからダイレクトに
落ちてしまいました。ちょっと立てそうにありません」

「何と、とんでもないことが起こっております」
「古舘さん、ハニーが・・」
「おおっと〜っ、今度はハニーが鉄柱に昇っているぞ。後ろ向きだっ、あっと、
この技は・・、ハニーフラッシュだ〜っ!!」
<ダダーン!!>
「ハニーフラッシュ炸裂〜っ、一瞬光った〜っ」
「凄い技ですね」
「古舘さん、古舘さんっ、聞こえますか、辻です。ハニーフラッシュが出まし
た。ハニーフラッシュがダウンしている福岡を直撃しました〜っ」

「辻さんのレポートを待つまでもなくキャメラがその衝撃的なシーンを捉えて
おりました。まるで特攻隊のような壮絶な攻撃です。ハニーが今、ゆっくりと
立ち上がりました。リング内に戻っていきます。ジャガーさん、これはきまり
ましたかねえ」
「きまりましたね、逆転です」
「レフェリーのカウントが進んでいきます。福岡は立てません・・」
<カンカンカンカン>
「リングアウトです。残念、福岡ヒカル、敗れました」
「惜しかったですね。あと一歩のところまできてたんですが・・」
「ちょっと欲張りましたか」
「きっと福岡はあのムーンサルトを隠し技として考えていたんだと思います。
考えていたから、出したくなってしまったんでしょう。気持ちはわかります。
長谷川の救援がなければきまっていたでしょうから、福岡には誤算でしたね」

「その長谷川がリングに上がりました。ハニーとがっちり握手しております」
「・・・・・。長谷川はこういうところが甘いんですよ。せっかくのチャンス
なのに、なぜ挑戦表明しないんでしょうか、情けないですよ」

「まあ、それはそれということでしょうか、長谷川秋恵。ベルトを巻いたハニー
の右手を高々と挙げております。さわやかな涼風が吹いたようです」
「さわやかすぎますよ」
「そろそろ放送時間もなくなってまいりました。ジャガーさん、どうもありが
とうございました」
「こちらこそありがとうございました」
「それではこのへんで、涼風の吹く東京・ディファ有明よりお別れいたします。
みなさん、ご機嫌ようサヨウナラ!」


<<架空女子プロレス団体>>
「WWW(トリプルダブリュー)〜月曜8時のシンデレラ〜」
第12回大会(03.5.5);東京・日本武道館

「ゴールデンウィークの浮かれた気分は、このリング上にはありません。あの
一族が復讐のみのために来日しました。スナイパー一族、女格闘一族の誇りを
かけて、今夜、最強の戦士がハニーに挑みます。この一戦を見逃すな〜っ」

〜 カフェテラスからのメロディー、街にあふれてる
懐かしい、あいつからの一枚の絵はがき 〜


「絶好の行楽日和となった今日ですが、ここ日本武道館だけは殺伐とした風が
吹いています。5ヶ月前に受けた屈辱を晴らさんと、スナイパー一族が再上陸
いたしました。観光ではありません。ディズニーシーにも立ち寄らずに、この
日本武道館にやってきました。果たしてタイガーハニーはこの猛者を返り討ち
にできるのでしょうか。今夜の解説はジャガー横谷さんです。ジャガーさん、
今夜もよろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
「さてリング上ではセミファイナル60分一本勝負、ナゾのマスクウーマン、
アストロ・ブリザードvsキャンディー深津の一戦が行われております。ジャガー
さん、このアストロ・ブリザード選手、かなり大型の選手ですが・・」
「そ、そうですね・・」
「あの選手にも似てますが・・」
「あ、あの選手って、誰のことでしょうか。私には想像もつきませんけど・・」
「そうですか、私の勝手な思いこみなのでしょうか。銀色のマスクからのぞく
目がどこかで見たことのある感じがします、アストロ・ブリザード。ぐいぐい
と深津の腕をねじ上げてまいります。苦しそうです、キャンディー深津。赤い
バンダナ、赤いTシャツ、赤いリングシューズ。そして、くちびるにはワイン
レッドのルージュ。そのルージュをひいたくちびるが苦痛に歪んでおります」
「このブリザードはなかなかいい体をしてますね。深津はウチでもトップクラ
スの筋力の持ち主ですが、全然負けていません」

「さあ、そのブリザードが深津をロープ振って、ドロップキックだ。ピーンと
両脚が伸びて深津の厚い胸を叩きました。フォームもなかなか綺麗ですね」
「ええ、全身のバランスがいいですね。よくいるんですよ、飛んだときの姿勢
が不格好な選手が。やっぱりお客さんが見て、ああ綺麗だなと思うような姿勢
で飛ぶ必要があると思います。プロなんですから」

「さあもう一度ロープに振って、今度はニールキックだ。これもズバッと決ま
りました。リング下に逃げます深津。レッド・ヒッキーズのふたりが駆け寄り
ます。右側がリーダーの福岡ヒカル、左のサングラスが矢樹清美です。赤装束
に黒のサングラスが映えています。妖しく咲いた美女3人組だ」
「ブリザードは追わない方がいいですね。リング下に行っちゃうと3対1です
から。あくまでもリング内での決着を挑むべきです」

「深津がじらすようにリングサイドを回ります。呼吸をととのえてサードロー
プの下からリングイン。ブリザードが近づいてきます、ああっと〜っ、粉です。
深津のパウダー攻撃。真っ白い粉にブリザードの視界が奪われた〜っ。そして、
スクールボーイだ、カウントは、ワン、ツー・・、かえしました」
「危なかったですね、油断しました。マスクを被っていると相手の細かい動き
が見えないことがあるんです。ブリザードもパウダーに気づきませんでしたね」

「深津がロープ飛んで、ラリアットだ〜っ。ブリザードの後頭部にヒット〜。
ジャガーさん、ブリザードはまだ見えてませんか?」
「見えてないみたいです。パウダーは乾いてますからね、目の中に入るとなか
なか落ちないんです。ましてやマスクを被ってますから、これはピンチですね」

「視界を奪われたブリザード、深津はコーナーポストに昇ったぞ。何を狙って
いるのか、飛ぶのか、ミサイルキックだ〜っ。これも無防備な背中にヒットだ」
「目が見えない相手にはこういう距離をおいた攻撃が有効なんです。よく流血
して目に血が入ったりしたときも、距離感がつかめなくなったりしますよね。
あれと同じで、いつ攻めてこられるかわからないわけですよ。そういう攻撃は
ダメージが大きくなります。深津は距離をおいて、逆にブリザードとしては、
何とかして掴みたいところです」

「深津がヒジのサポーターを取りました。距離をおいて狙っています。走った、
助走をつけてのラリアットだ〜っ。ああっと、かわした。バックに回ったブリ
ザード、持ち上げたっ。アトミックドロップだ〜っ。リングの中央で決まった。
深津の全身が通電したように硬直〜っ、まるで兵隊が敬礼するような動きだ。
今度は脚をとってからめる、これはサソリ固めだ、スコーピォンデスロックだ。
深津の腰にがっちりと乗った〜っ。ああっと、これは耐えられないか〜っ」
<カンカンカンカン>
「深津、ギブアップ、ギブアップ〜。アストロ・ブリザード、見事にデビュー
戦を飾りました。ジャガーさん、アトミックドロップとは、やけにクラシック
な技を使いますね」
「古舘さん、アトミックドロップと言うとお尻を攻める技だと思っている方が
多いんですけど、あの技はお尻の後ろ側の骨を砕く技なんです。背骨の最後の
部分です。ですからまともに入ると、本当に立てなくなってしまうわけです」

「なるほど、そしてそのあとのスコーピォンデスロックも完璧でした。ナゾの
マスクウーマン、アストロ・ブリザード、レッド・ヒッキーズの斬り込み隊長、
キャンディー深津を破りました。さて、このあとは因縁の対決、タイガーハニー
にスナイパー一族の四女、キャメロンが挑戦するWWWシングル選手権です。
この放送は、日本武道館より実況中継でお届けしております」

** 魔界がかぶさったら、流血しちゃってるのなんでだろ〜
なんでだろう、なんでだろう、なんでだなんでだろう〜 **


「青コーナーより、キャメロン・スナイパーが入場してまいります。あの格闘
女族スナイパー一族の四女、最強の女戦士と呼ばれております。今夜、ハニー
を倒すためだけにやってまいりました。この選手です。青い目です。女だけの
一族であるスナイパー、姉妹とはいえ全員父親が違います。優秀なアスリート
との人工授精で生まれた闘うためのサイボーグ・アマゾネス。後ろを歩く姉妹
たちとは目の色も髪の色も違います。異様な姉妹です」
「本当に全然違う顔してますねえ。しかし、お母さんは同じなんですよね」
「ええ、この五人の母親は同じです」
「だったら、何で人工授精だなんて面倒なことをするんでしょうか」
「それがですね、ジャガーさん、代理母出産なんです」
「代理母って、それ、どういうことですか?」
「つまり彼女らの母、マリア・スナイパーは卵子を提供するだけで、受精卵は
代理母のお腹に入れられるわけです。ですから、マリアには50人以上の娘が
いるらしいのです」
「ええっ、本当ですか。私なんてひとりもいないのに」
「本当におそろしい一族であります。闘うためだけに生まれた女格闘族。女と
しての喜怒哀楽を捨てた戦士が今、入場です」
「う〜ん、何というか。気持ち悪いですね」
「おっと、今のジャガーさんのコメントが聞こえたのか、三女モニカがこちら
を睨んでおります。暮れのレディース・タッグリーグ戦ではキング・ガラッパ
として出場し、ジャガーさんとも対戦しております。その後ろに見えるは二女
のライアン、彼女もドクター・テングとして出場しております。そして、その
隣が長女キャサリン、父親は
ピーッだと言われています。ハニーのヒザ蹴りが
もとで引退を余儀なくされました。その復讐戦は四女のキャメロンに託したと
いうわけです」
「えっ、父親のピーッって、金メダリストのピーッですか?」
「そうらしいですよ、もちろん人工授精の代理母出産ですけど」
「それにしても凄い血統ですね。さすがは闘うために生まれてきた人たちです」
「続いて赤コーナーからタイガーハニーが入ってきます。腰にはWWWベルト
が輝いております。二回目の防衛戦にして最強の難敵を迎えてしまいました。
最強のスナイパー、キャロメンを仕留めることができるのでしょうか」
「不安ですね、マスクもかかってますし」
「そうでした。申し遅れましたが、この試合はマスカラコントラカベジュラで
行われます。ハニーが負ければマスクが剥がされます。キャメロンが負ければ
頭を剃られます。どちらにいたしましても敗者には屈辱的な裁きが待っている
わけであります。ジャガーさんも以前、負けて髪を切ったことがありましたが
やはりこういうルールの中ではプレッシャーを感じたりするものなのですか?」
「私の場合はそれほどでもなかったです。負けると思っていませんでしたから。
負けたらどうなるとか心配しちゃう人はやらない方がいいんです。相手を坊主
にしてやるんだとか、マスクを取ってやるという風にプラスに考えられないと
ダメですね。猪木さんじゃないですけれど、やる前から負けること考える奴が
いるかよ、って感じです」

「なるほど、よくわかりました。さあ、両者ボディチェックを終えて臨戦態勢
に入ります。世紀の一戦の始まりだ〜っ」
<カーン!>
「ゴングが鳴りました。60分一本勝負、WWWシングル選手権です。ハニー
が軽いステップでリングを周回します。一方のキャメロンはリング中央です。
落ち着いています。えっと、今回の試合はなぜかプロレスルールなわけですが、
ジャガーさん、これはどういうことなんですか」
「実は、今回の武道館大会は、ハニーと長谷川のWWWシングル選手権という
ことで話が進められてきたんですが、そこにスナイパー一族がどうしてもやら
せろとねじこんできたわけなんです。それで、だったらプロレスルールででも
やるのか、と答えたところ、やる、ということなったんです」

「そうですか、それにしても強引であります、スナイパー一族。そこまでして
ハニーと闘いたいのでしょうか。おっと、ハニーのローリングソバットだっ、
これは空振りです。牽制だったのでしょうか、ハニーも軽く出しただけです」
「プロレスルールといっても、キャメロンはプロレス技でくるわけじゃありま
せんからね。ハニーは注意しなくてはいけませんよ。今みたいな技は危険です。
キャメロンはタックルからのマウントポジションを狙っているはずですから」

「なるほど。ロープブレイクありの総合格闘技だと思った方がいいんですね」
「それくらいの気持ちでいないと一瞬でやられてしまう危険性があります」
「おっと、いった〜っ。キャメロンのタックルだっ。ハニーもがっちりと受け
止めました。まるで相撲のようになっております。頭をつけますキャメロン、
ハニーは腕をかんぬきに決めに行く。おっと、スープレックスだっ。ハニーが
かんぬきに決めたまま後方に投げた。しかし体勢が崩れている。ハニーの上に
キャメロンが乗っかりました。マウントだ、マウントだ、キャメロンが早くも
マウントポジションをとりました〜っ」
「ああ、やられちゃいました。こうならないように気をつけたかったんですが」
「恐れていたことが現実になりました。キャメロンがマウントポジションです」
「しかし、素手のパンチは反則ですからね。キャメロンもここは攻めに悩むと
ころです」

「ジャガーさんのおっしゃるとおり、ちょっと躊躇しておりますキャメロン。
張り手を顔面にいれるか、拳でボディを攻めるか、どっちつかずになっている。
ここで素早くロープに逃れます、ハニー。ロープブレイクです。助かりました」
「助かりましたね。でも、次はこうはいきませんよ。キャメロンは今の失敗で
学習したはずです。今度同じ体勢になったら一気に仕留めてしまうと思います」

「タイガーハニー、形勢不利です。キャメロンは予想以上に強い女です」
「ハニーはキャサリンのときのように、当て身を狙った方がいいと思います。
タックルに来たところにパンチとか、ヒザ蹴りを入れたいですね」

「しかし、そう簡単にいくでしょうか。キャメロンの技術はキャサリンの5倍
と言われています。グランドの得意な三女モニカでさえ、キャメロンに勝った
ことは一度もないとコメントしております。まさに一族最強の女であります。
獲物を狙う猫科の動物のようです、キャメロン。低い体勢から間合いを計って
います。いった〜っ、おっと、ハニーのヒザだっ」
「あっ、当たりましたよ」
「ハニーのヒザがクリーンヒットだ〜っ、その場に倒れ込みます、キャメロン。
ジャガーさん、これはカウンターで決まったんじゃないですか?」
「決まりましたよ、ここはチャンスです。首をとって、首、首」
「あっと、しかし、ハニーはここで、いきなりコーナーポストに昇った〜っ、
いったい何をする気なのか、まさか、ハニーフラッシュでしょうか。こちらを
向いた。 この技は・・、ハニーフラッシュだ〜っ!!」
<ダダーン!!>
「ハニーフラッシュだ〜っ、一瞬光った〜っ」
「決まりましたよ」
「ハニーフラッシュが炸裂〜っ、ダウンしているキャメロンを直撃しました。
レフェリーがダウンカウントを数えます。ジャガーさん、これは勝負あったと
いう感じですか」
「そうですね、意外とあっけなく決まってしまいましたねえ。あのヒザ蹴りが
相当にきいていたということでしょうか」

「カウントナインでかろうじて立ち上がりましたキャメロン。しかしダメージ
が大きいぞ。ハニーがバックをとった。タイガースープレックスの体勢だ〜っ。
ああっと、キャメロンが切り返した。バックに回って、逆にキャメロンがタイ
ガースープレックスだ〜っ。凄いスピードだっ」
「ああ、危ないっ」
「ハニーが後頭部から落ちました。大丈夫でしょうか。そのままキャメロンが
腕をとる、腕をとる、腕ひしぎ逆十字だ〜っ。リング中央でがっちり決まって
いるぞ〜っ、ハニー危ない、ハニー危ない、ハニー危な〜い」
<カンカンカンカン>
「ああっと、このゴングは何でしょうか〜っ」
「レフェリーストップですよ、ハニーの腕が折れたみたいです」
「古舘さん、古舘さん、レポーターの辻義経です。大変なことが起こりました。
ハニーの負けです。キャメロンの腕十字で右ヒジが脱臼したようですっ」

「ああっと、本当ですっ。ハニーの右腕があり得ない方向に曲がっています。
タイガーハニー敗れるっ、ハニー完敗ですっ」
「ハニーは油断をしましたね。やっぱりキャメロンの実力はあんなものじゃな
かったわけですよ。やられたフリをして罠を張っていたわけです」

「何という女でしょう、キャメロン・スナイパー。今、姉妹たちと抱き合って
おります。一族の誇りを守りました。強すぎます。強すぎました」
「ハニーの腕が心配ですね、早く病院に連れて行った方がいいと思います」
「しかし、敗者には屈辱的な裁きが待っております。右腕を押さえるハニーに
非情な勝者が歩み寄ります。キャメロンがハニーのマスクに手をかけた〜っ。
館内からは悲鳴に似た叫び声が聞こえてまいります。あまりにも残酷です」
「負けてしまった以上、仕方ありません」
「ああっ、ハニーのマスクが剥がされましたっ。うつむいて顔を隠そうとする
ハニーの髪の毛を掴みます、キャメロン。カメラマンのフラッシュがたかれて
います。ああ、あまりにも屈辱的な光景です」
「厳しいですね」
「ああ、あまりにも非情です。今、ハニーの正体が露わになりました」
「あっ、あれは何ですか。あれはいけませんよ」
「おっと、モニカの手にはハサミが握られています。ああっと、ハニーの髪を
切ろうとしています。これはいけません、これはいけません」
<ガランガラン>
「今、ジャガーさんがリングに向かいました。スナイパー一族の横暴を止める
ためにジャガー横谷が立ち上がりました〜っ。あっと、しかし、多勢に無勢だ。
あっという間に捕まってしまった。ジャガーさんも捕まってしまいました〜っ。
ああっ、ハニーの頭にはバリカンが入ろうとしています。これはひどすぎるぞっ」
「古舘さん、古舘さん、花道を見てください。ハニーがもうひとりいます」
「えっ?」
「古舘さん、見えませんか、もうひとりのハニーが走ってきますよ」
「ああっと、これはどういうことなのか〜っ、もうひとりのハニーがいます。
もうひとりのハニーがリング内に滑り込んだ〜っ。ええ〜っ・・」
「古舘さん、け、拳銃ですよ。このハニーは拳銃を持っています。スナイパー
に銃口を向けています。古舘さん、聞こえてますか?」

<ホールド・アップ ホントウニウツヨ!>

「な、何てことを・・」
「古舘さん、聞こえますか? これって、放送できるんですか?」
「・・・・」
「古舘さん、古舘さん・・」
「あっ、ええっと、残念ですが、そろそろ放送時間もなくなってまいりました。
それではこのへんで、大混乱の日本武道館よりお別れいたします。みなさま、
ご機嫌よう・・・ああっ!」
<バキューン!!>
(おわり)

※この作品はフィクションであり、文中に登場する人物・団体名等は実在する
ものとは全く関係ありません。


http://homepage2.nifty.com/UPDC/upw.htm