庇が落ちるぞ〜
とにかく普請後の経過年数が長い家屋(ボロ家ってこと)に住んでいるものですから、いろいろと面白いことがおきます。近年のエピソードをお話してみましょう。
いえね、半年くらい前からヘンだな〜、とは思っていたんですよ。
階上から不定期に聞こえてくるゴソリ、ゴソリというその物音。
最初のうちは侵入を図っている賊でもいるのかと震え上がっていたけれど、
近隣にはゴーカなたたずまいの私邸や高級マンションも多いから、
どう考えてもウチによりつくわけはない。
さては野良猫が軒先の陰で子育てでもしているのか、あるいは烏か。
しかし、誰も鳴き声一つ聞いたわけではない。
たしか以前には戸袋にムクドリの巣をかけられたことがありました。
そう、その時にはあった生き物の気配のようなものが、今回は皆無なのです。
音はすれども姿はなくってことで、マジ気味が悪かったですよ。
昨今の霊魂ブームに水注すつもりはないけれど、
普段、その類の話は「ケッ」とばかりに退けて耳を貸さない方。
それだけに、原因不明の物音が続くのはやはりヤなものだったのです。
ある日、今日こそ音源を特定しようと二階の窓を開け、
屋根周りや真下に見える庇(ひさし)を点検していて愕然となりました。
母屋の壁に沿って取り付けられているはずの庇が波打つように傾き、
片側がずり落ちかかっているのが目に入ったのです。
よく見ると、14箇所ある母屋との取り付け部全ての釘がすでに効いていない。
庇は、すでにずり落ちていない側のモルタルの壁に
食い込むようになってひっかかっているだけの状態になっています。
つまり、不定期な物音は、庇が母屋から少しずつ外れていく時の音だったんですね。
「冗談じゃないぞ」とばかりに階下へ降りて庇の下にあたる軒下部分を点検してみると、
3本ある支柱のうちの2本に腐食があり、前のめりになるように傾いていました。
これはなかなか深刻な事態に見えます。
庇は、長さが6.8メートル、奥行きが1.7メートルにもなる堂々たるもの。
崩落でもしようものなら大事です。
つくづくと眺めるうちにため息が出て、どんどん憂鬱になりましたね。
まずは修理が済むまでは軒先や庭に出入りをしないよう子ども達に注意を促しました。
本当は洗濯物を干すために出入りするのも危ないのだけど、
他に干し場を確保できるわけもなく、仕方なく使用し続けることに。
その一方で急がなくてはならないのが工事を請け負ってくれる工務店の選定。
実は、何よりも苦手なのがこういう交渉事。
とりあえずは、以前仕事を出したことのあるエクステリア関係の業者に紹介してもらって
近隣の工務店に見積依頼。
次は新聞にチラシの入っていた業者で、安さを売りにしているチェーン店。
前者は支柱の取り替えと庇の付け直し、ペンキ塗り替えなどの作業内容であるのに対して、
チェーン店は全取替えを作業内容とすることを主張。
結果、どちらの見積も30万円というところで落ち着きました。
全取替えで30万円の業者のほうが割安感はあるものの、
こちらの話をナナメにしか聞いていない態度に不満を感じたのと、
庇の付け直しのような地味な作業を嫌がる節があるのが気に入らない。
近隣の工務店の方にしても大工手間8.8万円、ペンキ代5万円というのが
どうにも根拠が不明瞭で気に入らない。
しかし、
見積費用を圧縮しようにも、何が大切で何は省いてよいのか見当がつかない。
自分の側に切れるカードが何もないのだ。
このままだと徒に見積件数を増やしてもいい選択はできないことになってしまいます。
私はもう自棄を起こしそうになりました。
それにしても‥‥30万円かぁ!
確か、去年は風呂釜が壊れて30万円の出費。
今年は当初の暑さに降参してエアコンを取り付けたところで冷蔵庫が壊れ、
両方でやはり30万円弱の出費。
来年はナニが壊れるんだろ〜ねと話していた矢先のこの話です。
そんな大枚を、こんなことのために使うのかと思うといかにも情けない。
元通りに直ったって、生活が向上するわけではない。
軒先に物干し場があるという事実を継続するための30万。
パンツやジーンズを干しつづけるために払う、30万。
このお金は、どうしても惜しい。
いちかばちかでインターネットを使ってみました。
まずは大工手間の相場くらいの基礎知識は得なくてはならないと思いましたからね。
ただ、リフォームや家屋の修繕は1件1件が受注生産の商品のようなものだから、
ネットのようにレイアウトを重視した情報しか載っていないメディアでの
情報収集は意外に効率が悪いんです。
それでも住まいに関する相談事を無料で引き受けてくれる業者のあることがわかって、
早速ファックスや画像付きEメールを送ってみました。
正直言ってこんなけちな相談事じゃ返事がくるとは思えなかったから、
返事がもらえたときは本当に嬉しかったです。
世の中まだまだ捨てたもんじゃないなんて
話して回りたくなるくらいにね。
で、その相談に乗ってくれた建築家からの返答というのが思いもよらないものでした。
ポイントはふたつ。
「それほど緊急じゃない。大丈夫」
「日曜大工で充分直せる」
もらったEメールを読みながら、しばし固まってしまいました。
もしかして、私は問題を複雑に考えすぎていたのか。
日曜大工でなんとかなるレベェルだなんて、ただの一度も考えてはみなかった。
緊急事態だという判断も、よく考えれば根拠はない。
はっきりいって勝手に大変だ大変だとひとりで騒いでいただけなのではないか。
まずはひたすらに反省しましたね。
建築家は日曜大工で何とかするために必要な材料や方法についても
つぶさにアドバイスしてくれていました。
支柱を補助する支柱を購入し、元からある支柱と抱き合わせるように立てて
釘で打ち付けるというのがおおまかな内容。
費用は全部で5,000円という見当までつけてくれていました。
そう、大枚30万円を要したはずが、自力工事ならただの5,000円にだってなるのです。
このアドバイスは実際、福音のようなものでしたね。
正直言って自分たちには日曜大工は無理。
大切なのは何をどうするかではなく、慣れから来るセンスだったり、
ちょっとした力加減だったりするのがこういう仕事の常。
このままを実行してもうまくはいかないだろうとおもったのです。
しかし、その気さえあれば自分達でもできるという安心感は、
他の業者をあたりなおす時のキーワードになってくれたんですね。
要は、自分達の代わりにその仕事をやってくれる人を探せばいいのですから。
気を取り直した私は、区のシルバー人材センターと
タウンページでみつけた近所の大工にダイレクトに電話。
人材センターには断られてしまいましたが、大工はすぐに現場を見にきてくれました。
大工の見立ては建築家の見立てとはまた違っていましたね。
早速建築家からもらったアドバイスどおりの作業をやってほしいといってみましたが、
支柱を抱き合わせるだけの仕事では大工のプライドに関わるらしく、難色。
しかも、かなり頑丈に作られている庇なので、
ずり落ちた分が上に持ち上がるかどうかはやってみないとわからないといいます。
雨水等による腐食にしか見えなかった支柱にはシロアリの食害も発見。
補助柱を抱き合わせるより食害部分を切り取って材木を継ぎ足そうと言い出した。
さらには、根元部分には金具を履かせて腐食が容易には進まないようにもするという。
「で、いくら位なら出せるんだ?」
現場を確認し終えた大工は何の遠慮もなくそうツッコんでもきた。
まいったなぁ。
でもまぁ、職人ってそういうものだよね。
私もちょっと観念した。
作業内容についてはとても具体的だ。
廃棄物も出ないし、購入するものも細かなものばかりを挙げる。
見積もり金額を見て相応だと思えれば発注することにしよう。
そう思った。
なんと言うか、こちらの腹積もりの工事規模と
大工の示唆する工事内容にさほどの開きがなかったことが
そんな気を起こさせたのだろうと思う。
大工はその日のうちに見積もりをもってきた。
前述の内容に庇と母屋の間からの雨水の浸入を防ぐためのトタン工事を含めて84000円。
う〜ん、微妙だ。
足掛け3日の工事だというし、大工の日当の相場が25000円であることを考えると、
高くないことははっきりしている。
仕事から戻ってきた主人とも話した上で、この辺で手を打とうということになった。
相談に乗ってくれた建築家にはメールを送った。
アドバイスの通りにはできなかったが、工事を依頼することになりそうだと。
返信はなかったが、それでもいいのだ。
建築家には工事完了後にまたメールで知らせることにして、
私は見積もりをもってきてくれた大工に電話を入れた。
結果、パンツやジーンズを干しつづけるために84000円かかったことになるが、
工事完了後に台風の襲来もあったりして、
時期的にもよい修繕が行えたのではないかと今は思ってます。
その2 200匹の赤アリ
夏の間はシャワーばかりで、風呂桶に湯を張らないなんてことありません?
今年の夏は前半の暑さがひどかったですから、
家族はみんな日に二度くらいのペースでシャワーを浴びていました。
じっくりお風呂になんて誰も考えちゃいませんでした。
湯につかるなんて考えただけで汗が出てくる状態でしたからね。
で、8月に入ってちょっぴり涼しい日もあるからお風呂にしようねってことで、
久しぶりにゆっくり丁寧に風呂桶の掃除をして湯を張り始めたんです。
そうして、とりあえずは湯の加減を見ようという段になり、
風呂桶を覗き込んでぎょっとしました。
‥‥ちいさな、赤黒いものがたくさん湯に混ざっている。
見覚えのあるその色と形―― 赤アリだ。
赤アリは風呂釜からどんどん吐き出されてくる。
50匹?いやいや、そんなものではない。100匹でも追いつかない数だ。
私はさっそく栓を抜いて赤アリだらけの湯を捨てた。
風呂釜にシャワーの湯を通して洗い直し、改めて湯を張りなおす。
しかし、結果は同じ。
まるで風呂釜内にアリの巣ができているかのように大量の赤アリが排出されてくる。
もちろんどのアリも生きている。
触角やかぼそい足をうごめかせ、くるくると回りながら
湯の中をなすすべもなく浮いたり沈んだりしている。
風呂桶の壁面にひっかかり、しめたとばかりに登りつめようとし始めているものもあるが、
またすぐに湯にのまれてしまう。
そうこうしているうちに湯船のなかの赤アリの数は200匹をゆうに超えた。
もう、風呂桶の中はアリだらけ。
実に不快な光景だった。
東京ガスを呼んで風呂釜を点検してもらう。
構造的に言って釜の中に巣はできない。
壁の隙間などにアリが侵入して巣を作ることがないとはいえないが、
壁をはがすのは大変なことだし、単なる通路になっているということもある
――というのが彼らの見立てだった。
そこで私は一番の懸念ごとを彼らにぶつけてみた。
単なる通路にこんなに大量のアリがいるはずがない。
彼らは餌となるものをみつけているのだ。
釜の中には人間の湯垢がたまっている。
アリたちはそれを食べているのか?
ガス会社のふたりのスタッフは顔を見合わせ
いや、そんな話は聞いたことがないと否定する。
もしアリたちにまんまと湯垢を食されていたのだとしたら、
それは恥ずかしい話のような気がした。
まるで、家族全員の入浴シーンを見られているのに
気が付かなかったような間抜けさがあるではないか。
スタッフたちもそう思っているのか、
慌てて否定した後、
話をはぐらかすようにアリの巣コロリをつけてみてくれと言い出す。
私にとっては不満の残る返事だったが、
確かに、まずはこのアリたちをどうにかしなければ始まらないと思い直した。
戻ってきた子ども達に聞いてみると、アリの姿は最近良く見かけたという。
風呂場だけでなく壁を隔てた反対側にあるトイレにもいるということで、
駆除は両方で行うことにした。
果たして効果は絶大だった。
私はさらに200匹の赤アリが仕掛けに群がり、
タイルの目地の間を盛んに行き来するのを目の当たりにすることになったが、
それはほんの2日ほどのこと。
3日目には一匹の赤アリも目撃されなくなった。
文字通り壊滅状態になったのだろう。
風呂桶を再使用し始めるに先立ち、風呂釜ジャバを使用することにした。
中の湯垢も残らず清掃して、文字通りのキレイな湯を使いたい。
清掃もせずしばらく放置していた釜からは相応の汚れが出るだろう、
と思いきや――。
文字通り、一片の湯垢もでなかった。
これはいったいどういうことだろう。
も、もしかしたら、本当に‥‥‥。
その3 空飛ぶミミズ
裏庭っていうのがウィークポイントなんです、我が家の。
全体がコンクリートのたたきになっていて、風呂釜が置いてあるだけなんですが、
ガーデンチェアをおいてお茶を戴くぐらいのスペースなら十分あります。
活用の仕方はありそうなんだけど、
日当たりも悪いし、なんとなく気味も悪いやってことで、誰もよりつかない場所。
数年間ついうっかり放置したら、
たたきにわずかにたまっていた土から芽吹いた植物がめきめき育っているし、
隣接する駐車場からほうり込まれた空き缶は散乱しているしで
すでに荒れ放題の無法地帯になっていた。
その時の反省から、年に2回くらいは清掃をかねて見回るようになったんです。
しばらくはなにごともなく過ぎましたが、
エアコンの室外機を置くようになってからは全体がじめじめして、
その上に風で運ばれてきた土や砂が定着しやすくなったらしい。
たたきを覆うほどではないにしろ、苔むしているようなエリアが増えていくのは都合が悪いと、
シャベルを持ち出して土砂を取り除く作業をすることにしたんです。
土砂の厚みはせいぜい1〜2センチ。作業は簡単に終わるはずでした。
そして
それを阻んだのは、そのわずかな土砂の中で果敢にも生きていた
元気はつらつなミミズたちだったのです。
ミミズって、その柔軟なカラダつきを利用してくねくねするだけじゃないんです。
勢いをつけて土を蹴り上げ、その弾みを利用して
空をとぶ、んですよ。
ご存知でしたか?
もちろん、飛距離はたいしたことないですよ。せいぜい4、50センチってところでしょう。
ただ、あのてらてら光るカラダを機敏に使って
超低空をフリスビーのようにシュルシュルと飛び、
足元にポトン、なんて落ちてきてごらんなさい。
ぎゃああああああっ。
ぐらいの声は、だれでもへいきで出ちゃいますって。ホント。
しかも、土の中から掘り出されてくるのははんぱな数じゃない。
印象としては大判小判のように「ザックザック」でしたから、
誤ってシャベルで切断したり、踏んだりしないようにも気を配らなきゃなりません。
本当に足がすくみ、冷や汗もびっしょりの作業となってしまいました。
かきだした土砂はバケツにたっぷり4杯。
そのほとんどが表の庭に運びこまれました。
こちらの庭には飼っているウサギの排泄物を埋めるための穴がほってあるので、
その周辺に運び込むことにしたんです。
ふと見ると、穴からはうさぎの食べ残したタネから発芽した
かぼちゃがしなやかなつるを伸ばし始めています。
そう。空飛ぶミミズたちが育ててきた真っ黒い土は、
その養分をあますところなくかぼちゃの実に送り込んでいくことになるのです。
試食できるのは来月か、再来月か。
その日のやってくるのを楽しみに‥‥‥
‥‥‥待つかどうか、現在思案中です。