004:マルボロ

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「お。不良だなあー」

 彼の部屋に置かれているには、あまりに不似合いな物がひとつ。
 テーブルの上にぽつんと所在なさげに収まっている安っぽい灰皿に煙草の箱。それにふと目を留めて、シーザーがにんまりと笑みながら言った。その声にはあからさまなからかいが含まれている。ヒューゴははっとなって、慌ててぶんぶんと大げさなほどにかぶりを振った。

「ち、違うよ!それは軍曹が…」
「分かってんよそんな事。お前が、なんて、ルシアさんに知れたら殺されちまうしな」
「…うん。もう、軍曹、匂いがつくから俺の部屋で吸うなって言ってんのに」

 ここはいつかまた、トーマスさんの部屋になるんだから。ぶつぶつ言いながら灰を捨てる。それを横目で何気なく眺めながらひょいとつまみ上げた小さな小箱の中、数本残った煙草が揺れるのが手に伝わった。

「いつも葉巻なのに、珍しいな」
「この近くには売ってなかったんだって。それも行商の人に譲って貰ったんだけど…軽過ぎて吸ってる気がしないって、ぼやいてた。その方が体にはいいじゃないのっておれは思うけど」
「いい子ちゃん」
「うるさい」

 少しからかえばすぐに反応が返る。小気味良い空気。くるくると小箱を玩びながら、シーザーが笑う。それがあまりに嬉しそうな笑みなものだから、ヒューゴは頭に来ていてもそれ以上何もいえないのだ。

 

「"Mens Always Remember Love Because Of Romance Only"」

 

「…何それ?」
「訳せるか?」

 にやっと笑って流暢にもう一度、同じ言葉を繰り返す。言い馴れない言葉は、まして外国の言葉なんて上手く使えない奴が言えば子供に本を朗読させるような、味のない間抜けな音の並びになるものだ。けれどこれが全く、完璧にはまっていたものだからヒューゴは尚のこと面白くなくなった。
 おれがあんまり勉強得意じゃないの、知ってるくせに。
 思い、むっと眉間にしわを寄せると、奴は悪い悪いとその頭を撫ぜ、

「…男はいつもロマンスの為だけに愛を思い出す…直訳だけどな」
「あ…頭文字。一緒なんだ」
「そう。MARLBOROってその略なんだってさ。ホントか嘘か、知らねぇけど」
「詳しいんだな」

 一体どこまでこの少年の頭の中は、深く深くえぐれているのだろう。せいぜいがスコップでほんのひと堀りな自分とはケタというものが違う。思わず感心して言いながら、あ、とぽつり、頷く。

「もしかして吸ったことあるの?」
「んあ?ねぇよ。んなとこに回す金ないし」
「…そっか…アップルさんにも殺されちゃうしな」
「そういう事」

 お互い様だ。にいっと二人で笑い、

「それにな」

 ふ、と。実にあたりまえのような動きで、シーザーの腕が伸びヒューゴの腕を捕えた。え、と呟き、ぽかん、瞳を見開いたけれどその時にはもう、時既に遅し。
 あっと言う間にくちびるに、すいと柔らかな感触が乗っかった。

「!!?」
「んー」

 声を出され、振動が伝わる。…途端。猛烈な恥ずかしさがヒューゴの頭のてっぺんから足の指先まで広がった。大慌てでじたばたと暴れ、意外にもあっさり放された腕にばっと飛びのくと、本日最大にして最高に楽しげな笑みが彼に広がった。ぼさぼさの赤髪の合間から覗く、緑の眠たげな瞳がにたにたとヒューゴをねめ付ける。

「ばっ、ばかっ…何、急にっ」
「それ、メンソールだろ」
「…はあ!?」
「マルボロメンソールにはな、もういっこ、嫌な噂があんの。だからおれはお前と、もっとこーいう事したいからさ。特にこいつだけは吸う気になんねぇんだよな」

 すいと歩み寄る。びく、と思わず体を揺らしてしまったヒューゴの耳元に唇寄せ、ぽつっと一言。

「………。……、…〜〜〜!!!?」

 ぼん。まるきり爆発するかのように、ヒューゴが首まで真っ赤になった。

 

 

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