015:ニューロン

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 「僕はね、そもそもそれ自体を宿していないんですよ。何故か、なんて知らないし、別に知りたいとも思ったこともありませんけどね。分かるんですよ。自分のことですから。それに、僕のことを本当にわかってくれている人達は皆、僕をそのとおり呼びますしね、そう、今の君みたいに」

 一息にそう言うと、マイクは彼に向かい、実に優しげな微笑を浮かべてみせた。それを彼はただ黙って見つめ返した…否、もう既に散々暴れて抵抗した後だったので、ただ単に鼻を鳴らす元気もなかっただけかもしれないが。
 部屋の中央に置かれた小さな、しかしなかなか高級感のあるストーブの上でしゅんしゅん音をたてていたポットが、ピイイ、と持ち主に湯が沸いたことを告げる。やあ、湯が沸きましたね、お茶にしましょう。のんびりと言って、マイクは手際良く紅茶の葉を用意し始めた。やがて淹れられたそのお茶は、とても良い香りだったが今の彼にとってはそれすら胸を悪くする悪臭以外の何者でもなかった。

「紅茶はお嫌いですか?」
「…………。」
「そうですか、では他のものでも飲みたければいつでも言って下さい」

 部屋の隅にまで逃げ込み、立ったままこちらを睨むと言うよりも凝視している少年。マイクはまた微笑んだ。
 その両の手首にかけられたロープがあまりに彼が動くため、尚のこと食い込み、そのなめらかな肌を傷つけて血を滲ませてしまっている。あざやかな赤だ。混じりけのない、純な赤。
 マイクの目が細まる。
 綺麗だと思ったからだ。
 普通、人は澄んだ水がたっぷりと張った湖や、よく磨かれた宝石や、木漏れ日射す新緑の木々なんかにその形容をつけるようだったが、マイクは彼の腕に、そして体中に溢れているそれの方がよほどその言葉に値すると思った。何もかもが曖昧な人間という生き物の中にある、唯一はっきりと明確な、色。美しいじゃないか。こうして普段は肉の中に隠れて、人に姿を晒さないところも好ましいように思う。まして、彼のものなら。
 まあ、それも。
 何しろ『人でなし』な自分が言うことなのだから、
 正しいのかどうかなど、主張出来たものではないが。
 すいと歩み寄ると、びくりと彼が怯えてしまったので、また微笑む。それに対し、期待したような反応は当然ながら返って来ない。マイクはそのまま表情を少しも変えずに、彼の頬へゆるりと触れた。なめらかな感触。乾いた唇。疲れに細まった瞳。
 それなのに、その中に溢れる光は未だ失われず、輝いている。
 ああ、
 きれいだ。

 思い、マイクはほころぶように笑んで、ゆったりと彼にくちづけた。

 

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