014:ビデオショップ

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「…お前、何も知らないんだな」
「………。」

 ふ、と、口元に笑みが広がる。普段まったく無表情且つ無愛想な彼にそうされるのは、他の誰に言われるより恥ずかしい気がしてヒューゴは思わずうつむき、言葉を詰まらせた。確かに自分は何も知らない。こうして目の前に差し出された茶色い飲み物、それがどれだけ苦いものかも知らず一気に飲み干した、そんなばかを大真面目にやってのけるほどに。ヒューゴは口の中の味をようやく水で流し終えてから、ばつが悪そうにううと唸った。

「…仕方ないじゃないか。おれの村には、こんな飲み物、なかったんだから」
「まあ、そうだな」

 言いながらもう一度淹れなおして…コーヒー、と言うのだそうだ…今度は中に、ミルクと砂糖をたっぷりと落としてくれる。スプーンにすくって一口味見をしてくれてから、黙ってもう一度差し出された小さなカップを、訝しげに眺めたが…懲りずに、鼻をくすぐる良い香りとじっとこちらを見据えるエッジの視線に負け、そろりと口に含む。
 けれど今度はミルクのおかげで随分口当たりもまろやかになり、甘味も強く、程よい苦味がヒューゴの舌をすべることとなった。

「あ、これなら飲めるよ」
「そうか」

 自分が見せて欲しいと言った旅道具を漁って、こちらを振り向かないまま背中が言う。熱いそれをゆっくりとひと含みずつ飲み込みながら、ヒューゴは1人、頷いた。
 エッジは本当に、たくさんのことを知っている。
 こんな細かなことも、大きなことも。歴史、国、世界。聞くと丁度自分と同じ頃に旅に出て、それからずっと1人でやっているのだそうだ。一緒に遠征に出たりすると、それが本当のことなのだとよく分かる。野宿もお手の物、ずっと自然と共に生きて来た自分と同じくらい…いや、もしかするとそれ以上に、野草にも詳しい。空の流れで明日の天気を読んだり、方角を見るのも得意だ。服が破れてしまった時も事も無げに直してくれたし、けがをした時、とても良く効く不思議な色の薬をつけてくれた。
 そうして今は、新しい飲み物をひとつ、教えてくれた。

「エッジはたくさん世界を知ってるんだな」
「…もっと沢山知っている人達を、俺は、知ってる」
「でも、おれよりはずっとずっと知ってるよ」
「そんな事はない」
「…おれはカラヤのことしか知らない」
「そうか?」
「そうだよ。エッジだってさっきそう言ったじゃないか。何も知らないって」
「………。」

 ふと、その口元がほころんだのをヒューゴは見逃さなかった。
 そう思うなら、今はそれでも良いだろうさ。
 言いながら目の前に、見たこともない道具の山が並べられた。
 歓声を上げ手にとる聡き子と、それを笑って見守る青年と。

 

 

 部屋の隅。星辰剣が鼻を鳴らした。

 

 

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