013:深夜番組

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 変な奴だとしみじみ思う。
 だってテレビ見てる時にまでMD耳に突っ込んだままってどういうことよ。さすがに電源は切ってるみたいだけどフツー邪魔だろう、ていうかこんだけ手放さないってことはそれってもしかして、MDじゃなくて補聴器だっつうオチか。だったら解る、仕方ねえ、歳を取ると耳が遠くなるもんだからな。お年寄りには優しくせんと。ほらアタイって優しいからぁ?
 ……以上、猿野の脳内での一人漫才な訳だが、司馬は人の心を読める能力は持ち合わせていなかったので、やはりイヤホンを耳に突っ込んだまま淡々とテレビに映される画像を眺めていた。

「あのさー司馬。今日明日うちの父ちゃん母ちゃん、息子置き去りにして2人だけでラブラブ旅行行きやがるんだけど泊まりに来ねー?」

 ヒマで死にそうなんだよ助けてくれよー、なんて。
 軽い調子で言われ。
 …司馬はかすかに頬を赤らめながらこっくり頷き、他の部員たちはめいめい、ある者はボールを投げかけたその体勢で固まり、ある者は走り出そうとしたが足がもつれて見事にすっ転び、ある者は眼鏡を光らせある者は息を詰まらせながら首まで赤くなったり青くなったり、
 十二支高校野球部内は、にわかに騒然としたのだった。
 閑話休題。

「…司馬」

 くるり、振り向いて首を傾げる。

「あ、えーと…喉渇かねぇ?ジュース飲む?」

 少し考えてから、こっくり頷く。

「じゃあ用意して来んわ」
「………、」
「あ、いーって座ってて。すぐ戻って来っから」

 ちょうど番組もCMに入り、猿野は手を振りながら立ち上がった。猿野宅は3LDKのアパートである。それほど広さがある訳でもない、部屋を出ればすぐにお茶の間、それを過ぎれば台所だ。コップにかぽかぽジュースを注ぎながら、ついでに冷蔵庫を物色。サラミを発見し、部屋に戻る。
 司馬は大人しく座って待っていた。くるり、こちらを振り向いて、ふと微笑む。

「お前サラミ食えるー?」
「……。」
「そっか、じゃあまあエンリョせずに食いたまえよ」

 こっくり頷き、ぱくりと一切れ。
 …変な奴、
 でも、何故か司馬といるこの時間は、とても心地良い。
 なにを喋ってくれる訳でもない、ただひたすら自分ばかりが話して。
 でも、司馬は猿野が話し掛けると、絶対に適当に流さず微笑みながらきちんと聞いてくれるのだ。
 おろおろしたり、困ったり、笑ったり、時には怒ったり。
 何も言わなくても、司馬のことが解る、それが嬉しくて誇らしい。
 今度スバガキに自慢してやろう、そんなことを思いながらテレビに目をやる。
 時計の針は既に日付を変え、かちこちとゆるやかに流れている。

「…眠くねぇ?司馬」
「………。」

 正直に言って自分は、この空気が心地良すぎて少し眠い。
 眠気覚ましとばかりにキュウッとジュースを飲み干した瞬間、

「……の」

 ぽつ、と。
 聞いたことのない音が聞こえた。

「ん?」

 どこから聞こえたのだろう。きょろきょろと辺りを見回した、そして振り向いた先、
 イヤホンを外した、司馬が。
 少し眉をひそめて、心なしか。体を固くしてこちらを見ている。

「…司馬?」
「……さ…るの」

 そしてその唇が、…音をつむぐさまを、
 猿野は。呆然として見つめて、
 空のコップを床に落とした。

「あっ」

 驚きの声。そして長く細い指が、慌てて転がり逃げるコップをつかまえる。

「…お前。……今、喋、」
「………。」
「……喋れ…あ、はは、そうだよな、はははは、あーびっくりし」

 コン、コップが床に置かれ、
 司馬の顔が唐突に猿野の目の前に来た。
 びく、と驚いて竦んだ首筋に、指が回る。
 下唇を、食まれた。

「………。」
「………。」
「……あ?」
「………。」
「…黙るなよまた、お前は」
「………ごめん…」
「謝んのも禁止」
「………。」
「…ばかやろ」
「………。」
「……どうせ、…取んなら」
「あ」
「これも取っちまえ、…アホ」

 震える手で、耳まで赤く、奪い取られたサングラス。
 現れた透き通るような目が、
 泣きそうに歪んで、それでもにっこりと微笑んだ。

 

 

 

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