006:ポラロイドカメラ

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 …ジ、カシャッ。
 柱の影、空教室、廊下の隅、2Fの窓。
 場所はその時でさまざまではあったが。とにかく日がな一日、ハリーは『奴』の放つその音につけ回されていた。
 今日も今日とて食事中、つい先ほどのことだ。じりじりに焼かれて油が次々ぱちんと割れるウィンナーにかじりつこうとした、その至福の瞬間に音が響き思わず食欲メーターがひゅるると下がったのを自覚したばかりで。まだ朝も早く、一日は始まったばかりだと言うのにハリーは全く不機嫌そのものだった。

「…あんまり気にしない方がいいよ、ハリー」
「気にしない?これを?バカ言わないでよ、いくらなんでもこれじゃ」
「気が休まらないわよね。…全く、いくら悪気がないとは言えやり過ぎだわ」

 言いながらチラリ、向こう5メートルの場所に置かれた騎士像の影を見やる。途端ひゅっと隠れた小さな人影。朝っぱらから自分のまわりでパシャパシャやられ、騎士像もかなり迷惑そうな顔で小さくため息をついている。

「あれで見つかってないつもりなんだぜ」
「冗談じゃないよ。悪いけど、撮られるたび全部目撃してるんだから」
「皆も皆よね。ハリーを何だと思ってるのかしら。ハリーはアイドルでも愛玩動物でもないのよ」

 ほんとだよ。全く、と息を吐きながらハリーは頷きかけたのだが。

「…何だって?」
「え?」
「ハーマイオニー、君、今何て言った?」

 しゃくり、梨をかじりながらまた像の影から顔を出したコリンを眺めていたハーマイオニーは、突然変わったハリーの矛先にきょとんと大きなとび色の瞳を見開いた。何のこと?首を傾げる彼女に、

「皆も皆って、どういう意味?」

 言った彼の顔は、研究で3日徹夜した後のスネイプすら足先で蹴り倒すほどの迫力でした。
 問われた相手は自分ではないと言うのに。途端、ギクリと体を竦ませてしまったがためにその直後、背後に雷鳴轟かんばかりの形相で問い詰められるはめとなったロンの言葉である。

 

 

 トントン、と溜まりに溜まった写真の山をジャンルごとにきれいに揃えながら、コリンは自室のベッドの上、そこに写し出された『彼』『彼』『彼』がちょこまかと忙しなく自分の視線から逃げ回るのを見てにんまりと、正直少年が浮かべるものとしてはかなり適切ではない笑みを浮かべていた。
 中でも特別お気に入りの数枚を選び出し、端によけ、後でアルバムにきれいにスクラップしてやることを思い更ににんまりにんまりする。

「今回はこれだけか。うん、僕のコレクションには及ばないけどなかなかきれいに撮れたな。これならきっとなかなかいい値が…」
「付くって訳だ?…ふぅん」

 背後から突然、鉛のように落ちた声。
 ゾクッと腰から背筋にひた走った悪寒に、うわあ!叫んだ瞬間、手に持っていた写真を思わず宙に放り投げてしまった。その内の一枚をパシンと手の中に収めた瞬間、確かにピキリと、いつもは優しく凛とした彼の顔に怒りが亀裂を走らせたのをコリンは見た。
 情けなく床に座り込み、彼を見上げ…唇を筆頭に、顎まで全て震わせ呟く。

「ど、どうして、…か、鍵」
「鍵?あんなの杖でちょっと撫でればすぐに開くじゃないか」

 あんなに僕を見ていたくせに。そんなことにも、気がつかないの?
 言った彼の顔はコリンが今まで見た、彼のどの顔でもなかった。口調は確かにおだやかだ。だが、その右手に軽く握られた杖の先は確実に自分の額を指している。
 ふ、と、彼のローブが空気をはらみ膨らんだ。ハリーが自分の目の前にしゃがみ込んだのだと、コリンは固まりかけた思考の端で捉えた。その形良いくちびるは、じんわり微笑みさえ浮かべている。

「ぼ、…ぼ」
「ん?」
「僕を、殺すの?」
「…そんな訳ないだろ」

 ホラー映画の主人公にでもなったつもりかと言わんばかりの口調で、ハリーがふと笑みを深くする。それに一瞬、ほっと胸を撫で下ろした瞬間。鼻先に、杖を突き付けられた。ビクッと思わず震えてしまったその小さな姿は確かに憐れっぽくはあったが。ハリーの杖先に満ちるかすかな青い光は、消えるどころかどんどん強さを増している。

「コリン」

 ぽつり。呟いた声はささやかなものだった。

「…教えてくれるね?”誰に売ったのか"」

 だが、コリンの脳味噌に焼き付けるにはそれだけで充分だったのだ。

 

 後日より。
 ホグワーツ内に、何故か怪我人プラス神経性胃炎の生徒が急増しマダム・ポンフリーは突然の激務に首を傾げるはめとなった。が、皆、一様にして口を閉ざし原因はついにわからなかったそうである。

 

 

 

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