007:毀れた弓
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パチン、と背に当たったかすかな衝撃にドラコがゆっくり、そちらを振り向く。視線の先には全く何を考えているのやら、ぼうっとしたまま、どこから持って来たのか指に輪ゴムをかけ第二撃を仕掛けている、ハリーの姿。
「…やめろ」
やがて飛んで来た輪ゴムをローブの裾ではたき落としながら、つかつかと歩み寄る。机に突っ伏し、気だるそうにまばたきを繰り返す彼がふらりとこちらを見上げた。眠そうにぱちぱちとまばたきをし、ちぇ、と舌打ちして三撃目に使おうとしていたらしいゴムを意味なくぐいぐいと引っ張り始めた。
「子供のような真似を」
「子供だもん。いいだろ」言いながらゴムを引く。華奢な、と言うよりはうまく栄養を与えられず成長不良な白い手が、互いに右と左、自身の指を更に白くしてまで。ゴムを引く。これ以上ない程引き伸ばされたゴムが悲鳴をあげているように見えて、ドラコが『おい』とぽつり、声を掛けかけた瞬間。
ばちん、とゴムが弾け、ハリーの両の手を打った。「…痛」
「そんなに引っ張ったら切れるに決まっているだろ、バカ」呆けたように呟くハリーの横顔が、何故だろう。…なんだか物凄く、こわくて、仕方がなかった。恐ろしいと言うのではなくて、どこか、遠くに行ってしまうような。確かに彼はそこに居て、窓から差し込む夕焼けもきちんといつもどおり、彼の横顔をゆるやかに照らしていると言うのに。
だから怖くて、つい罵ると緑の瞳がふと笑んだ。「そうだね」
「分かっているならもうやめろ。…貸せ」言いながらも新しいゴムを箱から取り出そうとする、その手をぐいと押しのけ箱を手に取った。
安っぽい紙の箱にみっしり詰め込まれたゴムの山。光を浴びてかすかに輝くそれが、たかだかゴムなんかが。少しきれいに思え、ドラコはほんの少しだけ、それに触れてみたくなった。が、それではハリーとおんなじだ。いささか乱暴に棚に放り込み、バタンと戸を閉める。「射抜けるかと、思ったんだけどなあ」
「…何?」二人でいるのに、独り言のような呟き。
「だから。ゴム鉄砲でさ」
「…主語を抜かして話すな。何をだ」
「心」
「は?」
「ドラコの心。キューピッドの矢みたいに」…言われた瞬間。
恥ずかしいとか、嬉しいとか、照れ臭いとか、そんな感情よりも。「…お前は。本当の馬鹿か…?」
沸いた思いはそんなもので、ドラコは思わず眉根を寄せ、あからさまに呆れ果てた声色でそう言った。
それに途端。…見かけはともかく、お前は今年14歳になる男なんだろうが。と言ってやりたくなるような子供っぽいしぐさで、むっとふて腐れた様子をこれまたあからさまに見せるハリーにドラコの唇から息が落ちる。「女じゃあるまいし。何を夢見る乙女のような事言ってるんだ」
「…そりゃ、そうだけどさ。思いついちゃったんだもん、しょうがないだろ」
「大体こんな安っぽいゴムなんかで、僕の心を射抜けるか」
「あーもううるさいなあ、いいよもう。僕が悪かった」
「…いいとか悪いとか云う事じゃないだろ。それに第一、今更そんな事しなくても僕の心は」…はた。と。
尚のことふて腐れて、べったり机に突っ伏しかけていた、ハリーの動きが止まる。
見上げると、明らかにしまったと言わんばかりにいつもは飄々とさせている顔を歪め、固まっているドラコの顔。
彼は、
不測の出来事に、弱い。
思わず吹き出したハリーにはっと息を飲み、次いでやたらに睨み付けてくるその瞳をこちらも負けじと、満面の笑顔で見返した。「何だ。くそっ、笑うな!」
「だってドラコ、面白いよ」
「うるさい!お前が馬鹿な事ばかり言うからだ。つられて僕まで…」
「愛の告白?」
「!」
「うん。嬉しいよ、ドラコ」へへへ。締まりのない顔でにやにやにまにま、笑っているハリーにドラコの顔が耳まで赤く染まる。あんなに皺を寄せると痛いんじゃないだろうか、なんて間抜けなことを思うほどきつく眉間に皺を浮かべながら、その腕がハリーを胸元に抱き込んだ。それでもまだ黙らず、笑い続けるその頭のてっぺん、ドラコのため息が落ちる。
「弓なんかいらない。そのくらい、分かれ、…馬鹿」
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